海氷禍歌・二番
この話で終わらせる筈だったのに次に持ち越し~……
書きたい事が多すぎる~……
波立つ水面が飛沫を上げる。筋肉軍団が水面の上に降り立った事で連鎖的に生じた現象と彼らの状況を目の当たりにし、ペシュトゥイアは思わず息を呑んだ。
何が起こっているのかを彼女が尋ねるより先に、彼らを取り纏めるリーダーのジャバナが振り向きざまに海賊達へ話しかける。
「アタシらは海上で迎え撃つが、あんたらはどうする?」
「…この船で応戦する。するが、その前に――」
「ああ、モルシェティが邪魔か」
顔だけ真横に向け直したペシュトゥイアの視線の先には、異形のメカ2機とジャモラクが構えたまま立っている。
そして、彼らの目の前には大きな白煙が立ち込めていた。
一方で、トレーニングウェアに取り付けていた小型デバイスを外し、慣れた手付きで筋肉軍団は操作する。
半透明のウィンドウに映るアイコンを切り替え、彼女達の服装が戦闘用のものに切り替わっていく。
「旦那達なら何とかしてくれるだろうぜ。船を動かす準備だけしときな」
海賊服に近しいデザインの軍服姿の彼女らをひと目見て、ペシュトゥイアは従う。
頷く形で船員の了承を得て、彼女達は魔女を気にせず各々の持ち場につくのだった。
その最中、甲板に積もっていた筈の雪が全て消えている事にペシュトゥイアは気付くも。丁度雪を吸い込み終えた、ジャモラクの足元から少しだけ見えた機械を目にし、無言のまま納得した。
《シードバルカン》の残弾が尽きる。砲身の回転が止まり、急速に枯れ朽ちていくのがこの合図だった。
細身の異形であるマディスはブラストビットを引かせ、攻撃を止めた後の結果を伺う。
センサーの数々が一斉射撃を叩き込んだ一点に、1人分の生体反応があるのを感知し亜人形型メカ3機はそれぞれの構えを取る。
立ち込めていた煙が晴れ、衣服が少し損傷したモルシェティは杖を支えにその場で座り込んでいるのを視認できるようになる。
「少しくらいは効いたか」
巨体の異形であるハーヴェルが顔面の円を半回転させながらそう呟く。ヴィゴロント船上からガレオン船での一部始終を目にしていた彼らにとって、これを耐えるのは想定の範囲内に過ぎない。
「はぁ…ふふ、すごいね♪」
視界を構成するモニターの向きはそのままに。メカ達は立ち上がろうとする魔女の傍ら、船を動かす配置に付いた海賊達の行動を確認する。
なればこそ、次にすべき行動は決まった。《マギア:メタリズム》の頃には無かった新型弾をマディスとジャモラクはそれぞれ装填する。
「たぜーにぶぜーなのはよ~く分かったよ。だったらぁ、あたしもえんぐんよぼっと♪」
「してもええけど、船から降りるんが先やで」
杖の持ち手側を向けるジャモラクの言に合わせるように、マディスはモルシェティの真横から迫る。
既に腕の銃口を構え、細長い指を適度に曲げて噛みつこうとする蛇に見立てるその様は、迎撃よりも防御を優先する思考誘導を齎すに十分だった。
技能:《ハイマジカル・ラウンドシールド》
笑みを浮かべる魔女によって円盾型のシールドが目の前に展開されるが、マディスの勢いは止まらない。
どころか、それを認識したのを合図に銃口が火を噴いた。放たれたのは、先程使用したものと同じ規格の黒き弾丸。
回転しながらシールドに突き刺さると同時に、マディスは走る勢いを真後ろへの跳躍に切り替え利用する。
「想定通り、防いだな」
「!」
その発言を聞き、防御をさせられた事に気付く魔女。しかし、対応を変えるには最早遅かった。
使用武装:スペースノッカー
スキル:《ブラックバレット:フリッキングボム》
弾丸を突き破って発生する黒い魔力そのものに殺傷能力は無いものの。生じる爆発は強烈な吹き飛ばす力を生んだ。
