ちなみに、森は頑張って直した
いやー、大変なことになったな。ウケる。
《ウケてる場合じゃないですよぅ!!!?あぁあ~~~!!世界の均衡がぁ~~~~~~~!!!》
赤子の頃から毎日魔力を伸ばす訓練を欠かさず行った俺は、体が幼稚園児くらいに成長して念願の魔法を放った。
結果、森が消し飛んだ。
「このせかいってレベルみたいなせいどあんの?」
発声練習も続けてるけどまだたどたどしさが残るな。
《うぇ?あぁ、ゲーム的な話ですか?ありませんよ。特に指標はなく、日々の鍛練とその積み重ねによる目の前の結果が全て。あなたが元いた世界と同じです》
ふーん、つまり目の前の結果的に俺はすごいってわけか。
《すごいどころの話じゃありませんよ!!あなたは元々魔力が伸びやすい幼児期からずっと訓練してたのに加えて成長率上昇の特典を複数持ち、さらに神の指導を受けていたんですから!!!》
じゃあこの結果になるの予測できただろ。何が「このくらいの年齢なら魔法を使っても大丈夫でしょう!」だよ。
《それはぁ…そのぅ…はい…》
とりあえず魔法の制御の方法教えろ。
《かしこまりましたぁ…》
※ ※ ※
《あのぅ…そろそろお外出ないんですか?》
森蒸発事件から一年後、特典の【創造】で創り直した森でいつものように魔法の練習をしていたら、神が恐る恐る聞いてきた。
「ここがお外だろ」
《そうじゃなくてぇ…》
マァ、コイツの言いたいことは分かってる。産まれてからこの森の外に一歩も出たことがないからな。
「出るひつようある?」
《えっ》
「今まで生きていけてるだろ」
実りの多い森にした食料には困らない。飲み水は魔法で確保できるし、魔法を学んで娯楽に活かすのも楽しいし。森の魔物も貰った特典があるから脅威じゃねぇしな。
《でもぉ…》
「言いたいことがあるなら言え」
《もっと…その、私の世界を楽しんでほしいといいますか。世界には美味しい食べ物も、美しい景色も、個性溢れる人々も、たくさんありますよ!!せっかく転生したんですし、ね?》
「まぁ、そこまで言うなら…」
《ふふ、私の世界は素晴らしいんですから!ぜひ堪能してくださいね!》
世界の均衡がどうとか言うくらいなら、俺は森に閉じ込めといた方が良いんじゃねぇのか…?やっぱ邪神だろコイツ。
マァお出かけすると決めたらちゃんと準備しよう。【創造】で作った瓶にあらかじめ魔法で出した水、ドライフルーツ、ポーション各種を革の鞄に詰めて…良し、こんなもんか。
《慎重派なんですねぇ》
できれば死にたくないしな。世の中には避けようがない死因もあるみたいだが。
《その節は申し訳なく…》
最近調子乗ってるみたいだから、立場ってもんをちゃんと再認識しろよ?
《はいぃ…》
じゃ、手近な街への案内よろしく。
《分かりました。とはいえ、ここから一番近いのは街というより村なのですが…》
それで良いよ。
《いえ、実はその村、滅ぶ運命にあるんです》
ふーん?
《あれは遺跡の管理を国から命じられている特殊な村です。二日後、その遺跡から軍隊でもないと太刀打ちできない規模の魔物の群れが湧き出し、村は滅びます。さらに運の悪いことに、そのとき実績作りの一貫として遺跡の調査に来ていた第一王子一行が巻き込まれます。元々有能とも言えない人間でしたが、一応王位継承権一位の者です。それが死んだことにより、王国は第二王子と第三王子の継承権争いで徐々に乱れていき…といった感じです》
全部ネタバレするじゃん。
《でも報告しなかったらそれを理由に責めますよね?》
うん。
《"うん"じゃないですよぅ…》
それで?
《えぇと、村はどうでも良いのですが、第一王子は助けた方が良いと思います。世界を回るにあたって後ろ楯があると便利ですよ。王子の側には騎士がいるので、剣も学べますし》
村はどうでも良いのか。
《はい、あの遺跡には文化以上の価値はありません。特別強い魔物やレアな素材が潜むわけでも、伝説のマジックアイテムがあるわけでもありませんから》
「じゃあ、二日後にとうちゃくするペースで歩くか」
《…?あなたの身体能力なら、スキップしながらでも一日で着けますよ?》
でも、ただの旅人より救世主の方が扱いが良いだろ?
《悪い人ですねぇ》
邪神に言われたくない。