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Bショット・ヴァンパイア  作者: ササキハラウタヱ
Bショット・ヴァンパイア
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1.プロローグ

駄文を見ていただき感謝です。

拙い文、誤字脱字があるかもしれません。

「……対象を発見。コウモリのような翼……報告にあったヴァンパイアの情報と一致します」


土曜日の深夜2時、今にも崩れそうな廃ビルの3階に僕はいた。

無線機を片手に壁の穴__昔は窓がついていたのだろうが、今はただの穴だ__から、外にいる男を監視する。


その男は奇妙なことに、廃ビルの3階からよく見える綺麗な夜空に滞空していた。


『…了解、すぐに向かう。………尾白はその場で待機』

「了解しました、蝙蝠に動きがあれば報告します」


無線越しに返ってきた工藤特尉に返答する。

彼、工藤特尉の『特尉』は階級ではなく下の名前である。

その昔、彼が特尉という階級を与えられていたことは事実なのだが。


「…頼むから動くなよ蝙蝠……僕の仕事が増えるからな……」


奴らの名前はヴァンパイア。

別に血を吸う訳ではないし、十字架も聖水も銀の弾丸も効かないが、どういうわけかヴァンパイアと呼ばれている。

今回の相手がたまたま蝙蝠の要素を持っているだけで、虫みたいなのも鳥みたいなのもいるため、吸血鬼の名前はスーパー嘘っぱちだ。


何年か前に発見された物質が人体に影響を及ぼした結果、少数の人間が変異し生まれた存在、らしい。

そんな人間がいることすら一般人は知らない。


国としても悪用しない限りは調べないし口も出さない。

所謂暗黙の了解とかいう奴だ。

だが、こういった他人より優れた力は人格を変える。

【他の人にはない力】、【自分だけ】、そういった高揚感を得れば悪用してしまう気持ちもわからなくもない。


そういった犯罪を取り締まる組織として設立されたのが…『尾白、現場に到着した。これより作戦を開始する』


長々と話す暇は無いようなので説明は後にする。

気を取り直して仕事だ。


「了解です。今のところ上空から町を眺めているだけです」

『飛んでるな。予定通り独鳥(ひとり)に任せる。尾白はビルの下の車へ』

「りょ、了解です」


相手は異能を悪用する犯罪者だ。捜索などは僕の仕事だが、ここからは荒っぽい異能バトルだ。

特別な力の無い僕の出る幕ではない。



さっきの続きだが、ヴァンパイアとなって力を手に入れ、それを犯罪に使う人間を秘密裏にとっ捕まえる組織が僕たちだ。


この組織は僕のように能力のないサポートメンバーと、特尉のようにヴァンパイアの力を持つ戦闘員で構成されている。


工藤特尉は自らの腕を【獣のように隆起した筋肉と濃い体毛に覆われた両腕】に変化させることができる。

先ほど名前の出た独鳥翼という男性は【白鳥のような翼で滑空する】力を使える。

白鳥なのに滑空しかできないところに最初は戸惑ったが、こういう異能は理屈じゃないと考えればすぐにどうでも良くなる。


あの人は今回のように飛ぶ相手には持ってこいの能力だ。


「すげえ音だなぁ…派手にやってるねえ」


そこそこの距離でもがっつり聞こえる破砕音をいつも通りだな、軽く流しながら《蝙蝠》の資料を眺める。


今年4月より確認されたヴァンパイア。

能力は飛行だと思われる。4/29日に確認。

飛行能力での窃盗や暴力。驚異度低。

追記、6本腕との繋がりの可能性。

優先順位を繰り上げ。


「…ま、結局ここに目ぼしいものはなかったなあ」


車の窓から顔を出し、煙草に火をつける。


今まで幾人ものヴァンパイアを無力化してきた(チームとして、であって直接的なことはしていないが)僕らにとって今回のような窃盗犯くらいは驚くこともないし苦戦することもない。

