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ちびうさベルの世界旅行  作者: terry


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11/15

ベルとミラノの怪物マシン

スキージャンプで「空」を攻略したベルが次に挑むのは、氷のチューブを弾丸のごとく駆け抜ける「地を這う嵐」、ボブスレー。

 時速130キロを超える極限の世界で、ベルは強烈な遠心力と、まるで怪物のようなソリの挙動に翻弄されます。

 「力」でねじ伏せようとするベルに、ムジカとサクラが授けた助言。それは、火の国の加護を受けた彼女にしか奏でられない、まったく新しい滑走のヒントでした。

 氷の「声」を聞き、重力とダンスを踊る——。ミラノをさらなる熱狂の渦に巻き込む、ベルの新たな挑戦が始まります!

 ベルはカメラうさぎたちに背を向け、白いうさぎと青いうさぎが待つソリへと猛ダッシュで駆け出した。 ミラノの熱狂は、まだ始まったばかりだった。


「わあぁぁ! 速い、速いよぉぉ!」


 ボブスレーに飛び乗った瞬間、氷のチューブの中を弾丸のようなスピードで滑り出した。

 ジャンプが「空」なら、ボブスレーは「地を這う嵐」だ。時速130キロを超える極限の世界。ベルのオレンジ色の毛が後ろにたなびき、胸元の鈴が「びぃぃぃん!」と高速の振動で鳴り響く。


「ベル、右にカーブよ! 重心を傾けて!」


 サクラの叫び声が、氷の壁に反響する。

 ベルは必死にソリの縁を掴み、小さな体を右へ左へと揺らした。

 白いうさぎと青いうさぎは、風圧で顔がぷるぷると震えながらも、一生懸命に前を向いている。

 ボブスレーは、ベルの想像をはるかに超える「怪物」だった。

  氷の壁が目の前を恐ろしい速さで通り過ぎていく。少しでも操作を誤れば、コースの外へ放り出されてしまいそうなほどの遠心力がベルの小さな体にのしかかった。


(ううぅ・・・重いッ! 体が壁に吸い込まれちゃう・・・!)


 ベルは歯を食いしばり、必死にソリのハンドルを握り直した。

 これまで「空を渡る力」で優雅に風に乗ることは覚えたが、この「重力」をねじ伏せ、氷の溝を完璧になぞるコントロールは、また別の難しさがあった。

 ソリが激しい雪煙を上げながら停止し、ベルは大きく肩で息をした。

 白いうさぎと青いうさぎは、あまりのスピードに目が回ってソリの底で「ふにゃ〜」ととろけている。

 ベルは真っ白な手袋で顔についた雪を払うと、真剣な眼差しでムジカとサクラを振り返った。


「ムジカ・・・サクラ・・・。滑りきれたけど、全然ダメだったわ。重力に振り回されて、氷と戦ってるみたいになっちゃった」


 ベルの胸元の鈴が、少し悔しそうに「ちりん・・・」と低く鳴る。


「どうすれば・・・どうすれば、もっと早く、もっと正確にこの氷の道を滑ることができるの?」


 ムジカは優しく微笑み、氷のコースを指差した。


「ベル、いいところに気づいたね。ボブスレーで一番大切なのは、氷に逆らわず、氷の『声』を聞くことなんだ」


 ムジカは魔法で小さな氷の模型を浮かび上がらせた。

 ムジカとサクラのアドバイスは、ベルの心に深く染み渡った。


「ベル、まずは『目線』をずっと先に置くこと。

 目の前の壁ばかり見ていると操作が遅れてしまうから、次のカーブの出口を見据えることで、体は自然と正しいラインへ導かれるんだよ。そして、壁に吸い込まれるような『重力』を味方につけること。その力を力でねじ伏せるのではなく、氷の傾斜にそっと身を預けてエネルギーとして受け入れるの。最後に、『鈴の音』で氷を溶かすイメージを持って。火の国の温かさを宿した鈴の響きで、氷の表面をなめらかになでるように滑れば、ソリはもっと速く、風のように進むはずだよ」


 ベルは静かに目を閉じ、今の滑りを頭の中で描き直した。


(先を見る・・・身を預ける・・・そして、音で氷をなでる・・・)


 ベルは立ち上がり、もう一度、白いうさぎと青いうさぎが待つソリのハンドルに手をかけた。


「わかったわ。わたち、もう一回滑る。次は、この怪物とダンスしてみせる!」


 ベルの瞳に、再び情熱の火が灯った。

 ベルは、白いうさぎと青いうさぎを促して、再び氷の塔の頂上にあるスタート台へと向かった。

 見上げるコースは相変わらず険しいが、今のベルの心には、恐怖に代わって明確な「旋律」が流れている。

 スタート位置につくと、ベルは深く息を吐き、冷たく澄んだ空気を肺いっぱいに溜めた。

 隣では白いうさぎと青いうさぎが、今度は振り落とされないよう、短い手足でソリのフレームをぎゅっと握りしめて気合を入れている。


 シグナルが青に変わる。


「いくわよ・・・せーのッ!」


 力強い蹴り出しとともに、ソリは再び氷のチューブへと吸い込まれていった。


 シュゴォォォォォッ!


