仲良くなるフィオナ
隊に馴染むにつれて、徐々にフィオナにも隊の面々の関係性が見えてきた。
最も面倒見がいいのはシルヴィアだった。常にフィオナの健康状態に気をつけており、喉が乾けば水をくれ、疲れたときには自分の馬に乗せ寝かせてくれることもあった。他の隊員に対しても同様に気を使い、衛生状況や食事の管理を務め、ある種の衛生兵のような役割を果たしていた。
ギルバートとルイは、同種族の同世代で同性だからか仲が良いと見え、ギルバートが軽口をけしかけて、時折はルイもそれに応じていた。そういう時のルイには、いつも彼を包む険が薄れ、年相応の青年のようにフィオナには思える。
ジャグは言葉数は少なかったが、皆に信頼されていて、天気や行程、果ては狩った兎の調理の仕方まで幅広く助言を求められては、そのすべてに的確に答えていた。年は隊で二番目に上で、八七歳なのだと言う。有鱗族の平均寿命は一五〇年ほどであるため、ヒト族でいうと四、五十代くらいだろう。
ルイが一番に信頼を置いているのもジャグのようで、付き合いが最も長いのだと、シルヴィアが教えてくれた。
「頑なに二人は言ってくれませんけれど、どうやら団長が幼少の頃からの知り合いのようですよ。ベルトール家も元は名門貴族ですからね、ルカリヨン王国で王族の護衛をしていたジャグとも接点があったのかもしれません」
確かに二人は、話し込んでいる時間が長かった。
隊の中でシルヴィアの次にフィオナとの雑談が多かったのはヘンリーだった。
今年で二十になるという彼とは年が近く、同年代の友人というものが皆無だったフィオナにとって、彼の語る街での暮らしは新鮮で面白く、流行りの本や、酒場の料理の話まで興味深いものだった。
「僕は背が低いし、力もそんなに強くなくて魔術も使えない。この隊に置いてもらえているのは奇跡だよ。雑用のためにいるんだけどさ」
そう言うヘンリーだったが、謙遜ということはフィオナにも分かった。
小柄で身軽で、手先が器用な彼は罠を仕掛けて獲物を取るのも得意で、泥濘んだ土の上にさえ足跡を残さない。おまけに絵心もあって、ある争乱では敵に気づかれないように拠点に忍び込み、精巧な地図を作って勝利に貢献したこともあったと聞いた。そのため彼も、当然雑用のためにいるわけではなかった。
ヘンリーは年が下だからか雑用を率先してこなしており、人懐っこい性格で、皆に可愛がられていた。捕獲されていた獣人ノット・ティルティガーを二度も逃がしたことを、時折主にギルバートに揶揄われており、その度に「力の弱い僕に任せるのが悪いんですよ」とあっけらかんと言い返していた。
「だけどあいつとは仲良くなれたかと思ってたんだけどな。あいつにも、僕と同じで弟がいて、いつも世話してるんだって。このまま僕らの仲間になれば、いつかメリア連邦にある美味い店に連れてってやるって言っといたのに」
などと話すヘンリーは、「捕虜と余計な話をするな」とジャグに窘められていた。
そう、実はノットは逃げてしまっていた。
常に交代で見張りがついていた彼だったが、街を出た翌日に、ヘンリーが食事の世話をしようとした瞬間、突き飛ばし、そのままどこかへいってしまった。一行は彼の捕獲よりも道を急ぐことにしたようで、追うこともなかった。
彼は白銀の下で働いているという自身の主張を曲げることはなく、そのことがフィオナの胸に引っかかっていた。だが彼がいない今、確かめようもないことだ。
一行はそうして目的地を目指していた。
道中には、フィオナが知らないことばかりある。
歩くと足に触れる背の低い草も、見上げるほどに背の高い木々も、木々の間から降り注ぐ日の光も、土の匂いも、鳥や獣の気配も、雨に濡れるのも、馬に乗るのも、これほど多くの人と関わるのも、その人達が底抜けに明るくて冗談を言い合うのも、今世のフィオナにとっては初めての経験だった。
(それに、前世で知る世界ともまた違うわ)
貴族として生まれて政治の道具として殺された前世では、こんな世界を知ることはなかった。
眠る前、こっそりとルミナシウスに打ち明ける。
「こんな緊迫した状況なのに、楽しいね、ルミナシウス――」
感情などないと断言された人工精霊は、密やかな問いかけに、応じるように光をチカチカさせる。
(この世界は、思い描いていた世界とは少し違うわ。おとぎ話のようには上手くはいかないし、人々の感情も、お話の中よりずっと複雑そうだもの)
目まぐるしくて新鮮で、離れがたい。
(もう少し。もう少しだけ一緒にいたい。いつか白銀様が現れて、離れてしまうのなら……もう少しだけ、まだ、この世界を見て、肌で感じていたい)
一緒に過ごせば過ごすほどに、フィオナは皆を好きになっていった。塔で一人でいたのが信じられないほど、皆と話して何度も笑った。別れるのが名残惜しいと思うほど、友情を感じていた。
だがそんな中でもルイとの関係だけは遠くなったように感じる。前も近かったわけではないが、それにも増して遠く感じる。
彼は前のようにフィオナを同じ馬に乗せはせず、フィオナはシルヴィアと同じ馬に乗ることがほとんどで、そうでないときは一人で乗った。あの街で彼がフィオナを腕に抱いて以来、その体温に近づくことはない。
それを淋しいと思うのは自分勝手な感情だと分かっていたし、一方で安堵も覚えていた。彼に近づかなければ、胸の高鳴りも罪悪感も覚えなくていい。白銀を想う番のままでいられたのだから。