監視中退屈しのぎにモソスターハソターをやっていたくらいだ。

そして今も。


「終わったぞ尾白。撤収だ」


ゲーム内でボスを倒すのと同時に特尉によって反対の窓がノックされた。

どうやら10分もたたないうちに片付いたようだ。


「お疲れ様です特尉。蝙蝠、どうなりました?」


特尉の名前は特尉だが呼び捨てにしているわけではなくあくまでも階級の特尉と呼んでいるだけである。


「鎮静剤と麻酔を打ってポリに引き渡した」


ヴァンパイアを表沙汰にしたくない政府とは一応協力関係になっている僕らは、無力化したヴァンパイアをそのまんま警察に引き渡しているのだ。

そいつらがどうなるのかは知らないけど。


「了解です、さ、帰りましょうか」















事務所(喫茶店)に戻ったとき、時計は午前4時を指していた。



喫茶店『Bショット』は僕らの表の顔だ。


全員店員で僕は一応バイト。


「こんな遅くまで仕事ってやっばりブラック企業ですよ」

「ヴァンパイア関係の仕事は喫茶店の業務ではないので、労働基準法の範囲ではありません」

「そういうことじゃなくてですよー」


誰に向けたわけでもない僕のぼやきに対して信じられないくらい真面目に答えたのは、 メガネとスーツがチャームポイントのイケメン、伊達 刑事さんだ。

喫茶店店員なのに名前が刑事。

うちの仲間はどうしてこうもわかりづらい名前の人が多いのだろうか。

伊達さんは最近パソコンばっかりいじっていてあまり会話はないが、仲が悪いわけではない。ただ単にそういう人なのだ。


「どうせ普段の仕事は暇だし、別にいいだろ」


声に振り向くと、その声の主、独鳥翼さんは缶チューハイを片手に顔を真っ赤にしていた。

うわっ、なにあれすっぱくて苦い鬼唐辛子ハイボールって。なんで買ったのあれ。

てか作ったやつ頭おかしいぞ。


「飲みすぎないでくださいね?酒癖悪いんですから」

「はいはい」


独鳥さんから目線を外し、伊達さんのパソコンを覗き込みつつ声をかける。


「ところで特尉はどこ行きましたか?」

「工藤サンは夜食買いにいってますよ」

「あーなるほど、千恵さんも着いて行ってるかんじか」



ブルートナハトの店員は全員で6人。


ここの店長の工藤(くどう) 特尉(とくい)

戦闘員の独鳥(ひとり) (つばさ)鬼瓦(おにがわら) 千恵(ちえ)剛力山(ごうりきざん) 王牙(おうが)


サポートメンバーの伊達(だて) 刑事 (けいじ)、そして僕こと尾白(おじろ) (ひつぎ)


