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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

迷宮(短編)

嵐の後の静けさ

作者: ぬりかべ君

ホラー、ムナクソ苦手な方はスルー推奨です。


嵐は嫌いだ。


いや、激しくなる風や雨、木の枝や葉が屋根を窓ガラスを叩く音はそんなに嫌いじゃないし、雷も平気。

むしろ安全な状況であればじっくり眺めてたい。

うるさいとは思えど、あまり怖いと思えない少々(?)危機管理能力に欠ける幼女だったと言えるだろう。


しかし、問題はそこでは無いのだ。


いつの頃からか、見るようになった悪夢。


私はまだ幼く、両親に上手く伝えられずに


「雷や風が強かったから、怖くてうなされたのね。」

「怖いテレビ番組を見たんじゃないか?だからだろう?」


分かり易い簡単な結論で大人達は話を終了、私はモヤモヤしたまま・・・。

嵐が来るたび過ぎるたび、何度も同じようなやり取りを繰り返し、諦めたのは小学校低学年の頃。


中学に上がる頃、団地から一軒家に引越したが、悪夢は変わらず見ていた。

回数は多少減ったように思う。


悪夢を見る時のパターンに気がつき、夜ふかしが増えたおかげだろう。


その弊害か、高校生になる頃には軽い不眠症になっていた。


限界まで疲れたら流石に眠れるだろうと不眠症の自覚は無く、そのまま社会人に。


そして悪夢は数年に1〜2度見る程度になり、見たとしてもどこか冷静でいられるようになった。


二十代後半になり「眠りたい」「寝なきゃ」そう思うほど眠れなくなり、睡眠導入剤を使うようになった。



久し振りに悪夢を見たのは三十代になったばかりの夏、子宮にできた腫瘍を取る手術後だった。

初めての入院で初めての手術、多少不安はあれど怖さは無く、ただただ術後の痛みに耐え、荒れて窓ガラスを叩く雨が去り、空が落ち着きを取り戻した頃やっと私は眠りについた。




知らない町内の知らない路地に私は立っている、後ろから子供たちが叫び声を上げ私の脇を通り過ぎる。

振り向いた先には小さな神社があり、狭い境内に不釣り合いな大木が1本、その枝にはぶら下がったばかりの女性がおり、時折、痙攣しその度に枝とロープがギシギシと嫌な音をたてる。


子供たちが逃げた方向へ私も逃げる、知らない路地を夢中で走り途中で誰かの葬式に出くわし少し足を止めると、知ってる顔を見た気がした。

助けてもらおうと葬儀の列をかき分けると、そこにはさっき見た女性の遺影があった。

混乱した私は葬儀場からも逃げ出し、気がつけばまたあの神社に戻っている。

見なければ良いのに振り向いてしまう私、死んだはずのあの人が両手を伸ばして声にならない声で私を呼んでいる。


いつもならここで目が覚める。

だけど痛み止めに睡眠作用があるせいか今回は目覚めなかった。


「私はアナタの子供じゃ無い!!!」


何故かそう叫んでいた。


一瞬動きを止めたその人は違うと言いたげにまた、両手を伸ばしてくる、が、あえて無視した。

目が覚めないなら確かめたい事がある。


初めてのチャンスかもしれない、そう思った。


葬儀場に居たはずの知り合いを探すため、知らない路地を早足で歩く、見つからない。

もう葬儀は終わっているのだろうか?

