3
ついに店の最終日が来た時、さすがの陸も名残惜しいような寂しい気持ちになった。
開店準備を終えカウンターに手をつきながら店内を見渡し誰に言うでもなくぽつりと呟いた。
「もう明日から来なくていいんだよな」
「不思議な感じだよな」
声に振り返る。そこには月島が立っており、眉を上げると陸の横を通り抜けカウンターの中へと入っていく。
「俺もガキの頃から飲ませていたお前さんが居なくなるって言うのは何か変な感じだよ」
黙ったままで自分を見ている陸に意味ありげに笑う。
「まあでも、良かったけどな。お前さんは日の下にいる方がいいよ」
「マスター…」
陸の顔を見ていた月島はしんみりした空気を嫌ったのか、突然陸の肩をたたいた。
「ま、とにかく今日は頼んだぜ。外で女の子達がカウンター席取るのに並んでるぜ」
そしてカウンターから出ると他のスタッフに声をかけた。
「店開くぞー」
平日にもかかわらず開店から店の中は女性客でいっぱいであった。
陸に声をかけてくる客も多くカウンターにはマスターが補助で入ってくれることもあった。
12時近くになると実紗が1人でやって来て丁度空いたカウンター席に座った。
「いらっしゃい」
陸が声をかけると実紗は少し照れたように頭を下げた。その後特に実紗と話すこともなかったが、実紗は陸が作ったカクテルを美味しそうに飲んでいた。
終電の時刻になるとさすがに客も減っては来たがいつもよりは賑わっている。今日のスタッフはナオとカズでシュウは休みであった。きっとこのまま最終日は終わっていくのだろう。
時刻が1時半も過ぎた頃入り口の扉が開き思いがけない客が入って来た。
美鈴であった。どうやら1人で来たらしく陸と目が合うと小さく笑った。ナオがすぐに気がついて美鈴の方へと行き笑顔で話しかけている。陸とカウンターを見たが空いている席がないので少し離れた2人がけの席を通す。すると今度はカズがやって来て笑って話しかけている。
「おいっ」
月島の小突きに陸ははっとした。
「手が止まってるぞ」
呆れ顔で月島は笑う。
その後も美鈴の事が気になって見ていると、辺りの様子を見ているかと思えば手帳に何か書き込んでいるみたいで楽しそうであった。時よりナオやカズが話しかけてくるので笑って答えていた。
「てっ」
よそ見をしていた訳でもないのだが、果物をカットしていたペティナイフで手を切ってしまった。グラスを取りに来ていた月島は顎で奥の方を指す。キッチンペーパーで指をおさえると陸は裏の休憩室へと入った。傷口を拭くが血が滲んでくる。絆創膏をつける訳にもいかないのでセメダインを傷口に垂らす。この応急処置は染みるのだが手っ取り早く傷口を塞ぐにはいい。セメダインが乾くのを待ってから陸は自分の頬を数回叩いた。最後の最後がこれではしまらない。カウンターに戻ると月島は陸をチラリとだけ見ると言った。
「5番のお客さんにカクテルを作って持って行ってあげて」
5番の席といえば美鈴が座っている場所だった。ふと顔を上げて見ると美鈴も自分のことを心配そうな顔で見ていた。陸は小さく笑うとカクテルを作り始めた。不思議と気持ちも落ち着いてきていた。出来たカクテルをお盆にのせると陸は美鈴の席へと行き片膝をついて座った。美鈴は驚いて陸を見る。
「どうぞ」
陸はグラスを美鈴の前に置いた。
カウンターから見ていた月島は思わず笑ってしまった。
「やっぱり本物のお姫さんの前では王子様になっちゃうんだねぇ」
グラスを片付けに来たナオは月島の独り言を聞いて横で小さく笑う。
「本当だ」
月島は笑い顔のままナオを見た。
「顔も全然違うもんね」
ナオはそのままカウンターに入ると流しに持ってきたグラスを洗い始めた。
「見送りは陸にやらせるんでしょ」
「ああそうだな。ま、その後追い出し会でも開こう」
