本好き仲間を手に入れた
クモの巣だな。
《はい、クモの巣です》
神ナビの通りに歩いた先で女子学生がクモの巣に引っ掛かってた。
魔物に襲われてるって…大したことねぇじゃねぇか。肝心のクモもいねぇし。
《王子を助けたときと比較してます?あんなのが頻繁にあったら世界滅びますよ。それに、ああなったら後は捕食待ちなので見た目に反して結構ピンチです》
マァ気絶してるみたいだし、確かにこのままじゃ夕食コース一直線だろうな。
《ちなみにこのクモの巣、驚異の粘着性を誇るので素手で掴むとミイラ取りがミイラになります》
じゃあ燃やすか?
《素材として優秀なので、【切断】がオススメです》
うい。
「【切断】」
バラバラになったクモの巣を【アイテムボックス】にしまい、落ちてくる図書委員の身体を受け止める。
「う、お…っ」
おっも…
体格差もあるから余計辛いな…最初から【怪力】使っときゃ良かった。
《口に出さない辺り偉いですよね、あなた》
利益のために沈黙と優しい嘘を選べる男だ、俺は。
「ん、ぅん…?」
「おきたか」
「え、きゃっ!?」
お姫様だっこされてる現実に気付いたようだな。助かったというのも理解したのか、恐怖に強ばっていた身体の力が抜けた。図書委員は丸眼鏡が野暮ったいが幼めのかわいらしい顔立ちをしている。その顔を赤らめて、ぽーっと夢心地のように俺を眺めてきた。
これは…あれかぁ。
「だいじょうぶか?あんた」
「あ、はいっ!大丈夫です!」
俺が声をかけるとハッとしたように頭を振ってから、勢い良く返事する。とりあえず意識はしっかりしたっぽいから、【創造】で厚手のレジャーシート作ってその上に下ろそう。
《うわっ…紳士みたいなことしてる…解釈違いなんですけど》
目の前にいる俺が原作だわ。現実を受け入れろクソ神。
「あのっ、助けてくれてありがとうございます。ケプトさん…ですよね?」
「なんでしってんの?」
「ほぼ毎日図書館に来てるでしょう?貸し出しのときに名前は分かりますから」
「なるほど。わるい、おれあんたの名前わかんねぇわ」
「ビオラと言います」
「ん、ビオラね。てか、なんでこんなとこいたんだ?この辺けっこうあぶないの多いだろ」
「薬学の課題で自分で採取した物のみでポーションを作る課題が出たんです。冒険者に護衛を依頼することも考えたのですが、いかんせん割高でして。徘徊しているのは概ね獣型だという記述を見て獣避けの結界紙は購入していたのですが…ネバリグモは盲点でした」
ちゃんと対策はしてたのな。だが、戦闘の痕跡すらないのはなんなんだ?学園では戦闘学で魔法か武器のどっちかは選択しないといけない。どんなに不得手でも自衛手段くらいは教わってるから、無抵抗ってことはないはずなんだが…
「たたかってないってことは、不意でもつかれたのか?」
「あぁ、いやっ、それは…」
眼鏡をカチャカチャといじり出す。動揺が眼鏡に出るタイプか。
「その、正直読破したい本が山ほどあるのでその他のことに費やす暇が惜しいというか…」
「わかる…」
俺はここまで本一辺倒じゃないが、長編シリーズにハマると時間がいくらあっても足りねぇんだよな…
《なに分かりあってるんですか》
「なので実技全般赤点ギリギリです」
「どっち取ったんだ?」
「武器です」
「正気か…?」
【鑑定】しても身体強化魔法は習得してないようだが。本に全リソース割いてんなら身体鍛える時間もないだろうし…
「魔力の変換効率が悪くて、魔法がほぼ使えないんです。鞭なら軽くて私でも扱えると思ったのですが…」
初心者に鞭は難しいだろ。
《経験者は語る…》
黙れ。
「おしえようか?」
「え?」
「武器はひととおりできる」
確か他者の成長に影響する特典があったよな?
《【指導】と【育成】ですね。相乗効果で大変なことになると思います》
良し。
《にしても、珍しく親切ですね?》
俺の楽々図書館ライフにこいつは必要不可欠だからな。
《そんなこったろうと思いましたよ》