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蜂革命  作者: basedou
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005 地獄の本領発揮

 ジョニーを追いかけて巣の中を飛んでいると、視線の先にハチが密集している場所を見つけた。


(あれは何をやってるんだ?)


 近づいて、ひしめくハチ達を眺めているとその中にジョニーの姿を見つけた。


(ジョニー!ここにいたのか!)


 なんだか無性に嬉しくなってジョニーの元へと飛んでいく。


 なぜ似たような姿形をしたハチ達の中でジョニーを見分けることができるのか自分にも分からない。

 だがなぜか分かってしまうのだ。


 とはいえ身体的な特徴で他と見分けるポイントがないのも事実。

 そこで、ジョニーには自分の中だけでリーゼントを生やすことにした。


(やあジョニー!調子はどうだ?)


「・・・」


 当然応えが返ってくるわけもないが、ジョニーを見つけてハイになっている蜂谷は構わず話しかける。


(なあどこへ行くんだ?俺も一緒に付いていっていいか?)


「・・・」


(つれないじゃないか!俺たち同期だろう?)


 同じタイミングで羽化した同期を無視して進むジョニーだったが、その足取り、もとい羽取りはどこか向かう場所があるかのようだった。


 ここである違和感に気づく。


(なんか騒がしくなってきたな。)


 ハチ達の羽音とは別に、なにやらドシン、ドシンと大きな音が聞こえてくる。

 どうやらジョニーの向かう先にこの音の発生源があるらしい。


(音もだいぶ大きくなってきてる。なあジョニー、ここは一旦引いた方がいいんじゃ……)


「・・・」


 こちらの忠告も無視して、蛮勇の戦士ジョニーは歩を進める。


(かっけぇ。ついていくぜジョニー!)


 揺るがない姿勢で進むジョニーの姿を見て決意を固めた蜂谷もまた、音の発生源に向かいズンズンと進んでいく。


 するとハチ達が頻繁に出入りを繰り返している場所が見えてきた。


(巣の出入口か?)


 巣の出入口は狭いため、少し手前から羽をたたみ着地する。

 流れに押されるようにして進んでいくと、とうとう巣の外の光景が見えてきた。


(あれはなんだ?)


 巣の外ではハチ達が何か黒くて大きなものに群がっているようだった。

 どんどん前に進んでいくことで、その全貌が見えてくる。


(く、クマなのか?でけぇ。っていうか腕がなげぇ。)


 ハチ達が群がっているのは、もはや比べるのも馬鹿馬鹿しいほどに大きいクマだった。

 しかし自分が知るクマとは違い、腕が身長と同じくらいの長さだった。


 クマとはハチの巣を狙う生き物だ。

 ハチが自分たちの巣を守るために戦っているのが目の前の光景ということなのだろう。


 クマがその大きく長い腕を振るうたびに何匹ものハチが地面や壁に激突し命を落としていく。


(やっべぇ。地獄が本領発揮してきやがった。)


 蜂谷はハチとクマとの戦いを地獄のイベントだと考えていた。


(みんなガンガン進んでるけど怖くないのか?……いや、かくいう俺もなぜかあまり恐怖心がないのだけれども。)


 何の感情も読み取れない顔でただただ機械的に前進するハチ達を見て、みんな元は人間のはずなのに恐怖を感じないのだろうかと疑問に思ったものの、自分自身なぜか自分より遥かに大きなクマに対して当然抱くはずの恐怖心が湧いてこないことに気づいた。


(ハチになって精神構造も変わっちまったのかな。なあジョニーはどう思う?)


 隣を歩くジョニーに問いかけると、そこには曇りなき眼で飛び立つ勇敢なる騎士の姿があった。


(ジョニー、お前ってやつは……ったく、しゃあねえなぁ。付き合ってやんよっ!)


 ジョニーの勇姿に背中を押され、背中の羽を振るわせて巣を飛び立ったその瞬間。



 ――目の前を黒い塊が通り過ぎていった。



(うおおぉぉぉっ!!)


 暴風が吹き荒れ、満足に飛ぶこともできず吹き飛ばされてしまう。


(――くっ!)


 吹き飛ばされた先で、ようやく暴風の圏外に出たことによって飛行の制御を取り戻し、クマを見下ろす位置で滞空する。


(っぶねえぇぇ!!なんだ今の!クマの仕業か!?)


 どうやらクマのアッパー気味の攻撃で発生した風の流れによって、上方に吹き飛ばされてしまったらしい。


(あんなのに当たってたら一撃でお陀仏だったな。いや、もう死んでんのか。あれ、今の状態で死んだらどうなるんだろ?)


 クマの強烈な一撃に冷や汗を流しながら、とある重大な事実に思い至る。


(そうだ!ジョニー!ジョニーはどうなった!?)


 少し前に飛び立ったジョニーは、クマの攻撃の射程にいたはず。

 パニックになりそうな頭を必死に落ち着けてジョニーの姿を探す。


(いた!ジョニー!)


 ジョニーの姿を見つけ喜んだのも束の間。

 羽化したばかりで綺麗だった羽は身体同様ボロボロとなり、恐れを知らず、勇敢に前だけを見据えていた目からは光が失われていた。


(……)


 ジョニーの痛ましい姿に言葉も出ない。


 突如として心にできた大きな空白。


 その空白をとある感情が埋め尽くしていく。


(――まえか。)


 未だ群がるハチ達と戦うクマに視線を向ける。

 その目にはもう怯えなど微塵もなかった。


 あるのはただ怒りのみ。


(ジョニーを殺したのは!おまえかあぁぁぁっっ!!)


