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機皇の国  作者: Gno00
第四章 帝都激震

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40/44

動き出すもの・2

 王国と魔導国、2つの国家の一部勢力が胎動を始めた翌日。機皇国ジェネレイザが『呪われた島』に漂着して21日目の朝の事だった。

 ジェネレイザの持つ技術の結晶を1つの家屋で覆い隠した王国内部の活動拠点、その屋根の上で尖兵の1人であるMサイズにしてグレードS《コード:フェローチェ》のγ-ベルディレッセは普段着のまま蹲っている。


 その表情は無を貫いたまま。何処を見るでも無い夜闇のような紫の瞳は瞬きすらしていない。認識阻害システムの調整で適度に放出されている黒い霧の中佇む少女はお伽噺の悪い魔女のように見えた。

 実態はそうでは無く、今現在様々な場所に向かわせた()()の報告を待ちつつ休んでいるだけであり。それを証明するようにコール音に応じて僅かな動きを見せる。


 右耳に手を当てたのを合図とし、彼女の部下である亜人形メカ《ダークスチール:プランダラー》の1体から報告が始まる。キーボード入力のように頭から一文字ずつ、彼女の目の前に発生する。



 〝王国八傑、並びに王都各地の貴族に動き有り。先の《ディザスターアーク》ムル・サプタスの大規模火力支援を確認した影響によるものと認知。この内大多数の人間の心拍数の上昇を確認〟


「分かった。引き続き貴族の動向を探って」


 〝御意〟



 音声指示を受け取ったプランダラーが通信を切ると、ベルディは体を起こしつつ腕を上へ伸ばす。僅かに体を震わせ閉じた目から涙を押し出す姿は人間のものと大差無い。

 続いて通信のコール音が入り、彼女は少しばかり姿勢を正して応じる。



『ベルディレッセ様、以前回収して下さったサンプルを元に臨床試験を行いましたところ、ハーピーの皆様方にありました薬品成分の中和を確認できました。暴走に陥る事も副作用も無く、快復に向かいつつあります』


「それは良かった。…でもまだ油断は禁物、よね」


『はい。まだ経過観察中でありますので。引き続き慎重に治療を施してまいります』


「お願いね、ドクター」



 1週間前に助け出したハーピー達が抱えていた爆弾、投与された薬物成分の危険性が取り除かれつつある事に、思わずベルディは笑みを零す。

 はじめはおっかなびっくりではあったものの、真摯に向き合ってきた事で今や異種族同士打ち解けてきている。

 三角座りになりながら、役に立てた事に喜びを感じていた。そんな彼女に更に通信が入る。


 1回目のコール音が鳴り終わるより先に、軽々しい様子の女性の声がベルディの耳に届く。



『ベルディちゃ~ん、西大陸のエルタ帝国領から連絡があるっす。すぐ繋ぐっすよ~』


「いきなり? 一体誰から?」


『大好きなお姉さん方からっす~』



 声の正体である総帥(マーシャル)にして国内最大級XXLサイズ且つ最強格グレードS+のメカの一つ《ネスト:プロミネンス》メルケカルプからの意外な発言を聞き、ベルディは急いで身だしなみを整える。

 戦闘用の衣服では無い為、気の弛みを指摘されるのを覚悟しながら通話が開始されるのを待った。

 彼女の目の前に画面が浮かび上がり転回する。そして、姉二人の穏やかな顔が映し出された。



『久しぶり~…って程でも無いか。元気してた? ベルディ』


『そちらにメルケカルプ様がいらっしゃるとの事で、シアペル様が特別に繋いで下さいまして。寂しい思いをしてませんか?』



 白銀のウルフカットの髪に赤い瞳を持つ《コード:カプリチョーソ》α-ジナリアと灰色のロングカールの髪に青い瞳を持つ《コード:アパッショナート》β-コルナフェル。

 グレードにしろサイズにしろ同格である2人の姉が、片や快活に手を振り、片や落ち着き払った様子で末妹に優しく声を掛ける。

 少しばかりの間見る機会に恵まれなかった姉の穏やかな姿に、荒れ模様だった心が癒えていく。



「わたしは元気です、ジナリアねえ様、コルナフェルねえ様」



 挨拶は軽く留め、癒やされたからこそ得られた貴重な機会を無駄にしてはならないと考え。

 幼い少女はその見た目とは裏腹に恭しい振る舞いで頭を下げる。



「良い機会ですので、()()()にお話したい事があります。既にご存じかと思いますが――」



 顔を上げた少女はただ冷静に、数日前に自ら起こした出来事についての一切を打ち明けた。目の前の姉2人だけでなく、この場を設けた女神2体が見聞きしていると踏まえた上で。

