008 ふたごヘビ
(やっとコウモリもどきの姿が見えなくなってきたか。)
新たな魔物と出会うべく出発したが、コウモリもどき達の生息圏はそこそこに広く、しかもなぜかコウモリもどきの生息圏には別の魔物が全く現れないのだ。
ここまでの道中でも何度もコウモリもどきに遭遇し、その都度針を用いて倒していた。
(コウモリもどき達のおかげで針の扱いにも慣れてきたし、そろそろ別の魔物が出てきてくれても良いんだけどな。)
これまでに遭遇した魔物といえば、クマの魔物とコウモリもどきくらいで他の魔物を見かけることは一切なかった。
他の魔物と遭遇したい、そんな願いが通じたのか前方からズルズルと何かを引きずるような音が聞こえてきた。
(あれは、ヘビか?)
音の正体はヘビだった。
しかし、普通のヘビとの違いが一点。
頭が2つあるのだ。
加えて体長も2mはありそうなほど大きい。
(め、めっちゃ強そう。)
コウモリもどきとは違い、自分より明らかに大きい相手に萎縮しそうになったが、状況がそれを許してくれなかった。
かなり距離があると思っていたヘビだったが、急にこちらに視線を向けて高速で近づいてきたのだ。
(やべっ!バレた!)
急いで戦闘態勢を取っている間にもふたごヘビはすぐ間近にまで迫ってきていた。
ふたごヘビの片割れが口を開け、凄まじいスピードで噛みついてきた。
(うおぉっ!!)
その攻撃を辛うじてすれちがいにながら避ける。
その際、お尻の針がすっとヘビの肌に触れた。
(あっぶねぇ!とんでもない速さだ……あれ?)
改めてふたごヘビと相対すると、先ほど襲ってきた方のヘビの首がナイフで切り裂かれたような傷がついていた。
(なんでだ?すれ違ったとき針が触れたような気はしたけど……)
確かに針が触れていたとはいえ、本当にヘビの肌を撫でるくらいのことしかしていない。
その自覚があるからこそ、ヘビがあそこまでの傷を負っていることに理解が追いつかなかった。
(もしかして……切り裂きの効果が針にも適用されてる?)
つい最近取得した切り裂きの能力が、この結果を生み出したのではないかと推測した。
(確かに、コウモリもどきは刺すばっかりで切ろうなんて考えがそもそもなかったもんな……)
切り裂きの能力を得てからここまでの道中、コウモリもどき達を針を用いて倒してはいたのだが、それはあくまで刺突攻撃であった。
「針は刺すもの」という固定観念が、「針で切る」という選択肢を奪ってしまっていたのだ。
(ここで気付けたのはラッキーだったな。切り裂きの能力が針にも有効なら、毒針のアンロックがだいぶ楽になる。)
蜂谷はこの事実に気づかせてくれたふたごヘビに感謝した。
(お前達のおかげで良いことを知れたよ。ありがとな。お礼に、すぐ楽にしてやるよ!)
今度はこちらからふたごヘビに接近していく。
ふたごヘビはそれを待っていたとばかりにかみつき攻撃を繰り出してくる。
(来ると分かってれば避けられるんだよっ!)
今度は余裕を持って避けるが、避けた先にもう一方の頭が攻撃を仕掛けてくる。
(くっ!)
それを避けても更にもう一方が仕掛けてくるという終わりのない攻撃に、最初は手も足も出せず針で攻撃するチャンスなどないかと思われた。
(よっ!、ほっ!、はっ!)
しかし、何度も攻撃を避けているうちに相手の攻撃が目で追えるようになってくる。
(今だっ!)
先ほど首に傷を負った方のヘビに対して、タイミングを見計って針による切り裂き攻撃を放った。
針は見事にヘビの首を捉え、スパッと切り飛ばす。
ヘビの首からは血が噴き出しているものの、片割れのヘビは普通に活動することができるらしく、目を血走らせながら怒った様子で攻撃を仕掛けてくるも、2匹分の攻撃だったからこそ手こずったのであって、今更1匹分の攻撃など恐るるに足らなかった。
(せい!)
もう一方の頭も針によって切り飛ばす。
どさっと地面に落ちた頭と、動き出す気配もなくなった胴体を見てほっと息を吐いた。
(よしよし。切り裂きのおかげでだいぶ楽に狩れたな。さてと、初めての魔物だし味見しとくか。)
大きな口を開け、ヘビの胴体にかぶりつく。
切り裂きの能力のおかげで肉をかみ切るのも楽ちんだ。
咀嚼してみると――
(うまっ!え?うまっ!)
コウモリもどきの肉と比べると肉質は引き締まっていて弾力があるが、決して食べにくいということはなく、むしろ噛めば噛むほど奥に潜んだ味が染み出してくるようでずっと噛んでいたくなるほどだ。
何十回も咀嚼して、ようやく嚥下する。
(すげぇ。この洞窟の魔物はみんなこんなに美味いのか?)
まだコウモリもどきとふたごヘビしか食べたことはないが、どちらも驚くほどの美味しさだった。
人間だった頃は食事にそこまで重きを置いていなかったが、今となってはアンロック条件の達成の次に魔物を食すことが楽しみとなっていた。
(腹ごしらえも済んだし、先へ進むとしますかね。)
ヘビを食べ切り満足した蜂谷は、次なる魔物を求めて飛び立っていくのだった。