月島はにやりと笑って言った。
カクテルを受け取った美鈴は陸の顔を見た。
「あ…えっと、私がいただいちゃって良いんだよね」
その言葉に月島がお節介をした事に陸は気付く。
「ありがとう。前のカクテルとは全然違うね」
今回のカクテルの色は白で赤いチェリーを添えてあった。
「何だろう、優しい匂いがする」
目を丸くしていたが口をつけて飲むと少し首を傾げながら言う。
「ミルクが入っている?」
「そう。当たり」
美鈴がうーんと唸りながらカクテルを見ているのを笑うと席を離れた。
その後の陸の表情は柔らかくなった。カウンター以外でも接客をして女性客と気軽に話す。女性客も嬉しそうに声をかけていた。
店が閉まる10分くらい前だろうか。ナオが美鈴の方へとやってきた。
「閉店後陸の追い出し会をやろうと思ってるんだ。美鈴さんも一緒にどうかと思って。もし大丈夫なら終わるまで休憩室で待ってもらっていい?」
「私もいいの?」
「もちろん」
ナオはにこりと可愛い笑顔を見せる。
「じゃあ、先に会計を済ませた方がいいよね」
「ちょっと待ってて」
ナオは席を離れカウンターの方へと行く。その時、カウンター席から自分のことを見ている女性客に気がついた。目が合うと女性は逸らして前を向く。カウンターには2人組の女性客が2組。そして1人で座っている今の女性が1組。わざわざ振り返って見られるような事を何かしていただろうか。思わず自分を見渡す。そうしている内にナオが戻って来た。
「千円です」
ナオの言葉に目が丸くなる。ナオはやはりにこりと笑う。
「それでいいの?」
頷くナオにお金を渡すとナオは素早く立ち上がりレジへとお金を入れると戻ってきた。美鈴も立ち上がると自分の荷物を持った。カウンターの方を見たが陸はおらず月島が接客しているの見える。ナオと一緒に扉まで来るとナオが扉を開けた。
「ありがとうございました」
「いいえ。こちらこそ」
美鈴はナオの言葉に笑って返すとナオは一緒に店を出た。
「ナオくん、大丈夫だよ。あそこから裏に入ればいいんでしょ」
店前で美鈴は足を止めたがナオは首を振った。
「うんでも一緒に行くよ。この通り結構物騒だし何かあったら大変だからね」
そう言うとナオは裏口へと美鈴を案内して扉を開けた。自分も入ると扉の鍵を閉め休憩室へと行く。
「後、5分くらいかな。店が終わるまで待っていてね」
そう言うとナオは店の方へと行ってしまった。
1人になった美鈴は辺りを見回す。何度か来たこの場所は何も変わっていなかった。月島と一緒に一度だけカウンターに立つ陸を見たが今日で最後になると思うと、どうしても来たかった。仕事を終えて、店が終わりの落ち着いた時間にと思って来たのだ。時計を見るとすでに3時になっており人々のざわめきと静かな音楽が店の方から聞こえてきた。時より陸を呼ぶ声も聞こえる。
そっと店の方を覗き込むと、ほとんどの客は帰っていて数人の客が扉の前で陸を囲んでいた。月島がカウンターに1人で座っていた女性と話していたが、女性は頭を下げるとすぐに扉の近くにいた女性達の後を追うように店の外に出て行った。扉は開いたままなので話し声は聞こえるがもう大丈夫であろうか。カウンターの方へと身を隠しながら近づいて行くと月島が振り返る。美鈴の様子に笑うと手招きをした。
「久しぶりだね」
美鈴は月島の横まで来るとお辞儀をした。
「そうですね。春以来かな?お久しぶりです」
カウンターに寄りかかりながら月島は扉の方を見ながら笑う。
「陸のヤツ、あれから全然美鈴さんを連れて来てくれないなあと思っていたが、その理由が今日分かったよ」
「何かあるんですか?」
まったく分かっていない美鈴の様子にも笑う。
「まったく集中できてない。誰かさんのことばかりみてる。手も切る。何やってんだ、って思った」
