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蜂革命  作者: basedou
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007 アンロック

(これで怒られなきゃいいけど。)


 あの後コウモリもどきを一体倒し、持てる分の肉を切り出して巣に帰る。

 今の今まで単独行動をしていたため、巣に帰ったら囲まれてリンチにされるのではないかと内心ビクビクしていた。


(堂々といくぞ。ビクビクしてたら余計怪しいからな。)


 意識的に顔を上げ、出入口から巣の中に入っていく。

 中ではハチ達が忙しそうにブンブンと飛び回っていた。


(あのハチについていこう。)


 自分と同じく肉を持ち帰ってきたハチについていくと、そこには無数の穴から顔を出す幼虫達がいた。

 幼虫達はハチたちが持ってきた肉を与えられ、ブシュルッ、ブシュルッと咀嚼している。


 既にコウモリもどきの肉の味を知っている身としては、夢中で食べる様子をさもありなんという感情で眺める。


 幼虫達も自分と同じように肉の美味しさに感動していることだろうと思うと、なんだか可愛く思えてきた。


 肉を持って近づくと、身体をウネウネと動かし口をパカっと開けてくる。


(ふふっ。そんなにこの肉が欲しいか。可愛い奴らめ。)


 不思議と母性が芽生えてきて、その中の1匹に持っていた肉を与えた。

 幼虫は肉を受け取ると、あっという間に食べ尽くしてしまい再度エサをねだるように身体をウネウネと動かし始めた。


(よしよし。明日も肉を持ってきてやるからな。)


 そのいじらしい姿に、次の日はもっとたくさんの肉を持ち帰ろうと心に決めた。


(さて、今日は疲れたし寝よう……と思ったけど、そもそもハチって寝るのか?)


 疲労感もあり眠気も感じていたのだが、そもそもハチが睡眠をとらない生物だとしたら自分だけ睡眠をとるというのも周りから怪しまれてしまう。


(巣の中を見て回るか。どこかに寝床があるといいんだけど。)


 巣を飛び回って、寝る場所がないか探してみる。


 すると程なくして、他の場所よりも薄暗い部屋を見つけた。


(ここはどうかなー……って、うわっ!!)


 蜂谷が驚くのも無理はない。

 その部屋からは木の根のような蔦状のものが天井から何本もぶら下がっており、無数のハチ達が蔦を覆い隠すように、微動だにせずくっついていたのだ。


(なんだあれ?まさか、あれで寝てんのか?)


 予想通り、ハチ達は蔦につかまって睡眠を取っていた。

 どうやらハチにも睡眠は必要なものらしい。


(あんなんで寝れるのかな?とりあえず真似してみるか。)


 眠れないようであれば別の方法を取れば良いという思考の元、くっつける隙間がある蔦を探し、他のハチ達に倣い全ての手足を使って蔦にしがみついてみる。


(爪がひっかかるから、力を使わなくても落ちる心配はなさそうだ。)


 実際にやってみると意外と安定感があり、意識してやらなければ離れることが難しいくらいに爪が引っかかっているので、多少寝ぼけていても問題ないだろうと判断した。


(安心したら眠くなってきたな。ふわぁ。明日はもっと魔物狩るぞーっと……)


 明日の狩りへの意気込みをしつつ、訪れる眠気に身を任せ眠りについた。




 次の日から、蜂谷は精力的に働いた。

 元から働き蜂のような生活をしていた蜂谷にとって、アンロック条件の達成という目標ができたのは僥倖だった。


 やることさえ決まったのであれば、それを達成するためにどうすれば良いか考え、実行し、あとはひたすらトライアンドエラーを繰り返して最適解を見つけるだけ。


 こんな右も左もわからない状況であれば尚更、自分がこれまでやってきたルーティンにこれからの行動を落とし込めるというのは精神的にも安心できる材料といえた。


 朝起きたらコウモリもどきを狩りにいき、体力的にきつくなってきたら肉を持って巣に帰り、幼虫達に餌付けをして就寝。

 やっていること自体は単純だが、一瞬の油断が死につながる命のやりとりは、まるで経験したことのない、濃密で新鮮なものだった。


 そんな命がけの生活が続いたある日。


 蜂谷は、既に何度も葬ってきたコウモリもどきと相対していた。


(いざっ!)


