待ち焦がれた君に会う
フィオナの元に集まった竜人の中には、見覚えのある顔もいた。とりわけ嬉しかったのは、天空城にいたときに侍女として侍っていた三人の少女達がいたことだ。、
「またお側にいさせてください。わたし達の王はフィオナ様です」
彼女達はそう言って、フィオナの側に留まった。少女、といっても数十年は生きているようで、フィオナよりも年は上だったが、竜人としては若い彼女らもフィオナの姿に思うところがあったようだ。
フィオナに従うことを表明した竜人は全部で十二人だった。うち九人が女で、さらにそのうち五人がまだ子供とも言える年齢の者たちだった。戦力として期待できるとは言いがたかったが、絶対的な権力を持つ白銀に逆らう覚悟は並大抵のことではないはずだ。フィオナは彼女らを頼もしく思った。
時間がなかった。
ルイが指揮官を集め周辺の地形の確認と白銀を迎え撃つ作戦を早急に立てているその横にフィオナもいた。大テントの中で、指揮官等は頭を揃え、机に兵士らが突貫的に作り上げた周辺の地図を広げながら案を練っていた。
フィオナの存在が公のものになった以上、白銀も必ずやってくるだろうとルイは言う。フィオナは最大戦力であるとともに、白銀をおびき寄せる餌だった。
そうなった時に貴女は父親と戦うつもりか――と問いかけてきたルイにフィオナは揺るぎなく答えた。
「当然、押し負けるつもりはありません。いつ現れてもいいように、覚悟を決めます」
ルイはかすかに頷いた。
「とどめは私が刺す。極力、貴女は戦うな。周囲を守らせるから、単なる餌に徹して欲しい」
はい、とフィオナは素直に頷いたが、内心では戦うつもりでいた。
ルイがフィオナを思って父親と戦わせないように取り計らうとしていることは分かっていたが、フィオナにしても周囲の者に傷を負わせたくはなかった。ヘンリーやジャグのように、自分と関わった誰かが死ぬのは嫌だった。
(白銀様が現れたら、わたしが竜になって彼を倒すんだわ。絶対に、ルイ様や他の人を巻き込まないようにするのよ)
大陸の王となり新たな秩序を作るという決意は揺らがない。そのためには父親との対決を避けては通れないのなら、彼を殺すのは自分でなくてはならないと考えていた。
「白銀がどこから現れるか分からない。布陣の中心にフィオナを置き、周辺を囲む――」
と、ルイが言いかけた時、ハッと顔を上げ左手で剣を掴み、フィオナもほとんど同時に上を見た。空気が固まり、冷え切ったように感じる。
目線の先にテントの梁が見え――見えた直後に青空に変わったのは、テントが吹き飛ばされたからだと知る。
魔術が複数発せられる音がし、地面が大きく揺れた。悲鳴が聞こえる。
周囲はすでに戦場と化していた。天空諸島の残りの島々が、次々に地上へと落とされている。浮力を失い不安定になった島は重力に逆らえず、驚異的な威力を持つ武器となり、兵士めがけて墜落していた。
フィオナは自分のすぐ側に白銀に輝く巨大な竜の姿を見た。
なんと美しいのだろう――と瞬間はそう思った。
陽光に照らされた鱗は虹色に輝き、瞳は月のように光を発していた。地上の生物であれば誰もが畏怖を抱くであろう王たる王。フィオナは自分の口元に、笑みが浮かんでいることに気がついた。
予想よりも遥かに早く、白銀が現れたのだから。
「ようやくわたしを見つけてくださいましたか、お父様」
呼びかけに、白銀の目がわずかに開かれた。その目に怒りが含まれているように思えた。
もしかすると、と今より前は少しだけ思っていた。もしかすると、自分は白銀に会った時、愛情や罪悪感により戦うことを恐れてしまうのではないかと。
だが実際はそうではなかった。
目の前にいる竜人は、フィオナの前に立ちはだかる障壁でしかない。彼を打ち砕いた先にこそ、真の自分と自由があるはずだ。
フィオナは自らも竜の姿へと変化する。
「フィオナ、よせ!」
目的を察知したルイの怒声が響く。だがフィオナは止まらなかった。
翼を広げ飛び上がる。と、一度の咆哮の後、白銀も空へと舞い上がった。
(良かった、付いてくる)
白銀の目的はフィオナの命ではなく、保護にある。そこにこそ勝機が生まれると、フィオナは思っていた。
(白銀様さえ引き離せれば、ルイ様達だったらきっと竜人に勝てる……! わたしのするべきことはこれだわ!)
フィオナはそのままルイ等の側を離れるべく、早さを緩めることなく空を移動する。目的地は決めていた。先ほどルイが広げていた地図の中に、大渓谷が描かれていた。そこであれば周辺に集落もなく、被害も少なく済む。
父と決着をつけるために、フィオナは空を飛び続けた。
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