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ちびうさベルの世界旅行  作者: terry


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2/15

ソウルの夜に鐘が鳴る

夢の中では、現実よりも素直になれる。

言葉が通じなくても、知らない街でも、心が求めるものにまっすぐ手を伸ばせる。


この物語は、ベルが“夢のソウル”で出会った友達・時運との、

短くて温かい旅の記録だ。

光に満ちた街、跳ねる二匹のうさぎ、そして夜景の公園で交わされた小さな約束。

夢だからこそ出会えた優しさが、ベルの心にどんな形で残るのか。

その答えを、あなたと一緒に見つけていきたい。

 うとうと・・・うとうと

 ベルは、ふと気づくと見知らぬ街に立っていた。

 冷たい冬の風が頬を撫で、街のどこからか甘い香りが漂ってくる。

 見上げれば、看板にはハングル文字が並び、行き交う人々の会話も聞き慣れない言語ばかり。


(ここはどこ・・・?)


 ベルは周囲を見渡す。

 お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも誰もいない。

 言葉も通じるか分からない。

 胸の奥に、不安が小さく灯る。


(私・・・ここで友達なんて作れるのかな)


 そのとき


「언니, 혹시 길 잃었어요?(お姉さん、迷ってます?)」


 振り返ると、明るい笑顔の女の子が立っていた。

 黒髪をひとつにまとめ、ベルと同じオレンジうさぎ。


「日本の方ですか?」


 驚くほど自然な日本語だった。

 ベルは戸惑いながらも頷く。

「よかった。私、ジウンって言います。観光ですか?」

 その言葉は、温かくて、どこか安心する。

 ベルは迷った。

 知らない国・・・でも、誰かに頼りたい気持ちが勝った。


「・・・わたちベル、よろしくです」


 ジウンは嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、まずはホットク食べに行きましょう。寒いし、甘いもの食べたら元気出ますよ」


 ベルはその笑顔に、少しだけ心が軽くなるのを感じた。

 こうして、ベルの韓国で友達を作れるかもしれない旅が静かに始まった。

 ベルがジウンと歩き始めると、ソウルの街はまるで色彩を増したように鮮やかに広がっていった。

 冬の空気は冷たいのに、街の熱気がそれを押し返す。

 屋台の鉄板から立ちのぼる湯気、香辛料の香り、行き交う人々の笑い声。

 明洞の通りには、ネオンがリズムを刻むように瞬き、まるで街全体が踊っているようだった。

 そのときだった。

 ベルの足元を、ふわりと白い影が横切った。


「えっ・・・うさぎ・・・?」


 白くて丸い、雪のような毛並みのうさぎが、ぴょん、と跳ねる。

 続いて、淡いグレーのうさぎが後を追うように跳ねていく。


「夢だからね。こういうこともあるんですよ」


 ジウンはまるで当たり前のように微笑んだ。

 二匹のうさぎは、まるでベルを案内するように、明洞の通りを軽やかに駆けていく。

 ベルとジウンは思わずその後を追った。

 屋台の間をすり抜けるように、うさぎたちはぴょんぴょんと跳ねる。

 ホットクの甘い香りが漂い、ベルは思わず足を止めた。


「ベル、食べてみて」


 ジウンが渡してくれたホットクは、外はカリッと、中はとろりと甘い。

 その横で、白いうさぎがベルの足元にすり寄り、まるで「おいしい?」と聞いているように首をかしげた。


「かわいい・・・」


 ベルが笑うと、うさぎは嬉しそうにもう一度跳ねた。

 ベルとジウンが明洞から歩いていくと、街の空気が少しずつ変わっていった。

 人の流れが増え、建物が高くなり、光が濃くなる。

 そして・・・視界が一気に開ける。

 そこは、東大門デザインプラザ(DDP)の前だった。

 巨大な宇宙船のような建物が、夜空に浮かび上がる。

 金属の曲線が光を受けて滑らかに輝き、まるで呼吸しているかのように見える。

 足元には青や紫のライトが点々と並び、光の川が流れているようだった。


「わぁ・・・」

 