 勢いよくクマに飛びかかっていく。


 再度クマの腕が襲ってくるも、その動きは予測済みだ。


(見えてんだよっ!)


 クマの腕を華麗に掻い潜り、目的に向かって一直線に飛んでいく。


(くらえぇっっ!!)


 勢いのままに、ハチの最大の武器であるお尻の針をクマの右目にブスッと突き立てた。


 クマの腕が迫ってきたため、一旦退避してクマの様子を観察する。


(効いたか!?)


「グオォォォッッ!!」


 クマは怒号にも似た悲鳴を上げて右目を抑えた。

 どうやら予想以上にダメージを与えられたらしい。


(へっ!ざまあみろっ!)


 それを好機とばかりに周囲で飛び回っていたハチ達が一斉にクマの身体に纏わり付き、針で刺したり、くちばしで噛んだりと攻撃を加えていく。

 クマはなすすべもなく片膝をついてしまった。


(おぉ、なんか勝てそうだな……ん?)


 他のハチ達の戦いぶりを眺めていると、なにやら他とは違うハチ達がいた。


 顔の付近に張り付いているハチに目をやると――


(あのハチの針はなんで攻撃の瞬間紫色に変色してるんだ?)


 そのハチは針で攻撃を仕掛けているのだが、他のハチ達とは違い攻撃の瞬間針が紫色に変色していた。


 次に、首筋に張り付いているハチに目を向ける。


(あのハチは他のハチより、くちばしの切れ味が段違いだ。)


 他のハチがクマの硬い毛を前に攻めあぐねているにも関わらず、ザックザックとクマの首筋にくちばしで切れ込みを入れていた。

 その場所からはどくどくと血が流れ出している。


 他にも血が流れている場所が数カ所あり、そのいずれにも鋭い切れ味のくちばしを持つハチがいるようだった。


(あれは俺にもできるのかな?)


 他とは違うハチ達を注意深く観察してみる。


 すると――


====================


毒針


アンロック条件:

1. 一定数の魔物を針で倒すこと

2. 一定数のギフトロッシュを倒すこと


====================


====================


切り裂き


アンロック条件:

1. 一定数の魔物をかみつき攻撃で倒すこと


====================


(うわっ!)


 頭の中に突如、何か情報が飛び込んできた。


 脳内に直接異物を流し込まれるような不気味な感覚。


(何だ今の。毒針と……切り裂き?)


 滞空しながら考える人の体勢をとり、頭に流れ込んできた情報の断片を整理していく。


(アンロック条件ってのは……普通に考えれば何かを解除するための条件ってことになるが……まさかっ!)


 蜂谷は何か閃いたかのようにガバッと顔を上げた。


(この条件を満たせばそれらに対応した能力を得られるのでは!?)


 学生時代人並みにRPGをやっていたため、これらの情報を紐づけることは決して難しいことでなかった。


 今まで生きてきた世界であればあり得ない結論ではあるが、ここは地獄。

 地獄であれば何が起こってもおかしくなどない。

 というより、自身が既にハチになっているのだから、おかしいことが起こらないことの方がおかしい。


(毒針はアンロックの条件が2つもあるのか。魔物ってのはあのクマのことだよな?あれは無理ゲーだろ……しかも針で倒すという鬼畜の縛り。てか一定数って何体だよ。)


 今でこそ劣勢なクマだが、ここまでの戦闘でこちら側にもかなりの被害が出ている。

 そんな相手を何体も倒すなど全く想像ができなかった。


(もう一つの条件のギフトロッシュって何だ?文脈的には魔物の名前なんだろうけど。)


 ギフトロッシュが魔物の一種であろうことは想像がついたが、どんな姿形をしているかなど全くわからない。


 だからわからないことは考えないことにした。


(わからないことに頭を悩ませるのは無駄だな。次、次。えーっと、切り裂きのアンロック条件は……一定数の魔物をかみつき攻撃で倒すことか。こっちも中々難しそうだけどやることは明確だ。)


 切り裂きのアンロック条件は毒針とは違い、条件が一つしかなく、縛りはあるもののやることの内容は明白であった。


(よしっ。まずは切り裂きの条件を満たすぞ!)


 そう結論を出したのは、とうとうクマがうつ伏せに倒れ込んだ時だった。


 ハチ達の怒涛の攻撃を前にとうとう力尽きたクマ。

 その様子を見届けると、今も地面に横たわっている盟友ジョニーを見つめ、戦果を報告する。


(仇は取ったぜ、ジョニー。)


 数秒黙祷を捧げ、顔を上げる。


(うしっ!いつまでもしんみりしてちゃジョニーに笑われちまうからなっ!)


 思考を無理矢理持ち上げて次に取る行動を考え始める。


(ミラーリングの続きといきたい所だけど……やりたいことできちゃったからなぁ。)


 切り裂きのアンロックを当面の目標に据えた今、ミラーリングによって周りからの信頼を得るという行動への意欲が薄れていた。


(ちなみにみんなは何をしているんだ?)


 クマを倒し終えた後の他のハチ達の行動に目を向けると、クマにできた裂傷に群がり肉を食いちぎり、口に加えたまま巣に持ち帰っていく。


(うえぇぇぇ。グロい……あれに慣れないといけないのか。)


 しかしここで生きていく以上、ああした行動にも慣れていかなければならない。



 もう、自分は人間ではないのだから。



(でも慣れるのはゆっくりでいいよな……とりあえず今は切り裂きのアンロックを優先しよう。)


 現実逃避も兼ね、その場をそっと抜け出すのだった。

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