 既にジェネレイザ本国にも周知されている、マゼン・ロナ王国での活動内容だけで無く。『マジェスティ』倉庫襲撃と裏社会組織の関連施設への破壊工作――行動の結果とそうなるに至った経緯をも事細かに語る。

 元は亜人種だった異形の怪物の存在。そうなりかけていた亜人を保護した事。そして、王国各地に出回っている違法薬物と黙認する貴族の存在。

 語っている内に明るくなっていた気分が重く沈んでくるが、これを無視して彼女はグリム達の協力した分を含める、自身の知る情報を開示した。


 説明が終わり、冷静を貫いたまま他の全員の反応を伺う。少しの沈黙の後、最初に声を掛けたのはジナリアだった。



『……そうか。大変だったねベルディ。ちょっとしたお使いのつもりだったんだけど、気苦労をかけさせたね』


「気にしないで、ジナリアねえ様。いずれにせよ必要な事だった、と思ってた。実態を知るには上辺だけでは足りないから」


『グリムさんが遭遇した、薬漬けにされた亜人奴隷と変身した人間達……この共通項は偶然では無いのでしょうね…』


「コルナフェルねえ様の言う通り、だと思う。異種族の中でも人間に近しい亜人を使った実験の上、調整したものを人間が使っている可能性が高い……はず」



 画面越しに行われる三姉妹のやり取りに、静観を解いてメルケカルプが混ざる。

 その合図として画面左上に彼女を示す螺旋の塔のアイコンが表示され、三姉妹の注意が総帥にも向けられた。



『う~ん、うちの方で検証班を寄越したいとこっすが…ベルディちゃん側はまだ潜入中だったっすね。……今ドクターパートラーニと繋ぐ事は出来るっすか?』


「出来ます、が」


『だったら取り敢えず亜人種から採取した検体と、ベルディちゃんが奪取した薬物と、臨床試験の結果の情報をこっちの医療班とアタシ経由で本国のメカ達にも共有させるっす。ドクターの技量を疑ってる訳じゃないっすがドクターリーベルスならこれくらいは進言するっすよ』


『成る程……他の国でも似たような例と遭遇した場合に対処しやすくする為に』



 三姉妹の長女の問いに『そういう事っすよ』と締めくくった総帥の提言にベルディも、画面越しのジナリアとコルナフェルも得心を示す。

 同時に、ベルディ側で今現在やるべき事を見出した赤い双眸が紫の目と向き合う。



『グリムくんが王国八傑の1人と繋がりを持てたのは好都合だ。君にもこれを積極的に利用して欲しい。亜人奴隷の例に限らず、何か気になった事があれば都度連絡してくれ。……『マジェスティ』の情報を得られた君だ、上手くやれるよ』


「うん、頑張る。ジナリアねえ様、コルナフェルねえ様」



 静かながらも力強く了承する末妹、ベルディレッセ。

 ささくれていた心に姉達との会話は良薬となったらしく、晴れやかな表情がそれを物語っていた。




 ◇◆◇




 王国領内での三姉妹の会話が終わり2時間程経った頃。

 国内からすれば薄いヴェールのように見える認識阻害システムの影響下、未だ登りかけの太陽から差し込む光を受け。異世界エファルダムドに組み込まれた、北端に位置する渦中の国であるメカ主体の国家、機皇国ジェネレイザは普段通りの賑わいを見せていた。

 転移初日から対応に追われていた国内最大の第一次産業地パンベナット・スレーヴの問題も度重なる《エリアチェンジャー》の使用によってすっかり解消され、資源生産量を増やす為の海上及び空中プラント開発も一段落付き、4週間目を迎える島にはすっかり余裕が満ち溢れていた。


