表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛しいあなたは竜の番  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第三章 継ぐ者達へ贈る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/83

大暴れ

数日体調を壊しておりました。回復したので更新を再開していきます。よろしくお願いします!




 処刑は数日以内に行われるだろうとルークスは考えていた。他の竜族の目の前で使者等の反乱を伝え、レオンローズが西大陸を支配することの正当性を早急に示したいはずだ。長時間使者等を捕えておく意味も義理もない。

 太陽が三度頭の上を通過した後で牢から出された。


 ルークス等は互いに顔を見合わせた。顕示欲の強い竜族は、自らに逆らう不届き者の処刑の場に立ち会うだろう。レオンローズならばなおさらだ。

 処刑の場においてもっともレオンローズに近づく。殺すならそこだった。


 処刑会場は城の宮殿横、街に面した開口部だ。白い柱が立ち並ぶ中、囚人たちは互いを縄で結ばれて一直線に並ばされた。既に城下の民衆は――多くは竜族達だったが、不届き者達の成り行きを見届けようと大勢押しかけていた。


 子供の頃、反逆者の処刑を目にしたことがある。まだ父を父とも知らなかった頃、彼の命令で首を刎ね飛ばされた貴族を見た。

 子供が蟻の行列を面白半分で潰すように、ルークス等の処刑は市民にとってはちょっとした刺激的な劇でしかない。竜王のお膝元に暮らす竜族達は流石お上品であるのか、罪人を前にしても静寂を保っていたが、その瞳には隠しきれない好奇と愉悦が入り混じっているように見えた。


 罪人の背後にいる処刑人は手に剣を持っており、あれで心臓を突かれるか、首を刎ねられるのだろう。もし作戦が失敗した暁には、なるべく苦なく死なせてほしいものだ。

 端の者から順に目隠しをされていく。ルークスの順番は一番最後であった。


 前にもこんな景色を見たことがあったか。とルークスはそんな風に考えた。

 その日もこんな青空が見えていて、死ぬ者は目隠しをされていた。だがその時のルークスは、自分が死ぬことを心待ちにしていた。崇高な目的のために、心が沸き立っていた――。


(まただ、また、知らない記憶について考えている)


 頭に攻撃を受けてから付き纏う強烈な既視感を振り払うために、ルークスはきつく目を閉じた。

 と、群衆からひときわ大きな歓声が上がる。


 レオンローズとその側近等が宮殿から姿を現したのだ。

 

 市民等はレオンローズの存在を知っていたのか――それとも知らずして王族の一人として受け入れているのかは分からないが、本能の強い彼等のことだから、頭で考えるより先に心で自らの支配者であると理解しているのかもしれなかった。


 ルークスが目を見張ったのは、王と共に血だらけのフローダストが現れたからだ。長かった髪は短く切られ、拷問の痕が体中にくっきりと残っている。竜人達は男も女も髪を長く伸ばすのが慣例だ。美しさを競っているのか権威を現しているのかはルークスには分からないが、それを短く切るということは、何かしら象徴的な意味を持つのだろう。

 フローダストの体からは力が抜けており、遠目からでは生死は不明だった。


 さらにその奥から、着飾られたフィオナがやってきた。彼女は虚ろな目をしたまま、傍らに例のルイ・ベルトールを伴いレオンローズの背後に腰掛ける。


 隠しきれない熱狂が場を支配していた。レオンローズの隣にいたリーデルが一歩前へと進み出て周囲を見渡す。広場は束の間の静寂に包まれた。


「ここにいる者達は、両大陸の和平を阻もうとした罪人である」


 と、彼は言った。


「首謀者はかつて王族であったフローダストだ。この者は使者等をけしかけ、王を殺害しようとした」


 皆の視線がフローダストに注がれた。ルークスにとっては好都合ではあった。


「両大陸の王は、彼等の処刑を決意された」


 リーデルに並ぶように、レオンローズが立ち上がり剣を引き抜く。


「かつて竜殺しと呼ばれていた剣です。柄を手に入れ、叩き直しました。反逆者の処罰にはこれほどお誂え向きの剣はないでしょう」


 ――なんであいつが持ってるんだ? とは思うが、追求している場合ではない。

 ならばフローダストは少なくとも生きているのか、とルークスは安堵した。たとえあと数秒後には胴体と首が切り離される危険があるにせよ、今は生きている。


 皆の視線がレオンローズとフローダストに向けられる中、ルークスは手錠のされた手でポケットから野薔薇の髪飾りを取り出した。

 機会は一瞬。二度目はない。

 魔力を封じられている手錠により、魔術を使えない。無理やり使えば死に至る。

 だが手錠は所詮鉄製だ。物理的に破壊は可能である。

 短く息を吐いて覚悟を決める。


 ルークスは、野薔薇の髪飾りに封じ込めた魔力を暴発させた。

 ――ボンッ。


 フィオナに髪飾りを渡す時、ルークスはそこに魔術式を掘り、魔力を封じ込めた。意味があるものというよりはクセだった。城にまだ兄妹で身を寄せていた頃、有象無象からミエラを守るために、度々物に魔力を込めてお守り代わりに渡していた。いざとなったら術を発動させ、身を守れるようにという意味を込めていた。

