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蜂革命  作者: basedou
21/41

021 筋は良い

 探索隊が魔門に入って3日が経過していた。

 現在は中層にいるのだが、探索は至って順調だった。

 死者はおろか重傷者すら出していない状況だ。


 中層の危険度は、剛級冒険者以下であれば死を覚悟しなければいけないレベルとなっており、超級冒険者であっても気を抜いて探索できるような場所ではなかった。

 しかし、冒険者たちには無駄話をする余裕すらあった。

 

「ここって魔門だよな?」


「お前それ言うの何回目だよ……って言いたいとこだけど気持ちはわかる。魔門の中層でこんな安心感あったら感覚がバグってもしょうがねぇよ。」


 上層と中層の最も厄介な差は、魔物の賢さだと言われている。

 上層の魔物は基本的に獲物を見つけたら本能的に襲いかかってくるが、中層の魔物は違う。

 相手が格下でなければそう簡単に襲い掛からないのだ。


 相手の状態や数、強さなどを総合的に判断し、自分より格下だと踏んだら一気に仕掛けてくる。


 それは、冒険者からすれば必然的に格上との戦いを強いられるということだ。

 故に、中層に初めて足を踏み入れた冒険者の死亡率は5割を超えていた。


 ガレラドルにおいて、剛級より上を目指せるかどうかは中層での対応力で決まると言われるほど上層と中層には差があるのだ。


 それではなぜそんな危険な場所で、こんなにも冒険者たちが気楽でいられるのか。


 一つは、その数。


「こんだけ大所帯で動いてりゃ、そうそう手出しできねえわな。」


 一つは、索敵力。


「『陰影』の索敵も流石だな。索敵スキル持った奴ら何人抱えてんだか。」


 最後は言うまでもないだろう。


「まあでも、結局は弓聖だよな。」

「だな。あれはぱねえわ。」


 上層こそ特に動くこともなかったアルチザンだが、中層の中程まで来たところで先頭に立ちはじめ、持っていたバカでかい弓で矢を放ち始めた。

 それも、真っ暗闇な空間に向かってだ。


 皆、最初は威嚇か何かだろうと思っていたが、違った。

 アルチザンが矢を放ったところからしばらく歩いていると、大型の虎のような魔物、シャッテンティガーが眉間を貫かれ死んでいた。


 この魔物は、かなり近づかれてもそこにいることに気づけないほどに気配を消すことを得意としており、索敵を使えたとしても通常より気づくのが遅れてしまうレベルなのだ。


 そんな魔物を1キロは離れているであろう距離から、事もなしに放った矢の1本で仕留めるということがどれほどのことなのか。

 それを理解できない人間などここにはいなかった。


 否、分かっていない者もいた。


「未だに攻略されていないからどれほどの場所かと思ってみればこれか。冒険者共の無能さが露呈したな。」


 王の親衛隊隊長、リファイ・サークは周りに聞かせるかのような声で冒険者達を非難した。


「あいつ、なんでなんもしてないのにあんな偉そうなんだ?」

「ほっとけよ。俺たちでさえ戸惑ってんだ。魔門に初めて入ったやつが勘違いするのも無理はない。」

「それもそうか。でもそろそろ夢も覚める頃だよなぁ。」

「だな。もうすぐ中層の後半だ。否が応でも魔門の本性を見ることになる。」


 中層の魔物は賢いため大規模な団体には中々近づいてこないとは言ったが、実はそれも厳密には異なる情報だ。

 中層の後半にもなってくると、その魔物が持つ凶暴性が賢さを凌駕してくる。


 故に、気配を察知すれば問答無用で襲ってくるし、死を目前にしても怯まないため、全く気の抜けない状況が続くことになる。

 現状は臆病な魔物が多いため楽に進めているが、もうすぐ凶暴な魔物達の生息地に入る。

 夢が覚めるとはそういうことだ。


「皆、話がある。」


 そんな中、戦闘を歩いていたアルチザンが口を開いた。

 全員が意識を弓聖へと向けた。


「ここまでは全体の疲弊を抑えるために俺が前に出ていたが、ここからは皆に先導してもらう。理由は――」

「不測の事態が起きた時、おっさんの手を空けておくため、だろ?」


 アルチザンの言葉をバニキスが遮った。


「バニ坊は本当にせっかちだな。だが、まあその通りだ。皆のことを信じていない訳ではないが、俺の弓が届く範囲なら大抵のことはなんとかできるからな。」

「そもそも弓持って先頭歩いてる方がおかしいんだよ。もう年なんだから後ろからついてきてりゃいいんだ。」

「そろそろ身体が鈍りそうだったのでちょうど良かったです。後方でお休みになってください。」


 バニキスとシャラの言葉にアルチザンは笑みを浮かべた。


「まったく頼もしくなったものだ。それじゃあお前達の成長を後方から見せてもらうとしよう。」


 アルチザンはそう言って探索隊の後方へと歩いて行った。

 それを見送ってバニキスは口を開いた。


「おっさんに代わってまずは俺たち炎灯が先陣を切らせてもらう。疲弊の程度によってローテーションすっから他のクランも準備しとけよな。シュッドオォッッッ!!てめえは陰影の奴らとの連携確認しとけやぁっっっ!!」