ベルは思わず息を呑む。

 その瞬間、白いうさぎがぴょん、と光の道に飛び出した。

 続いてグレーのうさぎも跳ねる。

 二匹は光のアーチの上を、まるで滑るように駆けていく。


「うさぎたち、ここが好きみたいですね」


 ジウンが笑う。

 ベルはうさぎたちの後を追いながら、足元のライトが色を変えるのを見た。

 青から紫へ、紫からピンクへ。

 光が足元を包み込み、影が踊るように揺れる。

 うさぎたちは建物の壁に映る光の模様を追いかけて、ぴょんぴょんと跳ね回る。

 白いうさぎがくるりと回ると、グレーのうさぎも真似をして回り、二匹の影が壁に大きく映し出された。

 まるで、光のステージで踊っているみたいだった。

 DDPの横には夜市が広がっていた。

 屋台の明かりが連なり、香ばしい匂いが風に乗って漂ってくる。

 人々の笑い声、呼び込みの声、鉄板の焼ける音――すべてが混ざり合い、街全体が生きているようだった。

 うさぎたちは屋台の間をすり抜け、ベルを振り返るようにぴょん、と跳ねる。


「ベル、あれ食べてみます?」


 ジウンが指差したのは、チーズがとろけるハットグの屋台。

 ベルが頷くと、白いうさぎが嬉しそうに足元で跳ねた。

 まるで「それ美味しいよ!」と言っているみたいだった。

 夜市を抜けると、再びDDPの前に戻ってきた。

 建物の壁に映る光が波のように揺れ、ベルの頬を淡く照らす。

 二匹のうさぎは光の波の中で跳ね、影が大きく伸びたり縮んだりする。

 ベルはその光景に胸が温かくなるのを感じた。


「ベル、楽しんでますね」


 ジウンが優しく言う。


「うん・・・すごく、こんな場所、初めて」


 白いうさぎがベルの足元に寄り添い、グレーのうさぎがその横でぴょん、と跳ねた。

 まるで「もっと遊ぼうよ」と誘っているようだった。

 ソウルの夜は、光と音と跳ねるうさぎたちで満ちていた。

 夢の中の東大門は、現実よりもずっと鮮やかで、温かくて、どこまでも楽しかった。

 ソウルの夜は、ゆっくりと深みを増していた。

 東大門の光の海を離れ、ベルと時運は漢江沿いの静かな公園へと歩いていた。

 街の喧騒が遠ざかるにつれ、風の音と川の流れだけが耳に残る。

 遠くのビル群が宝石のように輝き、夜空には薄い雲が流れていた。

 二匹のうさぎは、ベルの足元をぴょんぴょんと跳ねながらついてくる。

 白いうさぎはベルのコートの裾を軽く引き、

 グレーのうさぎは時運の足元でくるりと回った。

 まるで、二人の時間を祝福するように。

 公園の中央に、小さな展望台があった。

 そこから見える漢江の夜景は、息を呑むほど美しかった。

 ベルは思わず立ち止まり、光の川を見つめる。


「綺麗・・・」


「ベルに見せたかったんです」


 ジウンは静かに微笑んだ。

 その笑顔に、どこか“終わり”の気配が混ざっていることに、ベルは気づいた。

 胸がきゅっと締めつけられる。


「ジウン・・・もしかして・・・」


 ジウンはベルの言葉を遮るように、そっと手を差し出した。

 その手のひらには、小さな銀色の鈴が乗っていた。


「これ、ベルに渡したかったんです」


 鈴は月明かりを受けて、淡く光っていた。

 ベルがそっと触れると、ちりんと優しい音が響く。


「夢の中でも、現実でも、ベルが迷ったときに思い出せるように、 あなたはひとりじゃないって」


 ベルの胸に、温かいものが広がった。


「ジウン・・・行っちゃうの?」


 ジウンは少し寂しそうに、でも優しく頷いた。


「夢はいつか終わります。でも、出会いは消えません、 ベルがこの旅で感じたことは、全部あなたの中に残ります」


 ジウンはベルの手をそっと包み込む。


「ベル。あなたは、ちゃんと友達を作れる人です。 優しくて、まっすぐで、誰かを大切にできる人だから」


 ベルの目に涙が滲む。


「ありがとう・・・ジウン、わたち・・・忘れない」


 ジウンは微笑んだ。


「忘れなくていい。でも、前に進んでください、 ベルの世界で、ベルの歩幅で」


 風が吹き、鈴がもう一度ちりんと鳴った。

 その音が響いた瞬間、時運の姿は光に溶けるように薄れていった。

 ベルは伸ばした手を空に残したまま、静かに目を閉じた。

 白いうさぎがベルの足元で跳ね、

 グレーのうさぎが時運の横で静かに座った。

 二匹も、別れを理解しているようだった。

光に包まれるベル・・・まぶたの裏に残る光の余韻を感じながら、ゆっくりと目を開けた。

天井は見慣れた白。

カーテンの隙間から差し込む朝の光が、部屋の空気を柔らかく照らしている。


(・・・夢、だったんだ)


ソウルの街の光、跳ねる二匹のうさぎ、

そして夜景の公園で別れを告げた時運の笑顔。

すべてがあまりにも鮮やかで、胸の奥がまだ少し温かい。

そのとき・・・ちりん

小さな音が、枕元で鳴った。

ベルは驚いて身を起こす。

そこには、昨夜までなかったはずの 小さな鈴 が置かれていた。

赤、青、白・・・韓国の国旗を思わせる色が、朝の光を受けて淡く輝いている。


(ジウン・・・)


ベルはそっと鈴を手に取った。

触れた瞬間、夢の中で聞いたあの優しい音が胸の奥に蘇る。

遠くのキッチンから、


「ひろくん、朝ごはんできるよー」


と、お母さんの声が聞こえてきた。

いつもの朝。

いつもの家。

いつもの日常。

でも、ベルの手の中には、夢の中の友達が残してくれた“証” が確かにあった。

ベルは鈴を胸に当て、そっと微笑む。


(ありがとう、時運。私、ちゃんと前に進むね)


鈴がもう一度、静かに鳴った。

ちりん・・・

それは、夢と現実をつなぐ最後の音のようだった。

夢は消えてしまう。

けれど、夢の中で感じた温度や言葉は、目覚めたあとも静かに心に残り続ける。


ベルが受け取った小さな鈴は、時運との別れの象徴であり、同時に“ひとりじゃない”という優しい証でもあった。

ソウルの夜景、跳ねるうさぎたち、光の道を歩いた時間、それらはすべて、ベルが前へ進むための灯りになる。

もしあなたの中にも、忘れられない夢があるなら、その夢はきっと、今のあなたをそっと支えているはずだ。

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