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機皇の国  作者: Gno00
第四章 帝都激震

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海氷禍歌・三番

 厚氷の上で灼熱と火炎が撒き散らされる。しかし、氷の頑強さが勝るのか、はたまた炎熱が干渉しないのか氷が融ける気配は無い。

 物理法則を無視した現象を引き起こす異形――ハーヴェルは蛇腹状の腕を伸ばし振るっては巨大な蛸足を次々と切り裂いていた。


 氷上に、海上に、断面の焼けた蛸足の数々が落ちていく。それでも巨大蛸は怯む素振りすら無く、まだ無事な足を鞭のように振り回す。



「メカで無く、痛みを物ともしない。質量任せの単調だが厄介だな」



 そして、切られていない足が1、2本になったところで両者の頭上より液体が雨となって降り注ぐ。

 既に切られていた足が光に包まれて数秒後に元の形に戻る。戻っては再び豪快な打撃が次々とハーヴェルへ襲いかかる。

 『フレイム・ネクター』の運動性向上の効果により対処は追いついている。が、優秀な後方支援が野放しでは不利な持久戦を強いられるのみ。



「おまけに、サポートも充実と来た。…これは引きずり出されたと見るべきか」



 ハーヴェルは戦いの最中で、哨戒部隊の保有戦力の全容を探ろうとしている可能性を思考する。

 ヴィゴロント内で待機している戦力も投入すれば確実に勝てる布陣ではある。

 寧ろ、そうする事こそが狙いではないか。魔女側に追加の戦力が無い事は判明しても、魔女が即時撤退を実行しないとは限らない。


 思考を加速し最適解を探っている間に、背後に元海賊の部隊が到着した。



「ハーヴェルの(あに)さん。俺らは何をすりゃ良いですかい?」


「――丁度いいところに来たな。こっちは俺だけで間に合うから海竜を押さえてくれ。あれをヴィゴロントに近づけさせるな」


「となると、部隊戦力の調査が目的と踏んでるんですかい?」


「分かるならすぐ動け。これ以上暴れられてからでは面倒だ」


「あいよ」



 巨大蛸を迂回する形で、海軍のものに似た戦闘服を着用する男達が氷上を滑っていく。

 その間に牽制として放っていた焦熱が効果を発揮し、元海賊達が通過する間にも蛸はハーヴェルを注視していた。

「後は…」と呟く矢先、大きな影が空から通り過ぎていく。ガレオン船が敵の後方支援を叩くべく動いたのを見て、蛸足と蛇腹腕の応酬は再開した。





 北風を弾く結界を展開しながら操舵手が適度に舵を切りつつ、空中から巨鯨を追う。

 後方支援をしつつ距離を取るのを繰り返す巨鯨は空から自分が狙われていると知ると氷海に潜り始めた。

 海中に入ったところでそれを追跡する手段はある。クォーツ状の物体を掲げた船員達が魔力反応から巨鯨の位置を突き止めペシュトゥイアに共有する。



「逃がすかぁ!」



 使用武装:古式嵐弩

 技能:弩砲・《ストーミングアロー》



 ペシュトゥイア自らが操作し、発射する大型バリスタは設備に彼女自身の魔力が上乗せされ、より強力な魔法矢を生み出す。

 飛び出したのは音速で吹き荒ぶ突風。ビームにも似た一撃が巨鯨の居る場所を海面ごと撃ち抜いた。直後、球状に抉れ弾け飛び、巨鯨の肉体が露わとなる。

 一瞬程の現象であれど、有効ではあったようで。徐々に赤黒く染まる一部の海面がそう判断できる根拠だった。


 しかし、浮かれてはいられない。姿勢制御を整えたガレオン船は距離を更に詰めるべく空中から、浮上する影へ迫る。

 一方の影――巨鯨はガレオン船を睨みつつ少し抑えた噴気を上げた。

 降り注ぐ雨が受けた傷を光で包み癒していく。癒やしの力を自分にも使える事実が明らかとなるが淡き花の海賊団の戦意は消えない。


 寧ろ、主力を押さえてくれている彼らの事を思えば。

 何としてでも仕留めなくてはならない、と気を引き締めるのが今の彼女達だ。



「飽和攻撃をしたいところですが…弾切れを考えると」


「その必要は無い。他の手はある」



 砲座を降り、提げていた銃の弾を込め直すペシュトゥイアの視線の先には、待機している蝙蝠型のメカが居る。

 使い方をメカ自身にレクチャーしてもらった事で、指示さえ送れば何時でもヴィゴロントからの支援を受けられる状況となっていた。


 更に、ガレオン船真下の海面に筋肉軍団が到着する。

 彼らの威勢のいい声が魔力感知をするクォーツ越しに響く。



「おっしゃ行くぞお前らァ!!」


『ウオオオオォォォ!!』



 海上を滑る彼らは次々水を司る青い魔力のオーラを纏い、巨鯨へ接近する。

 空からの追っ手に背中を海面から出しながら逃げていた巨体が、海上を滑走する複数の人影を一瞥すると素早く身を翻し巨大な尾びれで海を叩く。

 同時に生じた大波が彼らを飲み込まんと押し寄せる。しかし、物怖じなど無い。



「そんくらいでぇぇぇ!!」



 技能:腕・《合体攻撃・波()きの銛》



 3人が最前に出て、一斉に正拳突きを繰り出す。勢いに沿って流れていく魔力が互いに混ざり合って威力を増幅させる。

 そうして大波と衝突した青の力が波の根本へ大きな穴をこじ開けた。それを潜り抜けて間髪入れずに次の手に取り掛かる。

