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ちびうさベルの世界旅行  作者: terry


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13/15

雪原の翼

火の国からやってきた小さなおてんばウサギ、ベル。

フィギュアスケートで「氷の心」を掴み、ボブスレーで「重力の加速」を味方につけた彼女が次に挑むのは、白銀のアルプスが牙をむくアルペンスキーです。

絶壁のような急斜面を前に、一度は震え上がったベル。しかし、胸元の「勇気の鈴」が鳴り響くとき、彼女はただのウサギではなく、雪山を駆ける一筋の「オレンジ色の光」へと姿を変えます。

サクラとムジカ、そして白・青のうさぎ仲間たちと共に、ミラノの伝説がまた一つ塗り替えられる瞬間を、どうぞお楽しみください!

 雪煙を巻き上げながらベルが向かったのは、ミラノの北にそびえるコルティナ・ダンペッツォの急峻な斜面だった。

 そこには、空を突き刺すような旗門ゲートが連なり、凍てついた難コースが牙をむいて待っている。


「これが・・・アルペンスキーの舞台なのね」


 見上げるような急斜面に、ベルは思わず生唾を飲み込んだ。

 すると、隣でスキー板のワックスを塗っていたサクラが、真剣な面持ちで口を開いた。


「ベル、今度の相手は『遠心力』よ。フィギュアスケートで学んだエッジの使い方は生かせるけれど、スピードはボブスレー並み。一瞬の油断が命取りになるわ」


 ムジカも静かに、ベルの背中に手を添えた。

「リズムを刻むんだ、ベル。旗門を通過するたびに、雪面を叩く音がビートになる。山全体を一つの巨大な楽器だと思って滑るんだ」


 スタートゲートの最上段。眼下に広がるのは、もはやコースというよりは「真っ逆さまの絶壁」だった。

 ベルの小さな膝が、ガタガタと音を立てて震え始める。


「・・・高い。高すぎる・・・!」


 フィギュアスケートの華やかなリンクとも、ボブスレーの守られたチューブとも違う。むき出しの雪山が放つ威圧感に、ベルの足は氷りついたように動かなくなった。

 背中のリュックサックの中で、白いうさぎと青いうさぎも「ガクガク・・・」と震えながら、ベルの肩に顔を埋めている。


 その時だった。


 冷たい風が吹き抜けるスタート台で、ベルの胸元から「チリン・・・チリン・・・」と、今までになく澄んだ音が響いた。火の国の職人が魂を込めて磨き上げた、あの勇気の鈴だ。


 その音は、吹き荒れる吹雪の音をかき消し、ベルの耳の奥に優しく染み渡っていく。


「・・・あたたかい音」


 震えていた膝の力が、ふっと抜けた。

 鈴の音に呼応するように、サクラがベルの肩にポンと手を置く。


「ベル、怖がらなくていい。その鈴が鳴っているのは、あなたの心が『行きたい』と叫んでいる証拠よ。山は敵じゃないわ、あなたの味方。風を、雪を、その小さな体で抱きしめてあげて」


 ムジカが指揮棒をゆっくりと振り下ろすと、アルプスの山々に重厚なホルンの旋律が木霊した。

 それは、弱気な心を奮い立たせる**「勇者の行進曲」**。


「聴こえるわ・・・雪が歌ってる。風がリズムを刻んでる・・・!」


 ベルは大きく息を吸い込み、冷たいミラノの空気を肺いっぱいに満たした。

 リュックの中で震えていた白いうさぎと青いうさぎも、鈴の音に勇気をもらったのか、ベルの首元をギュッと抱きしめ返し、「キュッ!」と力強い声を上げた。


「いくわよ・・・サクラ、ムジカ! わたちの『勇気』、ミラノの山に響かせてくるッ!」


 ベルはストックを雪面に深く突き立てた。

 もはや、そこに怯える子うさぎの姿はない。


「レディー・・・ゴー!!」


 シグナルの音と共に、ベルは絶壁のような斜面へと身を投げ出した。

 一気に加速する重力。視界は真っ白な閃光となり、エッジが雪を削る「シュパパパパッ!」という鋭い音が、ムジカの音楽と完璧に重なり合う。


「右! 左! もっと低く、もっと鋭くッ!」


 最初の旗門を弾く。

 パコンッ!!