ラウンドシールド越しでも両足の踏ん張りだけでは耐えきれず。魔女の小さな体はガレオン船から大きく放り出された。
北の海で水浸しになる訳にもいかず、水面が迫ってきたところでモルシェティは急遽シールドに性質を付与して、足場になるよう自身の足元へ位置をずらす。
波打つ海で安定したのを確認した魔女が顔を上げた先に、ガレオン船から3機のメカが海上に降り立つのが見えた。
冷気を噴出するジャモラクが足の裏を中心に海上を凍らせている。広がっていくそれがマディスとハーヴェルの足場をも形成していた。
「第2ラウンド、ってとこやな」
使用武装:凍冷銃杖マク・ハペト
スキル:《蝕氷河》
モルシェティの反応を待たずして杖を槌のように叩きつける事で発生する凍結現象の拡散を合図に。
緑風を纏い浮上するガレオン船を背景にマディスとハーヴェルの2機が広がった足場の上で次に備える。
マディスは両足のジェネレーター、及びブラストビットの展開と調整を行い、ハーヴェルは背中側にある6つの円筒型スロットの内3つを引き出し、排莢され放物線を描く砲弾型の容器3つを掴み取る。
続いて彼の目前に出現した、透明な縁取りのホルダーに3つ全てを差し込んだ。
このホルダーがスライドしながら姿を消すと同時に、別のホルダーが滑り出る。
「『フレイム・ネクター』と『クリムゾン・シェイク』、『ホット・アクア』。こいつらで良さそうだな」
引き抜かれた砲弾型容器の数々からは充填された3種の赤が顔を覗かせる。蛇腹型の腕を伸ばしスロットに差し込むと、補充の完了したそれらは空気の噴出音を発しながら閉じ、ロックを掛けた。
直後、それぞれ異なる色合いのオーラを一瞬、ハーヴェルの巨体が纏う。両腕を回し彼の戦闘準備も整った。
一方のモルシェティは、興味深い様子で一部始終を目にしていたが、当然生じる疑問を彼らへ問いかける。
「にかいせんっていったのに、なんでこないのぉ?」
嘲り気味に放つその言葉には思惑が乗る。が、冷静を保つ3機は乗らない。
マディスは5つの点の発光を強めつつ、魔女の顔へ向けた。
「お前の言う援軍。もう呼んであるんだろう? 《アイスメイツ》と戦っていた奴が、考えなしに呑気するとも思えない」
「……バレちゃった☆」
悪戯に舌を出した小さな魔女の笑みと同時に、彼女の背後――氷山にも似た氷塊を弾き飛ばし、水面を大きく突き破ってそれらは姿を現した。
天高く昇るような登場だが、彼らは空を制する存在では無い。
真向かいに立つマディスも、両腕の調子を確かめていたハーヴェルも、仕込みをしつつあったジャモラクも注視し警戒する。
3度目の乱入者……色濃い影が独立したような色味を持つ、巨大な海の怪物達こそがモルシェティの言う援軍だと確信したからだ。
「しょうかいはぁ…かんたんにしちゃうね☆ おかーさんのけんきゅうサンプルでーす♡」
『オオオオォォォォッッ!』
『アアア゙ァアアァァァッ!!』
『ヴオオオオォォォォッ…』
吼えるは、3体の怪物。旅に来た可愛い子を助く巨体のお供。
一つ一つが大樹の切り株が如く太い吸盤を備えた化物蛸。
太古昔に居たとされる絶滅種を優に超える荒鮫。
さながら反転した瀑布のような噴気を上げる巨鯨。
大海に適合した、深紫の電紋を備える漆黒の荒くれがモルシェティを囲うように寄る。
その間にも大海を包む厚氷に圧迫から生じる亀裂が走り、迫ってきていたものだけをジャモラクが補修した。
「それから、あたらしくお友だちになった子もいまーす!」
魔女の指が軽快に鳴ったのを合図に、魔女の背後に陣取る巨大蛸の更に奥から飛び出す、長いシルエットが1つ。