 最前の配置を入れ替わり、今度は4人が構えを取った。



「止められると思うなぁぁ!!」



 技能:腕・《合体攻撃・掲揚万丈》



『せぇぇぇ、のぉぉぉ!!』



 端の配置になった2人がそれぞれ、左腕と右腕を横薙ぎに振る。真正面に来たところで止めると、巨鯨の肉体が圧迫される。

 当然、藻掻き抜け出そうとするも、巨鯨を固定する力の方が強い。この拘束を解除すべく鯨の口内に青い魔力が収束し塊を形成するが、その間にも内側の2人が体を前に倒し、両拳を海面に付けた。



『ばん、じょおおおおおおッ!!!』



 力みを加えたところで、勢いよく振り上げる。すると、巨鯨の体は呆気なく海から放り出された。

 ウィンディ・レーヴェス・ローズ号と違い、空中の航行能力を持たない巨鯨はこうなってしまえば為す術が無い。


 これを狙っていた元海賊達は更に次の攻撃に移行する。

 放り出された魔力の塊が水面を大きく揺らすのを物ともせず。



 技能:腕・《間切五月雨》



 腕を素早く振るえば、その度に空を切る水の刃が飛んでいく。若干の追尾軌道を描くそれらは巨鯨の肉を続々と切り裂いていった。

 しかし、《間切五月雨》だけでは手数が足りない。不足を補う為に通信装置がガレオン船で控えていた。



『お嬢さん方! 援護を頼みますッ!!』



 蝙蝠型メカ越しに聞こえてきた怒号に、淡き花の海賊団は直ぐ様応じる。

 大砲の一斉射撃。これこそが返答だった。



 使用武装:古式大砲×12

 技能:砲・《旋風の魔弾》



 撃発の衝撃を防御魔法で軽減し、飛んだ緑軌の砲弾は全て巨鯨へと特異な軌道を描いて迫る。

 裂傷の数々に更に砲弾そのものと爆発の質量が巨体に命中していく。効き目の具合を示すように巨鯨がうめき声を上げた。


 その間にも斬撃の数々は飛んでいき、ガレオン船の船首の薔薇が光を強めていく。丁度、空中の巨体が降下し始めた。

 巨鯨の鼻の位置が真下を向いた途端、巨鯨は噴気を上げる。すると、勢いが弱まった飛沫が巨体にかかり、少しずつながら傷を癒やしていった。



「――弩も撃て! 奴の回復を間に合わせるな!!」



 使用武装:古代嵐弩×6

 技能:弩砲・《ストーミングアロー》×6


 

 目敏く見ていたペシュトゥイアからの怒号に応じ、弩砲に次々と配置に付く。操舵手が射放ちやすい位置に付けたところで矢もまた五月雨式に飛んでいく。

 無防備になった爆破の数々に緑風纏う矢が加わり、降下中の巨体への攻撃が更に強まった。

 鯨は絶えず噴気による回復を続ける。が、受ける損傷に回復力が追いつかないと判断したか体を半回転させる。



 技能:尾・《ペルクティオ・マーレ》



 その慣性を利用した水の魔法。尾鰭から放たれる津波は周囲に誤認させるには十分だった。

 もう海上へ来てしまったのか。いや、()()そうじゃない。急ぎ船体側面を見た一部の乗組員が他の面々へ告げる。

 この間にもガレオン船を呑み込まんと津波は迫ってきていた。獲物に狙いを付けた海鳥を逆に食らってしまおうとする魚のように。



「ぐっ、結界の出力を上げろ!」



 苦し紛れの可能性…は低い。本来海上で使う想定の技能は空中でも転用出来る。これを証明しただけの事。

 しかし、意表を突くには十分で。押し切る場面で攻撃の手を緩めなくてはならなくなった。


 出力が上がり、衝突する津波を結界が受けきっている一方で、ペシュトゥイアは近くに居た船員に耳打ちする。

 短い返事の後、指示した内容は半透明の緑に覆われながらも発光を始める薔薇の船首が証明していた。


 連打が出来るのか、巨鯨は更に津波を繰り出す。2度、3度、4度と結界に衝突する度小さくない衝撃が船員を甲板ごと揺さぶる。

 結界を維持したまま、船首の発光を強める。が、急に衝撃が止んだ事で少女は違和感を覚えた。味方の援護が静まったのも相まって。

 船体側面に移動し半透明の結界越しに周囲の様子を探る。真正面へ構えていた筈の巨鯨の姿が見えず、頭上に気配を感じたのはそのすぐ後の事だった。



「なぁ…ッ!?」



 間抜けた声が出たのを恥じる暇すら無い。何故ならば目の先に頭を()()()()巨鯨が迫っていたのだから。





 振り下ろされていく蛸足を次々熱の刃で断ち切り、残骸が次々と転がっていくのを尻目に。

 残りの一本だけを構えた様子で向き合う巨大蛸へ、両腕を引き戻して拳を構えるハーヴェル。

 そして、氷面を力強く蹴って、すれ違いざまにその一本すらも得意の《フレイムカッター》で切り裂いた。


 寒空で宙を舞う巨大物体の下、ハーヴェルは向き直って投げかける。



「そろそろ奥の手を出したらどうだ。お前はこんなものじゃ無いんだろう?」


「……」



 黙したままの巨大蛸の目が少し歪んだ、気がした。

 顔面の円の半回転と同時に、巨大蛸の足が全て生え変わる。一番手前左側の足が落ちてきた蛸足を掴み振り下ろした。

 長いリーチになった鞭打は本来よりも加速する。不可視とも言える一撃が、跳躍したハーヴェルの真横に爆発が如き氷霧を撒いた。


 氷面を蹴って飛んだ体勢のままハーヴェルは鞭打の威力そのものより巨大蛸の再生能力に目を向ける。


 

