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蜂革命  作者: basedou
19/41

019 探索隊出立

 探索隊発足の宣言から2ヶ月。

 絶級ダンジョン、魔門に探索隊が出立する日。

 魔門の前ではギルド長が探索隊を叱咤していた。


「諸君!とうとうこの日がやってきた!今回の大規模探索は国王陛下の勅令とあって国民からの関心も高く集まっている!それが意味するところはひとぉぉつ!!ぜぇぇっっったいに失敗は許されないということだ!皆心して挑むように!」


 ギルド長の熱量高い演説に応える声はひとつもない。

 集まっている冒険者たちは皆防具や武器を身につけているにも関わらず、カチャリという音すらせずシーンと静まっていた。


「おい!返事はどうしたぁっ!気合が入っていないんじゃないのかあぁぁん!!?」

「ギルド長」

「あ゛ぁぁん!……お、おぉ。アルチザン殿。どうされましたかな?」

「俺からも一言よろしいか?」

「あ、あぁ。もちろんだとも。」


 絶級冒険者は国の宝。

 大都市のギルド長であっても扱いには気を使わざるを得ない。


 ギルド長から許可をもらって壇上に登り、居並ぶ冒険者たちの顔をぐるりと眺め、微笑んだ。


「皆良い顔をしている。準備に抜かりはないようだな。」


 アルチザンは微笑んでいた顔をグッと引き締める。


「魔門の異変の正体について、もう確認はしているな?炎灯からの情報提供によってヴィルドビーの存在が確定的なものとなった。」


 その魔物の名に、全員の顔が引き締まる。


「皆も知っているだろう。あの惨劇から10年。奴ら、今度はダンジョンに現れおった。前回はたまたま早い段階で魔卿とぶつかってくれたから殲滅できたが、今回は分かっている範囲で5ヶ月は経過している。実際の活動開始時期はもっと前だと考えるべきだろう。」


 惨劇の再来が脳裏にチラつき、冒険者たちは鎮痛な面持ちになる。


「だが悲観する必要などどこにもない!前回の惨劇とは違い、今回は俺たちが攻め込む側だ!奴らの習性も分かっておるし、強さもある程度把握できておる。超級冒険者以上の者たちが連携すればまず負けはない!そして何より――」


 アルチザンはそこで言葉を区切り、ニヤリと笑って言い放つ。


「ここに俺がいる。負ける要素などどこにもないわぁっ!わっはっはっは!!」


 緊張した空気を吹き飛ばすかのように、アルチザンは大声で笑った。


 その場にいる誰もがその言葉に救われた。


 ヴィルドビーがいると分かり、皆心のどこかで自らの死を、少しだけ予感していた。


 噂に聞く惨劇の体現者たち。

 その討伐に行くというのに、犠牲なしというのはあまりにも都合が良すぎる。


 自分が犠牲となる可能性も少なくはないだろう。

 冷静に、心のどこかでそう思っていた。


 しかし、皆思い出したのだ。

 目の前の絶級冒険者の異名を。


『無限射程』


 この呼び名はギルドが公認しているとかそういった類のものではないが、冒険者たちの間では広く知れ渡っているものであった。


 曰く、弓聖の矢が届かぬ場所などこの世界のどこにもない。


 自分が死に瀕しても、弓聖の矢が自分に迫る死を射抜いてくれるに違いない。

 冒険者たちは、大笑いするアルチザンを見てそんな安心感を得ていたのであった。


「よーし、よしよし!!さっきまでの顔も悪くなかったが、今はもっと良い顔をしているぞ!出立するのであれば今を置いて他にあるまい!皆、俺に続けぇぇぇい!!」


「「「うおおおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!」」」


 壇上から飛び降り、魔門のある森へと歩むアルチザンの後を冒険者たちも武器を掲げ、雄叫びを上げながら追従していく。


 この時をもって、史上類を見ない規模の探索隊による魔門の調査が開始された。




     ◇ ◆ ◇




(隠密すげー。全然気づかれないじゃん。)


 擬態前のミミクリーを10体ほど倒したところで、案外簡単に隠密のアンロック条件を達成することができたため、その性能を確かめているところだった。


 これまで分かっているものとしては以下のものがある。


 一つ、静かに動けば気づかれない。

 一つ、声を出すとすぐに気づかれる。

 一つ、相手の強さや索敵能力によるが、近づきすぎると気づかれる。

 一つ、一度気づかれた相手に再度隠密を使用するのは結構大変。


 「結構大変」という曖昧な表現を用いたのには理由がある。

 正確な条件が分かっていないのだ。


 一瞬視界から消える程度ではダメ。

 10秒程度死角に逃げ続けてみたがそれでもダメ。

 一度相手が見えなくなるまで逃げたら使えるようになった。


 今のところ分かっているのはこんな感じ。

 同じ相手への再使用条件がぼんやりしているけれど、現状はこれだけ分かっていれば特に問題はなかった。


(これで今まで戦ってきた魔物はイージーに倒せるようになったな。)