逆光に遮られ、滑空中は形しか分からなかったが氷塊を突き破り再度飛び出た時にジャモラクは呆気にとられる。
「あの神様気取り、操られてしもうとるやん……」
先に出た3体同様の体色をしているが、メモリーとの照合による一致要素が多く、内蔵コンピュータが同一個体と示している。
最後に現れたのは、先程ジャモラクが倒した海竜――の変わり果てた存在だった。
「あいつは、ジャモラクが叩きのめした奴だったな」
「会話が可能だったはず。試してみるか?」
「やめとき。あの様子じゃ話にならんて」
「ゲヤアアァアアアァァァ!!!」
「ほら、理性的とは思えへんし」
海竜の咆哮を混じえつつの短い会話の中、ハーヴェルは顔面の3つの円を小刻みに回しつつ魔女へ問う。
「モルシェティ。聞くが――研究サンプルとやらはこれで全部か?」
「そんなわけないじゃん。むこうでおかーさんといっしょに……あっ」
「此処には居ないんだな? 把握した」
敵の数は指揮を取るモルシェティと海竜を混じえた5体。海中、海上からも空中からも迫る反応はこれら以外に無く、ハーヴェルは内蔵機能を用いてジェネレイザ側の者達に同じ情報を共有する。
阿吽の呼吸の如く、情報を受け取ったマディスは背部装甲を上にスライドして出現した小さな穴より物体を射出する。
物体――小さな箱は空中で変形し、蝙蝠に似た姿のメカとなって空を飛ぶガレオン船へ向かった。
「淡き花の海賊団にも情報を共有する。これで良いんだな?」
「勿論だ。サイズで不利な以上、連携出来る手数はあった方が良い」
双方準備は整った。直接言葉にせずとも現状が物語る。少しの静寂を破り、荒鮫が3機のメカ目掛けて突っ込む。
差は歴然、迫力も桁違いの巨体が大口を開け氷塊を砕いて迫るが、特に物怖じは無い。
マディスとハーヴェルはそれぞれ左右に跳躍し、残ったジャモラクが真っ直ぐ銃口を構えていた。
使用武装:凍冷銃杖マク・ハペト
スキル:《侵蝕氷弾》
発砲音と同時に、伸びて広がる冷気の速度が威力を物語る。触れる全てを凍て付かせんとする純白を目の当たりにし、荒鮫は大きく飛び上がった。
その間にも標的に躱された銃弾は筒状に固まる氷のアートを軌道上に描いていく。
「おー、派手に動けるんやなぁ。ちゃんとしとるわ」
ジャモラクは一連の流れに感嘆を漏らす。上空の巨大鮫を見上げたのはその後の事だった。
『ア゛ア゛アアァァ゛ァッ!!!』
技能:《パワーウィップ》
空中で旋回しながら振り下ろす尾鰭の暴力。質量任せの攻撃だが範囲の広さは侮れない。
それでも、氷霧の支配者に対処法が無い訳では無かった。構える左腕に呼応する凍氷の数々がそれを示す。
スキル:《ガード:急速堅氷壁》
ジャモラク当機に関わらず備えられた汎用的なガードスキル。汎用的だからこそ究め極める事に意義があるとは彼自身の言だ。
大質量の塊が接触し、直撃の威力も押し込む衝撃をも受け止め砕けない堅氷がこれを証明していた。
「力自慢は悪い事や無い。けど、自信があるからこそ理性的に立ち回らなあかんで」
攻撃を防がれて尚、未だ触れ続けた場合どうなるか。それは先のモルシェティとの戦いで実践してみせている。
押し込みにかかり続ける荒鮫相手に、物の試しとジャモラクは洒落込んだ。
スキル:《氷蝕腕・心太》
氷壁を歪め、鮫の肉体を貫かんとする棘の数々が伸び、一瞬にしてジャモラクは確かな手応えを感じ取った。
感じ取ったが、氷壁越しに映る巨体に反射的反応は無かった。
「ありゃ。痛みを感じんのかこの研究サンプル……」
約170cm。それほどまで伸びた円錐状の物体が腹鰭付近へ十数本、深々と刺さっているにも関わらず荒鮫は痛がる素振りすら見せない。
