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蜂革命  作者: basedou
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013 弓聖到来

 グラント王国の首都ララベル。


 王国の象徴と言えるこの大都市に入るには、首都の周りをぐるりと囲っている城壁の東西南北に一つずつある門を通る必要がある。


 王都に住む者であれば、王都住民証の確認。

 商人であれば、入国許可証と積荷の確認。

 冒険者であれば、冒険者証の確認が必要となる。


 門兵が証明書などを目視で確認するため、当然時間がかかる。

 そのため、門の前にはいつも順番待ちの列ができていた。



 今日も今日とて、ひとりの門兵が汗を拭いながら確認作業を行っていた。


「通ってよし!次!……ふぅ。今日も暑いな。」


 門兵が商人の許可証を確認し、積荷の確認に移ろうとしたその時、視界の端に違和感を覚えた。


「……なんだあれは?」


 違和感の正体は空を飛ぶ黒い影だった。


(すごい速さでこっちに来てないか?鳥にしては速すぎる、よな?)


 黒い影は見る見るうちに近づいてくる。

 とはいっても、その正体がなんなのかは依然わからないものの一つ確かなことがあった。


 このままでは、あの黒い影は王都に落下する。


(まずいっ!)


 真面目で優秀な人材なのだろう。

 門兵の対応は素早かった。


「傾聴っっ!!正体不明の飛行体が王都に接近!警鐘を鳴らせぇっっ!!」


 門兵の怒鳴り声にも似た指示を受け、すぐに仲間の一人が力強く鐘を鳴らした。


 鐘の音は王都中に響き渡り、入国待ちの列からはざわざわと不安の声が上がり始めていた。




 カンカカァァーーン、カンカカァァーーンと鐘の音が独特なリズムで響く中、黒い影は門を越え、王都の上空を飛んでいた。


 徐々に確定的になっていく黒い影の目的地。


 それは王国で最も偉大な建造物であり、王国の頂点たる人物が住う場所。


 王城であった。




 グラント王国の王城にある謁見の間は、王国の権威をいやらしい程に表している。中央に敷かれた長い、真っ赤な絨毯に、豪華な装飾品の数々、そして極め付けは見るからに贅を尽くしたであろう玉座。


 本来の機能を失っているのではないかと思うほどに、煌びやかな宝石たちが玉座を過剰なほどに輝かせていた。


 そんな豪華絢爛を極めた椅子に、この国で唯一座ることができる男、グラント王国国王ベネティス・グラントはイライラした様子で宰相に尋ねていた。


「奴はまだ来ぬのか。」

「あの立場の者には、私どもの知り得ぬ苦労があるのでしょう。今しばらくお待ちください。」


 質問された宰相は深く腰を折り王に返答する。


「王を待たせるとはなんと不敬な。打ち首にしてやろうか。」

「彼の者は王国の重要な戦力。他国に付け入る隙を与えてしまいます。どうかご再考ください王よ。」


 王の過激な発言に、宰相は考えを改めてもらえるよう再度腰を折った。


「真面目に返すな鬱陶しい。全く、余の権威に平伏さぬなどなんと扱いにくい連中か。」


 冗談の通じない宰相に更に苛立ちを募らせるグラント王だったが、王の性格を知り尽くしている宰相からすれば、「やりかねない。」そう思わせるだけの気難しさをこの王は持ち合わせていた。



 そんな中、突然王都中に鐘の音が鳴り響いた。



「何事だ!?」

「この鐘の符号は王都への侵入者を表しております。警戒レベルは上から3番目。民の避難誘導を行う必要がございます。」

「なんだと!親衛隊を呼べ!余を安全な場所に連れて行くのだっ!」

「はっ。すぐに手配を――」


 宰相の声を遮るように、何かが爆発したかのような音が城の外から聞こえてきた。


「今の音はなんだ!他国からの攻撃か!?」


 宰相は王の質問には取り合わず、すぐにバルコニーに出て何が起きているのか把握しようとした。


「あれは、何かが落下したのか?」


 宰相が眺める先は王城の城壁内にある中庭で、何かが落下したであろう場所には砂煙が立ち込めていた。


 砂煙が落ち着いてくると、中から人影らしきものが現れる。


「はっはっは!王城にドンピシャだったな!」


 その者は、およそ人間とは思えないほどの巨躯でのっしのっしと砂煙から出てきた。

 そして背中には、自分よりも大きな弓を背負っている。

 明らかに、常人では扱えないであろう大きさの弓だった。


「さて、時間も少し過ぎていることだし謁見の間に急ぐとするか。えーとぉ?あの辺だったかな?おっ!宰相殿ーー!」


 大男は宰相の姿を見つけるとおーいと手を振った。


「は、ははは……よくあの距離から分かりますね。」


 それに苦笑いで対応する宰相。

 宰相にはあの大男が誰なのか察しがついていた。


 大男は自身にロープを巻き付け、更に取り出した極太の矢にロープの端をくくりつけると、背中の弓を構え矢をつがえたのだが、その方向には宰相がいた。


「ま、まさか!?」


 宰相の悪い予感は的中する。


 大男が矢を放つと、矢はとんでもない勢いで宰相がいる方向に向かって飛んでゆき、信じられないことに、ロープでつながっていた大男も矢の勢いに引っ張られその巨躯が空中へと引っ張り上げられていた。