「…カウンターの前に1人で座っていた女の子?」
「いや、そこは違うでしょう。鋭いけど」
月島はグラスをカウンターに並べながら苦笑いしてしまった。
「店に来る事は言ってなかったみたいだね」
「あー、きっと嫌がると思ったから。でも最後だから見ておきたかったんです」
美鈴の笑い顔に月島は頷いた。
開いた扉からナオとカズが戻って来たが陸はまだ戻って来ない。
「お疲れ様です」
美鈴が2人に声をかけるとカズがおかしそうに美鈴の前へとやって来た。
「そういやあ、美鈴さんが入って来たときの陸の顔笑っちゃったな」
「あ…そういえば目が点になっていたね。時間が時間だったし」
「最後の最後で陸のやつをいじめられるな」
カズは笑って言ったがナオが止める。
「何でカズはそう言うこと美鈴さんの前で言うかな、まったく」
「えーいいじゃん。あいつの変わりっぷりを見てみたいし」
「いや、何も変わらないよ」
さすがに美鈴もカズの言葉に苦笑いした。
その時、突然男の怒鳴り声が外から聞こえた。美鈴は咄嗟に扉に向かっていこうとした所を月島に腕を掴まれ止められてしまった。
「ナオとカズは美鈴さんとここにいな」
そう言うとマスターは外へと出て行った。扉を閉めたので物音も話し声も聞こえない。
ナオとカズは顔を見合わせるとナオが美鈴の横へと来た。
「大丈夫だよ。マスターに任せておけば」
「ナオくん、さっきこの辺り物騒って言ってたけど何かあったの?」
心配そうな美鈴の顔を見てナオは首を振る。
「うちの店のことではないよ。ただこの辺りは風俗店も多いから色々と揉め事もあったりするからって言う意味」
美鈴が落ち着くようにナオは穏やかに言う。2人の後ろをカズが通り抜け扉の方へ行くのに気がついて美鈴の足が動きそうになるのに気がついたナオは少し強い口調で言った。
「美鈴さんはここにいて」
そんなナオの顔を見た美鈴は仕方なく頷いた。
「分かった。動かない」
月島が外に出ると隣の店の奥まった入り口に陸と柄の悪い男達と以前店の裏口で実紗と揉めていた男がいた。実紗といえば、男達の横で泣きそうな顔で必死に懇願していた。陸は胸ぐらを掴まれていたが手を出さず掴んでいる相手を睨みつけていた。しかし月島が出てきた事に気がついたようであった。
「あららら」
月島はため息をついた。
「だからこの人は何も関係ないんです。この間は勝手に名前を出しただけで本当に何もないんです」
実紗はベソをかきながら男の腕を掴むが男は実紗の言う事を何も聞いていない。
「健気だねぇ。だが知り合いみたいじゃないか。今日も店来てこうして話してたんだろう」
柄の悪い男のもう1人が笑いながら実紗の方を見た。
「後は任せたからな」
実紗と揉めていた男は、2人の男に言うと実紗の腕を掴むと引きずるように連れて行く。実紗も体が強張っているのか抵抗もできないでいた。陸は襟首を掴んでいた手を掴むと膝蹴りを相手の腹に決めた。男は油断していたらしく思いのほかあっさりと腹をおさえて倒れ込んだ。
「貴様っ」
もう1人の男はポケットからナイフを出したが、陸がナイフを持つ手を掴む方が先であった。そして顎に向かって一発殴ったところで男は壁にぶつかり倒れた。実紗の方を見るとすでに月島が男の手をねじり上げていた。
「おや?どっかで見たことがあると思ったら竹下んとこの坊ちゃんじゃないのかな」
男の顔が引きつるのが分かった。
「親父さんは知っているのかい?うちの店のもんに手を出したって事」
月島はにやりと笑った。
「何も知らない下っ端を連れてきたら駄目だろ。怒られるだけじゃ済まされないよ」
男はガタガタと震えだす。
「早くあいつらを連れて帰りな。あとね、嫌がる女の子に付きまとっちゃ駄目だよ」
そう言うと手を離した。男はよろけながら陸に倒された男達を見た。
