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機皇の国  作者: Gno00
第三章 オーバースケール・ワーク

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36/44

災厄の方舟

 時刻は数時間前に遡る。

 ユニリィ・ファクトリア圏内に配備された、国内最大の格納庫。

 その内部では多種多様ながら異形のメカ達が忙しなく動いていた。



「各種弾薬補充ー。予備含め燃料の納入ー。遅れてくれるなー」


「分かっとります! その為に新入り共も総動員させとんですから!」



 誘導棒を巧みに振り回す建設作業員に似た風体のメカに、フレームボディの古ぼけたメカが怒鳴る。

 その後ろを大小様々なメカ達が通り過ぎていく。受けた指示を愚直にこなす新品相当の曇り一つ無い風体をした彼らが新入りだと言うのは一目瞭然だった。


 現在、彼らが駆け回っているのは、たった一隻の艦艇の周囲。

 それも、国内最大の艦艇…()()()の大きさを持つ戦艦の周りを。

 甲板ですら並の艦艇のそれを遥かに凌駕する戦艦に、蓑を纏ったような青いメカが屈んでいた。


 彼の周囲では他のメカ達が整備に勤しんでいるものの、彼自身はそれを手伝おうとはしていない。

 が、この行いを咎めようとする者は誰一人として居なかった。


 そうなるだけの理由を示すように、蓑から出た細いフレームの腕が愛おしそうに灰色の甲板を撫でる。

 色褪せたカメラの映像には、今の光景とかつての戦艦の姿2つが映り込んでいた。

 

 瞼を再現したシャッターが、懐かしむように僅かに閉じる。



「お前が初めて出撃した日を思い出すな…」


「丁度、こんな日だった。同じメカの国が危ういと、新造されたばかりのお前が駆り出されたのだった、な」



 まるで、幼子に言い聞かせるように。

 質感は艷やかであれど、色褪せた外見から確かな年季を感じ取れるメカは周囲の状況と彼自身、それから彼が触れる装甲の持ち主を切り離した。



「お前は〝災厄〟の名に違わない暴威を以てして、その国の脅威を退かせてみせた。当然、諸外でこれを手放しに褒める者は殆どおらんかっただろう…」


「だが、儂は違う。儂はお前の強さを見て、作り出した事は間違いで無かったと確信を持てた。ジェネレイザへ齎す新たな可能性。お前はそれを十分に示してくれた」


「お前はジェネレイザの誇る海軍、その中でも一際優れた傑作なのだよ」

 

「お前の()はお前の奔放ぶりに手を焼いてはいるが、決して嫌いという訳では無いのだ。同様に、お前を整備してくれる者達も嫌ってはおらん」


「水鉄砲を持ち出したところで予測の範囲内の反応しか返ってこんのはお前自身知っとる筈。あれは、別の意味合いがあったのだろう?」



 甲板を軽く擦りながら呟いた問いに、明確な言語は返ってこない。

 それでも、相槌を打つように老いたメカは数回短く頷く。



「……そうか。お前も危ぶんでいたか。この国の消滅という可能性を。お前は日常的にやっている悪戯から、僅かな違和感を伝えたかったのだな」



 ジェネレイザの各種機能が保存する映像記録。あるいはごく一部の設備に生じた、輪郭に歪みを発生させるノイズという現象。

 理由は様々ながら、漂着したこの国に更なる危機が訪れている事に気付くメカは徐々に数を増やしていた。

 このメカもまたその一体で、彼は現在足先から少しずつ透明化している自身のボディと漂流初日の映像記録が食い違う事から気付いた。

 事実、こうして甲板の上で四つん這いとなっている状態でも足が見えない姿で、彼は()()()()稼働出来ている。

 


「なに、心配いらんよ。儂でも気付ける現状をジェネル陛下もご存知の筈。必ずや解決方法を示して下さろう」


「進行こそしてはおるが、今日明日で全て消えて失くなるとは思えん。…時間との勝負ではあるがお前はお前の仕事を果たせ」


「さあ、行っておいで。お前らしさを存分に振るいなさい」



 青い蓑のメカがその一言で会話を終えると、二体だけの時間は元通りとなる。

 気付けば、既に発進準備はほぼ完了し、後は格納庫内への注水を完了し戦艦が格納庫から出て行くのみ。

 撤収作業も円滑に進み、船上で作業をしていた整備担当のメカ全員の下船が終わる。その中に当たり前と言うべきか、青い蓑のメカも含まれていた。

 

