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Bショット・ヴァンパイア  作者: ササキハラウタヱ
Bショット・ヴァンパイア
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2.ジョータキ5:5 ①

鷽月(うそつき) (ほら)は退屈していた。

日本のスラム街と呼ばれるごみ溜のような街で毎日を過ごす彼は、娯楽に飢えていた。


人を痛ぶり、物を盗み、やりたいことをやって生きている。

その歪んだ性格は幼少期に両親から虐待を受けていたことに起因する。




そんなクソみたいなある日、彼は面白い人物を見つけた。

彼曰く、「サイコーにハイって奴だぜ!!」


その人物は城瀧(しろたき) (まもる)と名乗った。

城瀧は|現代社会であってはならないもの《奴隷》を連れていたのだ。

これは面白い。


その奴隷が普通じゃありえないような現象(・・)を起こすのを見た。


それに興味を全て奪われた鷽月は城瀧に問い掛けた。


「それさ、僕にも使えたりする?」





















僕、尾白 柩は退屈していた。

白髪と呼ばれるヴァンパイアを調べていたはいいが、手がかりが何もない。

新たな目撃情報もなければ今までもこれと言った情報は無い。


「特尉ーやっぱり別のから調べません?これっぽっちの情報だけじゃどうしようもないですもん」

「しかしなぁ…」

「最近のやつの方が見つけやすいですって絶対」


たとえばこれとか、と資料を取り出す。


「…これ、【鋼男】ってやつとか」

「成果を出せないよりかはましか……必ず見つけるなら構わない」

「よし!了解ですよ特尉!」


鋼男。

最近目撃、被害情報が入ってきたものだ。

体を硬質化させ、硬度を武器に脅迫し女性に関係を強制する最低な奴だ。


どいつもこいつも犯罪大好きだなぁ。


「…情報と照らし合わせて…」


そこで僕は違和感に気づく。

出現している場所があまりにもバラバラなのだ。

どう考えたって一瞬で移動できる距離じゃないのに数時間差で現れていたりする。


別チームと接触があったらしいが、高速で現れて高速で消えるせいでどんな相手なのかも詳しくは把握できていない。


「超早く動く能力なんかな」

「それじゃあ尾白君の立場がないわね」

「千恵さんそんな悲しいこと言わないでください」

「でもそうとしか考えられねーもんな」

「麒羽さんまで…まあそうだとしてもどうやって捕らえるかですよね」

「んー、俺みたいに翼が生えるのか、長距離ジャンプなのか…はたまた瞬間移動なのか」

「瞬間移動じゃあ捕まえれないっすよ」

「んー、実際に遭遇しないとどうしようもないわよね」

「とりあえず事件現場とか予想位置の見回りとかしかないですね」















「……………どんな能力なんだか…」


月曜日の朝8時半、ホームルームが始まる前の教室で鋼男の能力と複数の場所に出現できる理由を考えていた。


高校生の僕がここにいるのは至極当然のことなのである。

組織だの異能だのは日常生活には関係ないのだ。


「能力ってなに?もしかして柩君って中学2年生の病気だったりする?」

「聞き間違いじゃないのか?僕は今…そう、臓物って言ったんだ」

「一人で臓物って呟いてるほうがより怖い人と思うのは私だけなのでしょうか……」


話しかけてきたのは一年生の頃からの付き合いをしている数少ない友人、亜門(あもん) 冴子(さえこ)だ。


「うーん、柩君なんか最近変だよ?」

「心配するなよ亜門冴子。僕は間違いなく、一年生の頃から変だ」

「知ってるよ。入学の時距離を測りかねてどぎつい(・・・・)下ネタから会話を始めた恥ずかしい人って有名だからね」

「うるさいな、掘り起こすな。過去ばっかり見てると未来が疎かになるぞ」

「赤点と欠席で卒業できるかもわからないようなお先真っ暗な柩君が良く言えるな、と私は思うよ」

「はいはい亜門さんは成績優秀で素行良い優等生ですね」

「えへへ、照れるなあ、ありがと。そう言ってくれると私も嬉しいよ」

「皮肉の聞かない鋼のメンタルは実に厄介だと思うよ」

「そんなに褒めないでよ~照れる」

「鋼め」

「そうそう、鋼で思い出したんだけどさ、柩君が言ってた錬金術師のアニメこの前見たよ」

「そっか、どうだった?」

「いやあ、びっくりしたよ。鋼鉄の錬金術師が個人の名前じゃなくて組織の名前だったなんて。1話から最後までノンストップでみちゃった」


有名なアニメ鋼と錬金術師。

実は漫画しか読んだことはなく、アニメは見ていないのに勢いで薦めてしまったのだがあえて言う必要性はないだろう。


「それはよかった」

「それはそうと、この前西町の方の廃ビルにいなかった?」

「ん?亜門もいたのか?」


蝙蝠のヴァンパイアの時だろう。見られていたのなら実に面倒なことになるのだが。

どうやらそうではなさそうだ。


「コンビニに行く途中で見かけただけ。……その年で秘密基地ごっこなんて正直イタいよー」

「僕の秘密基地じゃない」

「ええ、小学生の秘密基地を取っちゃうなんて…大人げない」

「小学生のものじゃあない」