 最初のように後ろから不意打ちをかけることはせず、真正面から相手に向かってゆく。

 これまでの戦闘経験から、コウモリもどき達の癖は完全に把握していた。


(まずはスピードで撹乱しながら相手の目の前に移動。)


 もはや羽を使った飛行は慣れたもので、細かく鋭い動きも容易にできるようになっていた。

 コウモリもどきにとってはいきなり目の前に現れた敵に対して攻撃を仕掛けてくる。


(次にこいつは必ずどちらかの羽で大振りの攻撃を仕掛けてくる。)


 予測通り、コウモリもどきは左の羽で攻撃を仕掛けてきた。


(この大振りを最小限の動きで避けて、後ろから羽の根元をガブリッ!)


 初日は気づかなかったが、コウモリもどきの羽の先端は鋭利な刃物になっているためこの攻撃を避け損なうと待っているのは死だ。

 しかもこの羽、笑えないレベルで切れ味が半端ない。

 その辺の岩などは簡単に切り裂いてしまうのだ。


 死への恐怖があるものであれば判断を誤って避け損なうこともあるだろうが、死への恐怖が失われた今の自分にとってはただのテレフォンパンチだった。

 戦闘に慣れた今となっては避けない方が難しいとさえいえた。


(これで羽を食いちぎってっと)


 暴れるコウモリもどきの羽の根元に何度も食らいついたあと、羽をブチッと食いちぎった。


(羽がなくなったら落下していくので、それを追いかけて最後にガブガブしたら……一丁上がり!!)


 落下したコウモリもどきが地面に激突したのとほぼ同時に胴体に止めの噛みつき攻撃を加えると、コウモリもどきは動かなくなった。


 これは最初の一体を倒した際、コウモリもどきが羽を失った途端何もできなくなったのを参考に組み立てた対コウモリもどき用の戦闘ルーティンだった。


(にしても、もうだいぶ倒したと思うんだけどな。)


 とぼやいたその時、脳裏に情報が流れ込んでくる。


====================


切り裂き


アンロック達成


====================


 唐突に、切り裂きのアンロック条件が達成された。


(おー!ここでか!……って言っても何も起こらないな。)


 ゲームのように何か説明的なものが現れるのかと思いきや、視界にそのような変化は一切なく、身体的にも変わったところは何もなかった。


(実戦で試してみるしかないか……お!ちょうど良いところに。)


 実際の戦闘の中で切り裂きの能力を試すしかないと思い至ったところで、都合よくコウモリもどきがパタパタと飛んでいるのを見つけた。


(悪いが実験台になってもらうぜ!)


 一目散にコウモリもどきの元に飛んでゆき、確立した戦闘ルーティンを用いてコウモリもどきの大振りの一撃を避け、いつも通り羽の根元に食らいついた。


 今までであれば、何度か羽をガブガブした後に思い切り引っ張ることでようやく羽を引きちぎることができていたが今回は違った。


(おりゃっ!っと……え?あれ?)


 コウモリもどきの羽は何の抵抗もなくストンと切断された。

 まるで豆腐を切っているかのような感覚に戸惑いを隠せなかった。


(す、すげぇ。これが切り裂きの能力なのか。)


 今までの苦労は何だったんだと思うほどに切り裂きの能力は破格なものだった。


(切り裂きでこんなだったら、アンロック条件がもっと難しい毒針はさぞ強力な能力なんだろうな……毒針のアンロック条件はたしか……一定数の魔物を針で倒すことと、ギフトロッシュっていう魔物を一定数倒すことだったな……)


 アンロック条件について思い出したところで、蜂谷は思うところがあった。


(このアンロック条件……多分だけど、ギフトロッシュを針攻撃で倒せれば条件の1と2を同時に満たせてお得な気がするんだよな。)


 ギフトロッシュを倒すにあたっての縛りは特にないが、ギフトロッシュを針攻撃で倒せれば、「魔物を針で倒すこと」という一つ目の条件も同時に満たせるのでは?という淡い期待が頭の中に浮かんでいた。


(っていうかギフトロッシュって誰だよ。どんな姿かもわかんないのに倒すって手探りにもほどがあるだろ。)


 思えば今まで散々倒してきたコウモリもどきですら本当の種族名を知らなかった。

 倒す魔物を指定するのであれば、せめてどんな姿の魔物かだけでも教えて欲しいと願うものの、応えてくれる声はどこにもない。


(まあいいや。とりあえず活動範囲を広げながら、コウモリもどきで針攻撃の練習でもするか。)


 まだそれほど疲労が溜まっていなかったので、毒針のアンロック条件を達成すべく洞窟の未踏破領域に足を伸ばすのであった。

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