 転移して間もなくは一部の富裕層が出歩く程度で寂しい雰囲気が漂っていた首都カルヴァルズ・フルドの一角、ビックパンドパディにも客足が戻ってきており、看板バニーの《カジノバニー:スロット》ミリー・オルネアは他のバニーガールメカや他の従業員メカ共々忙しなく働いている。

 その目が時折、()()()()()()()()()()という、一部の来客の言を引っ提げて。


 一方で総帥自らが主要戦力の大部分を引き連れて飛び立ち、任務中の間であるメルケカルプ・フォートレスは賑わいの最中とは思えない程の落ち着きを見せている。

 スペード()ネイビー()より派遣されてきた戦力がクローバー()エアフォース()協力の下海上を見張り。メルケカルプの代理を務めるグレードS+にしてXXLサイズの船舶メカ《カタストロフィ》ユニリィ・スペード指揮下でハート()アーミー()派遣部隊と空軍戦力が巨大な穴が3つ空いた地上で警備する。

 国軍の主要施設故に元より厳重な態勢であるその一区画だけは今、野次馬すら居ない閑散とした様子だが、この光景もまたジェネレイザの普段通りであった。


 北端の島にして元は『呪われた島』と呼称されていたジェネレイザ領地にも当然北部はある。

 それがハーミット・クリフ。MサイズにしてグレードS-と、この国の強者の一角に食い込む亜人形メカ《フロストスモーカー》ジャモラク率いる科学者達の隠れ里にして、国内最低気温を誇る寒冷地でもあった。

 地上は何も無いように見えるが、雪原と断崖絶壁の保護色を利用した地下への出入り口が幾つか設けられており、彼らの根城はその向こう側で深く広がっている。

 吹雪が奏でる北風の音色と、地下で研究に熱意を注ぐ多数のメカ……地上と地下で全く性質の異なる賑わいがそこにあった。


 国全体に余裕が生まれた事で、寧ろ激務となった一区画も当たり前のように存在する。

 島の西、ユニリィ・ファクトリアだった。国内最大規模の工場にして三機神の一角、ユニリィが近海に鎮座するその工場地帯では様々な音響が鳴り止まない。

 プラント開発と外海から情報収集に励む同胞達の活動を皮切りに、国内外を問わずこの世界に適した新製品の開発と安定供給を当面の課題と定め、現在進行形で行われているからだ。


 仮想敵への対処はおろか、ジナリアによりエルタ帝国との同盟締結も決定され当初の予定を上回る激務に従業員達は追われている。

 それでも、効率的なルーチンワークを得意とするメカ達は然程苦とせず従事していた。


 慌ただしい工場群の更に一区画。無骨ながらただならぬ雰囲気を有する格納庫の中で。

 M〜Lサイズのメカによる運用を想定したその施設を利用する2機のメカが固定器具を装着した状態で待機していた。

 彼らの周りでは忙しなく動く多数のロボットアームが彼らの各種部位や内部構造を換装している。

 信頼を寄せている同胞故に何も案ずる事は無く。ついには暇を持て余した1機が隣にある固定器具を使うもう1機に話し掛けた。

 顔に見立てた緑色の3つの円が左に1回転するのが会話の合図となり。



「聞くが、マディス。お前の戦った魔物の大物、とやらはどれ程の強さだった?」


「どれ程、って…前の世界の連中と比べてか?」


「ああ、それで良い」



 マディスと呼ばれた、異様に細長いフォルムをしたメカ《ダークスチール:サーバント》の一体に話しかけるのは、その兄弟機である《ダークスチール:バンディット》のハーヴェル。