「ひっ!」


 瞬きをする暇もなく、矢が宰相の目の前に迫り、死を予感した瞬間。


 矢が突如止まったかと思うと、後ろから飛んできていた大男の手に収まり、大男はそのまま宰相のいるバルコニーに着地した。


「お久しぶりですな宰相殿!お元気そうで何よりです!」

「……はっ。え、ええ!アルチザン殿もご壮健なようで安心いたしました。」

「お待たせしてしまってすみませんな。王は中に?」

「はい、こちらへどうぞ。王がお待ちです。」


 宰相の案内の元、2人は謁見の間に入っていった。




「あの爆発音は貴様の仕業だったのか、アルチザン。」

「驚かせてしまったようですな!いやはや申し訳ない。」


 全く悪びれた様子のない大男ことアルチザンは、躊躇うこともなくスッと頭を下げた。


「まったく、これで絶級冒険者の中ではマシな方というのだから頭が痛くなるな。」

「王よ、どうかその辺りで。あの件についてアルチザン殿にご相談されてはいかがでしょう。」


 王の嫌味を止めるため、話題を逸らす宰相。

 王は不承不承という顔で、宰相の思惑に乗った。


「……ふん、そうであったな。アルチザンよ、此度は魔門の探索隊によくぞ名乗りをあげてくれた。」

「いえいえ、とんでもない。個人的な興味もありましたし、後輩たちの成長を見る良い機会ですからな。」

「うむ。その心意気やよし。そこでだ。私の親衛隊もその探索隊に参加させたいと考えている。」

「ほお!今回の探索隊の最低基準は超級レベルだったと思いますが、その辺りはいかがですかな?」


 今回の探索隊は、絶級が1人、烈級が5人、超級が100人という構成で、最低でも冒険者ランクで言うところの超級であることが要求されている。

 アルチザンは、王の親衛隊がその基準を満たしているか疑問を持った。


「愚問だな。私自ら選び抜いた精鋭たちだ。冒険者のランクで言う超級を越えていることは間違いない。」

「ふむ……」


 即答する王に、アルチザンは何かを考え込むように顎に手を当てた。


「いかがでしょう。突然の事ですので報酬は弾ませていただきますが……」


 アルチザンの様子を見てもう一押しだと考えた宰相は、報酬の話を出して承諾を得ようと試みた。

 しかし――


「いえ!追加報酬は必要ありません。その話お受けしましょう。」


 アルチザンは報酬には飛びつかず、更に王の提案を受け入れた。


「おお!そうか!では――」

「ただし!条件がございます!」


 喜びも束の間、アルチザンは手を伸ばして王を制した。


「……申してみよ。」

「私はその者たちに特別な配慮は致しません。超級冒険者以上の実力があれば全く問題ないと思いますが如何かな?」


 明らかにこちらを挑発する目的の物言いだ。

 本意としては、アルチザンの提案は却下したいところだったが、プライドの高い王はこれに是の意思を示した。


「無論だ。貴様の助けなどなくとも、我が精鋭たちは一騎当千の働きを見せてくれる事だろう。」

「それならば私から言うことはございませんな。」


 話に区切りがついたと感じた宰相は、アルチザンの気が変わらないようすかさず話題の転換を図った。


「アルチザン殿、無理を聞いていただきありがとうございます。会食の用意がございますので、話の続きはそちらで行いましょう。」

「申し訳ないが今日は後輩たちと会う約束をしておりましてな!用事が済んだのであれば、本日はこれにて失礼!」


 アルチザンはそう言うと、バルコニーに出て先ほどと同じように矢を放ち、瞬く間に姿を消した。


「なんとも礼儀を知らんやつよ。」


 不躾なアルチザンに対する苛立ちを吐き出しながら、王は玉座にふんぞり返った。


「条件こそあったものの、提案を受け入れてくださりましたな。」

「王からの提案だぞ?むしろ条件をつけてくることが不敬なのだ。まあいい、親衛隊にも伝えておけ。」

「かしこまりました。」


 探索隊へ、王の親衛隊の加入が決定。

 これが思いもよらぬ波乱を呼ぶことは、まだ誰にも知る由がなかった。

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