 というのも、今まで戦ってきた魔物たちは、斬空が良いところに当たれば一撃で倒すことができるのだ。

 つまり、気づかれないギリギリの距離まで隠密で姿を隠して近づき、すばやく斬空を放てば確殺できる。


(使える能力もだいぶ増えたし、そろそろ別の魔物を探しに行こうかな。)


 今まで得たスキルはこのようになっていた。


====================


毒針


アンロック条件:

1. 一定数の魔物を針で倒すこと

2. 一定数のギフトロッシュを倒すこと


====================


====================


切り裂き


アンロック条件:

1. 一定数の魔物をかみつき攻撃で倒すこと


====================


====================


毒生成


アンロック条件:

1. 一定数のギフトロッシュを捕食すること


====================


====================


斬空


アンロック条件:

1. 一定数のエヴァンティスを切り裂き攻撃で倒すこと


====================


====================


雷撃


アンロック条件:

1. 一定数のブリッツビーディを倒すこと


====================


====================


擬態


アンロック条件:

1. 一定数のミミクリーを倒すこと


====================


====================


隠密


アンロック条件:

1. 一定数の擬態していないミミクリーを倒すこと


====================


 電気ウマばかり食べていると流石に飽きるので、紫ガエルもつまみ食いしていたらいつの間にか毒生成のアンロック条件を達成していた。

 しかし、既に毒針が使えるためあまり出番のない能力となってしまっている。


(パッと思いつくのはやっぱあのクマだよなぁ。あいつ、今ならいける気がする。根拠はないけど。)


 とはいえ、同胞たちの戦いで毒針や切り裂きが有力な攻撃手段であることは分かっているし、今は斬空や雷撃という遠距離攻撃もできる。

 1匹で戦うとはいえ、勝算は充分にあるだろう。


(前は巣の近くに来てたよな。帰省がてら探してみるか。それじゃあ手土産は電気ウマの肉だな。)


 ということでサクッと電気ウマを狩り、肉を手土産に古巣へと帰っていく。




(おっ!あったあった……ってなんじゃこりゃぁ!?めちゃデカくなっとる。)


 久しぶりに帰った実家がとんでもなくでかい要塞になっていた。

 例えるなら卓球ボールがバスケットボールくらいデカくなったイメージ。


(はぇーー。少し見ない間に立派になったなぁ。大豪邸じゃんか……あっ、狩りに行くのかな。)


 大勢のハチたちが巣から飛び立っていく。

 昔は自分もあの中に入って、コウモリもどきを狩りに行っていたなぁと感慨に耽っていると、ふと見慣れない姿のハチを見かけた。


(なんだあいつは?真っ黒だ。)


 自分や他のハチとは違い、全身真っ黒のハチが10体ほどでてきた。

 明らかに強者の雰囲気を纏っている。


(俺がいた時はあんなのいなかったよな。どういうことだ?)


 ぼーっと黒いハチの集団を見つめていると、その中の1体がこちらを見ていることに気付いた。


(やばっ!不審者認定されたか!?)


 ここで戦いになったら流石に分が悪いので、持っていた肉を掲げ必死に仲間アピールをする。


 じっとこちらを見ていた黒いハチだったが、ふいっとこちらから視線を外すと仲間の黒いハチの集団に戻って行った。


(……ふぅ。セーーーフ。怪しまれない内に肉あげて出て行こ――っっ!!?)


 巣に入ろうとしたところで、巣の側面からヌゥっと巨大なナニカがでてきた。

 そのナニカは巨大化した巣の半分くらいはあるのではというほどの巨体で、ハチに類するものなのだろうがそうとは思えないほど体の色は毒々しく、羽もなんだか汚らしく、目は真っ赤に染まっていて、口から何やらフシューっと臭そうな瘴気のようなものがでている。


 身体は幽霊を見たかのように硬直し、息をするのも憚られた。


 巨大なナニカが横を通り過ぎ、遠ざかっていくのを背中で感じたところで、ようやく呼吸を思い出す。


(ぶはぁっ!はぁっ!はぁ、はぁ……なんだ今の化物は!?あれが俺の親類なのか?)


 あまりにもおぞましい姿に、本当に兄弟と呼べる存在なのか疑いを持つレベルだった。


(もうここは俺の知る実家じゃねぇんだな。ほらよっと!)


 実家に入るのが恐ろしくなってきたので、入り口で見張りをしていたハチに持っていた肉を渡す。


(赤ん坊たちにそれあげといて!それじゃっ!)


 シュッと手を挙げ、猛スピードでその場を去るのだった。

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