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05

「私、家族が好きではありません」

 彼は少し意外そうに首を傾げたようだった。視線を外して窓の外を眺める。


「美人の母、温厚な父、可愛い妹、羨ましいと言われます。でも____」


 温厚な父は日和見ですぐに意見を翻す。いつも目の前しか見ないから領地経営も見ていられなくて随分手伝った。手伝うとありがとうと言ってくれるけれど、その性格は直す気がないからいつしか手伝うのが当たり前になった。

 

 母は疑うことを知らない。それでいて伯爵夫人だから人事だって握っているし、不適切な人物を家に入れてしまうことがある。イオニアが気づいて訴えても信じてくれない。人には悪意なんてないと信じていて、何かが起こってから解雇することが多かった。信じていたのに、と嘆かれてもイオニアの心はそのたびに冷えていった。


 フィリアはいつでも人気者だった。天真爛漫な花の妖精と言われていたけれども、イオニアの胃はいつもキリキリと痛んでいた。思ったことを何でも言ってしまうから、人を傷つけてしまう。傷つけてしまったことに気づかないからずっと治らない。イオニアはずっとフィリアの代わりに周りに謝り、フィリア自身にも何度も注意した。口うるさいイオニアをフィニアは遠ざけるようになった。性格は治らず、いつもハラハラしているためにイオニアの顔は怖いとひそひそと囁かれた。次第に友人も離れ、異性からは見向きもされなくなっていた。



「私、きっと早死にしますね。だって____」


____こんなにも虚しいんだもの。

かろうじてその言葉は飲み込んだ。


「イオ」

白蓮は呼びかける。その優しい響きに思わず息を呑んだ。

「悪戯ってしたことある?」


きゅっと目を細めて似つかわしくない質問が飛んでくる。

「悪戯ですか?」

悪戯、あっただろうか。トラブルはなるべく避けてきた。小さな頃から周りはわざわざイオニアが起こさなくてもトラブルだらけで_____

ゆるゆると首を振る。


「君は家族が嫌いなんだろう? 今までいい子で居たんだ。少しだけ、悪い子になってみないか?」


考える、フィリアに悪戯すること、それはとても悪いことのように感じる。それに____

「……無理です」

罪悪感が湧く。躊躇いながらした悪戯はきっと成功しない。

とつとつと話すと、彼は、まるで微笑ましいものを見るかのように満足そうに微笑んだ。


「ここは幻惑の一族、狐の館。君がするのは私たちが種明かしをした幻惑を妹君に黙っておくだけ。これならどうだろう」

 それは悪戯に入るのだろうか? 首を傾げたけれども、そもそもフィリアが化かされるのは非礼をした罰だというのだ。そのくらいならいいだろう。


「わかりました。できると思います」

真面目に頷くとまた彼は笑った。


「では、また明日。気をつけてお帰り」

長椅子から立たせてもらってそっと背を押される。そのまま歩き出すと見慣れた廊下に出ていた。振り返っても先ほどまでの部屋はなく、なるほど、これが化かされるということか、と感慨深くすらあった。


 きっとイオニアは混乱しているのだろう。この非現実な状況にあまり驚いていないのが不思議だった。今もどこからか視線を感じる。けれどそれがイオニアたちを排除しようとするものではないとわかっただけで屋敷に感じていた寒々しさが薄れる気がした。


自然と肩に入っていた力が抜ける。その日は何年かぶりに、夢も見ずに眠った。

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