 黒の液晶に浮かび上がる5つの黄色い点が向き合うと、球体を複雑に変形させたフォルムの灰色のメカは小さく頷く。

 正面へ向き直り、マディスはロボットアームが忙しなく作業している傍ら天井を見た。



「そうだな……個々としては『アバランチ』の構成員に匹敵する強さに思えた。あいつら程搦め手を使ってきた訳じゃ無いが」


「あいつらの前の連中…でも無く?」


「流石にそれは過小評価だな。《シードマイン》や《シードバルカン》、ブラストビットを活用してなきゃ苦戦も有り得た」


「そうか。――ミリーやベレッタの奴がな、『あんなに楽勝なら、ジナリア様の為もっと貢献しておけば良かった』と悔いていたぞ」


「いやぁ……兄貴が呼ばれてない時点でどんなコンセプトの奴が求められているか、分かりそうなもんだが……」



「荷が重い任務だった」と謙遜めいた事実を呟く一方で、マディスは自身の兄や兄の挙げた仲間達の持つ能力を羨ましく思っていた。

 設計思想上、そうした戦闘特化のメカとの間に火力の決定的な性能差が生じるのは致し方ない事だが。上司(ジナリア)で実現できている隠密能力と火力の両立に到達出来ずとも近付ける事は出来ないか、という彼自身の要求が現在の状況に至らせた。


 海賊と対峙したパンドレネクとメカ船団を始め、マディス並びに王国への潜入組の提出した戦闘データを元に必要な、状況に応じた総合的性能を算出。

 時が経てども創造主との連絡は付かず、無断という形になるものの、メカの装備や性能を変更しても何ら異常が無い事を検証済み。

 また、ジナリアからの許可が降りた事で、『トワイライト』メンバーでの試験実施の下地も整い。


 ゲームの頃から性能を引き上げる、謂わば魔改造計画の第一弾としてマディスとハーヴェルの2体が抜擢された。

 現在はその魔改造の最中であり。完了すればより最適な装甲、より高度な運動性能、より多彩な戦闘技術が彼らに与えられる。

 また、並行して彼らと同じMサイズの《ダークスチール》亜人形メカ用の、戦闘特化の換装案とその試験機の作成も行われていた。


 大事な時だとは分かっていても、じっとしていなければならない時間というのはメカにとっても退屈なもので。

 こうしてマディスとハーヴェルは適当な話題で時間を潰す他無かった。






「……終わった、が。あんまり変化を感じないな」



 忙しなく動いていたロボットアーム達が全ての工程を完了し、マディスとハーヴェルの2体から離れた後。

 固定器具のロックも解除され起き上がったマディスは手を開閉する。



「まあ、その程度の動作じゃあ、な。本当に重要なのはこの後だ。そうだろう?」



 兄の言葉にマディスが頷くと、角ばったボディにホイールの取り付けられた作業員メカが2機に近づく。

 アーム型の頭部の先端にあるカメラが、立ち上がる新しくなった2機の姿を捉えた。



「それではお二方、よろしくお願いしますね」





 30分後、マディスとハーヴェルの姿はファクトリア北西側にある機兵舎の敷地内にあった。

 機兵舎とはS〜Lサイズの軍事用メカに用意された居住スペースであり、ファクトリア全体の約2割を占める。

 ただ、軍事用の中でも運用しているのは陸海軍に属するメカで空軍はクローバー・フォートレスを居住地とも定めている。

 更には、陸海軍所属でも一部のメカは他の場所を居住地としていた。


 そうした例外を上司とする彼らに対し、機兵舎の利用者たる陸海軍のメカ達は歓迎の意を示していた。



「珍しいですね、まさかトワイライトのお二方がこちらにいらっしゃるとは」



 機兵舎エントランスにて。深緑の軍服に身を包んだ、Mサイズの中でも巨躯となる亜人形メカが丁寧な言葉遣いと所作で目の前のダークスチール2機に応対する。



「ああ、ジナリア様から指示を受けた訳では無いが、待機してばかりも性に合わないんでな。……少しの間訓練場を借りたいが良いか?」


「構いませんよ。こちらこそ騒がしくするかもしれませんが、何卒ご容赦を」


「となると、もう新兵が配備されてるのか?」


「それもありますが、今日は特別な日でして」



 特別な日と聞いて、会話していたハーヴェルと黙って聞いていたマディスが顔を見合わせる。

 両者が理由を思考するより先に、軍服のメカがそれを答えた。



「首都で行われているウツギ様とイッテツ様の試合稽古が、機兵舎全域で中継されているのですよ」


「ああ…そんな日だったか。分かった、気を付ける」



 会話を切り上げ、兄弟は軍服のメカに見送られながら奥の通路へと進んでいく。

 各種センサー類は、付近に彼らを除く同族の反応は無い事を示しており、ウツギ達の人気の高さを裏付けていた。



「相変わらず、ここのギーク達に好評みたいだな、ウツギ達」


「そうだな。あの師弟は刀剣類かつ格闘系の武器の扱いに長けている。ここの連中にも使う奴は少なからずいるが、あくまで使える手数を増やす為で主武装にしている奴は居ない。だからこそ、魅入られるのだろうな。制限を課した事で到達した領域に」