「何やってんだ!行くぞ!」
男達は腹の虫が収まらない様子であったが男のただならぬ形相に仕方なく後をついて行った。陸は息を吐くと月島と実紗を見た。月島は店の入り口で顔を出していたカズに軽く手をあげると陸を見た。
「お前は戻れ」
陸は頷くと実紗をみた。
「…じゃあ気をつけて帰れよ」
「あ、ありがとう」
実紗の言葉に陸は小さく頷くと店の中に入って行った。
月島はハンカチを取り出し実紗に渡す。
「ちょっと歩きながら話そうか」
実紗は頷いた。
駅の方へ向かいながら月島は首の蝶ネクタイを取る。
「単刀直入に聞いちゃうけど竹下の女だったの?」
実紗は少し間を置いてから頷く。
「ヤクザだって知ってた?」
実紗は首を振った。
「…私、家を出て来て知り合いもいなくて私を見てくれる人なら誰でもいいと思って。寄りかかって甘えたかったの…」
「…竹下は甘えられるような男じゃないだろう?」
実紗は小さく笑うと頷いた。
「陸は寄りかかれそうだと思った?」
実紗は再び笑う。
「陸くんは見ていて、周りに流されないで自分を持っているって感じがして憧れていたんだと思う。私も強くなりたいから」
「まあ、周りに流されるようなヤツじゃないね」
「お店を辞めるって噂を聞いてから陸くんを待ってたり店に行ってたら、私の他にも女の人がいたんだけど面白くなかったみたいでこの間の事や今日みたいな事になってしまって本当にすみませんでした」
「いや、きっと君に手を出す事はもうしないと思うよ。だけど今いる店からは足を洗った方がいい。あそこは竹下の息がかかっている店だからね」
実紗は頷いた。大通りに出ると月島は信号で足を止めた。
「陸くん、やっぱり彼女がいたんですね」
実紗は突然ぽつりと言った言葉に月島は笑う。
「やっぱり気づく?」
実紗は頷いた。
「だってあんなに見つめているんだもん。他には誰も見えてないみたいだった」
月島は笑いながら頷いた。青になった信号に足を進める。
「あいつのお陽様なんだよ彼女は。夜の街じゃなくて日の当たる場所に連れて行ってくれる子なんだ」
実紗は口許に笑みを浮かべると頷いた。
タクシー乗り場まで来ると待っていたタクシーがドアを開けた。実紗はお辞儀をした。
「ありがとうございました」
実紗がタクシーに乗り込むと月島は運転手にお金を渡す。
「よろしく。お釣りはとっておいていいよ」
運転手は頭を下げる。
「あのっ、私が…」
月島は実紗の言葉を止めた。
「君も日のあたる場所に帰りな。まだ間に合うから」
そう言うと片手をあげ後ろに下がる。タクシーのドアが閉まり月島はゆっくりと歩き出した。
3時も過ぎているのに街の明かりは消える事はない。
「眠らない街か…」
ぽつりと月島はつぶやいた。
店に戻った陸は美鈴を見て何故かほっとした。しかし、美鈴は心配そうに自分を見ている。
「大丈夫?マスターは?」
ナオの言葉に陸は短く答える。
「もう少し後から来る。…悪ぃ、ちょっと2人にさせて」
そう言うと美鈴の手をひくと奥の休憩室へと入って行った。そして振り返ると何も言わずに突然美鈴を抱きしめた。驚いたが陸の気持ちが落ち着くまで美鈴は何も言わずに黙っていた。暫くして陸がぼそりと尋ねてきた。
「もう電車なかったろ。何で来たの?」
「タクシーだよ」
「そっか…」
陸は手を緩めると軽く抱きしめたまま尋ねる。
「仕事は今日あるの?」
「ううん、休みだよ」
「…俺に教えてくれなかったよね」
美鈴は小さく笑う。
「驚かそうと思って」
「驚いた」
「あ、そういえば、月島さんが手を切ったって言ってたけど大丈夫?」
美鈴は陸の手を取ると指を見る。
「何?水絆創膏?」
「違う。ただのセメダイン。血を止めないと仕事にならないから手を切った時はこれを使うんだ。しみて痛んだけどね」