 船底そのものと船底に備わる角状の巨大な突起が水に浸かっていく光景を眺める彼へ、黒い軍服を着た恰幅の良いメカが近寄る。

 


「特等席で見なくてよろしいのですか? 貴方は()()()の設計者なのですから、それぐらいの我儘なら聞きますよ」


「皆と同じ目線から見るのが好きでな。…それに、この老いぼれには立ち会わせて頂いただけでありがたい事です」

 


「そうでしたか」と軍服のメカは被っていた帽子を被り直した。

 黄色と黒の警戒線の下まで真水が注がれたところで注水が終わり、今度は格納庫のシャッターが開く。

 それと同時に、鈍い駆動音を立てながら船体側面と前に出ていた連絡路が稼働し戦艦が出られるだけの余白が確保された。

 全ての準備が整い、シャッターが開ききった直後、船体を支えていたアーム30本が段階的に取り外され、解放された船体が少しずつ前進する。

 

 段階的な加速により、2分足らずで壮大なる船体が格納庫の外へ出て行く。

 小さな地響きを起こすほどの大歓声が上がる中で、軍服のメカと青い蓑のメカだけがただ静かに、離れていく船尾を見守っていた。

 


 格納庫の外は港湾に繋がっており、巨大戦艦は時速10ノットを維持したまま工場群を通り過ぎていく。

 日常業務に追われているメカ達の中で、その漆黒の禍々しくも気品ある姿を目撃できたのはごく少数だった。

 全長8000mはある艦船、それよりも更に巨大な乳白色の壁が霧に隠れつつ()()の奥で見守っていたが、あまりのスケール差故か誰も気にも留めない。


 ――当の巨大戦艦すらも。


 段階的に加速していく黒き暴の塊は、何も恐れるに足らないとばかりに目的地となる帝国領へ真っ直ぐ突き進む。

 そう、恐れてなどいないのだ。海面より下に()が潜んでいようとも。

 寧ろ、()()を恐れて自ら離れていく存在を彼女は自身の、また祖国の脅威とみなさなかった。

 

 


 

 それから現在。ザリアドラムは自身の撃ち放った最強の一撃による閃光をその目で確認する。

 同時に、バンティゴへの損害に至らなかった事も。



「ヤハリ、戦力ヲ分ケテイタカ。落チブレテ尚我ラニ歯向カウダケハアル」



 望む結果にこそなりはしなかったものの、その声も表情も上機嫌を見せている。

 決定打とはそう遠くは無い、確かな手応え。

 地上を見れば、劣勢でありながらも必死に食らいつく帝国軍の雄姿がそこにあった。


 直後、暴の化身とも呼べる巨体が小刻みに震え出す。

 歓喜。ただその感情だけをザリアドラムは全身を使って表現してみせた。



「素晴ラシイ…素晴ラシイゾ帝国軍!! (イクサ)ハコウデナクテハナァ!!!」



 物心ついた時より、闘争に身を投じて来た彼にとってこの戦いそのものが心地よい刺激であった。

 戦力差は歴然。されどこれを覆しうる不確定要素が存在する。他でもない帝国軍そのものと、帝国が培ってきた技術だ。

 建国当時より今まで継承されてきた古代ルーン技術。今なお全盛期さながらの稼働を続ける古代アーティファクトの数々。

 そして、それらを最大限発揮出来る帝国の民、民より選抜された帝国兵。

 