「蛸は切り離した足を再生する能力があるらしいな。巨鯨の回復をわざわざ受けたのはこれを隠す為か」



 蛸からすれば()()()()()()()()()のだろう。思い込みから来る早まった真似を誘い出せるなら上々だったというだけで。

 そうした考察をした上で思考回路による巨大蛸の脅威レベルを上げる。5秒足らずで再生を完了させる自己修復能力の高さを評価して。

 仕切り直し。だが、事態は水面下で悪化しつつあった。それにハーヴェルが気付いたのは足が引っ張られる感覚を抱いた時。



「ぬおっ」



 厚氷に体が若干沈む。足元を確認すればハーヴェルが切り裂いた足の数々、この先端が短い両足に巻き付いていた。

 氷をすり抜けるそれらは氷越しにハーヴェルを海中へ引きずり込もうとし、ハーヴェルは抵抗する。

 脅威レベルの更なる修正の最中、警報装置がけたたましくなる。次の鞭打が振り下ろされようとしていたが故に。





 近接戦闘から射撃戦へシフトした戦いは激化していく。ブラストビットの熱光弾による弾幕が杖を扱いて推進力を得る魔女を追い立てる。袖下のように備え付けられた細長い銃口、その照準内へ誘い込むべく。

 魔女は構えるマディスの姿が見えていても、執拗なまでに射撃するブラストビットへの対処を優先せざるを得なかった。

 跨った杖の上から魔法弾で迎撃しようとするが、慣れない所作故に弾幕の密度の差は歴然だった。


 切り返して速度が若干落ちたところを、マディスは見逃さず照準誤差を修正する。



 使用武装:スペースノッカー

 スキル:《ブラックバレット:フリッキングボム》



 撃ち放ったのは、先程使用した強烈なノックバックを生む弾丸。それは魔女モルシェティの背後で起爆した。



「うわぁっ!!?」



 強烈な斥力で体勢を崩され、弓なりの体勢になったままブラストビットの側へ大きく弾かれる。

 その間にも距離と位置を修正した漆黒の刃は熱光弾を連射する。防御膜が反応しモルシェティは身の危険から行動に移る。



「くうぅう!」



 技能:《ハイマジカル・ラウンドシールド》



 半透明の円盾を展開し熱光弾を防ぐも。上や下から、防御範囲を掻い潜ってブラストビットは熱光弾を射撃する。

 下は防げても上が疎かになった事で、遂にモルシェティは熱光弾の爆発で撃ち落とされた。


 爆発の威力を示す大飛沫を上げたのに対し、マディスはスペースノッカーへ装填した次弾を発射した。



 使用武装:スペースノッカー

 スキル:《ブラックバレット:ディストーションストーム》



 白煙を突き破って姿を表す黒き弾丸。

 呼応するように、ブラストビットも七色光を充填し始める。



 使用武装:ブラストビット

 スキル:《カオスフラッシュ》



 距離を詰め放つは混沌を冠する消滅光線。それの狙いへ弾丸を破砕し真正面へ伸びていく漆黒の奔流が合流しつつあった。


 ひっくり返った円盾の上に、少女の体は押し付けられていた。衝撃の威力が残っており、まだそこから動けないまま。

 自分を狙う七色光、視線を移して黒き奔流を目の当たりにする。その上で、考える。なぜあれらと同じ事が出来ないのか。

 調査に出向く。出向いた先で力の差を見せつける。これを、そっくりそのまま未知の敵にやられている。


 

「く、うぅ……」



 言語化出来ずとも、少女は『壁』を認識していた。打開には行動が必要だが、その行動が出来ない。

 こうしている間にも身の危険は迫りつつある。何か、何か――――。



 ――頭の中から抜けていた()()。己の意思で真っ先に仕込んだものを、視界に映り込んだ事でようやく思い出す。

 海上を突き進み、少女の前に姿を現したのは黒く染まった海竜。長い首を振り回しながら高圧水を口から放射し、漆黒の奔流の軌道を大きくずらして七色光を爆破し相殺する。



「なっ、あっ……」


「何?」


「すいやせんマディスの旦那! 誘導ミスっちまったぁ!!」



 モルシェティとマディスがそれぞれ呆気に取られる中、海竜は倒れた体勢のままのモルシェティを少し睨み、次に追っ手を一瞥しヴィゴロント方面へと潜航し進んでいく。

 次に姿を現したのは足だけで海上スキーをしながら海竜を追う筋肉軍団。彼らは失態を取り返すべくスキーの速度を上げて猛追していった。



「ヒューマンエラーって奴か…異種族との連携は難しいな」



 人間…つまりは異種族戦力の、初の実戦投入。将来的にエルタ帝国戦力との共闘を視野に入れている以上、避けては通れない道。

 すれ違いざまの口ぶりからして、ミスがあった事をマディスは認識する。対する魔女は体の硬直が解けた。

 解けた。が、すぐに動けずにいた。今度は心理的な問題によって。



 (次の手を――でもふせがれたら?――ばりばりこわい…――なぐられるのいや――)