「制限を課した事で、か。オレも兄貴も無縁な話だな」


「だがそのおかげで、こうして『トワイライト』の一員として認められている。要求される個の強さがあれだけとも限らんさ」


「まあ、確かに…。手段にあんまり拘るとスティンギオンみたくなるしな……」


「あいつは……オロッコの倍は五月蝿い事を除けば優秀なんだが……」



 訓練場へと足を進める両者の思考回路には同じ『トワイライト』に属するとある亜人形メカの姿が浮かぶ。

 ()()()()が役職故に記憶の中でも騒々しく、早々に彼らは思い出すのを止めた。


 歩き続けると目的の場所である屋外の広大な空間に出てくる。

 機兵舎敷地の約4割を占める訓練場はLサイズ相当までのメカならば自在に飛び回れる程広く、それでいて平常時の景観からは想像出来ない程に機能に富んでいる。

 出てきて早々、ハーヴェルはウィンドウを表示し、訓練場のシステムに繋ぎ操作を始める。

 右手1つで行われる軽快な動きの後、Mサイズ同士の1対1にうってつけなバトルリングが彼らの目の前に転送された。



「武装やスキルの使用制限は?」


「無しで良い。バトルマップも必要無いな。実戦感覚でぶつかってこい」


「分かった」



 短い会話を終え、両者はリングの上へ対面する形で配置に就く。

 待機姿勢のまま、まだ動かないハーヴェルより先にマディスが動いた。

 軽快かつ速やかな足が床と接触する度に電流が迸ると、大きく跳躍し空中で右腕の砲口を構える。



 使用武装:スペースノッカー

 スキル:《ブラックバレット:ディストーションストーム》



 開幕に繰り出すのはエルタ帝国でも駆使した漆黒の奔流。発射方向へ真っ直ぐ伸びる自己はおろか周囲の大気をも大きく歪ませ、使用者を反動で後ろに押し込む現象が威力の高さを物語っていた。

 それでもハーヴェルはその場から動こうとしない。頭部の3つの円が左に半回転するのみで。

 やがて、漆黒の奔流は奇抜な形状のメカを呑み込み爆発を起こした。大きく膨れ上がる煙を前にし、マディスは静かに着地するが警戒を続ける。


 その判断を肯定するように、煙を突き破って迫る影が1つ。X状に広がりつつある赤熱を認識し、マディスは姿勢を低くして突進を仕掛けた。



 使用武装:パイロプロセッサー

 スキル:《バーニングクロス》



 瞬間、彼の居た箇所は若干の融解と共に焼き溶ける。感知温度に警報が鳴る中、内蔵センサーだけでなく彼の視界(モニター)もそれを引き起こした物体を認識した。

 赤熱の正体は、ハーヴェルの伸びた両腕だった。蛇腹状に金属板を繋ぎ合わせた腕が、内部の特殊ワイヤーを剥き出しに長く伸びている。

 攻撃範囲(リーチ)を広げるだけでなく、反応の遅れすら隙と見做す程の速い一撃を繰り出す攻撃性能。これがマディスよりも戦闘に長けたメカたらしめる理由の1つだった。


 一撃で生じた風圧に煙が押し流され、未だ健在のハーヴェルが姿を現す。爆風で舞った砂埃に表面が汚れた程度で、ブラックバレットの直撃を食らったとは思い難い。

 伸びた両腕を縮めている間を好機と見たマディスは突進の勢いのまま兄に肉薄し、左手で触れる。



 使用武装:ジェネレートアーム

 スキル:《スマッシュボルト》



 熟知している間柄だからこそ、《スパーキーブロー》で様子見をする必要など無く。マディスは直ちに高出力の放電を繰り出す。

 灰色の巨体を包み込み、その周りの大気へも強く干渉する青白い輝きを放ちながら、ハーヴェルはこの状況下で当たり前のように動いた。



 使用武装:パイロプロセッサー

 スキル:《バーニングアッパー》



 縮みきった蛇腹の右腕が赫炎を纏い、再び伸びる。鋼鉄のボディを融解させかねない炎熱の拳が風を切るのと、システムを外装甲ごと破砕しようとした雷電がハーヴェルから離れるのはほぼ同時だった。