 加速する世界の中で、ベルは教わった通り、目線をずっと先、闇の向こうにあるカーブの出口へと固定した。

 すると不思議なことに、あれほど速く感じた景色が、まるでスローモーションのように感じられ、次に引くべきハンドル操作が手に取るようにわかった。

 最初の深い右カーブ。

 強烈な遠心力が襲いかかるが、ベルは踏ん張るのをやめた。

 重力に身を預け、傾斜に体をピタリと沿わせると、ソリは壁を弾くことなく、美しい弧を描いてエネルギーをさらに加速へと変えていく。

 そして、胸元の鈴が「ちりん・・・ぽッ・・・」と、火の国の温かな光を放ち始めた。


(溶かして・・・なめらかに・・・氷さん、わたちを通して!)


 鈴の音で氷をなでるイメージを持つと、ソリの下で氷がわずかに潤い、摩擦が消えたかのように滑らかになった。

 ガリガリという不快な音は消え、代わりに「ひゅん!」という、空気を切り裂く澄んだ音だけが響く。


「すごい・・・ベル、氷と踊ってる!」


 モニターを見守るサクラが、感極まった声を上げた。

 ソリは怪物のようなコースを手なずけ、まるで流星のように氷のチューブを駆け抜ける。

 最終ストレート、ベルは真っ直ぐにゴールを見据え、一滴の無駄もないラインで光の壁を突き抜けた。


 シャァァァァァァン!!


 ゴールを告げる鈴の音が、スタジアムの隅々まで、これまでで最も速く、最も鋭く響き渡った。

 ソリが完璧なラインでゴールラインを駆け抜けると、スタジアムの巨大な電光掲示板に、それまでの記録を大幅に塗り替える驚異的なタイムが表示された。


「世界新記録だ! ベルが怪物を手なずけたぞ!」


 場内アナウンスが絶叫し、スタジアムはジャンプの時以上の熱狂に包まれた。

 ベルがソリから降りてヘルメットを脱ぎ、オレンジ色の耳をぴんと立てた瞬間、またしてもどこからともなく、無数のカメラを抱えたうさぎたちが雪煙を上げて押し寄せてきた。


「ベルさん、今の完璧なカーブワーク、一体どうやったんですか!?」


  「氷と会話しているように見えましたが、何か特別な魔法を!?」


 フラッシュの激しい光の渦の中、一匹のうさぎ記者が震える手でマイクをベルの口元へと差し向けた。


「ベルさん・・・今の滑りは、もはや競技を超えて芸術でした。重力に勝つのではなく、重力に愛されているかのような・・・! 今、どんなお気持ちですか!?」


 ベルはまだ少し荒い息をつきながらも、キラキラとした瞳でマイクを見つめ、誇らしげに胸元の鈴に手を当てた。


「わたち・・・氷と喧嘩するのをやめたの。先を見て、重力に身を預けて、この鈴の音で氷を優しくなでてあげたら・・・氷さんが『通っていいよ』って道を開けてくれた気がしたわ」


 その詩的な答えに、記者うさぎたちは一瞬言葉を失い、次の瞬間、猛烈な勢いでメモを取り、シャッターを切り始めた。


「氷をなでる・・・!」


「名言だ! すぐに速報で流せ!」


 白いうさぎと青いうさぎも、誇らしげにベルの両脇に立ち、カメラに向かってVサインを決めている。


「ベルさん、最後に一言! このミラノの冬を、あなたはどこまで熱くするつもりですか!?」


 ベルはスタジアムの空を見上げ、いたずらっぽく笑った。


「わたちの鈴には、まだまだいろんな『音』が詰まってるの。次はもっと優しくて、もっと美しい・・・氷の上のダンスをみんなに見せたいわ!」


 マイクを向けた記者うさぎたちは、その言葉に「次はフィギュアだ!」と確信し、次なる舞台であるスケートリンクへと一斉に走り出した。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

 今回は、力任せに壁と戦うのではなく、流れに身を任せることで真の速さを手に入れる、ベルの成長を描きました。

 「氷をなでる」という言葉通り、彼女の優しさが魔法となって奇跡のタイムを叩き出すシーンは、書いていて(あるいは読んでいて)胸が熱くなるポイントだったのではないでしょうか。

 カメラうさぎたちの熱狂ぶりから察するに、ベルのミラノでの人気はもう誰にも止められそうにありません。そして最後の一言で、次なる舞台は「氷上の華」フィギュアスケートへ……。

 ベルの鈴が次はどんな音色を響かせるのか、どうぞお楽しみに!

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