 勢いを削がれ思考がネガティブになるそんな中、両親の顔が思い浮かぶ。

 意を決し、モルシェティは――――



「やぁあああッ!!」



 使用武装:試製魔導練杖:オービス

 技能:《らンブる★サーキュラー》



 実効よりも、臆病風を吹き飛ばす事を選んだ。



 


 氷漬けから元通りになった荒鮫の突進は増々勢いを強めていく。

 砕氷船が如き猛突進、躱されたならば急速旋回し錐揉み回転を加え跳躍する。



「ほんま、執念深いっ、なっ!!」



 スキル:《氷蝕腕・杵搗餅》



 荒鮫の猛攻をいなしつつ、冷気を纏った左腕を振り下ろす。そこから振り上げれば厚氷の6箇所が独りでに伸び、荒鮫へと迫った。

 象牙が如き形状に変化した氷の数々を高度を上げ回避するも、巨大な影が空中の鮫に覆い被さる。

 鮫が忙しなく首を動かすと、銃杖を持ち替えたジャモラクの姿が氷上にあった。



 使用武装:凍冷銃杖マク・ハペト

 スキル:《大瀑布凍槌》



 空中に固定していた堅氷大鎚を落とす。魔法による操作で推進力の加わった大質量が荒鮫の背中に直撃し、変わり果てた海である厚氷に叩きつけた。



「………!!」



 瞬間、舞い上がる冷気と共に巨体から大凡出てはならない音が、声にならない悲鳴の代わりに上がる。

 堅氷が罅割れ崩落していく間にもジャモラクは淡々と銃杖の次の弾を装填していた。



「蘇生や回復に頼れんからって、何もかんも投げ出す腹や無いんやろ?」


「……」


「ワテの銃とそのボロボロの体。今はどっちが速いやろな」



 僅かな身震いをする荒鮫へ銃身から先にかけて低温になっていく不可思議な銃を構える。

 極低温下に於いても問題無く扱える仕込み銃というコンセプトを実現すべく、魔導工学の高度な技術を取り入れたそれは使えば使う程冷えていくという、銃としては真逆の性質を備えていた。

 あらゆる暴発の可能性を魔法(ズル)で黙らせた機皇国の到達点、この一部を扱えるが故に(ジャモラク)はグレードS-の域に席を置いている。


 どんな足掻きをされても良いように、ある程度の距離を取って撃ち貫く。この意思を目の当たりにし荒鮫も意を決する。

 ぎこちなく開いた大口にある鋭い歯の数々が、射出された。



 技能:《トゥース・ミサイル》



 何の捻りも無い技名のそれらは鮫の性質を利用する事で実現する。鋭い歯の数々が散弾銃を連射したような弾幕を形成させジャモラクの目の前より迫り来る。

 が、スキルの後出しであっても余裕を持って対処可能な速度は構えを崩すには至らなかった。



 使用武装:凍冷銃杖マク・ハペト

 スキル:《凍冷徹甲弾》



 再び銃口を冷やし尽くす高速の弾丸。それはレーザーが如き真っ直ぐな青白い軌道を描き、一瞬にして荒鮫の肉体へ到達。貫通する。

 軌道上にあった歯の数々を凍らせ砕き、鮫の巨体もまた瞬時に同じ末路を辿った。


 白煙ならぬ冷気を上げる銃口を下ろし、飛んでくる拡散弾――鮫が生きた残滓を逃げずに待つ。



「なるべく使わんようにしとったけど、しゃーないわ。持っていき」



 スキル:《援護防御:ウォールシェア》



 せめて、()()()使()()()()()()()()()()()、と。今度は茶々は入らないと確信し特殊なシールドによって牙の数々を防ぎきった。

 ヘクスウォールと同じようで、細部が異なる簡易版。ジャモラク側が有するスキルでは無く、同じ戦場に要るヴィゴロント、つまり《エクリプスアーク》の持つスキルの一種だった。


