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ちびうさベルの世界旅行  作者: terry


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14/15

心に刻む旋律

ボブスレーの「速さ」、フィギュアスケートの「美しさ」、アルペンキーの「勇気」を手に入れたベル。そんな彼女が次に足を踏み入れたのは、一見すると穏やかですが、その実、最も緻密な計算と駆け引きが必要な「氷上のチェス」ことカーリングの世界です。

「動」の競技で輝いてきたベルが、初めて直面する「静」の戦い。相手に石を弾き出され、一度は立ち止まったベルを救ったのは、仲間との温かいおやつタイムと、胸に響く不思議な鈴の音でした。

「ベルさん! 三冠の次は!? やはりジャンプですか!? それとも・・・」


 記者うさぎたちの問いかけを、ベルはひらりと身をかわして遮った。彼女が向かったのは、雪山の麓にある、鏡のように美しく磨かれた屋内リンクだった。


「次はね・・・これ!」


 ベルが指差したのは、重厚な花崗岩でできたカーリングストーン。

 そこには、専用のブラシを手にしたサクラと、ストップウォッチを首から下げたムジカが待っていた。


「ベル、カーリングは力だけじゃ勝てないわ。必要なのは、数ミリ単位の『精密さ』と、氷の先を読む『知性』よ」


 サクラが教える横で、白いうさぎと青いうさぎは、自分たちの体よりも大きなブラシを一生懸命バタバタさせて、「準備万端!」と鼻を鳴らしている。


 ベルは低い姿勢で氷に片膝をつき、ずっしりと重いストーンに手をかけた。


「・・・音楽と同じだね、ベル」

 ムジカが囁く。

「ストーンが氷を滑る『ゴー・・・』という音。その響きから、氷の機嫌を読み取るんだ。君の鈴なら、その旋律を捉えられるはずだよ」


 ベルは目を閉じ、胸元の鈴に触れた。


「チリン・・・」


 繊細な音がリンクに響くと、氷の表面にある小さな凸凹ペブルが、ベルの頭の中で音符のように並び替わった。


「見えたッ! 勝利のメロディ!」


 ベルは狙いを定めると、しなやかな動作でストーンを氷上に滑らせた。

 放たれた石は、生き物のようにゆっくりと、しかし意志を持ったかのような正確な弧を描いて進み出した。


「今よ! 掃いて!!」


 ベルは石を放つやいなや、自らもブラシを手に取り、すぐさま氷を掃き始めた。

「シャカシャカシャカシャカ!!」

 白いうさぎと青いうさぎも両脇に並び、三匹がかりの猛烈なスイープが始まる。


「もっと熱く! 氷を溶かして、ストーンを伸ばちてッ!」


 ベルの指示に合わせてブラシが高速で動くたび、氷の表面にわずかなラインが出来上がる。フィギュアスケートで培ったステップ、ボブスレーで鍛えた腕力、アルペンで覚えた重心移動・・・そのすべてが、この「掃き」の一瞬に凝縮されていた。


 相手チームのストーンが並ぶハウス(円)の中心。ベルの放ち、そして導いた石は、まるで吸い寄せられるように敵陣の隙間をすり抜け、カチリ、と心地よい音を立てて中心に居座った。


「エクセレント・・・! まさに氷上の芸術だ!」


 解説席のカメラうさぎたちが、身を乗り出して叫ぶ。

 力任せに弾き飛ばすボブスレーとは違う、相手の動きを利用し、最小の力で最大の結果を生む。ベルは知略の楽しさに目覚めていた。


 しかし、その直後だった。


「カーンッ!」


 冷たく、乾いた音がリンクに響き渡る。

 なんと、後攻である相手チームが放ったストーンが、完璧な角度でベルの石に激突したのだ。


 ベルが苦労して中心に置いた石は、無情にもハウスの外へと弾き出されてしまった。


「ああっ! せっかくわたちが置いたのに・・・!」


 ベルが耳をピンと立てて驚いていると、相手チームの「氷の騎士」たちが、ニヤリと不敵に笑いながらブラシを構え直した。彼らはミラノの氷を知り尽くしたベテランチームだ。


「ベルさん、これがカーリングの本当の厳しさですよ。一つ置けば、一つ出される。ここはスピードではなく、精神力の戦いなんです!」


 実況のカメラうさぎも興奮を隠せない。

「おっと! ベル選手、初めての壁にぶつかったか!? 中心を奪い、奪われ・・・まさに一進一退の攻防です!」


 ベルは悔しそうに鼻をぴくぴくさせたが、サクラがそっとベルの頭を撫でた。


「ベル、焦らないで。出されたなら、次は出されない場所に、もっと複雑な『守り』を固めればいいの。フィギュアスケートの時に言ったでしょう? 氷に愛されるには、氷を味方につけることよ」


