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2043 ーリテラ・ノヴァの予言ー  作者: 砂東 塩
Chapter9 サマー・エクスプロージョン!
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#46 ハヤトのため

 三野さんたちと別れてフードエリアに向かい、行列の一番短いホットドッグの列に並んだ。


 人混みを抜けてきたから、蒼君は手に持った紙袋がシワになっていないか確認している。砂川さんへの手土産として私が用意したもので、中身は茶楠のお茶だ。


「並んでる時に砂川さんから電話が来るかもしれないね」


「そっち優先でいいんじゃないですか。むしろ、12時過ぎて開場した後のほうが、フードエリアは混雑してない気がします」


「そうね」と答えたとき、背中に軽い衝撃があった。


「あっ、すいません」


 振り返ると、20歳くらいの女性2人が同時に頭を下げる。ぶつかったのはDeeeeep女子ファッションのツインテールの女性。もうひとりは比較的地味な格好をしているけれど、肩には『Deeeeepサマー・エクスプロージョン!』と印字された限定バッグがかかっている。


 彼女たちとのやりとりはそれだけだったが、背後から聞こえてくるふたりの会話は、私と蒼君の興味を引くには十分だった。


「ハヤト君の予言は当たるんだから」


「ルミ、あまり大きな声で言わないほうがいいよ。ルミだって解散してほしいわけじゃないでしょ」


「当たり前じゃない。予言が当たらないようにするのが、あたしたちファンの使命でしょ。解散を信じたくないから目をそらすなんて、ホント、みんな何もわかってないんだから」


「だからって、他のファンの子といざこざ起こしたら、メディアが批判するネタを提供するだけじゃない。今日は普通にライブ楽しもうよ」


「ヒナキもSheeeeep★Oracle見たでしょ。予言はいくつも載ってたけど、ハヤトからの本当のメッセージはほとんどないわ。他のはハヤト文体ですらないもの」


「たしかにそうかもしれないけど」


「でしょ?

 あたしたちが受け取らなきゃいけないのは、ハヤトのメッセージなの。ハヤトの言葉は特別なんだから。前の職場でうまく行かなかった時も、仕事休んでライブのチケット応募するかどうか迷ったときも、ハヤトの言葉に背中を押されて、言葉どおりにやったらうまくいったの。だから、今度はあたしたちがハヤトのためにちゃんとメッセージ受け取らなきゃ」


 10分ほど列に並んでいるあいだ、ルミとヒナキはずっとそんな会話を続けていた。声は潜めていたけれど、私たちだけでなく周りの人たちにも聞こえているのは間違いなく、怪訝な視線を向ける人もあった。ヒナキはそれに気づいて何度か会話を切り上げようとしたが、ルミの熱は「宇宙からのメッセージ」と口にした相田さんのそれと同類のようだった。


「けっこう、重症な人がいますね」


 空いたベンチに腰を下ろし、ホットドッグをあっという間に完食した蒼君は、いつになく辛辣な言葉を口にした。


「そうね。彼女にとっては、それだけハヤト文体が支えになったってことなんだろうけど、なんだか複雑」


「あの子、ハヤトのためって言ってました。何かのためっていう言葉は、自分がそれに依存してることの裏返しです。『あなたのために』って、呪いの言葉みたいなものだし」


 蒼君の話は意外な方向に向かい、私は興味をそそられる。


「蒼君、そういうこと言われたこと、あるの?」


「理久さんはないんですか?」


「あったような気もするけど、はっきり覚えてないかな。呪いとか、そんなふうに深刻に受け止めたことないし」


 そうですか、と蒼君はアイスコーヒーを飲みながら考えをまとめているようだった。私がホットドックを食べ終えたタイミングで、彼は話の続きを始める。


「うちは親がそういう感じだったんです。僕のためって言いながら自分の思い通りにしようとしてるのが透けて見えて、うんざりして全寮制の高専に行くことにしました。実家が会社経営してるんで、継ぐ継がないの話もあるし、高専行くって言ったときはかなり反対されたんですけど、いざ離れてみたら、その方が良かったって父も言ってくれたので、ギリギリ親不孝者にならずには済みましたけど」


「会社は継がなくていいの?」


「僕が煎餅工場で働いてる姿、想像できます?」


「煎餅工場?」


 意外過ぎて声が裏返った。すると、蒼君の表情にあったかすかな憂いが消え、「想像できないでしょ?」とクスッと笑う。 


「できない。煎餅工場も意外だけど、蒼君にも反抗期があったんだね。蒼君がお父さんと言い合いしてるとこ、想像できない」


「別に、理久さんの知ってる僕と変わりません。ただ自分の考えや要望をそのまま伝えるだけです。たぶん、扱いづらい子どもだったと思います。合田部長はあんな感じだけど、かなり僕に合わせてくれてるんですよ」


 こんなふうに進んで自分のことを話す蒼君が新鮮だった。


 開場時刻が迫っているせいか、人はどんどん増えている。蒼君がいつもより饒舌なのは、その熱気が伝わったのかもしれない。


 スカイアリーナ正面の巨大サイネージには、Deeeeepではなく前座で演奏する若手デュオの顔が大映しになっていた。そこに被せて開場までのカウントダウンが『18:44』と表示されている。


「もう20分もありませんね」


 蒼君がそう口にしたとき、手にしたスマホが振動とともに着信音を鳴らした。待ちわびた砂川さんからの連絡だった。


※齟齬が見つかりましたので修正しました(2025.11.15)

■修正前

「ハヤトからのメッセージはその中でふたつだけよ。他のはハヤト文体じゃないもの」

「今回の予言と『漆黒の夜』よね。たしかにこのふたつ以外はハヤト文体っぽくなかったけど」

■修正後

「ハヤトからの本当のメッセージはほとんどないわ。他のはハヤト文体ですらないもの」

「たしかにそうかもしれないけど」

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