 一定の確率で発動する、この強力なガードスキルへと装甲の値へ大幅な上昇効果をも付与する《防御指揮》という名のスキルが足されている。

 このような状況を生み出せるヴィゴロントが、直接援護せずとも戦場に留まっている理由の大凡半分を占めていた。


 防御スキルの発動と同時に、レモンイエローのサークルがジャモラクの周囲で発生する。否、非表示が一時的に解除されたのだ。

『CONNECTING』と表記されたそれは、防御スキルの解除と同時に再び非表示状態へと戻っていった。


 鮫の残骸である氷の粒が海面に漂う中、杖を下ろしたジャモラクはハーヴェルとマディスの居る方面へと向き直る。

 海底より夥しい数の反応――第三勢力もしくは所属不明を示す黄色い点の数々がじわじわと近付いているのを敢えて無視したまま。





 振り下ろされた巨大蛸足はハーヴェルに接触する寸前で展開されたシールドに阻まれる。

 この堅盾が《ウォールシェア》によるものだと把握するのに然程時間はかからなかった。



「飽きる程見ているが…慣れんな。慣れるようなもので決して無いが」



 レモンイエローのサークルと同時に発生したシールドの耐久と鞭打の威力は拮抗しているようで、蛸足を押し留めている。

 その間に足を引っ張り上げ、尚も引きずり込もうとする残骸に右腕に纏う赤黒い炎を振るう。



 使用武装:パイロプロセッサー

 スキル:《反属性(アンチ)魔法(マジック) ネガフレアスライサー》



 ハーヴェルの足元を薙ぐ炎の右腕は厚氷をすり抜け、千切れた蛸足だけを更に二等分へと焼き斬る。

 既に本体とは分離している以上、無意味なようでいて、効果がある事を直ぐ様証明した。



「!!!!!!」



 巨大蛸が珍しくうめき声を上げ、ハーヴェルの足に絡まっていた蛸足が緩み厚氷の中に収まって動かなくなる。

 3つの円を半回転させながら一歩進み、目の前の巨大な図体を見る。8本全て生え揃っているにも関わらずその場で激しく暴れていた。



「やはりフィードバックは効くか。お前が久しく忘れていただろう()()の感覚はどうだ?」



 反属性と呼ばれる、ダークスチールのみが有する特性。

 《マギア:メタリズム》の基本属性となる物理、魔法、光学のいずれかの性質を破壊する特性であり、無力化は勿論使用した属性に基づく追加効果の発動をも可能とする。

 これを用いた対魔法スキルで分離した蛸足を切り裂いた事により、操っていた術者――巨大蛸自身へその威力に基づくダメージを与えた。

 外側からでなく内側から。痛みを感じない生物にすら痛みの感覚を取り戻させる自信は、この特性を持つが故にあった。


 ひとしきりのたうち回った蛸の目が大きく歪む。「次に取り戻したのは怒りか」、と対し思考するハーヴェル。



「お前のその感情は『憎悪』から来るのか? 『恐怖』から来るのか? お前自身が示してみせろ」



 試す問いへの返答は、巨体で以って荒々しく水面を叩く挙動によって示される。

 迫る猛威に呼応するように、ハーヴェルもまた赤き炎を纏いて攻め入る。腕を段階的に伸ばしながら。



 技能:《ハンマーラッシュ》



 接近する灰色のメカへ蛸足の乱打が迫り来る。それらに対し赤き炎は緑へと変色した。そして――――



 使用武装:パイロプロセッサー

 スキル:《反属性(アンチ)物理(フィジックス) メルトファイア・スライサー》


 