僕も元は戦闘員でもあったけど、今はサポートメンバーだ。








独鳥さんと飲みながら(僕が未成年なのはナイショ)談笑していると特尉と千恵さんが帰宅した。


「おかえりなさい、お二人共」


「疲れたわー、結局蝙蝠は6本腕のこと知らなかったけど…」


期待していた情報は無かったわ、と千恵さんは首を振る。


「……また1からですね…」


伊達さんは暗い顔でうつむき、延々と筋トレに励む王牙さんをちらっと見る。


王牙さんは無言で筋トレを続けているが、心なしか悔しそうにも見えた。

彼は6本腕に対して特別憎しみを抱いている。

最も、ここにいる全員が奴を憎んでいるが。


「…今は暗い話はやめよう。もうこんな時間だが軽い夜食にしよう」

「ええ、そうですね」


この空気に耐えかねたのか、特尉がビニール袋を机に置いて中身を取り出す。


特尉がお弁当を買ってくれたようだ、


いつも通りバラバラの弁当を買ってきたようで、独鳥さんが真っ先に焼き肉カルビ弁当を選んだ。

今回の功労者に文句を出す人はいない。


「あたしはセロリ海苔弁当ー」

「…………………………プロテイン丼」

「俺は脳に働く野菜弁当でぇー」

「俺は最後のでいい。尾白、選べ」

「ほんとですか?じゃあもぎり亭の唐揚げ丼で」

「じゃあ残ったサーモンマグロ丼は俺だな」


「……にしても、今月入ってからもう4回目ですよ?いくらなんでもヴァンパイア増えすぎじゃないですか?」

「あー!それ俺も思ってたんだよ~マジヤベーよな」

「…確かにな。変異には一定の条件があったハズだが……変質する物質をばらまいてる奴がいるのか?」

「あー、ヴァンパイアの組織でも作ろうとしてるのかな」

「そうね、ヴァンパイア同士が協力して犯罪を起こすのは厄介だわ」

「…6本腕や殺意ヶ丘(さついがおか)みたいに、か……」



特尉の口から出た人物はそこそこ前の事件のヴァンパイアだ。

僕はそれに巻き込まれ、今ここにいる原因とも言える奴だ。

ここで過ごす時間は今となっては楽しいし、家族のような温もりを感じているが、元々は望んだことではないしやはり全ては不幸な出来事だった。


相手が変異して人で無くなっていたとしても僕は人を殺してしまった。

巻き込まれた時点で、もう普通に戻る選択肢はなかったのだが。


「あ、……すまない、…無神経なことを言ったな…」


僕の表情が曇っていたようで、特尉に謝られてしまった。


「いえいえ!大丈夫ですよ、だから今こうしていられるんですから。なにもあの時傷を負ったのは僕だけじゃありませんし」

「すまない…」



「…………」

「………」


おうう、すっごい微妙な空気になってしまった。

僕のせいではないのだがなにか話題を出して和ませねばならない、そう思ったとき、千恵さんが口を開いた。


「……あー、どーでもいいんだけどさ、なんでヴァンパイアなの?」

「言われてみりゃそうっスね。血でも吸うんですか?」

「……………今更」


独鳥さんが人差し指を千恵さんの肩に押し付けブシュッとか呟いて言った。


「ヴァンパイアっていいますけど、僕は吸ってるところなんてみたことないですよ?特尉はどうですか?」

「ああ、ヴァンパイアと戦い始めた当初は俺も血を吸う奴を想像してたな。銀の弾も十字架も聞かなかった。」


千恵さんはなにかがツボにはまったのか吹き出して笑いだした。


「あははは!、特尉ったらあのときでっかい十字架でぶん殴ったりしてたもんね!」

「仕方ないだろ、効くと思っていたんだから……ましてやニンニクも普通に食べてたし聖水ぶっかけられてきょとんとしてたくらいだからな」

「ニンニクと水ぶっかけんですか………」


想像してみれば中々にすっとんきょうな現場だ。

真面目な顔した人が真面目な顔した人にニンニクを投げつけるのだ。

千恵さんは見ていたのだろう、笑ってしまう気持ちもわかる。


「ていうかそれで効くんでしたら特尉も死にますからね。良かったと言うべきでしょうか…それとも不幸と言うべきでしょうか」


伊達さんは嫌みっぽいがこれがデフォルトのコミュニケーションだ。

みんな慣れているので他意はないことを把握している。


「…あーこんな沢山出てくるならなんていうかこう、すっごい能力ほしいなぁ」


誰でも能力を得られる訳ではないのはわかっているのだけも。


「また手に入れたとして、思ったより楽しくはないぞ?尾白」

「飽きたらそうかもしれませんが……」

「まあ祈っても無駄ダヨーむりむり」

「…………………ごちそうさまでした」


煽る独鳥さんにデコピンをし、僕のとすでに食べ終わっていた王牙さんの弁当容器と一緒に片付ける。


王牙さんは赤いサラストヘアの長身の細マッチョで無口な人だが気遣いもできるし優しい人だし、僕は仲がいいつもりだ。

6本腕と呼ばれるヴァンパイアに奥さんを殺され、それ以来ずっと、奴を探し続けている。


6本腕の本名は我衆院(がしゅういん) 美魅(みみ)

僕が通っている高校スキー同好会に所属していた知り合いだ。

間接的ではあるものの、僕から両親を奪う原因を作った奴だ。見つけたら本気で殺してやろうとすら考えている。


「さて、次はどっから調べてきます?」


今、6本腕と呼ばれるヴァンパイアを探すのが当面の目標になっており、今回の蝙蝠もその過程で見つかったヴァンパイアだ。


「今報告にあるのは《鋼男》と《カラス》だけですね。どっちでも構いませんが」

「あーそうそう、蝙蝠の拠点になっていた廃墟に面白いものが落ちてたのよ」

「千恵さんいつの間に…」


千恵さんは鞄からひとつの注射器を取り出した。

中身は入っていない。というか使った後なんだろうか、少し赤い液体の痕跡がある。


「見てみてこのラベル」

「んと…【ジョータキ5:5】………?荒手の麻薬かなにがですか?」

「調べてみたんだけどそんな名前の麻薬は存在しないのよ」

「そもそも蝙蝠の持ち物ではない可能性が大きいでしょう。あれが潜伏し始めたのは最近ですし」

「ええ、刑事の言うとおりだと思うけど、一応頭に入れといてね」

「わかりました。とりあえず成分鑑定に出しましょう」


千恵さんはまあまあ変な人で、オカルトとか都市伝説とかを簡単に信じる。

それどころか勝手な妄想で都市伝説(この場合千恵さんが勝手に言っているだけなので個人伝説とでも言うべきだろうか)を作り出す。

注射器も恐らく千恵さんの脳内ではヴァンパイアやらなんやらと関連付けられて物語が作られているのだろう。


「話を戻すが、俺の見解なら危険度の高い白髪の方から解決するのがいいだろう」

「特尉が言うなら問題ないです。どうせ最終的には全員…」



ジョータキ5:5が後に事件を引き起こすことを僕らはまだ知るよしもなかった。










僕の妹、尾白蜜柑は1年間ずっと寝たままだ。

僕の浅はかな行動の結果両親を失い、蜜も首に大きな傷を負い、そして昏睡状態となった。


実際に妹を襲ったた人物は僕がこの手で皆殺しにしたが、そいつらに協力していた我衆院美魅は行方不明になっている。

見つけ出して殺すのが僕の目的だ。


「…やあ、蜜柑」


病室に入り、途中で購入した花を花瓶にさす。

一番最後に喋ったときショートカットだった髪は伸びきっていた。

色素が抜けたのか白くなっているのが見ていて痛ましい。


ベッドの隣の椅子に腰を掛け、蜜の手を両手で握る。


「この前さ、蝙蝠ってヴァンパイアを逮捕したんだ。でもあいつの足取りは掴めなかったよ…」


ぽつぽつと話をしていてもその手のひらから感じる低い体温に悔し涙が出そうになる。


「ごめんな、早くあいつを殺さないと安心して目覚められないもんな」



この手で絶対殺して見せると、何度目になるかわからない誓いをし、妹の頭を撫でる。


病室に飾られた両親たちも写る家族の写真を見て、戻らない過去だと実感させられ、唇を噛む。


1秒でも早く見つけなければ、と思い病室を出た。







これはヴァンパイアと呼ばれる能力者と僕らの戦いの話だ。

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