 《スマッシュボルト》を解除し後ろに飛んだマディスへと、振り上げ伸びた拳が素早く振り下ろされる。



 使用武装:パイロプロセッサー

 スキル:《フレイムカッター》



 迫る間にも炎熱の勢いは更に激しさを増す。兄の繰り出す特技だと確信したマディスは普通の回避では間に合わないと脚部のバーニアを開いて噴かし、緊急回避を行う。

 そうして、真横へ振り下ろされた灼熱を視認するマディスの思考プログラムに安堵は無かった。

 特技は得意であるからこそ、一芸だけで終わらない。



 使用武装:パイロプロセッサー

 スキル:《フレイムカッター:デュアル》



 姿勢を低くし、直ぐ様マディスはバーニアを噴かす勢いで先程よりも高く跳躍する。ハーヴェル相手に跳躍の高さを調整する小賢しい真似は通じないという確証があって。

 それを正解と告げるように今度は左の赤い一閃がマディスの居た場所へと振るわれた。

 そして、この状況はハーヴェルの狙い通りである。次の、そのまた次がある事を予見したマディスは直ちにブラストビットを射出し、迎撃準備に入る。


 実際に見るより先に身構える出来の良い弟に歓喜するように、ハーヴェルは凄まじい炎熱を纏ったままの両腕を振り回し始める。

 次第にその勢いは増し、回転速度に比例して周辺温度を大きく引き上げた。



 使用武装:パイロプロセッサー

 スキル:《レッドホットサイクロン》



 触れるもの全てを焼き溶かさんとする、猛炎の暴風が拡大しながら勢いを増す。中心となった、高速回転を続けるハーヴェルの3つの円は空中のマディスを見据えていた。

 呑み込みにかかる赤き暴威を捉え、感知温度からの警報がけたたましく鳴り響く中暴威を打ち破る算段を立て、直ぐに実行に移す。



 使用武装:ブラストビット

 スキル:《カオスフラッシュ》


 使用武装:スペースノッカー

 スキル:《ブラックバレット:マッドバーストV(ボルテックス)



 技術力によって生み出された灼熱と強風をものともしない、マディスと同じ色合いの飛行物体2機と、先程同様に右腕を構えたマディス自身が同時に射撃スキルを使用する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()というジェネレイザにおける前代未聞の行動。だが、マディスには不思議とそれが不具合無く実行出来る確信があった。


 その確信からの行動は実現し、激しく煌めく七色光の光線と黒色の弾丸を突き破って生まれる長く伸びる渦が勢いを増しながら猛炎の暴風と激突した。



「くおぉ……ッ!」


「ぐぅ……!!」



 想定を超える衝突の威力に、両者はセンサー類の警報を聞きながら珍しくうめき声を上げる。やがて、衝突を続ける2つの勢力は互いを呑み込む爆発を生み出し掻き消された。

 爆発は強力な突風を生み出し、両者、特に空中に居たマディスが翻弄される。

 脚部のバーニアや身振り手振りを駆使し、どうにか姿勢制御を行ったマディスは軽快な着地と共にブラストビットを背中へ格納した。

 着地姿勢のまま少し静止する彼へ、回転を止めたハーヴェルが歩み寄る。



「やるな。威力を上乗せして俺の攻撃と相殺させたか。よくあの土壇場で思い付いた」


「オレとしては、あそこまで威力が上がったのは想定外だったよ。…異なるスキルの相乗効果、中々興味深いな」


「性能を一時的に引き上げる、所謂バフスキルとの併用は俺やミリー、それから三姉妹様達がよくやっているが、攻撃スキル同士の組み合わせは後にも先にもお前が初だろう。流石は自慢の弟だ」