すれ違う人さえ居ない路地をどんどん進んでいく、やっと葬儀をしていた建物の前についたがやはり葬儀は終わり、入口は固く閉ざされていた。


手掛かりが無くなった私は仕方なく建物の周りを見て回った。


平屋の一軒家と言う風な外観だけど、やけに既視感がある。それが何なのか考えているとそばにいつの間にか数人の人影が現れた。

ふわりふわりと浮かぶ影はボソボソと話をしているようで私には気付いて無い様だった。


そっと近づいて聞き耳を立てると


『また出・そうだ』

『そ・・、あの御神木は切る・かな・・』

『・・で落ち着くとは思・・いが仕方がない』

『子供・・つかったのか?』

『見つかったが助か・・・・たそうだ、一緒に・いたが脆くて骨も残らんかっ・・』

『気の毒に・・・』

『気の・毒・・・』


飛び飛びに聞こえる声を拾ううちに、思い出した。


団地に住んでいた時のご近所さん、今はもう亡くなっているが影のうちの一人はその人だった。


あの建物、昔住んでいた団地に作りが似ていると気付いた、


そこで今度こそ目が覚めた。

病院のベッドのそばには母がうたた寝をしていて、なんとも気が抜けた気持ちになった。


「母さん・・・」


自分で思ったほど声が出なかったのに驚きつつ


「母さんってば・・!」


もう一度呼ぶとようやく


「ん、あ・・目、覚めた?」


ホント気が抜ける親である、それでも心配はしていたようで後から看護師さんに


「完全看護だから一度は帰ってもらったけど、今朝早くに来て面会時間が始まる前からずっと待ってたわよ?」


と聞いた。


取りあえず心のなかで『ゴメンネ』と謝っておく。


数日経って食事が普通食になった頃、見舞いで貰ったブドウを食べる母親に


「団地に住んでた頃、近所に居たおじいちゃん覚えてる?ほら、話し好きで、八合わせると大抵酔ってて捕まると面倒くさい・・・」


「よく覚えてるわね?まだ小さかったのに」


「よく絡まれてたからね、私が『おしゃけくちゃいっっ』って逃げ回るのを面白がってたみたい」


「懐かしい・・でもその人がどうしたの?」


「ん〜実はさ、夢に出てきたから・・・」


悪夢に出たとは言わず、色々ぼかして聞き出した。





それからさらに三週間ほどで退院した私は、昔住んでいた団地に行ってみた。

殆どが更地になっていた。


「諸行無常ってやつか・・・」


所々に昔の名残があるものの、私の記憶にある団地はもう無い。

昔、三輪車で通った砂利道は綺麗に舗装されていても、その道幅は変わらないはずなのに、やけに狭く感じてしまい自分が成長したからだと今更気づく。


少しの間歩いて散策し、かろうじて残っていた名残である公民館まで引き返す、公民館前には数台車が止められるようになっていて、そこに私の愛車を止めているのだ。


商店も無いような閑散とした昼の住宅地の公民館は、勝手に数時間車を駐めたからといって苦情を言う人もおらず平和だ。田舎ならではと言うやつかもなあ・・・。


そんなことを思いつつ、愛車のメタリックなドアに手をかけると。


「見た顔だな?もしかして・・・3本ポプラのそばに住んでた娘か?」


公民館裏からひょっこり顔を出した老人が声をかけてきた。


しばしジックリと見つめ、記憶を辿る。・・・!!!


斜め向かいに住んでいたオジサン!当たり前だが年取ってて気付くのが遅れた。

私は慌てて「お久しぶりです!」と勢いよく挨拶を返した。


「お母さんは元気かい?」「はい、相変わらずってかんじです。」


等と簡単に近況報告をしあった。

オジサン(今はスッカリおじいさんだが)は昔、町役場に勤めており、定年後に団地近くに家を建てて今では、町内会長と言う名の雑用係をしてるらしく、さっきまで公民館の草むしりをしてたらしい。


「そう言えばお父さんは?亡くなったと聞いたが、私も丁度体調を崩して葬式にも顔を出せず仕舞いだったが・・・病気だったのかい?」


「・・・!対外的には病気という事にしていますが、実際は自分で・・・脳梗塞で自由に体が動かせなくなって、それが辛かったみたいです。」


「!・・・そうか、済まない、辛い事を話させてしまった。」


「いえ、もう亡くなって何年もなりますし、父が亡くなったのを期に父好みの新品キラキラ仏壇にしたせいか夢枕にすら出てきませんよ?」


「!・・仏壇、新しくしたのか良かった。」


「???仏壇がどうかしましたか?」


「実は・・・・・・・」







町内会長から聞いた話は大まかに言うと、こうだ。


違う地区の団地に住んでた夫婦が居たが、旦那の留守中に嫁さんが自宅で流産し、発作的に近くの神社で首を吊り、その後、残された旦那が移り住んでいたのが3本ポプラの借家、ただ3年も経たずに旦那も後を追ったそうだ。

その後、当時貧しかった私の両親が家具(それには仏壇も含まれていた)が残されていた、その団地借家に入ったそうで、いつも酔って絡んできていたオジイサンは亡くなった女性の親戚だったとのこと、若くして亡くなった夫婦とうちの両親をそのオジイサンは重ねて見ていたそうで。何かと気にかけていたそうだ。


ちなみに両親は前の住人について等、全く知らないはずとのことでした。


私家族が引越した数年後に同じ方法で亡くなったオジイサン、その後直ぐに団地は取り壊しになった。


何ともやり切れない話、だけど私が長く悩まされた悪夢、それが何なのかは分かったように思う。


除霊?


しない、これからもきっと悪夢は見るだろう。


憎しみの感情じゃ無く、悲しみの感情、それは寄り添えるように思う。


悪夢の彼女が私を自分の子と思って居るのなら、いつか、私が逝く時に一緒に逝けると良いな・・・


そんな後ろ向きなプラス思考(?)な私はすでにオカシイのかもしれない。


嵐の後の静けさの、その悪夢は次はいつ見れるのだろうか?


彼女はどんな目で私を見ていた?


彼女はどんな目で私を見るのだろうか?


今度はしっかり見つめ返そう、そう決心した。













End.





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