「ふん!」



 反属性へと変化した炎刃が迫る蛸足の数々を、順番に焼き斬っていく。斬られた足の本数に比例して鋭い痛みが増幅し、巨大蛸本体へと襲いかかった。

 激痛に苦しむ間にも振り下ろした蛸足は止められずハーヴェルに近いものから次々と、足が斬られては海に放り捨てられていった。


 激痛と反属性の影響で蛸足の再生は鈍くなっている。全て切断面の露出した物へと変えていったハーヴェルは更に肉薄する。

 厚氷を踏み砕き、彼の体はその勢いでもって大きく跳んだ。

 『クリムゾン・シェイク』の運動性向上の効果により大きく跳躍して尚も彼の体は加速を続ける。


 そして、『ホット・アクア』のスキル追加効果性能向上の効果で以って、繰り出すは渾身の一撃。

 適度に縮んだ両腕が回転を始め、付随して彼の体も回りながら加速する。



 使用武装:パイロプロセッサー

 スキル:《レッドホットサイクロン》



 赤き灼熱を纏いて放つは破砕の竜巻。自らが中心となる突進技が巨大蛸の顔面へと一瞬にして衝突する。

 妨害として吐き出された蛸墨すら焼き焦がし。頭部を、胴体を細かく切り刻んで焼き溶かし風穴を開けた。


 大きな肉体を貫通し回転を緩めつつハーヴェルは足から着地する。そして、巨大蛸の最期を見た。

 残った肉体は黒ずんで徐々に崩壊し、やがて跡形も無くなる。



「残骸1つ残らんか。生物の死とは思えんな」



 巨大蛸のごく一部だった黒い塵すら北風に吹き飛び、その場には佇むハーヴェルの姿しか残らなかった。






 電撃の放たれたような音が鳴り響く。直後の強い光に目が眩んだペシュトゥイアは少しの間目を瞑る。

 瞑っている間に状況に進展が起きた様子は無く。違和感を感じた彼女は目が慣れた事で徐々に目を開ける。


 目下では、巨鯨を突如として展開されたシールドが阻み、押し留めている。



 スキル:《援護防御:ウォールシェア》



「こ、れは……」



 見覚えの無いシールド。そして、ガレオン船を囲うレモンイエローのサークル。

 急ぎ船員に確認を取るが、彼らも知り得ない能力であった。

 すると、船の手すりで待機していた蝙蝠型メカがペシュトゥイアの元へ羽ばたきながら近づき、とあるウィンドウを表示した。

 そこには、発動したスキルの詳細が描かれていた。



「なっ、あっ、えっ。あの巨大船による援護防御…?」



 発動中のスキル《ウォールシェア》が魔法技術の応用である事も細かく記されている。

 防御結界を分け与える魔法についてはペシュトゥイアも聞いた事がある。だが、ここまで大規模の物は初めて見る。

 巨鯨の攻撃を防ぎきり、今こうして思考に割く時間を与えてすら見せる強大な力。

 冷や汗を垂らしつつ。改めて、ジェネレイザの技術が高水準である事を理解した。



「凄まじい……いや、こうしている場合では無い。主砲の準備急げ!」


「「「「はっ!」」」」



 気を引き締めた船員達の力強い応答と共に、薔薇の船首へ収束していく緑の輝きを一層強めていく。

 シールドを押し込めないと判断したか、一方の巨鯨は激しく接触していた半透明の防壁から離れ、再び尾へと魔力を集中し始める。

 魔力の蓄積合戦だが、既に充填中にあったガレオン船の側が有利だった。



 使用武装:ウィンディ・ローズ

 技能:砲・《エルメラルディ・ブラスター》



「魔力充填完了!」


「主砲、撃てェ!!」



 薔薇の船首から凄まじい緑の奔流が撃ち放たれる。一度は阻止されたそれは待ってましたと言わんばかりに強大な出力で以って船長の命に答えた。

 真っ直ぐに伸びていく魔力の巨大光線を躱す術は無い。だからこそ、巨鯨は尾に蓄積した魔力によって応戦しなければならない。

 そして、到達までの距離が残り半分を切った頃合いで鯨は一回転しながら魔力を放った。



 技能:尾・《ペルクティオ・マーレ・サベージ》



「!!」



 慣性を利用した水の魔法が更なる大津波を発生させる。風と水、強力な魔力同士が激しくぶつかりお互いを押し留める。

 これを見ている場合では無いと、船員達は大砲や弩での追撃をしようとするが、ペシュトゥイアがそれを止める。

 どういう訳か、主砲だけで十分だと感じたからだ。



「……!!」



 数秒の拮抗の末、《エルメラルディ・ブラスター》が徐々に押し始め、途端に大津波を突き破って粉砕する。

 そして、威力減衰の起こらないまま巨鯨すらも貫いた。

 小刻みに震えながら強大な一撃を一身に受ける巨鯨に、何かをしようとする様子は無い。

 直撃から8秒、《エルメラルディ・ブラスター》は小さくなっていき完全に消失する。

 心臓の位置に大きな穴の空いた巨鯨は動かなくなり、やがて断面に残存していた緑の魔力がその巨体をも爆砕させた。


 如何な回復、蘇生能力を宿していても本体さえ仕留めてしまえば、復活の心配は無い。数秒様子を見た後、船上に歓喜の色が込み上げた。

 一部始終をしっかり目に焼き付けたペシュトゥイアもまた、その口元に僅かな笑みを浮かべる。


 後は心強い味方がこの戦いを終わらせてくれる。船上の誰もが、その確信を抱いていた。






 スキル:《カウンター:エッジアーマー》



 オービス円盤部分の魔法刃はいとも容易く砕け散り、マディスの蛇のような手は遮られる事無く伸びていく。

 迎撃を許す間も与えずモルシェティの細い首を掴み、その小柄な体を宙吊りにしてみせた。



「くぅ、かはっ……。うぅ」



 僅かに呼吸する事を許された状況は、加害を好む彼女であっても堪えるようで。

 悶え苦しむのを露わにしつつ、空いた左腕だけでマディスの指を掴むので精一杯のようだった。

 一方の杖を握る右腕は、だらしなく、されど杖を離さないまま。


 マディスはそんな彼女の様子をただ沈黙したまま正面に捉え続ける。

