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 ☆エリアス視点続き☆



「首尾よく終わりました」

 私の報告を疑うことも無くユリエラは手を叩いて歓喜した。

「良くやったわ!お兄様は死んだのね。次はレオン(第三王子)だわ、どうやって消そうかしら。王妃が邪魔なのよ。いっそあの女も消してしまいましょう」


 そうすればこの国は潰れるだろう。この王女はそんな事も分からないのだ。



 ユリエラはテーブルに用意してあったグラスを手に、踊るような仕草をしながらワインを注いだ。


「そうだ、バネッサは?」

「後から来るでしょう」


「ふぅん、じゃぁ二人だけでお祝いの乾杯をしましょう」

 互いにワインを飲み干し、私は王女を抱きかかえてベッドに運んだ。


「後でご褒美の薬を上げるわね!」

 ご機嫌でユリエラは私の服のボタンを外し・・・


 ・・・私はユリエラを押し倒して細い首に手を掛けた。


「なぁに? エリアス・・・」

「貴方が憎い・・・殺したいほど憎い! 地獄で兄上とバネッサが待っていますよ」


 手に力を込めると王女の顔が苦痛に歪んだ。

「ぐっ!・・ぅ・・」


「私が愛しているのはセアラだけだ。でも一緒に死んであげよう」

「ぐぅっ・・ぅ・・」


「貴方達が地獄に落ちるのを、最後までこの目で確認しなければ」


 恐ろしい形相でユリエラは私の腕を掴んでいたが、やがてダランと彼女の腕はベッドの上に落ちて動かなくなった。


 後悔は無い、むしろ誇らしい気持ちで剣を自分の首に押し当てた。



 血飛沫が飛ぶのが見えて死に至るまでの僅か数秒、サファイアのネックレスを握りしめた。


セアラ・・・セアラ


 最後に脳裏に浮かんだのは、幼いセアラが私に一生懸命話しかける姿だった。



 ***



 バスタブで熟睡した私は、懐かしい夢を見た。

 幼い私がお茶会で〈騎士〉の話をしており、向かいの席でエリアス様は静かに美しい笑みを浮かべていた。


 思い出せば・・・甘い胸の痛みに思わず涙が零れる。


 アヴェルの手が私の頬に触れた。

「どうした? 何を泣いている?」


「・・・懐かしい夢を見たの」


「そうか、もう少し眠るといいよ」

「ううん、もう目が覚めたわ」


「今から昨夜の続きをしてもいいけど、どうする?」

 アヴェルは私の濡れた目じりにキスをした。


「い・・いいわよ?」

「怖いのか? 震えてる」

「平気だってば」


 今度は私の震える唇に軽く触れる。


 いい雰囲気になったところでノックが聞こえて、家令に声を掛けられた。


「旦那様が坊ちゃんとセアラ様にお話をと仰っています」

「後で行くと伝えてくれ」

「駄目です。今すぐに向かって下さい」


 私の側妃回避(ロストバージン)計画は「淑女として有るまじき行為」とアヴェルのご両親によって阻止された。

 よって付きっ切りでメイド達に監視される羽目になる。


「なんで風呂で寝ちゃったんだよ・・・」

「顔色が悪いから寝ろって、アヴェルも言ったじゃないの」


「まぁ心配するな。側妃になんかさせないから」

「ん・・・」

 アヴェルは堂々と私に口づけて、メイド達から黄色い悲鳴が上がった。



 翌日、体調が良くなった私は、アヴェルと共にソアレス公爵領で待っているジョシュア伯父様の元へと再び馬を走らせた。



 ***



 数日かかってソアレス公爵家に到着した私を、伯父は喜んで迎え入れてくれた。


「伯父様!」

「セアラ大変だったな、もう何も心配いらないぞ」

 伯父は私の頭にキスを落として「アヴェルもご苦労」と労った。


「父上、セアラと結婚します」

「そうか、アヴェル・・・婚姻を認める前に大事な話がある」



 それから暫くして戻って来たアヴェルから、信じ難い話を聞かされた。


「セアラ、落ち着いて聞いてくれ」

「はい」


「エリアスが死んだ」

「・・・」


「王女と心中したらしい」

「心中?」


「エリアスは王太子を殺害し、後に企てたユリエラ王女と共に心中をした。そう発表されている・・・セアラ、大丈夫か?」

「うん」

「どうやらエリアスは薬物中毒で精神に異常をきたしていたようだ」


「心中をしたのは王女様と愛し合っていたから? でも、どうして薬物なんて・・・一体何があったの?」

「まだ詳しい事は分からない」


(エリアス様・・・)

 涙が溢れて止まらない。彼がもうこの世にいないのが信じられない。


「セアラ・・・何と言っていいのか、俺は」

「これは同情の涙よ。彼の愛情の行方が・・・心中だなんて悲しい・・」


 最後までエリアス様は分からない人だった。口数が少なくて、信用しろと言ったり側妃になれと言ったり、でも間違いなく私の最愛の人だった。


「エリアスはセアラに深い愛情があったと思うよ」

「きっと妹のような情愛だったと思うわ。アヴェルも同じじゃないの?」


「俺は違う。確かにセアラを妹だと思わなきゃ、切なくてやりきれない時期があった。・・・側妃の話は消えた訳だが、セアラはまだ俺の嫁になりたいか?」


「なりたいわ。アヴェルが大好きよ」

「俺も愛してるよ」


 私が泣き止むまでアヴェルは抱きしめてくれた。



 ***



 アヴェルと婚約をして半年後には式を挙げることになった。


 母も離婚届を出してソアレス公爵家にウォルフ卿と共に戻ってきた。


「向こうは国中大混乱だわ。セアラはウェルデス侯爵家を廃嫡して私と共に侯爵家とは縁を切った。義父母はまだ若いから養子でも貰って後継者を育てればいいのよ」


 父の代わりに長年守ってきたウェルデス侯爵家を母はあっさりと捨てた。


 ウォルフ卿は母が結婚する以前から護衛として母を見守ってきた人だ。今後は彼と再婚して母にも幸せになって欲しい。


 少しづつエリアス様への想いは遠い過去のものになっていくだろう。


 もう私の愛情の行方はアヴェルと共にある。



読んで頂いて有難うございました。

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