 いずれもが、魔王軍にこうして立ちはだかっている。ザリアドラムとしてはこれに興奮せざるを得なかった。


 特に技術においては魔族すら未だ全容を把握していない未知数の塊であり、まだ隠し玉がある可能性を否定しきれない。

 もっと、もっと見せてみろ。言葉に言わずとも直接地上の戦力に干渉し、この場にいる帝国軍全員に伝えて見せる。



 技能:腕・《ベイルインパクト》



「オオオオオオォッ!!」



 腕より放たれる破壊の衝撃を両腕を駆使し、矢継ぎ早に飛ばす。

 勘の鋭い兵士の何人かがそれを察知したか、顔を上げ仲間に知らせる様子を見せた。

 その奥で陣取っていた高位の魔導師を中心に、魔導部隊が5人一組の十字陣形に固まり、魔法の行使を始める。

 それから1秒待たずして発現する青く半透明の結界に、ザリアドラムは更なる胸の高鳴りを覚える。



 技能:混成印 《凪船術証》



 放たれた 《ベイルインパクト》の威力が、強く点滅し反応を示した結界に近づくにつれ急速に弱まっていく。

 帝国兵一人一人を守るべく生成された防御結界に触れる頃には、そよ風すら起きない無害なものに変えられていた。

 それに少したじろいだ、対面する【ナックルガイザー】達が持ち前の巨腕に魔力を纏わせ最前線の兵士達へ殴りかかる。


 が、巨腕の勢いすらも大きく削がれ、触れたとしても兵士の鎧にゆったりと優しく触れる程度であり、直ぐ様手痛い反撃の嵐の餌食となった。

 【ナックルガイザー】の数が激減した事で空いた空間を、漆黒の二輪戦車を下半身とする亜人型魔族【ダークチャリオット】が突っ切る。


 両手に握る長槍や大戦斧、背中より生やした触手の数々を振るうも、そのいずれもが《凪船術証》の強力な緩衝作用を突破するに至らない。

 寧ろ出張ってきた事で準備の整った大砲、大掛かりのルーン魔法の直撃を受け。悲鳴すら上げられないまま推定戦力からは想像もつかない瓦解、瞬殺ぶりを晒した。


 これだけの応酬だけで、第5遠征軍の凡そ2割が損なわれた。

 その上で尚戦力は失われつつある。援護に入ろうにも結界に防がれる結果が見えている航空部隊は、手をこまねいている内にその眉間を、胸を、あるいは腰から下全てを撃ち抜かれた。

 最前線を支える部隊に余裕が、勢いが生まれた事で支援に徹していた魔導部隊も本格的に攻勢に至る。

 最早この勢いは消えない。首都からの増援により死傷すら無縁と化した帝国軍に最前線の魔族達が恐れを抱いた。

 恐怖は伝播していき、為す術もないまま鬼気迫る暴力の嵐に踏み荒らされていく。


 その光景を、稀に飛んでくる攻撃魔法を容易くいなしながらも空中の特等席で目の当たりにしたザリアドラム。

 身震いを強める彼の反応は当然――――熱狂だった。



「良イゾ! 良イゾ良イゾ良イゾ!!! マダ隠シ球ヲ持ッテイタカ!!!」



 今にも小躍りしそうな勢いで、敵対者達の行動を高く評価する。

 劣勢を大きく覆そうと手を尽くす彼らの姿が、ザリアドラムにとって輝いて見えていた。


 ……尤もそうしている間にも、部下たる魔族達は数を減らしつつあるのだが。


 無論、これを理解していない将軍では無い。



「シカシ、コノ程度デ戦況ヲ覆セルトハ思ッテイマイナ? 元ヨリ戦力ノ差ガ歴然デアル事ヲ忘レタ訳デモアルマイ」



 剛魔将軍はその太く逞しい指で音を鳴らす。

 所作に微量の魔力が含まれていた事で、戦場の喧騒に僅かな音が確かに響き渡った。


 それを合図として、魔王軍の後方に宝珠にも似た闇が生まれ、急速に拡大した。

 ある程度の大きさになった所で拡大は止まり、宝珠の中から怪物達が姿を現す。



「魔王様ハ慎重ナ御方ダ。モシモノ場合ニ備エ、コノヨウナ戦力ヲ用意シテ下サッテイタ」



 高まるテンションを包み隠さずにいた先程までと違い、大きくトーンダウンした声色でザリアドラムは呟く。

 増援として用意された、背中に砲身となる部位を備えた六本足の牙獣と、葡萄粒に似た球体を大量にぶら下げる風船に似た怪物が次々と宝珠から出てくるのを、彼は冷ややかな視線で見る。