 幼い少女に対し、酷い仕打ちではあるが。先程弱気を見せた少女への更なる追い打ちでもあるが。

 元より、首を絞める手を離すつもりは無い。本心はどうあれ、同胞を、同胞が庇護対象と見做した勢力を、攻撃した事に変わりは無いのだから。


 数秒の沈黙の後、マディスは会話を始める。液晶の5つの点を点滅させながら。



「さっきのは何のつもりだ? 射撃戦がお望みだったんだろう?」



 近接攻撃は通用せず、射撃戦も不利。

 邪魔こそ入ったが、魔法による射撃で再開すればいいところを、モルシェティは近接戦闘を選んだ。

 自暴自棄すら考えられる状況を思い返し、マディスは何の目的だったのかを尋ねる。


 答えは直ぐ様、掠れた笑い声と共に返って来た。



「…おくびょうかぜ、っていうんだっけ。これふきとばすため…だよ…?」



 少し前までの弱気な姿は何処へやら。不敵な笑みを浮かべる魔女が帰って来た。

 視線を少し落とし、追い詰められた状況下でもマディスを凝視してさえ見せている。

 この状況であっても勝算があるのか。マディスは全身から黒いオーラを噴出させながら、敢えて分かりきった問いかけを行う。



「それで、効果はあったか?」


「あるにきまってんじゃん…☆ ばぁか…!!」


「そうか」



 やはり油断ならない敵である。

 自分から始めた会話を打ち切り、マディスはジェネレートアームの出力を開始させる。

 放電現象が始まったその時、マディスの腕に魔法弾が直撃する。



「何…!?」



 炸裂した魔法弾は魔女を振り落とさせるに十分な威力を持っていた。

 笑みを浮かべたままの魔女は海面に叩きつけられる前に姿を消す。


 魔力反応が感知出来ないまま、モルシェティの行方を探っていると、上空に多数の魔力反応が観測される。

 マディスの居る位置より100m南西。そこには、黒い外套を纏った集団が、空中に立っていた。

 この内の1人が、モルシェティの体を抱き抱えている。モルシェティの味方と見て間違いは無いだろう。



「お前達…何者だ?」



 外套の肩や被りから裾にかけての金属装飾の精巧な細工からして、何処かの国の所属である事は間違いない。

 『乱入者が現れた』と淡き花の海賊団を含めた他の者達に通信を飛ばし、マディスは視界の先に居る集団の出方を見る。

 返答の意思はあるらしく、中央に居た濃い灰色をしたペストマスクを付けた人物が一歩前に出た。



「…お話したいところですが、まずは皆さんを呼んでもらえますか? ――あの巨大船を含めて」


「知っている…という事は見ていたな?」



 マディスと遠方のヴィゴロントが同じ勢力だとペストマスクの男は見抜いた。

 ジャモラクのそれと同様に顔の全てを覆い隠すマスク越しに話す、くぐもった声ではあったものの、自動調整もあってしっかり聞き取ったマディスは聞き返す。

 すると、ペストマスクの男は外套の下――濃い灰色の軍服を晒す。

 その背後で集団の何人かがそれぞれ異なる反応を示した。



「ええ、そうです。貴方がたを知りたいのは山々ですが、まずはこの子の処遇について、お話をば――――」



 話を途切れさせるように、傀儡と慣れ果てていた海竜が厚氷を越えてマディスの近辺へ落下してくる。

 衝撃にしろ飛沫にしろ防ぐまでも無いと判断したマディスは、首長竜が海に不時着する様を目撃した。

 海面が大きく波打つも、彼は次にこれをした張本人が筋肉美女だと知る。

 腕を組みながらの高笑いが聞こえてくる中、沈黙し硬直したペストマスクの男へ向き直る。

 集団の1人が突然の出来事に堪えきれず、噴き出したのを聞き流しながら。マディスは頭を掻く。



「あー……。ウチの身内が失礼したな……」



 しかし、通信を聞いたジャモラクやハーヴェルに続き、ガレオン船もヴィゴロントも接近しつつある。

 気まずい空気はそう長く続きはしなかった。




 海面から浮かび上がった海竜は伸びたまま動かない。

 集団の1人である大柄の存在が抱き抱えるモルシェティは既に眠りに落ちている。

 今回の戦闘を引き起こした当人の意思が介在しないまま、一同が集結し会話は続行する。

 取り仕切るのは、先と変わらずペストマスクの男だった。


 

「此処は退かせていただけませんか?」


「その子に散々暴れられといて、『いいですよ』なんて言う訳無いやろ」



 さも快諾されるのを前提とするような、軽々しい物言いをジャモラクは拒絶する。

 ジェネレイザ側の意見は割れない。だが、これも見越した上のようで、男は直ぐ様続ける。



「そう言われると思いまして、保険を掛けてきました。転移魔法と言えばご理解いただけますでしょうか」


「まさか…!」



 大袈裟な身振り手振りを混じえる男の発言に反応したのはペシュトゥイア。

 それを待ってましたとばかりに男は陽気に続ける。



「呼び出すのは我が国きっての精鋭達。私の判断一つで起動しますし、私が死亡する等身動き出来なくなった場合でも強制的に起動します」


「なるほどな。そして、俺達を制圧する算段もあると」


「その通り」



 ハーヴェルの腕を組みながらの補足にペストマスクの男は同意する。

 この前に他の者達が動き出すのだろう、とハーヴェルは集団の様子を見た。

 外套の下はどうあれ、戦闘を命ぜられれば直ちに応じる。そのつもりにあると彼は推測を立てる。


 魔力反応はある。だが、実力が不明瞭。手の内を全部とは言わずとも盗み見られたと仮定する。が、不用意に交戦を行うのは愚策である。

 元より、交易ルートを確保する為の哨戒が目的であるが故、この辺りが落とし所だろうとジャモラクを始めジェネレイザ側は判断する。

 唯一、ペシュトゥイアは納得のいかない様子だったが、見逃す空気である以上何も言い出せなかった。


 

