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ちびうさベルの世界旅行  作者: terry


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黄金の翼と瀬戸内の約束

舞台は瀬戸内海に浮かぶ、かつて「地図から消された島」と呼ばれた歴史を持つ島。現在は多くのうさぎが暮らす観光地だが、そこには人知れず魔法の力を持つ、フィギュアスケートとボブスレーの金メダリストという異色の経歴を持つうさぎ、ベルがいた。観光客の「無知な善意」によって危機にさらされる仲間たちを救うため、ベルが黄金の翼を広げ、真の優しさを説く物語である。

「明日は休日、大勢の人々がここを訪れるじゃろう。みんな気を緩めずに集団で行動するんじゃ」


 長老が重く響く声で地下壕の仲間たちに告げました。その言葉には、観光客という名の「善意の嵐」に対する警戒が滲んでいた。


「ベル、お前さんの光はあまりに眩しすぎる。人間たちに見つかれば、たちまち騒ぎになってしまう。どうか、無理はせんでおくれ……」


 しかし、ベルは力強く首を振りました。彼女の瞳には、ミラノのリンクで勝利を確信した時と同じ、揺るぎない輝きが宿っている。


「いいえ、長老。隠れているだけじゃ、何も変わらないわ。わたちが金メダリストとして学んだのは、最高のパフォーマンスは人の心を動かす力があるってこと。わたちの翼は、ただ飛ぶためのものじゃない。みんなを守るための『盾』であり、進むべき道を照らす『灯台』なの!」


 翌朝。瀬戸内海の穏やかな海面を割り、連絡船が島に到着した。上陸した観光客たちは、手に手にキャベツやスナック菓子の袋を持っている。


「わあ、うさぎさんだ! ほら、これ食べなよ!」


 一人の子供が、味の濃い人間用のスナック菓子を子うさぎの鼻先に差し出した。空からは、その隙を狙ってカラスたちが急降下の構えを見せる。


 その時だった。


 島の中央、かつての発電場跡の廃墟から、一条の黄金の光が天を突いた。

「そこまでよッ!」

 ベルが黄金の翼を羽ばたかせ、弾丸のような速さで舞い上がった。彼女の背後には、ボブスレーで鍛えた風の衣が渦巻く。


 ベルが翼を大きく一振りすると、人々に握られていた「不適切な食べ物」が、空中で眩い光に包まれた。


 次の瞬間、観光客たちの手の中にあったスナック菓子の袋や、菓子パンの切れ端は跡形もなく消え去っていた。代わりに彼らの掌に残されていたのは、うさぎたちが安全に食べることができる、栄養価の高い緑色のペレット(固形飼料)だった。


「えっ……? 何、これ……」


 人々は呆然と自分の手を見つめた。ポテトチップスを差し出していた子供も、チョコレートを与えようとしていた若者も、あまりの不可解な現象に言葉を失っている。


 空中のベルは、その様子を黄金の翼を羽ばたかせながら見下ろしていた。


「みんな、驚かないで。わたちが少し、『お魔法』を使ったの」


 ベルの声は、島の風に乗って人々の心に直接響いた。それは、フィギュアスケートの演技中に流れる、透き通った旋律のような声だった。


「あなたたちが持っていたものは、この子たちにとっては『毒』になるものだったわ。でも、あなたたちの『仲良くなりたい』っていう気持ちは本物。だから、わたちがその気持ちを、この子たちに本当に必要なものに変えたの」


 ベルはゆっくりと、怪我をした子うさぎの隣に着地した。彼女の胸の金メダルが、朝日に照らされて眩しく輝く。


 人々の間に、静かな動揺が広がった。

 彼らの多くは、悪意を持って不適切な食べ物を与えていたわけではなかった。ただ、「うさぎは可愛いから、自分が美味しいと思うものを分けてあげたい」という、無知ゆえの善意だったのだ。

 しかし、その善意が、結果としてうさぎたちの寿命を縮め、病気を引き起こしていたという事実を、ベルの魔法と、その神々しい姿が突きつけた。


「わ……わわ、私たちは……」


 スナック菓子を持っていた男性が、ペレットの載った手を震わせた。


「知らなかったんだ……。うさぎは、何でも食べると思っていた……」


 彼の手から、ペレットが数粒、灰色の砂の上にこぼれ落ちた。

 すると、地下壕に隠れていた他のうさぎたちが、ベルの光に導かれるように、おずおずと姿を現し始めた。彼らは、人間が持っているペレットの匂いを嗅ぎ、それが安全な食べ物であることを本能的に察知した。


