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その愛情の行方は  作者: ミカン♬


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10/10

完結 12年後

                            

 ────アヴェルと結婚して12年が過ぎた。



 娘を二人授かり私達は幸福に過ごしてきた。


 このままずっとこんな生活が続くと思っていたのに・・・


 先月愛する母を失った。夜中に心不全を起こし、朝ベッドの中で冷たくなっていた。別れの言葉もなく、突然の母の死に私はこの一月泣き暮らしていた。


 私を守り、支え、愛してくれた母はもういない。




 ────今年は年頭からいろんな出来事があった。


 春先に母の夫ウォルフ卿が悪性の風邪で亡くなった。母は毅然としていたが愛する人の元に早く逝きたかったのだろうか。



 初夏には愛娘ルチア(9歳)の婚約が決まった。お相手はこの国の第二皇子殿下シグルド様だ。


 シグルド皇子(12歳)は私達夫婦の甥になる。


 皇后である彼の母親はソアレス公爵家の一人娘。アヴェルの義姉であり、私とも仲の良い従姉だ。



 シグルド皇子に憧れていたルチアは大喜びで舞い上がっていた。従兄妹同士なので元々二人の仲は悪くない。


 ただシグルド皇子は・・・私の元婚約者エリアス様を思い出させる。


 ────寡黙で無表情、仕草の全てがエリアス様に似ており私を不安にさせるのだ。



 エリアス様は私に婚約破棄を告げて王女と心中した人。彼との記憶は私の中で透明な空洞になっている。今の幸福はエリアス様が私をアヴェルの元に逃がしてくれたから・・・だから彼との思い出を恨んで黒く塗りつぶすことは出来なかった。



 シグルド皇子は娘を幸福にしてくれるだろうか。


 人の心は移ろい易いと、いつか娘に教えなければならない。アヴェルの愛だって不変とは限らない。公爵である夫の愛人の座を狙っている若い女性は数多くいる。



 そうした不安を抱えた私を残して、母は逝ってしまった。


(お母様・・・)

 母を偲んでいるとカチャリと音がして寝室のドアが開き、アヴェルが入って来た。


「・・・今夜は特に冷えるな」


 そう言いながら私をギュッと抱きしめた彼の体は冷えており、私の体温が奪われていく。


「アヴェルも健康に気を付けてね」


「ああ、セアラこそ大丈夫か?」


「ええ心配かけて御免なさい。もう落ち着いたわ大丈夫」


「そうか、そろそろいいかな・・・気乗りはしないが」


「うん? 私と寝るのが気乗りしないの?」


「違うよ、夫人の遺言があるんだよ」


「お母様の?」



 アヴェルは一通の手紙を差し出した。


「こんなに早く渡すとは思いもしなかった。これはエリアスの遺書だ」


「エリアス様?」

 その名前が禁句なのは暗黙の了解だった。お互い気遣って12年間口にしなかったのだ。


「読むといいよ、婚約破棄したあの日の真実が書いてある」



 恐る恐る封筒から便箋を取り出し広げると、懐かしい几帳面な文字が並んでいた。


「エリアス様・・・」


 その手紙には驚くべき真実と・・・彼の深い愛情が込められていた。


「心中ではない。彼はセアラを本当に愛していたんだ。夫人はその誤解だけは解いてあげないとエリアスが浮かばれないと言って大事に残していたんだよ」


「エリアス様ごめんなさい・・・私は貴方の愛情を・・・信じられなかった」


「そうなるよう仕向けたんだよ。彼はセアラとあの国を守ったんだ」


「そんな話は聞こえてこなかったわ。彼は犯罪者として遺体は野ざらしにされて墓すらないはずよ」


「彼の実家は没落してしまった。でもエリアスは影の英雄だ。調べたところ、極秘に彼のお墓は王妃の実家の領地にあるそうだ。ネックレスと一緒に埋葬されたらしい」


「調べてくれたの? お墓はあるのね! ・・・ネックレスって?」


「いつもセアラが付けていたサファイアのネックレス。彼は死んでも握りしめて離さなかったそうだ」


「ぁ・ぁぁ・・・私が・・捨てたネックレス・・・」


 剣を交えて決別した最後の日、彼はどんな気持ちであのネックレスを拾ったのだろう。




 アヴェルは黙ったまま包み込むように、涙する私を抱きしめてくれた。


「・・・アヴェルは手紙を・・・読んだの?」


「結婚する前にね。凄く不安になったよ。未来のセアラは俺と結婚したことを後悔しないだろうか?・・ってね」


「後悔なんてあるはずないわ。婚約を破棄された時、母に『本当に愛してくれるのは誰か考えなさい』って言われてアヴェルしか思い浮かばなかった。私は貴方を利用したんじゃないのよ? 本当に愛してるの」


「俺も愛してるよ。俺はエリアスの分までセアラを愛そうって決めたんだ」


「一生私だけを愛してくれる?」


「当たり前だろ。来世も愛すると誓うぞ」


 そう言って濡れた目じりに軽くキスを繰り返すアヴェルは、いつだって私の欲しい言葉と愛をくれる。




「この手紙は燃やそうと思うの」


「いいのか?」


「ええ、エリアス様もそう望んでる。彼には来世こそ幸福になって欲しいわ」


「案外・・・シグルドに生まれ変わってたりして・・・あの皇子様はエリアスを彷彿とさせる」


「私も同じことを考えていたのよ。もしそうならルチアは大切にして貰えるわね」


 シグルド皇子はエリアス様が亡くなった翌月に誕生している。転生なんて有り得ない妄想だけど、きっとこれはエリアス様を想う私達の願いだ。


「エリアスのように権力争いに巻き込まれないように俺はシグルド達を見守っていくよ」



 私はエリアス様やアヴェル、母と多くの人に守られてこれまで生きてきた。


「守られてばかりいてはダメね。私も愛する人達を守れる様に強くなるわ」


「ああ、2人で見守って行こう」

 


 暖炉の火にそっと手紙を落とし、燃え尽きるのをアヴェルと見つめていた。空洞になっていた無色の思い出が温かく色づいていく。


 エリアス様に愛されたくて一生懸命だった日々・・・


 本当に・・・本当に貴方を愛していました。



 ありがとう、そしてさようならエリアス様・・・私の最愛だった人。




最後まで読んでいただいて有難うございました。



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エリアスの生き様に敬礼
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