痛覚が存在しないのか、あるいは他の理由があるのか……ジャモラクは思考しながらも荒鮫の攻めがまだ終わっていない事を視認する。
棘の全てを刺さったまま毟り取り、同じ攻撃を氷壁へ連打していく。動きは鈍るどころか、勢いを強めている。
徐々に表面がひび割れ軋む音すら聞こえる最中、ジャモラクは敢えて観察を続けた。
「パッと見から思うとったけど…様子がおかしいな。何をされたんや、この子は?」
当然ながら、言語を有する生物以外にも感情は存在すると理解しているジャモラクは、今のこの行動が感情と一致するものなのか、を気にかけていた。
感情の中でも『恐怖』、これが備わっているのか、これに基づいて行動しているのか否か。
また、『恐怖』があったとして、その感情は何処に対するものなのか。
『ハーヴェルはん、マディスはん、余裕があったら研究サンプルを観察してみ。この子らおかしいで』
氷壁が少しずつ損壊していく中、ジャモラクはジェネレイザの他のメカへ伝達する。
まだ戦況が激化していないからか、兄と弟からのレスポンスは早く返ってきた。
『見れば分かる。…と言いたいが、そいつ反撃を全く恐れていないな』
『せやで、痛みに関しても無頓着や。ワテらやあるまいし』
『怯まないデカブツ、か。前にも何度か戦った事あるが、最も厄介だったのはそいつもメカだった時だ』
『せやなぁ……』
指揮官兼国王の国家との戦いは如何な戦況であっても激戦だった。少しばかり思い返しすぐに眼前の光景へ向き直る。
氷壁の損壊は更に進行しており、荒鮫の執念深さを認識したところで次の手を打つ。
「痛みを感じん。避けもせん。なら……ワテは有利やな」
コート下に隠しておいたフリーズデリバリー2機を飛び出させる。別々の方向へ氷霧を振り撒き軌道を描くドローン2機は、主たるジャモラクからそれぞれ10m程離れた辺りでホバリングに移る。
そこからスキルを発動させるのは、時間の問題だった。
使用武装:フリーズデリバリー
スキル:《瞬冷伸茨棘》
蓄積しておいた氷霧がドローンの挙動に反応し、茨状の氷が一瞬にして荒鮫の肉体を絡め取る。攻撃を止めようとしない荒鮫が氷を剥がすように動くも、次第に氷の強度が増し空中で完全に固定される。
《急速堅氷壁》を解除すると同時に、ジャモラクの視界モニターは荒鮫を捕捉する。構える銃に既に弾は込めてある。使うのはジャモラクのとっておき――。
「あはぁ♪」
使用武装:試製魔導錬杖:オービス
技能:杖・《らンブる★サーキュラー》
――を、阻止しようと影が太陽を背に現れる。狂気を孕む目を向ける小柄には丸鋸刃を備えた杖が握られていた。
振り下ろそうとする円盤に向かって、更に乱入する影1つ。
使用武装:ジェネレートアーム
スキル:《スパーキーブロー》
雷光を纏う左の殴打が魔女の頬を掠める。瞬間的に動いて躱したモルシェティの視線がもう一体の乱入者であるマディスに移るも。
それこそが狙いだった異形は空いた右腕で魔女の体を掻っ攫っていく。
だが、ジャモラクのアラームはまだ止まない。背後より、巨大な蛸足が氷塊ごと叩き潰さんと振り下ろされていたからだ。
知っていて尚動かない。何故なら、既に他の仲間が対処に入り動く必要すら無かったから。
使用武装:パイロプロセッサー
スキル:《フレイムカッター》
炎熱を纏う長腕の一閃。完全に焼き切るにはこの一撃だけで十分だった。自由落下となる分離した足を、先の準備で強化された左の拳が殴り飛ばしてアラームを解除させる。
妨害の一切を仲間が排除した事で、マク・ハペトは撃発する。銃口周囲の温度が急速且つ大幅に下がったのはその直後の事だった。
使用武装:凍冷銃杖マク・ハペト
スキル:《凍冷徹甲弾》
