オススメ理由が分かったわ
「それで、それでなっ!」
「いったん落ち着けエイジャー。ほら、メイドさんが入れてくれたお茶のめ」
「うん!」
王子は一層素直になった態度と相まって出会った頃より幼く見える。
「そ、それでその、今日も僕、頑張ったんだ」
「おー、そうだな。よしよし」
「えへへ…」
頭を撫でられてほわほわと顔を綻ばせた。この王子、俺より年上のくせに弟ムーブヤバイな。
《あんなクリティカルなセリフ言ったらそうなりますよ。【読心】の特典も使ってなかったのに…》
あんくらい分かるだろ。
《前世で鍛えた技術ですもんね》
「エイジャー、今日はなにか言いたいことがあって来たんだろ?」
「…やっぱり、お前は全部お見通しだな」
《怖…この人…》
「今日はお願いがあって来たんだ」
「おねがい?」
「実は僕、来年隣国に留学するんだ。…けどな、お前と離れるのが寂しくて…」
なんて言われるか分かったわ。嫌だが。
「ついてきてくれないか…?」
嫌だが。
《これはチャンスですよ!行きましょう行きましょう!!》
ヤダ、外出たくない。
《やっぱ引きこもりじゃないですか!!!》
違うし。指南役に剣の指導してもらうとき庭に出たし。
《庭なんて家の一部みたいなものでしょう!!!!!》
うるせ~~~~~~~~~~~~~~。
「今から受験すんのはむずかしくねぇか?」
「そこは王族パワーでどうとでもなる」
権力ぅ…
《ほら!世界には流れというものがあり、あなたが一つのところに留まることを良しとしていません!神の思し召しですよ!》
お前の思い通りが一番嫌なんだが???
《…仕方ありませんね。乗り気になるようなネタバレを一つしてあげましょう》
ふん、ナメるなよ。俺の引きこもり力を。
《引きこもりなんじゃないですか。ですが、これを聞いてもごねていられますかね?──学園の図書館には『リンドとワルツを』の最新刊があります》
なん…だと…
《そのシリーズ気に入ってましたよねぇ?続きが気になって他の作品にも身が入ってませんでしたよねぇ?》
クソッ…!卑怯だぞ…!!
《なんとでも言いなさい!こっちはなりふり構ってられないんです!!》
ぐぅ…
「分かった。…俺もエイジャーと離れるのはさびしいからな」
「…!ふふっ!やった!ありがとう!」
《好感度上げる方に舵切るの爆速すぎません?》
「…それでな、生徒登録には名前が必要なんだ。その、お前の部族については知っているつもりだが。仮の名前で良いんだ、僕に付けさせてくれないか…!?」
「ん、良いぞ」
「えっ、あ、ほんとに!?」
「今までなんとなく付けてなかっただけだからな。お前になら良い」
俺の言葉に王子は緩みきった表情を見せる。安心し切ってんなぁ。こっちとしちゃ好感度はいくら上げても安心できないけど。
《一回のミスで全部崩れますもんね》
「じ、実はもう考えてきたんだが──"ケプト"はどうだ?」
バカにしてんのか?
「古代ヒティネ語で"強き者"、"見破る者"を意味する言葉だ。お前にピッタリだと思う」
《彼の言っていることは本当です。普段の言葉は【翻訳】の特典で自然に訳されてるだけで、この世界に英語があるわけじゃないんですよ。ヒモ男(kept man)さん》
そうか。
《!!?!???!?──イヤ~~~~~~ッッ!!?!?止めてくださいドブみたいな思考流すの!うぐぅ…!【削除】【削除】!!!…うえっ…きもちわるい…》
最近ナメた口聞いてくることが多いから分からせてみた。
《分からせてみたじゃありませんよぅ!!!!》
「良い名前だな」
「…!ふふん、そうだろう!たくさん悩んだが、これにして良かった!」
《なんで神に厳しくて王子に甘いんですか!》
お前はかわいくないから。
《かわいいですよぅ!!》
自分で言うな。
「まったく、お前はほんとうにおれが好きだな」
「あぁ!好きだ!」
からかうつもりで言ったんだが、真っ直ぐ肯定されて面食らった。
「僕の話をちゃんと聞いてくれるから、お前のことが好きなんだ」
…なぁ、この世界が物語で、こいつがヒロインだったりするか?
《気持ちは分かりますが、落ち着いてください》