 ムジカもストップウォッチをカチリと止め、静かな声で言った。

「相手の攻撃は、新しいメロディの始まりに過ぎない。次は、相手が手を出せないような、複雑で美しい『不協和音』をハウスの中に作ってみようか」


「・・・守るんじゃなくて、相手を困らせるメロディを作るの?」


 ベルは再び、重厚なストーンのハンドルを握った。

 今度は単に真ん中を狙うのではない。相手の石を盾にし、かつ自分たちの石を有利な場所に隠す「ガード」の戦術だ。


「いくわよ、白さん、青さん! 今度はもっと細かく、もっと繊細に掃くのよッ!」


「キュキュッ!!」


 ベルの瞳に、アルペンスキーの時のような鋭い集中力が戻った。

 勇気の鈴が「チリン・・・」と低く、冷静な音を奏でる。

 ベルが放った次の一投は、相手の石を絶妙にかすめ、まるで迷路を抜けるようにハウスの奥深くへと滑り込んでいった。


「掃いて、掃いて! そこ、少しだけ右を溶かしてッ!!」


 ベル自らも身を乗り出し、氷の表面と対話するようにブラシを振る。

 出されては入れ、入れられては弾き返す。

 静かなリンクの中で、火花が散るような知略の嵐が巻き起こった。


 知略を尽くした激闘の合間、ふとリンクに静寂が訪れた。

 カーリング特有のハーフタイム、「もぐもぐタイム」


「はふぅ・・・頭を使ったら、お腹が空いちゃったッ」


 ベルがリンクの脇にどっかと座り込むと、サクラが待ってましたと言わわんばかりに、風呂敷に包まれた特製のバスケットを広げた。


「ベル、お疲れ様。はい、火の国特製の『イチゴ大福』と、ミラノ名物の『パネトーネ』よ」


 バスケットの中から現れたのは、真っ白でふわふわのお餅に包まれた大粒のイチゴ。そして、甘いドライフルーツの香りが漂う黄金色のパンだ。


「わぁぁ! おいしそうッ!」


 ベルは小さな手で大福を掴むと、隣に座った白いうさぎと青いうさぎに一つずつ手渡した。

 三匹並んで、一斉に。


「もぐもぐ・・・もぐもぐ・・・」


 頬袋をパンパンに膨らませて一生懸命に食べるその姿に、最前列のカメラうさぎたちのシャッター音が一段と激しくなる。


「見てくれ、あのベル選手の食べっぷり! まるでリス・・・いや、本物のウサギだ!」

「癒やされる……激しいバトルの後にこの可愛さは反則だぞ!」


 ベルは口の周りに白い粉をつけながら、ムジカが淹れてくれた温かいベリーティーをゴクリと飲み干した。


「ぷはぁ〜! 甘いものは心の栄養ね。サクラ、これでもう一回、あの重い石を投げる元気が湧いてきたわ!」


 白いうさぎはイチゴの果汁で口元をピンクに染め、青いうさぎは大福の粉で眉毛が白くなっている。三匹で顔を見合わせて「ふふふっ」と笑い合うその様子は、まるでピクニックのようだった。


「ベル、糖分補給は完璧ね」


 ムジカが優しく微笑みながら、ベルの口元の粉をハンカチで拭いてあげた。


「さあ、後半戦だ。お腹が満たされた後の君のショットは、もっと甘くて……鋭いものになるはずだよ」


「ええッ! ミラノの氷を、わたちの熱気で溶かしてあげるんだから!」


 エネルギーを満タンにしたベルは、再びブラシを握りしめ、キリッとした表情でリンクへと戻っていった。


 後半戦が始まると、ベルの動きはさらに冴えわたった。

 糖分を補給したベルの瞳は、まるで狙い澄ましたハンターのように鋭い。


「いくよ、白さん、青さん。これがわたちの、とっておきの『甘い罠』よ!」


 第10エンド、運命のラストストーン。

 ハウスの中には相手チームの石が複雑に絡み合い、中心への道は完全に閉ざされているように見えた。


 ベルは一呼吸置くと、胸元の鈴にそっと手を添えた。


「チリン・・・」


 その音に呼応するように、ベルは滑らかにストーンを放った。


「ゴー・・・」と重厚な音を立てて進む石。しかし、その速度はこれまでにないほど遅い。

「短いか!?」観客席から不安な声が漏れる。


「今よッ!! 掃いて! 掃きまくってッ!!」


 ベルの叫びと同時に、白いうさぎと青いうさぎが、火の国のダンスを踊るような足さばきでブラシを振り始めた。


「シャカシャカシャカシャカ!!」


 三匹が重なり合うようにして一点を掃き続けると、氷の表面がわずかな摩擦熱で潤い、ストーンは魔法にかかったように再び伸び始めた。


 ストーンは、相手が「鉄壁」だと信じていたガードストーンの隙間を、わずか数ミリの差でスルリと通り抜けた。


「当たらない・・・!? まるで石が音符の間を泳いでいるようだ!」


 実況のカメラうさぎが絶叫する。

 ベルのストーンは、中心に居座っていた相手の石に「コンッ」と優しく触れると、そのエネルギーを吸い取るかのように相手を押し出し、自分はピタリとその場に止まった。


「フリーズ!!」


 サクラが手を突き上げ、ムジカがストップウォッチを静かに閉じた。

 完璧な逆転の一投。中心の「ボタン」には、誇らしげにベルのチームの石が輝いていた。


 会場は地鳴りのような拍手に包まれ、ラッパの音が祝祭の旋律を奏でる。

 ベルはブラシを掲げ、白いうさぎと青いうさぎをぎゅっと抱きしめた。


「やったわ! ミラノの氷も、わたちのメロディを聴いてくれたのね!」


 勝利の熱気が冷めやらぬリンクサイド。

 雪の中から再び「シュタタタタ!」とマイクを構えた記者うさぎたちが飛び出してきた。

最後までお読みいただきありがとうございました!

今回は、これまでのスピード感溢れる展開とは一味違う、戦略的なカーリング編をお届けしました。ベルの直感と、白・青うさぎたちの「超絶スイープ」、そして何より緊張感あふれる試合の合間の「もぐもぐタイム」が、彼女に新たな勝利をもたらしました。

サクラの優しさとムジカの冷静な分析に支えられ、また一歩「伝説」へと近づいたベル。

次の活躍をお楽しみに!!

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