突風が如き音を奏で繰り出されるは触れるもの全てを凍らせ、砕く無慈悲の一閃。荒鮫に直ぐ様届いたこれは貫通し、鮫の肉体を氷塊へ変える。
その氷塊は空いた穴から細かく砕け散り、海を覆う氷塊の一部に変わり果てた。
「まずは一体……ん?」
生命反応が1つ、完全に消えたのを認識したと同時に、接近する巨体を確認する。それは、先程の妨害合戦に参加してこなかった巨鯨だった。
攻撃を感知するアラームは鳴らない。様子を見ていると、出力を調整した噴気を放つ。やがて雨となったものが氷塊の上へ降り注いだ。
「何をして…おっとぉ?」
意図が読めないまま、反転して距離を取る巨鯨を見ていると氷塊に落ちていた鮫の残骸が光始め。残骸同士が不規則に接合していく。
接合を続ける物体は残骸の元の持ち主――つまりは荒鮫の巨体を再構築していき、完了させる。
そうすればどうなるか。光が消えた結果はジャモラクの思考回路より先に、視界モニターに再び出現した生体反応が示していた。
『アアア゙ァア゛アァァァ゛ッ!!』
「まじかぁ……」
荒鮫の復活。茨の氷の拘束は解除され、肉体は凍り付く直前までの段階に巻き戻っている。振り出しに戻されたのだ。
同時に、死を超越する技能を持つ巨鯨こそが、最優先で対処すべき存在だと告げていた。
だが、荒鮫を無視できない。無視できないからには、残った戦力に当たってもらう他は無い。
空を航行するガレオン船が頭上を通り過ぎる最中、ジャモラクは背後より来たる味方の青色反応の数々を確認するのだった。
◇◆◇
右腕でモルシェティの胴体を押さえながら、マディスは主戦場より大きく突き放す。
杖の刃を解除し、彼女は振りほどこうともがく。その内に埒が明かないと結論付けた彼女は魔力の行使に移った。
「もう、はなしてよ!」
技能:《ハイマジカル・ラウンドシールド》
盾型結界の展開。生成された半透明の物体は構築の完了と共に物理的干渉を引き起こす。
マディスを押し出し、距離を取った魔女はマディスへの視線を外さず姿勢を低くしながら杖を構えた。
対するマディスは顔の液晶に映る5つの点の発光を強める。
睨み合いの形になりつつ、マディスはまだ動かないモルシェティへと問う。
「ジャモラクの時は手が早かった癖に、慎重になったもんだな」
「んん? …あー、どんくさに見えたからね~。それに、きみは何してくるか分かんないし」
顔として貼り付けられた液晶に、異様に細く平べったい両手両足。背中からは各種補助ユニットを射出でき、正統派と程遠い異質な外見でありながら手数に富んでいる。
《ダークスチール》メカの基本設計思想に基づくが、マディスは黙して語らない。魔女の味方が理性に乏しい怪物だからと言って、長期戦が不利である事に変わりは無い為。
「びりびり。ひゅんひゅん。ばらばららに、どぎゅうん。次は何で来るのかな?」
「決まっている。読ませる攻撃は無い」
スキル:《エッジコンバット》
出方を伺う魔女へマディスは敢えて近接格闘を挑む。電撃を纏わず繰り出される拳に反応が少し遅れた。
魔女の被服や肌に纏わりつく魔力の膜を掠めると、それが容易く切断される。威力の高さに面を食らった彼女へすかさず二撃目が飛んだ。
「いぃ!?」
顔面を狙った一撃を大きく仰け反る形でモルシェティは躱す。が、両腕に意識が向いてはその下が疎かになる。
人の姿ですらないメカが待ってくれる筈は尚更無く。左足一閃を直ちに振り上げた。
「くうぅ!!」
よく練られていない魔力の塊を飛ばし、それを推進力として強引に躱し切る。足の狙いの先が股間だと把握した魔女はその間にも顔を青くしていた。
更に距離を離した事で、モルシェティはようやく自分たちの立っている場所が氷の上で無い事に気付く。