美鈴が痛そうな顔をするのを見て陸は笑うと軽いキスをして抱きしめた。いつもの陸とは違い何か静かに甘えている感じであった。
「今日来てよかったよ。皆んな嬉しそうに陸の作ったカクテルを飲んでたし楽しそうにおしゃべりしてたね」
美鈴の言葉に陸は小さく笑った。
「美鈴はやきもち妬かないからな。でも俺が見たときは何か書いてたり周りばかり見て俺のこと見てなかったじゃん」
「ちゃんと見てたよ。カウンターのお姉さん達と笑って話していたし一人で座っていた女の子の事も気にしていたよ」
「あーー、もういいって。悪かったよ」
陸が渋い顔をした。ちょうどその時扉の開く音が聞こえた。
「マスター帰ってきたかな」
視線を店の方に向ける陸の手を美鈴がとる。
「陸の追い出し会をしてくれるんだって。行こっ」
休憩室から2人が出てくると店に戻ってきた月島が白い目で陸を見た。
「お前、俺がいない間に何美鈴さんを連れ込んでるんだ」
ナオとカズが笑う。
「話をしていただけだよ!」
「嘘つけ。イチャイチャしてたんだろ」
カズがニヤついて言った事に今日はナオも笑って止める事はしなかった。
「てめぇ、自分が女待たせてホテルに行ってるからって一緒にするなよ」
「別にいいだろう。あっちが誘ってくんだし俺は彼女がいないんで自由の身なんだよ」
「だったら、美鈴は俺の女なんだよ。どこで何しようといいだろ」
珍しくエキサイトする陸に美鈴の顔が赤くなる。
「いや、それはちょっと…」
さすがに横にいたナオも助け舟を出した。
「2人ともいい加減にしなよ」
さすがに陸はそれ以上何も言わなかったが、カズはナオにまでちょっかいをかける。
「ナオは優しいよな。その一言で女は騙されるよな」
カズの言葉にナオはニコリと笑った。
「カズ何が言いたいの?」
さすがにカズも言い過ぎた事に気がついたようであった。
「いや、お前も女好きだよなぁって」
「そりゃそうだよ。俺だって男だよ」
ナオの言葉に美鈴は何やら意外な一面を見たような気がしたが3人ともまだ20代前半の男なのだ。当たり前なのかもしれないが、あまりのストレートに戸惑ってしまった。いい加減、月島も呆れて口を挟んだ。
「どうでもいいが、そろそろグラスを持ってきてくれないかな。美味いシャンパンが冷えてるんだよね」
「へぇ…また新しいヤツ?」
陸の言葉に嬉しそうに冷蔵庫から取り出す。
「そうそう。ロゼなんだけどナカナカでね」
ナオがグラスを机に並べる。
「いやーー、美鈴さんが居てくれて本当に良かった。男同士で飲むにはもったいないと思ってたんだよ」
気持ちの良い音をたててシャンパンの栓があき、グラスに注がれた液体は本当に綺麗であった。炭酸がはじけてグラスの中でキラキラしている。
「綺麗な色ですね。何だかシャンパンって宝石みたい」
美鈴の言葉に月島は嬉しそうに頷く。
「ああ、やっぱりシャンパンは女の子と飲むものだね。品がないヤツらと飲むもんじゃないな」
「マスター、それ俺らのこと?」
カズが文句を言う。
「お、自覚してるならまだましか」
月島はにやりと笑うとボトルを机の上に置いた。
「味わってくれよ。そこらの酒とは違うんだからさ」
「へぇ…」
ナオもグラスを取ると覗き込む。陸も2人分のグラスを取ると美鈴に渡す。
「ありがとう」
美鈴の嬉しそうな顔に陸は小さく頷いた。
「よし、皆んなグラスを持ったな。そんじゃあ、お疲れさん。乾杯!」
「乾杯ーー!」
5人のグラスが重なり合った。
「行っちまえ、行っちまえーー」
「美鈴ちゃんはまた店に来てね」
「幸せにねー」
笑いと怒鳴り声の騒ぎが明け方まで続いた陸の追い出し会であった。
『カノン』のメンバーは元気があって書いていても楽しいです。
彼らの短編もあるので、また載せていきたいと思います。
次回のお話は一部R-18 作品となります。