「よしてくれよ、照れるぜ」



 そんな会話をした後、いつの間にか集まっていたオーディエンスの姿に両者気が付く。

 バトルリングの外で、軍用メカの数々が集まり。両者の実戦訓練に興味津々の様子を示していた。



「マディスよ、まだやれるか?」


「ああ。もう少しだけやってみる」



 少しの休憩の後、両者の激しいぶつかり合いは再開した。





 ◇◆◇





 首都カルヴァルズ・フルドの中心、メインタワー近辺。

 聳え立つ塔とそれを囲むように配置された犬歯を模したオブジェクトの数々以外を持たないその1区画は騒がしい事態となっていた。


 剣戟による激しく衝突する金属音が響く空間。そこを取り囲むメカ以外の多種多様の種族の者達は息を呑んだ。


 片や、桜色の巫女服に身を包んだ桃髪の少女。

 片や、ハーヴェルのそれより濃い灰色の鎧武者。


 見た目からはおおよそメカとは思えない異色の師弟が、舞い踊るように互いの刃をぶつけ合う。

 刀剣類のみという制限はあるものの、武器を適度に持ち替え連撃を振るうが、押され気味の鎧武者。

 対して、純粋な黒色の刀1本のみで鎧武者相手に余裕綽々と立ち振る舞う巫女服少女。


 異様。正しくそう形容できる光景が、この国に於ける異種族達の目に映っていた。



「もっと激しく打ち込みなさいイッテツ。貴方には思い切りが足りません」


「そうは言われても、これでも思い切った方なんですが、ねッ!!」



 使用武装:三叉爆連槍

 スキル:《発破乱れ突き》 



 特殊なプログラムの仕込まれた三叉槍の渾身の突きを、巫女服少女は身を捻っただけで容易く回避する。

 直ぐ様引き戻し、刃先の向きを変え、突き出す方向を変え乱れ突きを振るうも彼女はそれすらも避けてみせた。

 露骨な狙いでは徒労に終わると考えたイッテツと呼ばれた鎧武者は、敢えて狙いを大きく反らして彼女の足元に突き入れる。


 白い足袋に桜色の草履を履いた足では無く、狙うのは鋼鉄の床。刃先が接触した事で三叉槍のプログラムが起動し、地面から大きな爆発が巻き起こる。

 彼らと観客の間に特殊なフィールドが貼られていた為に、オーディエンスに床から飛んだ破片が当たることはまず無いものの、爆発で巻き起こった黒煙が晴れるより先に巫女服少女の姿が見えない事にイッテツは気付く。


 そして、背後からの殺気。三叉槍から長巻と小太刀に持ち替えイッテツは直ちに振り向いた。



 使用武装:黒鋼刃・桜火

 スキル:《一文字:『蒲公英(たんぽぽ)』》


 スキル:《ガード:不動術》



「―――ッッ!!」



 空中、逆さまの体勢から繰り出される、風に吹く綿毛に擬えた名前の強烈な横薙ぎを2振りの刀で受け流す。その小柄な体格からは想像も付かない衝撃がイッテツの両腕に襲いかかる。