「いい大人同士で秘密基地ごっこしてるなんて」

「根本的に秘密基地ごっこじゃないからな!?何故僕が秘密基地で遊んでいたという前提で話を進めている!?」

「あはは、冗談だよ…でもやっぱりなんであそこにいたのか」

「あー…………うん、これは内緒なんだが、僕は廃墟マニアなんだ」

「そっかぁ、話したくないかぁ。わかった。今度教えてね」

「廃墟マニアなんだって…」


そう言って亜門は自分の席へと戻っていった。

悪いな、異能のこととかは、秘密なんだほんと悪い。


なぜかこいつは僕に絡んでくる。ぶっちゃけめんどくさいと思うときもあるが、楽しい一時(ひととき)なので邪険にはしない。




授業は別になにも特別なことはなく、平凡なので割愛させていただこう。





鋼男をどうしたものか、と考えていたせいか乗り遅れ、購買のパンが売り切れてしまった。

育ち盛りに空腹は天敵だ。背に腹は変えられない。


「…今日は賭けに参加するよ」

「おお!尾白が参加するなんて珍しいな!」

「こっちのチームに来てくれよ!」

「なら今日はバスケやろうぜ」


うちの高校では昼休みにパンやなんやらを賭けてバスケやらゲームやらをしていることが多い。

僕も購買のパンが売り切れてしまったりしたときはこうして参加する。


ちょっとばかし能力の残滓を使って加速し、ダンクを決めて以来参加すれば喜ばれるが、普段喋らない僕を不気味がる奴も相当数いるようだが。


「おつかれさん!ほらパン」

「ん。サンキュー」


そんなこんなでチーズトーストを手に入れた。

僕はバスケで同じチームの男子生徒5人と食べることが多い。


「やっぱ尾白って変な奴だよな」

「それな運動神経いいのに全然本気出さないしさ」


運動神経が良いのではなくて一時的に良くなるだけだ。

そんなずっと発動してたら死んでしまう。

僕の能力は訳アリで制限があるのだ。


「まあ、尾白とは言えど1対6とかなら負けそうだけどな」

「いやぁ、尾白なら行けると思うぞ?」

「お前らの中で僕は化け物扱いなのか??」

「おいおい、それじゃあまるで榊原が化け物じゃないみたいな言い方じゃないか」

「おいおい斎藤、それじゃあまるで僕が化け物であることが前提で話が進んでいるみたいじゃないか」


「まあそうだな、いくらお前でも一人じゃできない(・・・・・・・・)ことくらいあるよな。体は一つなんだから」
















「お疲れさん。僕は妹のところに行ってから帰るよ」

「お疲れ尾白ー、また明日」


今日最後の授業が終わり、下校時間となる。

友人に挨拶を済ませ自転車に乗ろうとしたとき、彼女が声をかけてきた。


「柩君、今日も蜜柑ちゃんのところ?」

「ああ、できるだけあいつのところにいてやりたいからな」


亜門は事情は知らないが、妹とは仲が良かった。

「私の妹にしたい」が口癖なくらい蜜柑を気に入ってくれている。


「今日は私も行っていい?」

「ありがとう、蜜柑も喜ぶと思う。ニケツしてくか」

「うん、柩君もあまり一人で抱え込みすぎないでね?一人じゃできないことはたくさんあるからさ」

「そうだな、一人じゃできないことか。今日は似たようなこと、よく聞くな」


一人じゃできない?


「…妙だな」

「なに?秘密基地の次は探偵ごっこ?」

「妙だな、児戯マニアかなにかと勘違いされているかもしれない」

「児戯って…」


なにか引っかかるものがある。

いや今は集中しよう。今日の目的は鋼男の捜索もある。

病院のあたりに現れたりしたら蜜柑が危ない。そんな過保護な考えの元、この辺を重点的に調査しているのだ。


尾白蜜柑。

昏睡する前は中学2年生だった。

中学最後の年を眠っていて過ごせないのだと考えると胸が痛くなってくる。


これからの人生に関わることだ。できるだけ早く目覚めて欲しいと思いながら病院へと向かった。






















尾白が見舞いを終え、病院から家に帰った頃。

伊達刑事は血の滴る左腕を庇いながらスラム街の物陰に身を潜めていた。



両腕の傷はかなり深く、早急な処置を必要としていた。

斬り落とされた右腕の断面からドクドクと流れる血を見つめ、呟く。


「…これは、しくじりましたね」


数時間前、俺は情報収集のため向かったスラム街でヴァンパイアに遭遇してしまったのだ。 



辺りが暗くなり始めたころダンボールに寝泊まりする少年に聞き込みをしていた時、ちょうど背後を通ったのだ。


硬質な金属で覆われた両腕。

その外見は捜査対象の『鋼男』と一致していた。


即座に考えを尾行にシフトし、少年にチップを渡して立ち上がる。

ヴァンパイアの尾行は今まで幾度となく繰り返してきた得意分野である。


「いつも通りだ、目的を完遂する」


予想外の出来事が起きたのは鋼男の方へ向き直ったときだ。


背筋に寒気が走るような感覚が二の腕を撫でたのだ。

跳び退いた俺が見たのは、右半身が硬質化した少年だった。


そして少年は鋭い爪を振り抜いた姿勢で止まっていた。


「ッぐぅ、」


そして遅れて自分が斬りつけられたことに気づき、呻き声をあげる。


少年が鋼男?さっきの男は?親子?能力は遺伝するのか?何故斬られた?知られていた?

