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蜂革命  作者: basedou
48/48

048 決着

 大男がつぶやいた瞬間、身体から何かが抜け落ちたような感覚に襲われた。


(くそっ!なんのスキルだ!?)


 この状況で接近戦に持ち込まれるのはまずいと思い、牽制のための雷撃を放とうとする――


「雷撃!」


 ――が、雷撃のスキルが発動することはなかった。


「えっ!?」


 雷撃のスキルをアンロックして以来、こんなことは初めての現象だった。

 俺の慌てた様子を見て、嬉しそうにニヤついていた大男が口を開く。


「くっくっく……探しものはこれか?」


 そう言って大男が手を伸ばし、聞き覚えのあるスキルを唱えた。


「雷撃。」


 俺の真横を雷撃が通り過ぎていく。

 完全に避けることを忘れていた。

 相手が外していなければ確実にやられていただろう。


「クソッ!座標指定するタイプだったのか!……てこたぁ、手を起点に見せていたのはフェイクか。こりゃガナンの奴がやられるわけだ。」

「……」

「おっと、待ってもらって悪いな。新しいスキルを強奪した時は無性に性能チェックしたくなるんだよ。」


 むかつく笑顔を向けてくる大男に蹴りをかましたくなるのを堪える。

 今の説明に何やら気になる単語が混じっていた。


「……強奪だと?」

「くっくっく。本当はもう分かってるんだろ?奪ったのさ。てめえの大事な大事なスキルを俺の『強奪』でな。」


====================


強奪


アンロック条件:

1. 気づかれずに一定数のスリを成功させること


====================


 スキルの情報が入ってきたことで、大男の話の裏付けが取れた。


「にしてもこのスキル……バカみたいに燃費が悪いな。だが威力はかなりのもんだ。まさに切り札ってことだったんだろうが、残念だったなぁ?お前は一生このスキルとはおさらばだ。」

「ちっ。中長距離の便利スキルだったってのに……まあ、最近頼りすぎてたからバチが当たったのかもな。」


 俺のあっさりした様子を見て、大男は面白くなさそうな顔を浮かべた。


「……舌打ちしたいのはこっちだ。スキルを奪われた奴は大抵絶望した顔で「返してくれぇ!」って泣き叫ぶから、それを楽しみにしてたってのによ。」

「そいつは悪かったな。それなりに愛着はあるけど絶望するほどじゃねえよ。」

「あぁ……そういうことか。どうせ今から死ぬんだ。そりゃスキルに執着しても意味ねえよなぁっ!」


 大男が再び斧を振り上げて襲ってくる。

 斧による猛攻を捌きながら、並列思考を使って対応策について考える。


(強奪がある限り、無闇にスキルを使うのは危険だ……とはいえ、スキル無しでこいつに勝ち切るのは難しい……さてどうするか。)


 そうして考えている間にも斧による猛攻は続き、徐々に肌を掠めることも増えてきた。


「身体能力だよりの動きだ!新人冒険者ってのは本当だったみてぇだな!」


 どうやら対人戦の戦闘経験の差が出ているようだ。

 接近戦込みのまともな対人戦といえば、短刀使いの男と目の前の大男くらいだ。

 差が出るのもやむなしといったところか。


(くそー。こいつに少しだけでも隙ができればなぁ……あ、良いこと思いついた。)


 俺は攻撃を避けながら周りを確認する。

 報告係や尾行チームはとばっちりを避けるためか、目の届く範囲にはその姿が見えない。


(よし……人目は無いな。)


「よそ見とは良い度胸だなぁ!」

「いっづ!」


 頬を斧が掠める。

 痛みに眉を顰めるが、隙を見せたらこっちが殺られるのでグッと歯を食いしばって耐える。


「おら!おらぁっ!当たり始めたぞぉっ!もうすぐ死んじまうぞぉっ!」


 俺が明確に痛みを感じているのが分かって興が乗ったのか、恐怖を煽るような言葉で精神的に追い詰めようとしてくる。

 しかし、俺の意識は全く別の方向に向いており、大男の言葉は精神に全く影響を与えられていなかった。


(あとは根性決めるだけだ……いくぞ!)


 斧の振り下ろしに合わせ、擬態を解いた。


「はぁっ!?」


 蜂の姿になった俺を見た大男は案の定隙を晒してくれたが、ここでダメ押しの一発を入れておく。


(威嚇!)


「ぐうっ!!」


 威嚇のスキルによって大男の身体が硬直する。

 ここまで決まれば後は仕上げのみだ。


(斬空!)


 針を振るうと大男の身体が斧ごと切り裂かれる。


「ば、ばけも……の……」


 その言葉を最後に、大男の身体はズレて崩れ落ちた。


(ふぅ。なんとか倒せたな。)


 一息つきたいところだが、中々に大暴れしてしまったので急いで撤退した方が良いだろう。


(撤収撤収!)


 再度人間に擬態して、大きく切り裂かれてしまった衣服をいそいそと着直し、足早に現場を後にした。




     ◇ ◆ ◇




「こりゃまた派手に暴れたなぁ。」


 ガレラドルにおいて、警備の役割は冒険者ギルドに一任されている。

 今回の事件の担当になったロンボは、椅子やテーブルの残骸でぐちゃぐちゃになった現場を見て頭を掻いた。


「おいおいマジかよ。」


 残骸の向こう側に目を向けると、そこにはこのクランハウスの主が息絶えていた。


「剛級のボレアス……だよな?こいつを殺れる奴……はたくさんいるか。だが、動機がある奴には心当たりがねえ……クラン間の抗争もここ最近はなかったはずだ。」


 ここは一流の冒険者が集う街ガレラドル。

 剛級を殺せる人材は相当数いるが、わざわざリスクを冒してまで殺そうとする者が中々思い当たらない。


「いや待てよ……最近貪狼が仲間の仇を探してるって噂が出回ってたな。」


 噂好きの受付嬢が流したデマかと聞き流していたが、これはどうやら信憑性があるようだ。


 ロンボがこの職に就いてからだいぶ経つ。

 これまでの経験からして、どうも碌なことにはならないと直感が教えてくれていた。


「あーやだやだ。厄介事のにおいしかしねえよ。」


 ロンボは頭を掻きながら、憂鬱な表情を浮かべるのだった。

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