おかえり
定刻どおりに見回った縄張りの最終地点に、久方ぶりの人影があった。前に見た時とは違い、車いすに座っている。
連れの男は息子らしい。人間の子供は大人になると随分と尺が伸びるんだった、と改めて感心する。
「うわあ、この汚れは頑固だなあ」
老婦人の見守る中、看板を掃除していた男はため息交じりにぼやいた。
「長いこと留守にしちゃった。お客さん、来てくれるかねえ」
「うーん、親父のファンは甘くなさそうだからなあ」
日当たりのいい石の上に座り、ナァォ、と母子に呼びかける。
「あら、あら! お父さんのファン一号じゃない」
老婦人につつかれ、息子はポケットから何かを取り出す。
反射的に二人に駆け寄った。久しぶりのうまい飯だ。
第2回 毎月300字小説企画、お題は「甘い」でした。