「……長老、これは?」


 足の不自由な子うさぎが、ベルの背後に隠れながら、長老のうさぎに問いかけた。

 長老は、涙で濡れた瞳でその光景を見つめていた。


「これこそが、奇跡じゃ……。人間たちの『無自覚な暴力』が、彼女の光によって『真の優しさ』に変わったのだ……」


 ベルは、人々に微笑みかけると、隣にいる怪我をした子うさぎに視線を戻した。

 子うさぎの足の包帯は、昨日よりも血が滲み、痛々しい。カラスたちは、まだ廃墟の屋根から、この一連の騒動を狡猾な瞳で監視している。


「さあ、次は、あなたの番ね」


 ベルがそっと、黄金の翼を子うさぎの上に広げた。

 翼から、ミラノの雪よりも真っ白で、温かい光のピクシーダストが舞い降り、子うさぎの体を優しく包み込んだ。


「チリン……、チリン……」


 ベルの胸元の鈴が、これまでになく清らかで、厳かな音色を奏でる。

 その鈴の音は、かつてこの島で苦しんだ者たちの魂を鎮め、今生きる者たちの命を祝福するような、癒やしの旋律だった。


 光の粉が包帯に染み込むと、子うさぎの体が微かに宙に浮いた。

 そして、包帯がパラリと解け落ちた。


「あッ……!」


 人間たちが息を呑んだ。

 そこには、昨日のような痛々しい傷跡は、跡形もなかった。へし折れていたはずの足は、真っ直ぐに伸び、その皮膚は健康なピンク色をして、新しい白い毛が芽吹いていた。


 着地した子うさぎは、自分の足を不思議そうに見つめた後、力強く地面を蹴った。


 ピョン! ピョン! ピョン!


 それは、昨日のような不自然なリズムではない。野生のうさぎが持つ、本来の、生命力に満ち溢れた跳躍だった。子うさぎは、喜びのあまりベルの周りを何度も駆け回り、長老の元へと飛び込んだ。


「治った……! 治ったんじゃ……!」


 地下壕から出てきた全てのうさぎたちが、歓喜の声を上げ、足の不自由だった子うさぎを歓迎した。


 その歓喜の光景を見て、屋根の上にいたカラスたちが、苛立ったように鳴き声を上げた。彼らにとって、怪我をした子うさぎは格好の獲物だったのだ。


「カァッ! カァッ!」


 数羽のカラスが、ベルと子うさぎに向かって、同時に急降下を始めた。


「させないわッ!」


 ベルは再び黄金の翼を羽ばたかせ、天高く舞い上がった。彼女の動きは、フィギュアスケートのジャンプのように優雅でありながら、ボブスレーの加速のように力強かった。


「わたちの翼は、みんなを守る『盾』でもあるって言ったでしょう!」


 ベルが空中で円を描くように翼を振るうと、黄金の光の輪が島全体を覆うように広がった。その光の輪は、人間やうさぎには温かい風として感じられたが、カラスたちにとっては、強力な斥力(退ける力)を持った「壁」だった。


「カァァッ!?」


 光の壁に衝突したカラスたちは、まるで見えない手に弾き飛ばされたように、無様に空中で体制を崩した。彼らはベルの強力な力に恐怖をなし、二度とこの地下壕の入り口には近づくまいと、島の外へと逃げ去っていった。


 カラスが去り、島には再び穏やかな静寂が戻った。

 ベルは、地上にいる人間たちと、うさぎたちの中心に、ゆっくりと舞い降りた。

不適切な餌やりや野生動物への干渉という、現実の観光地が抱えるデリケートな問題を、「魔法と金メダリストのプライド」というファンタジー要素を掛け合わせて描きました。ベルの「お魔法」は、単に事象を変えるだけでなく、人間の無意識な行動を省みさせる力を持っています。怪我をした子うさぎの快復とカラスの退散を経て、島に本当の意味での平和が訪れることを願ったエピソードです。

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