「貴方がたはお強い。しかし、転移魔法が発動する方が速い」


「…そこまで言うんならしゃあないわ。連れ帰りぃ」


「ありがとうございます、では失礼」



 踵を返し帰還の準備をしようとした途端、ペストマスクの男は「ああ、そうそう忘れていました」と補足事項を伝える。



「我々は東大陸のデュナ・ハンバ魔導国より来ました。補足は以上です」


「そうなんか。ならワテらの所属も覚えて帰りぃ。北の果ての島にある機皇国ジェネレイザ、やで」


「ご丁寧にどうも。それでは改めて失礼致します」



 置土産に返礼品を。牽制に対する牽制を返して魔導国の面々が転移魔法で姿を消すのを見逃す。

 モルシェティの初対面での様子からしてある程度目星を付けていた、という判断から。


 空気が少々緩み、それからハーヴェルが口を挟む。



「良かったのか? エルタとの同盟はまだだが」


「なんべんもなんべんもお邪魔されるよりかはマシやろ。怪物連中ぶちのめす様も見とるやろうしな」



 独断ではあるが、この場を三機神の誰かが見ていても同じ判断を下していただろう、とジェネレイザの面々は納得する。

 3体の海に関連する怪物を思い返したところで、ジャバナが殴り飛ばした海竜の存在を思い出す。



「そ、そういえば。あの神様気取りは……?」



 ジャモラクが間抜けた声でそう言い、海竜の方を振り向く。

 すると、元の姿に戻ったようで、首を振っている青い海竜の姿が確認された。

 寝ぼけたような様子で、左右を見渡している。



『…んん? 我は何をしていたのだ?』


「元に戻ったようだな」


「記憶喪失になっとんかい…まぁ、これ以上暴走せんならええわ……」



 その後、正気に戻った海竜との短いやり取りの末、海竜が介入しようとした理由を知る。

 海の喧騒が大きくなっていた事で海に異物が放り出されたまま放置されている状況が続き、海が汚れてしまっていたのだ。

 淡き花の海賊団と交戦するジェネレイザも海を汚す存在と見做し、戦いを挑んだのが事の顛末らしい。



「――ジャバナ海賊船団にも挑んだんか?」


『ああ。しかし彼奴らは妙な道具を持っていてな。レベルとやらを吸われて思うように力を出せず、追い返すのが精一杯だった』


「…そりゃ、しゃあないわ」



 レベルという概念が存在する世界である以上、レベルは絶対的なルールとしてあらゆる生物を支配する。

 海の主の一角である海竜とて例外では無く、『レベル・ドレイン』を受けてしまい、ジャバナ海賊船団に有効打を与えられず仕舞いだったようだ。

 更なる事情を聞いたジャモラクは指を鳴らし、張本人であるジャバナを呼びつける。

 海竜にとって見覚えのない筋肉美女を連れてこられ、海竜は首を傾げる。



『誰だ、其奴は?』


「長くなるから説明を省くけど、ジャバナ・ドゥルフちゃんや」


『…何?』



 そして、筋肉美女はこれまでに迷惑を掛けた事を謝罪し、また再発防止の誓いを海竜の前で立てさせた。

 余所行きを考慮して肉体改造を施したジャモラクの策は多少なりと効果があったらしく、美女の恭しい振る舞いには海竜も心が揺れた様子を示した。



『う、うぅむ。其奴がそこまで言うのならば仕方あるまい……』


「ほな、ワテらもそのつもりで。それと、エルタ帝国との交易ルートとして此処、使わせてもらうけど。ええかな?」


『それは我の決める事では無いが……海を綺麗にするというのであれば好きにしろ』



 聞き分けの良い様子は、お互い勇み足だったという事で指摘しない。

 海竜も頃合いと見て、去ろうとしていた。



『では、我も失礼する。長々と迷惑を掛けた』


「ええで。ワテらはトラブルに慣れとるし」



 一瞬、海竜より抗議の視線を向けられた気がするが、見逃す事にした。

 それから、話はペシュトゥイア達淡き花の海賊団の処遇に切り替わる。



「ほなら、行こうか。ワテらの国へ」


「あ、ああ。歓迎、感謝する……」



 飛んでいるままだったガレオン船も再び着水し、ヴィゴロントに先導されながら旧『呪われた島』への海路を走る。

 そこにどのような洗礼が待っているのか。期待半分不安半分の様子で海賊団の一同は予測不可能の未来に備える事とした。

 ・反属性

 マジェスティをもいだ時とか砕氷装備とかで出たワードがこれ。

 ダークスチール製装備並びにメカにデフォルトで備わっている金属特性であり、スキルの一種として応用する事が出来る。

 物理、魔法、光学のいずれかの性質を破壊する性質で、加工前のダークスチールの時点で備えている。つまり、ダークスチール全般が専用のツールの必要な特殊加工素材の一種。

 

 ゲーム中の仕様としてはスキル威力に加えて相手の防御属性が一致している場合上乗せで特殊効果ダメージを与えるという代物。ガードスキル版も存在し、その場合は攻撃属性に一致した時発動したスキル威力に基づく特殊装甲を付与する。

 バトルモードの追加に伴い、スキルの有無に関わらず同じ属性の攻撃同士がぶつかり合うと発生する『拮抗』状態を拒否した上で、一方的に攻撃出来るスキルの一種と化した。本編でハーヴェルが行ったのはその応用となる。

 専用スキルとして使用した場合汎用名称『反属性(アンチ):』の後に『物理(フィジックス)』、『魔法(マジック)』、『光学(オプティクス)』のいずれかが付く。一度に反属性を使用できるのは一つの基本属性まで。

『物理』ならばどんな装甲や武装をも溶けたチーズみたく出来て、『魔法』ならばどんな魔法をも破壊し、『光学』ならばどんな光体をも切断変形させる。

 

 なお反属性攻撃を反属性防御で防いだ場合は特殊装甲が付かずガードスキルのダメージ減少も無効化されノーガードの殴り合いになる。

 砕氷装備でジャモラクの作った氷を砕いても術者のジャモラク自身にダメージが返ってこなかったのは既に攻撃スキル使用後であった為。凍った海は地形効果扱いとなり、攻撃対象がジャモラクから地形そのものに移っていた。


 

 

 因みに反属性を唯一相殺出来る特性が存在する。ダークの対極はライト。つまり……

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