色々な思考が頭の中を駆け巡る。


自分で言うのはナルシストのようだが、俺は頭が良く回る方だと認識している。


ズボンの後ろポケットから携帯を取り出して彼らに連絡を入れつつ、スラムの住人に被害が出ないように人通り少ない道に逃げる、それが最善の策だと考え即座に行動に移す。


が、ポケットに伸ばした右()は空を切った。


携帯を掴むことができなかったのは、右腕はあっても右手はなかったから(・・・・・・・・・)だ。


「うあぁぁぁぁっ!!」


少年の反対側で先程通り過ぎた男が俺の手を投げ捨てた。


「知ってるよ、君、同胞を殺し回ってる邪教徒だろ?」

「邪教徒のお兄さん、ごめんね?」

「じゃ、きょう……と?」


二人は俺を挟むような立ち位置で近づいて来る。


「俺は、戦闘が苦手なんだよ!」


横に急いで駆け出し、逃亡する。

俺の向かう先に老婆が歩いている。


「そこのご老人!!こっちに化け物がいる!急いで逃げてください!」


とっさに大きな声で警告する。

民間人の被害は避けなければならない。


俺の声を聞いた老婆は驚いてように目を見開き、叫んだ。


「邪教徒ッ!おじさん、ゆうき君、こっちは任せて!」


ゾッとした。


ある仮設が脳裏を過ぎる。

このスラム、全員がそう()であるという仮説だ。


邪教徒、という発言からするにヴァンパイアを崇める教え、もしくはヴァンパイアたちの集合住宅という可能性が非常に高い。

火事場の馬鹿力と同じ理論だろうか、脳みそをフル回転させて脱出を敢行する。


「しょっぱい方法ですみませんっ!」


千恵から貰った煙幕用の筒を地面に叩きつけ、老婆の脇をすり抜けて駆ける。


元々能力もない俺は逃げるしかないのだ。

この隙に連絡しなければ、と腕の出血を止めるよりも先に携帯に手を伸ばす。


「携帯、落としたのかッ!?」


考えうる限り最悪のミスだ。だが今戻るわけにもいかない。


それから俺は隠れながら移動を続けた。


「クソッ、鋼男は複数ってことか!?」






















「わかんないんでしょ!?じゃあ助けに行かなきゃいけないでしょ!!」

「落ち着け千恵。何かあったのだとすれば連絡があるはずだ。連絡がないのが無事な証拠だ、刑事はそういうやつだ」

「携帯壊れたり連絡できないかもしれないでしょ!!刑事は能力だってもってないの!!」


水曜日の午前2時。

刑事さんが帰ってこない。

唐突に捜索に向かうと出てから連絡一つもなく、帰ってこないのだ。

火曜日の間はそんなときもあるとそこまで気にしていなかったが、これだけの時間が立つとなにかあったと思われる。


「特尉、僕も刑事さんになにかあったんだと考えます。…全員で探しに行きましょう」

「なにかあれば連絡しろとさっきメールを送った。問題ない」

「なんでよ!!なにかあってからでは遅いの!!」


翼さんと王牙さんは別件で出ているため、今ここにいるのは3人だ。


「行くにしても二人が戻ってきたらにする」

「だから!なにかあってからでは遅いっていってるのがわからないの!?わかってる!?お父さん(・・・・)!!」

「特尉、行きましょう」

「駄目だ。ここで、全員遠出すれば誰が蜜柑ちゃんを守るんだ?」

「ッ、そ、それは……」


言葉に詰まった瞬間、メール受信の音が部屋に鳴り響いた。


「…刑事だ……」

「なんて書いてありますか!?」



件名:連絡を忘れていました。

本文:調査に時間がかかっています。ご心配なさらず。



「…これだけですか?」

「そうみたいね」


僕たち顔を見合わせた。


「…………決まりだな」

「ええ、争う必要はなくなったわね」

「刑事さんったら…こんなミスするなんて…」


僕は苦笑し、部屋に戻った。



次の動きに備えるために。






























[スラム街 地下]


メールを送り終えた他人の携帯を机に置き、城瀧 守は口元を緩ませた。


「私の大切なスラム街(実験施設)をめちゃくちゃにされては困りますからね…」


城瀧は椅子から立ち上がり、術後の睡眠についている少年に声をかける。


「鷽月君、お客様が来ますよ」

「……そっか、ちょうどいいや。」


少年、鷽月 洞は金属質になった右腕を空に掲げ答える。


「せっかくのこれ、試してみたかったしね」

「ええ、行きましょうか」









「さあ、実験の始まりです」

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