「…そういえばさぁ。なんで海の上に立ててるの?」
静寂の象徴たる氷からは遠く離れ、巨大怪物達の影響によって荒れている水面。波打ちによって激しく上下しながらもマディスは海に立つ姿勢を維持していた。
モルシェティは魔力によって体を浮かせている。が、彼女には対面する紫の異形が立つ仕組みが分からない。
「今更、説明する必要があるか? お前と同じ理屈だと思うが」
「それが正解と思えないんだけど……もういいや」
スキル:《エッジコンバット》
技能:《スーパーブースト》
再び近接格闘を試みるマディスへ、モルシェティは自身の身体能力を魔力で底上げしながら迎え撃ちにかかる。
北の海上で尚風切り音が聞こえる程の激しく鋭いラッシュを魔女は躱しつつ、杖への魔力を充填させた。
使用武装:試製魔導練杖:オービス
技能:《らンブる★サーキュラー》
刃のような攻撃の数々に真っ向から対抗すべく、丈夫に構築された丸鋸がマディスに割り込む。火花が散る程の衝撃と振動を受けつつも、機械の腕は留まろうとしなかった。
一度引き離し、拳や足を次々振るうと。魔女はそれらに丸鋸を押し付け受け流す。魔女が優勢のようで、その間にも一連の動きの速度は増していた。
段階的に、マディスは近接格闘の一撃の質を上げていく。その道の達人が感覚を思い出しているかのような状況に、魔女は焦りを見せる。
流れを変えるべくマディスが右拳で殴ったタイミングで、モルシェティは杖で殴りつけ弾き飛ばしにかかる。
「やあぁぁッ!!!」
振り抜き、その勢いで丸鋸を叩きつける。回転する刃は弾かれた事で無防備になった異形の胴へ当たる…筈だった。
刃は接触する。するものの、噛み千切られるように砕けた。
スキル:《カウンター:エッジアーマー》
《エッジコンバット》は即ち、これを誘発させる為のサブプランに過ぎない。有効射程の広いオールラウンダーに見えるマディスに近接戦を挑む事が何を意味するか。
出力を上げた丸鋸刃が容易く砕け散ったのに衝撃を受ける魔女を待ってくれなどせず、激しい閃光は伸ばした腕と共に迫る。
10匹の蛇を幻視し威力に恐怖した少女の顔からは反射的に、大量の汗が吹き出した。
使用武装:ジェネレートアーム
スキル:《スマッシュボルト》
瞬間的に高電圧が放たれる。それらはマディスの液晶越しに映る視界モニターを青白く染め上げた。
しかし、手応えを感じない。放たれた電撃が終息していき視界の回復を確認しながら警戒するも、魔女の姿が見えない。
直後、背後よりアラーム音が鳴り響く。急ぎ飛び上がったマディスの居た場所にビームが命中し、広く抉れ蒸発した。
その爆風を空中で受け、弾き飛ばされる。水面が近づくが姿勢制御が間に合い両足で海の上を滑りつつ振り向いた。
向いた先には案の定と言うべきかモルシェティが見え、空中に留めていた体をゆったりと海面へ降ろしていく。
無傷かと思いきや、被服と肌の所々が焼け焦げている。少なからずダメージを与えた事をマディスは把握した。
「しんじゃうかと思っちゃった……もう近づかせないよ…」
「射撃戦を望むか。それはそれで本望だがな」
スペースノッカーを構え、背部からブラストビットを射出、待機させる。
着実に消耗させてはいるが、長引かせてもいられない。近接戦よりも威力に自信がある射撃戦は寧ろ短期決戦を望むマディスにとっては好都合だった。
先程に防戦一方を押し付けたユニットの姿を見て、魔女の顔が若干引きつるのが見えた……気がした。
「逃げても良いぞ。回復と蘇生を頼るなら鯨ごと焼き尽くすがな」
「じょ、じょうとうじゃん…うけてたつよ……」
マディスの言に最早豪語と嘲る気力すら無く。
消耗と並行して、魔女の自信も削がれつつあった。