 ガードスキルの効果でダメージを抑えつつ、反動で踏ん張りながらも後ろへ押された。

 生身ならば肩で息をしていたであろうイッテツに対し、軽々と着地した巫女服少女は黒刀を構えながら多重円を描く琥珀色の双眸で2振りの刀を見る。



「…やはり、咄嗟の判断だとそれらを出してしまいますか、イッテツ」


「……ええ、まあ。師匠と稽古しながら色んな刀剣類を握りましたが、結局、こいつらが一番手に馴染むんでね……」



 イッテツの今握っている2つの刀。長巻を『(さめ)(はみ)(かぶ)()』、小太刀を『二世太夫』と呼ぶそれらこそが、イッテツの愛刀、つまりは切り札。

 その切り札を安々と、防御手段として出してしまった事に師匠は少し残念がる。



「少し意地悪をしましたが、本当の戦いで()()ではいけません。私だから加減はしましたが実際に相対する敵はそんな事をしませんよ」


「分かっています。防ぐにしても迎え撃つにしても、詰めの段階で無いなら適当な、それこそ安価な武器でやるべきだと。そうでしょう?」



 両者は至って真剣だったが、周囲からすれば多少の配慮はあるもののそれでも目で追いつきにくい速さで打ち合いは行われている。

 そんな中、師匠と呼ばれた巫女服少女…《鋼刃戦姫》ウツギ・ムラサメの何気なく零した一言にオーディエンスの1人が唖然としながら呟いた。



「…あれで加減してたんだ……」



 加減とは程遠い威力を目の当たりにしての当たり前のような感想。保護されている身分の手前そんな事を口にして良いのかと思う反面、同意しても居る周囲は判断に迷った。

 軽くざわつく外野の様子を見て、ウツギは軽く咳払いをして仕切り直す。



「……端的に言ってしまえばそうですが。あの場面で本当に必要なのは敵の目論見を真っ向から打ち砕く度胸です。不意打ちを不意打ちのままにしておくには我々は心許ない。だからこそ、限られた手段で繰り出せる判断能力、武器がどうとか以前にそういう選択肢で我々は勝負するのですよ」


「一理ありますね。俺は師匠より使える武器が多い分、判断に迷う。……いつの間にか、そうした要素を疎かにしていましたね、すみません。――続きをお願いしても?」


「ええ、愛弟子と、陛下の頼みならば断りませんよ。もっと強かに、激しく打ってきなさい」



 頬を若干上気させながら、正眼の構えをし。大太刀『散駄楼』に持ち替えて迫るイッテツを迎え撃つ。

 グレードA+とS-。ジェネレイザの中でも類稀なる強者2体のやり取りを前にオーディエンスの大多数には冷や汗が浮かんだ。



「ひょっとしなくても……」


「ああ、この2人……。帝都の大魔導士と同じ類だ……」



 脳裏に浮かぶのは母国であるエルタ帝国、その首都近辺を活動拠点としている古代ルーン技術に明るい魔導士集団。

 彼らの持つそれに似た狂気を目の当たりにし、珍しい見世物があると聞いて飛びついた自分達の判断を若干後悔するのだった。


 置いてけぼりを食らう外野を尻目に、両者の試合稽古は続く。



 使用武装:散駄楼

 スキル:《(しろ)(くずし)(がたり)(ぜい)(へき)(いち)(だん)



 生物に於ける()()を再現した動きで、イッテツは両腕を逆袈裟の要領で振り上げ渾身の1振りを放つ。

『月玉鋼』を用いた鬼刃『散駄楼』に纏わる伝説を再現した、飛距離に比例して巨大化する飛ぶ斬撃。


 手加減ありきではまず出せない一撃を前に、ウツギはますます高揚しながら自身も渾身の1振りをすべく振り上げ構える。

 それは、本気の度合いに応じて伸び広がり方が変化するとされるウツギの得意技――――。



 使用武装:黒鋼刃・桜火

 スキル:《広域真向:『彼岸花』》



 飛んで巨大化する斬撃には()()()()()()斬撃を。漆黒の禍々しい剣気の中から鮮やかな赤が咲く。

 対照的な色合いの巨大な斬撃同士が衝突し、内部で発生した衝撃を吸収するフィールドの外であっても、まるで暴風に晒されたような強い圧を外野は感じ取る。



「はッ!」


「ふッ!!」



 斬撃同士が打ち消しあったと同時に、シームレスに鍔迫り合いへと移行する。

 体格はイッテツの方が上だが、ウツギが押し負ける事は無い。それどころか余力を残しており、隙あらば押し込もうとすらしている。

 このままでは不利になると踏んだイッテツは飛び退き、『散駄楼』から金の装飾の美しい黒い薙刀へ持ち替える。



 使用武装:黒鋼刃・夜天閣

 スキル:《演武・夜叉轟天》



 片足、それも爪先立ちとなり、左右を交互に踏み込む独特な足運びと共に薙刀を振り薙ぐ。

 右へ左へ迫る剛刃を、ウツギは容易く受け流すが、刃と刃のぶつかり合う音の重さが、一撃の威力の高さを物語っていた。


 徐々に加速していく弟子の連撃を、ウツギは珍しく口元を緩めながら同じ『闇夜之玉鋼』製の黒刀で以って捌いていく。


 凄まじい稽古が行われているのは確かだが、外野は最早ついて行けない。

 過熱していくフィールド内部の状況に、辟易としていた。

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