 保険の役割を持ちこうして呼び出したのは妥当ではある。

 ザリアドラムにとっては不本意でもあるが。


 それぞれが戦力として特化した特性を持ち、【メルトブラスター】【ダストクラウド】の名を有する魔族。

 それらを呼び出した事は、即ち帝国軍に対する殲滅戦の開始を意味していた。


 もう少しだけこの甘美を噛み締めていたい。

 歯痒くなる心情を抑え、増援達に指示を送る。



「【メルトブラスター】、並ビニ【ダストクラウド】ヨ、帝国ニソノ脅威ヲ示スガ良イ」



 宝珠が消え、配置が整うと共にザリアドラムの指示通り動き出す。

 六足牙獣に備わる砲身が赤熱し、風船化け雲は徐々に高度を上げ、その体躯と肉体の粒を膨らませ始める。

 最前線の魔族の遥か後方に陣取っている為、帝国の高位魔導師の対処は間に合わない。

 仮に魔法の射程圏内に捉えたところで、増援には強固な防御結界が備わっている。剛魔将軍の推測が正しければ先程のルーン魔法、混成印 《壊地術証》の直撃を与えてようやく破壊できるか否か。


 先程まで存在した闖入者達の援護があれば。ジカランダスを自由に出来るだけの余裕を稼ぐ為、迎撃の致し方無かった者達が今になって惜しいとザリアドラムは思う。

 だが、こうして命じた以上最早止められなどしなかった。



 それこそ、更なる闖入者の存在でも無ければ。



【メルトブラスター】が背中の魔力砲の発射体勢に入った途端、その大半が紫を帯びた白き閃光に覆われ消し飛ぶ。

 上空に控えていたザリアドラムすら余波の爆風を一身に浴びる程の大爆発が直後に巻き起こる。

 遅れて来た轟音が鳴り響く最中、突然の事態に彼は反射的に顔を風から守るので精一杯だった。


【ダストクラウド】も上昇中で閃光に焼き切られ、何も出来ないまま空中で爆散する。

 魔族も、相対する帝国兵すらも。起きた現象が理解出来ないまま戦場が混乱に包まれた。


 当然ながら、増援の戦力が大幅に削がれた事実を呑み込めないのはザリアドラムとて同じだった。

 

 

「何ガ起キタ……?」



 攻撃された。何の攻撃かは不明。方角は北北東。結界は効果無し。増援の大半は直撃によって即死。余波による被害も甚大。地上戦力は混乱。航空戦力も行方不明多数。


 淡々と、剛魔将軍は事実を一つずつ把握する。

 帝国軍の遥か彼方に控えていたが故に、帝国軍の損害は増えぬまま第5遠征軍の損害だけが大幅に増えた事実に、ただただ困惑する。

 

 誰がどうやって、何をしたのかを考えようとした瞬間、空気が変わる。

 ザリアドラムを始め、遠征軍の全員が重圧に見舞われる。

 感じた事も無い、異質かつ重き重圧を一身に受けたことで、ザリアドラムから余裕が吹き飛んだ。


 

(何ダ、コノ重圧ハ……!!)



 思わずその場で立ち竦む程の重圧。全身の筋肉が軽く痙攣を起こす衝撃に、快感を覚えている余裕すら無い。


 

(マサカ、我ガ恐怖シテイルト言ウノカ……!!!)



 汗が噴き出し、体温が急速に下がる現象。暫く無縁とすら思っていた感情がザリアドラムに引き戻されていく。

 そう思っていたからこそ、彼はこうして被害が生じるまで気付けずに居た。


 既に、脅威はそこまで迫っていた事に。






 同時刻、バンティゴの司令部内にも緊張が走る。

 映像の乱れ一つ無く、リアルタイムにて戦場の光景を映し出していた映像を目の当たりにし、その場に居た帝国兵士、並びに大将軍すらも息を呑んだ。

 ドローンより送られてくる映像には、宝珠から出てきたばかりだった戦力の大半が消滅し、そうなった要因の攻撃が飛んできた方角には、靄がかかっていながらもはっきりと見える巨大なシルエットがあった。


 これこそが、ジナリアの示したとっておき。機皇国ジェネレイザの誇る、海軍戦力の一角。

 懐かしさすら覚えながらも、動じる素振りすら無い二人の美姫はその光景を目に焼き付けようとしていた。

 同時に、白髪の少女の口から一言溢れる。



「さあ、ムル。お姉ちゃん達に見せてくれ」


 

 

 ◇◆◇



 