「こんな近くにいるんだから、絶対そんな大声出さなくても良いでしょ……」

「あ゛ぁ?」

「はいはい、分かりましたよ。やりますやります。」


 バニキスとシュッドのお決まりのやりとりを見ながら、シャラもペリオに指示を出す。


「ペリオ、次は私たちが先頭に行くので準備をお願いしますね。」

「了解です。」


(少し前まで悪ガキだったというのに、本当によくぞここまで成長したものだ……)


  後ろからその光景を眺め、アルチザンが感慨にふけっていたところを邪魔するかのように親衛隊隊長のリファイが声を上げた。


「それでは我々も前に出させてもらおうか。こんな生温いダンジョンでもいい加減戦果を上げねば、国王様に合わせる顔がないからな。」


 それを聞いたバニキスは、そっとアルチザンを見る。

 アルチザンが無言でうなずいたのを確認し、リファイの提言に応じた。


「分かった。そんじゃあ左翼の一部を頼む。」

「ふむ、正面でも良いのだがね。まあいい。ここは君の顔を立てようじゃないか。」

「……」


 リファイの挑発的な態度に、バニキスが何か応えることはなかった。


 かくして、炎灯と親衛隊を先頭とする新体制で探索隊は歩みを再開した。

 中層の後半に差し掛かってきた事もあって、魔物たちが積極的に襲いかかってくる。


「左翼、3体来ます。」

「左翼3体来るぞっ!」


 陰影からの報告を、炎灯のメンバーが全体に大声で伝える。

 ほどなくして、左側から人狼のような魔物、ヴェアウルフが現れた。


「くそっ!またかっ!」


 悪態をつきながら剣を振るうのはリファイだった。

 既に何度も接敵しているのだが、どの魔物もリファイたち親衛隊がいる左側から攻めて来ていた。


 死に物狂いでヴェアウルフを撃退したところで、リファイは我慢ならないといった様子で叫んだ。


「おかしいだろう!なぜこちらにばかり魔物が現れるのだっ!」


 リファイの叫びに対して、シュッドは困ったように頭を掻いた。


「いやぁ、おかしいって言われても……知らないようだから言うけどなぁ――」

「もう良い!我々が初めてのダンジョンだからと言ってそれを利用するなどなんと浅ましい!配置を替えてもらうぞ!」

「はぁ。分かった分かった。そんじゃああんたらは右翼に行ってくれ。」

「ふんっ。行くぞお前達!」


 リファイは鼻を鳴らすと部下を連れて右翼へと移動していった。

 それを眺めてシュッドは頭を抱えた。


「あーあ。結果が見えすぎて憂鬱だぜ。」


 シュッドの悩みはやはり的中することになる。




 親衛隊が隊の右翼に移動して数十分後。


「なんなんだこれはっ!なんで私たちばかり魔物に狙われるんだ!」


 もはや肩で息をしているリファイが叫ぶ。

 部下の者達は地べたに座り込むものさえいる始末だった。


 そんな親衛隊にアルチザンが声をかけた。


「皆が言いにくいようだから俺から伝えよう。」

「はあ?」


 リファイの失礼な態度など眼中にないとばかりにアルチザンは言葉を続けた。


「魔門の中層ともなると魔物達にもそれなりに知恵がつき、合理的な行動を取るようになる。つまりは一番弱いものから襲うようになるのだ。言っている意味はわかるな?」

「……我ら国王直属の親衛隊が、冒険者ごときに遅れを取っているとでも言いたいのか?」

「実際に目にしないと理解できないか?では誰でも良いから手近な者を襲ってみると良い。」


 アルチザンの言葉を受け、リファイは周りを見渡した。

 上層の魔物は雑魚ばかりだったし、中層ではアルチザンがほとんどの魔物を前もって倒してしまったので冒険者達の実力を測ることができていなかった。

 それに、魔門の中層後半はベテランパーティでも一瞬の油断が命取りになるような場所だと、噂に聞いていたにも関わらず自分たちが戦えているという事実は、冒険者を軽視するのに充分な理由だった。


「どうした?もしや殺しはまずいと思っているのか?それなら大丈夫だ。責任は俺が取る。」

「ふっ。はははははっ!良いだろう。やってやろうじゃないか!」


 いきなり笑い出したリファイが向かった先にはシュッドがいた。


「おいおい、よりにもよって俺かよ。他にもたくさんいるだろ。」

「我らが貴様ら低俗な冒険者より弱いなど、ありえてたまるかぁぁぁっっ!」


 リファイは振りかぶった剣をなんの躊躇いもなくシュッドに振り下ろそうとしていた。


「はぁ。気が重いぜ。」


 シュッドが一度ため息を吐いたと認識した次の瞬間。


「……はっ?」


 リファイの身体は地面に横たわり、持っていた剣は奪われ、両手は後ろ手に縛られていた。

 それをやった張本人は頬を掻きながら、気まずそうにとどめを刺してきた。


「まーその……なんだ。あんた、筋は良いと思うぜ?」

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