 その衝撃を、ベルはダンスのステップに変えた。


「わかったわ・・・! フィギュアのしなやかさと、ボブスレーの度胸。全部この板に乗せればいいのね!」


 時速100キロを超えるスピードの中、ベルはまるで重力をあざ笑うかのように、雪面を自在に駆け抜けていく。

 ふもとで待ち構える記者うさぎたちは、望遠レンズの向こう側で、オレンジ色の小さな影が「光の矢」となって山を下りてくるのを目撃した。


「ベル選手・・・! あの子は今、山と合奏しているぞ!!」


 急斜面を猛スピードで駆け下りるベルの姿は、もはや一匹のウサギの枠を超えていた。


「わたち、風になるッ・・・!」


 ベルがそう叫んだ瞬間、胸元の鈴が「キィィィン!」とひときわ高い音を立てて共鳴した。

 すると、ベルの体からオレンジ色のオーラが噴き出し、巻き上がる雪煙がまるで巨大な翼のように左右に広がった。


 ベルの視界の中で、赤と青の旗門が目まぐるしく交互に迫る。


「右にッ! 次は左にッ!!」


 ベルは極限まで上体を倒し、雪面を這うような深いターンを刻んでいく。スキー板のエッジが氷の斜面を切り裂くたびに、オレンジ色の火花と雪煙が舞い上がり、それはまるで五輪の女神が山肌に光のサインを描いているようだった。


「パコンッ! パコンッ!!」


 小気味よい旗門の打撃音が、ムジカの奏でるメロディと完璧にシンクロする。右へ体重を乗せれば、背中の白いうさぎが「こっち!」とバランスを取り、左へ切り返せば、青いうさぎが「あっち!」と身を乗り出す。三匹の動きは、もはや一つの生命体として完成されていた。


「これよ、これが氷との呼吸・・・雪との対話なのね!」


 限界を超えた「氷の壁」

 コース終盤。最も過酷な、ガチガチに凍りついた斜面が待ち構えていた。

 並の選手ならエッジが弾かれ、コース外へ弾き飛ばされる難所だ。

 しかし、ベルはあえてそこへ真っ向から飛び込んだ。


 フィギュアスケートで学んだ『氷に愛されるエッジさばき」

 ボブスレーで培った「重力を味方にする度胸」


 そのすべてが、いま一本のラインに集約される。

 ベルはまるで、荒れ狂う冬の海を乗りこなすサーファーのように、硬い氷の波を見事に乗りこなした。


「見て! ベル選手のライン取りは、もはや物理法則を超えているぞ!」


 ふもとでマイクを握る記者うさぎの声が、コルティナ・ダンペッツォの空に響き渡る。

 カメラうさぎたちは、あまりの速さにレンズを追いつかせるのが精一杯だ。


 その瞬間、ふもとのゴールエリアから、高らかなラッパの音が鳴り響いた。


 最後の急カーブを抜けると、あとはゴールへと続く長い直線。しかし、その手前には「最後のご褒美」と言わんばかりの、巨大な雪のコブが待ち構えていた。


「飛ぶわよ・・・みんな! ミラノの空へ!」


 ベルは最高速度を保ったまま、そのコブを力強く蹴り上げた。

 オレンジ色の翼を広げたような雪煙をたなびかせ、ベルの小さな体は冬の澄んだ青空へと吸い込まれていく。


「わたち、本当に風になっちゃった・・・!」


 空中で一瞬、時間が止まったかのような静寂。

 太陽の光を浴びて、胸元の鈴が「チリンッ!」と誇らしげに鳴り、キラキラとした光の粒子がダイヤモンドダストのように宙に舞った。


 伝説の誕生

 ドォォォォン!!


 地響きのような着地音とともに、ベルはゴールラインを猛烈な勢いで駆け抜けた。

 電光掲示板に表示されたタイムは、二位を大きく突き放すオリンピックレコード。


「フィニッシュ・・・! やった、やったわ!」


 激しい雪煙の中に停止したベルを、真っ先にサクラが駆け寄って抱きしめた。

「ベル、信じられない滑りだったわ! 山が、あなたのために道を開けていたわよ」


 ムジカも指揮棒を収め、満足げに微笑んだ。

「最高のアンサンブルだった。山全体が君の勝利に拍手を送っているよ」


 ベルはゴーグルを外し、キラキラと輝く瞳で背後の絶壁を見上げた。そこには、三匹の絆が刻んだ、世界で一番力強く、そして美しいシュプールが真っ白な雪面に残されていた。


 だが、勝利の余韻に浸る間もなく、雪の中から「シュタタタタ!」とマイクを構えた記者うさぎたちが飛び出してきた。



最後までお読みいただきありがとうございました!

アルペンスキーのスピード感と、ベルたちの絆が織りなす「雪上のアンサンブル」を感じていただけたでしょうか?

時速100キロを超える過酷なレースの中で、恐怖を勇気に変え、最後には風となって空を舞ったベル。彼女の耳に残るのは、勝利を祝うラッパの音と、次なる挑戦を急かす記者うさぎたちの足音です。

氷、そして雪。ミラノの冬を遊び尽くすベルの旅は、まだまだ続きます。

ベルの小さな耳が、次の風を捉える瞬間をまた一緒に応援していただければ幸いです!


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