 ムル・サプタス。その名はジェネレイザのメカ達に広く知れ渡っている。

 妹のエレ・ジルコランテ共々、プレイヤーの国家が誕生した頃に建造され、当初から今に至るまで海の戦力として幅広いメカ達を守り、支え続けてきた。

 ある者は唯ひたすらに彼女達の存在に感謝し、またある者はムルの持つ悪戯好きな側面に辟易しながらも同胞として頼もしく感じている。

 

 そんな彼女はドックから脱走する事は無いものの、殺傷力の極めて低い武装の一つ、ウォーターガンを使用し整備班をからかう習性がある。

 元はと言えば遊び半分でゲームの開発班が盛り込んだ設定であり、ゲームの枠を離れた今ではムル自身の意思とは別の行動として落とし込まれている。

 が、それに何の疑問も持たず、定型的ながらも各々の反応を返すメカ達を面白く感じていた。


 閑話休題。ムル・サプタスとその妹エレ・ジルコランテは船舶メカの一種、《ディザスターアーク》である。

 サイズ性能共にジェネレイザにおける、《カタストロフィ》ユニリィ・スペードと、《エクリプスアーク》ヴィゴロントとガーフルードの中間に位置する。

 つまりユニリィより小さく、ヴィゴロント達より大きいという事になる。その上でXLサイズを体現する巨体は存在感をとても放っていた。

 全長8000m、全幅1340m、最大高920mとなる超巨大戦艦であり、深黒の装甲に加え、喫水線には羊の角に似た部位が一対存在する。

 また装甲を彩る紫の雷塗装も特徴的で、正しく災厄の名を冠するに相応しい外見と言えよう。


 武装に関しては 《エクリプスアーク》の凡そ6倍となる。

 二連装どころか四連装となった巨大主砲を前後計12基備えるその姿は悪夢そのもの。

 ペーパープランをそのまま立体化させたような冗談じみた外見に、当時のプレイヤーはゲーム内性能に恐れ慄きつつも確かなロマンを感じた。

 

 ……これよりも更に冗談じみた外見のメカも存在するのはさておき。


 性能も最大の船舶メカ、その一歩手前に相応しく、《エクリプスアーク》が守りの艦船ならば 《ディザスターアーク》は攻めの艦船となる。

 非常に恵まれた装備可能な武装の数々に加え、威力命中補正共に高水準を有する多種多様なスキルが使用可能であり、スキルの一つ一つが天災級の演出、射程範囲、攻撃範囲を誇っていた。

 サイズ差による命中・回避補正を無視するスキル・武装を搭載すれば極めて優秀なアタッカーに化けた。

 勿論ながらムルとエレにもそれらは搭載されており、大半のプレイヤーがメインストーリーを攻略中に地獄を見る羽目となった。


 

 さて、そんな超巨大戦艦の一角たるムルは現在、バンティゴより東…港町カルメドラの遠洋に到着、待機している。

 ジナリア達により要請された帝国軍の()()、それを行う為に。

 そう、援護。あくまで援護に過ぎない。向こうにて激戦を繰り広げている敵の大将を討ち取ってはいけないと、他でもないジナリアに釘を差されている。

 ジェネレイザの規模と実情を知らなければ、世界一贅沢と言える援護である。


 しかしながら、ムルの付近に留まる船舶メカの乗組員達――ある少女とガイノイド一機が指向性の認識阻害を発動していて尚、ムルの巨体は良くも悪くも目立って見える。

 その為、西の隣接地への火力支援を現在進行系で行っていると知らないカルメドラの民には決して少なくない動揺が走っていた。

 

 

『お、おい何だあれ……』


『ママー、あれなに?』


『しっ。…早く家に帰りましょう……』



 認識阻害の影響で沈黙を保っているように見せているが、その上で船舶であるとひと目見ただけでは考えにくい異様な姿は、訳の分からぬものとして恐怖を抱かせる。

 今現在、砲塔の仰角を上げて適宜攻撃スキルの数々を使用していると知ったら、増々混乱が生じていただろう。

 

 それはそれとして、情報面での補佐を務める船舶メカに搭載されている集音性の高いマイクが拾うカルメドラの民達の反応を聞き、ムルもまたショックを覚えた。



『あの船…船なのか…? ……どうする、近づいてみるか?』


『止めましょう…遠すぎますし、接近出来たとしてこっちの帆船すら小舟になります。……動き出したら打つ手が無い』


『何もしないまま去ってくれるのを祈るしか無いのか……魔族が攻めてきてるってのに勘弁してくれよ……』

 