 だからフィオナにもそれをやろうと思った。もっとも彼女にはそこに魔力が封じられていることなど伝えていないから、自己満足のようなものだ。振られるのならせめて意味のある何かを渡したいという思いもあった。


(我ながら未練が気色悪いが、結局は役立ったな)


 彼女に渡した髪飾りだったが、言い合いの末突き返された。

 封じられた魔力により魔道具と化した物体は、魔術が使えない者にも扱える。通常は物体を破壊して発動させるものだが、製作者であるルークスは念じるだけで発動できた。代償は、髪飾りを掴んでいた右腕の喪失だ。爆発した魔力はルークスの右の肘から下を手錠ごともぎ取ったのだから。

 

 だが、丸腰の自分の体が傷つくだろうことは想定の範囲内だ。告げた時、皆は困惑したが、結局はルークスの案に従ってくれた。

 

 予期しない方向から聞こえた爆発音に、混乱した悲鳴が飛び交う。ルークスの右腕は破壊された手錠の破片と血しぶきとともに宙を舞い、ドサリと地面に落ちた。

 破壊された手錠は既に魔術封じの意味を成さない。ルークスは残された左腕を用いて魔術を放ち、魔術が使える使者等の手錠も壊していった。彼等はルークスと同じように他の者の手錠も壊していく。


 囚人等は解放されていく。

 東大陸の竜人等は間髪入れずに竜の姿になり、野薔薇王の周囲を固める竜人等に向かっていった。全ては王を取り戻すためだ。

 魔術の使える者等は援護や周囲の兵を倒し、魔術を使えない者等は倒された兵から奪い取った武具で身を固め、やはり同じように援護へと向かった。

 先程まであった広場の熱狂は恐怖に変わる。竜人とはいえ一般市民だ。戦う気力のない者がほとんどである。逃げ出す者、逆に騒ぎを見ようと押しかける者で広場は押し合い、過密状態になっていた。

 レオンローズはリーデル等の側近により守られていた。フィオナもまた、西大陸の護衛等に周囲を固められている。

 その中でルークスはフローダストの元に向かった。彼は既に同族によって助け出され、別の使者により治癒の魔術がかけられているところだった。滑り込むようにして彼の側に寄り叫ぶ。


「フローダスト! お前、無事なのか!」


 腕や足は妙な方向へ曲がっているし、そこかしこから血が流れている。

 どう見ても無事には見えないが声をかけずにはいられなかった。

 

「私のせいだ……私の……」


 治療が進み声が出せるようになったのか、うわ言のようにフローダストはそう言った。


「死ぬことができなかった。どうしてもできなかった。ミエラの元へと帰らなくてはならない」


 フローダストは歯を食いしばりながら下を向く。彼のここまで消沈し、追い詰められる姿を見たのは初めてだ。


「よく分からんが、死んでなくて良かったよ」


 と、ルークスのすぐ横に、人の姿に戻りながらクロエが降り立った。


「ルークス! 腕は大丈夫!?」


「はい、少しも痛くありません!」

 

 それは嘘ではなかった。自らかけた治癒の魔術のおかげか痛みは鈍く遠かった。むしろ自分の腕は初めからこうだったのではないかと思うほどに自然に感じている。

 ルークスは皆の戦いを見た。西大陸の竜人等は城と市民に当たるのを憚ってか大規模な攻撃には打って出れないようである。それを東大陸の竜人が倒していく。空中戦だ。空で竜同士が激しくぶつかりあい、血の雨を大量に降らせていた。


「竜族の皆さんはやはりお強いのですね」


 ルークスの言葉にクロエは不敵に笑った。


「昔は弱かったし戦えもしなかったけどね。だけど、守られるだけじゃなくて誰かを守れるくらい強くなりましょうって誓ったのよ」


 形勢は有利に見えた。逃げるだけなら充分だろう。だが目的は逃走にはない。野薔薇王の解放とレオンローズの死だ。

 クロエはふと真顔に戻ると言った。


「なんとか防御の結界を破れたらいいんだけど、苦戦している。時間をかけたら兵等がもっと集まってくるわ。奇襲の意味が無くなっては、泥沼の末の敗北よ」

 

 レオンローズとフィオナの周囲では、既に防御魔術による球体を成した多重結界が出来上がっていた。味方等は兵と交戦しながらそれを破ろうと攻撃を放つが届いていない。


 ――火力が足りない。


 内側から破ることができたら。

 そう思いながら結界の中へと目を遣った瞬間、フィオナと目が合った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