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第三章 姉の孤独を知る夜
ある夜、私はセリーナの部屋の前で声を聞いた。
「……どうして私はこうなの?」
微かに震える声。
私は扉の隙間から覗き見る。
セリーナは鏡の前に座り、自分の顔を見つめていた。
手には赤い薔薇。
ゲームの象徴。
「父は私を政略の駒としか見ない。母は亡くなり、兄は国外へ。誰も……私の事を『セリーナ』として見てくれない」
彼女の頬を涙が伝う。
私は胸が張り裂けそうになった。
ゲームの中では彼女は「自己中心的」「嫉妬深い」と描かれている。
だが、それはきっと、誰からも愛されなかった少女の叫びだった。
次の日、私は庭の薔薇園へ行って、白い薔薇を一輪摘んで彼女の机に置いた。
一緒に置いた付箋にはこう書いた。
『赤より白のほうがお姉様に似合う。貴方は悪役なんかじゃない』
署名書かなかった。
だが、セリーナは気づいてくれたらしい。
それから毎日、彼女の机に小さな贈り物が置くようになった。
詩、スケッチ、手作りのブックマーク。
全て私の手によるもの。
彼女は誰が送っているか分からず、でも──笑っていた。