 またマイクが拾う音声は民達だけで無く。酷く憔悴した兵士達と思しき声も拾う事となった。

 少なくとも味方ではあるのだが…事情が事情故に何も通達出来ず、腫れ物扱いされる中で時折聞こえる海鳥達の警戒する声がムルにとっての癒やしだった。


 そして、癒やしは海鳥達だけに留まらず。



「あまり気にしなくて良いですわよ。…まあ、お邪魔した私達が悪いのですけれども」



 潮風に晒されても構わないが、それはそれとしておしゃれに気を掛けたワインレッドのシャツスカート姿をしたベレッタが傷心気味のムルにフォローをかける。

 今現在彼女は、杖を前に掲げる金色のガイノイド、エルドネーラ共々種類の異なる認識阻害技術を組み合わせカルメドラ方面に偽の情報を表示させ続けていた。

 着ている服も赤紫の髪も激しくなびいてはいるが、腕を組んで立つ姿勢を微動だにしないまま保つ彼女の背後には、彼女の背丈の12倍近くはある、腰より上だけを晒した人型物体が両手を突き出している。

 唐突に出たベレッタの一言に、エルドネーラが頭だけを向ける。



「どうした、ムルが落ち込んでおるのか?」


「そうですのよ。私達なんかより遥かに強いのに、意外と繊細なのよねこの子」


「ふむ…強く作られたが故に、持つ力を適切に扱うにはどうすれば良いか悩むようになっているのやも知れぬな」


「逐一気にされるのもそれはそれで考えものですけれど…」



 唯の悪戯っ子だと思っていただけに、苦悩するムルの姿に意外さを両者は覚えるのだった。

 

 

 

 


「ぬぅ…!?」



 苛烈とすら形容出来た攻勢の中で、最前線の兵士達を支えていた高位の魔導師の一人が、突如として戦場を包んだ重圧に反応を示す。

 さながら凍土の冷風のようだが、そこまで威圧感を覚えない。それでいて、魔族達は突如凍り付いたように動きが鈍くなる。

 魔族が北北東よりやって来た重圧に恐れ慄く様子を見せるのに対し、帝国軍の兵士は恐怖よりも困惑の方が強い。


 それから、直ぐに動ける兵士の一人が北北東を指差し、高位の魔導師もまたその示す先を目にする。



「何と…!!」



 ここからでもはっきりと見えると言う事は、即ちそれ程巨大という証明でもある。

 高位の魔導師は一目見るや否や、それがテクノロジーの塊だと見抜いた。

 この世のものとは思えない、技術の結晶。垂涎すら抱く雄姿に気を取られ…直ぐ様己を律する。


 正しく電撃を受けたような……全身の痺れる感覚。苦痛では無く唯ひたすら心地よい刺激を受けた老体は、仰け反る勢いで吼えた。



「――おおおぉおおぉっ!! 閃いたぁぁぁ!!」



 更なる希望が一筋、見えた瞬間。彼を重要な戦力の一つと数えている兵士達は彼の咆哮をそう感じ取った。

 更なる重責が一つ、増えた瞬間。彼を師と仰ぐ魔導師達は彼の奇行をそう感じ取った。



「えぇ? このタイミングで? マジですか??」



 同志が唖然とし沈黙する中、一人の魔導師がそうボヤく。

 すると直後に同志達が一斉に、静かにしておくようジェスチャーを送る。それから彼らの師はゆったりと振り向いた。



「何か聞こえた気がするが今は咎めんでおこう。お前達、準備せい」


「は、はあ。今回はどういう風に?」


「なに、いつもやっているのと同じだ。……あの船に匹敵する光線を撃ち出す」


「えぇ? 張り合うんですか、あんなデカブツに?」


「遠目ながら見えた、さっき出てきた魔族共にも防御結界が張られておった。あのように『強固な防御を貫く超長射程の魔法』が今の我らには必要なのだ」



 師の慧眼に、困惑気味だった弟子達の表情が引き締まる。

 実力はまだまだ未熟であれど、この切り替えの速さを高く評価しており、高位の魔導師はにっと微笑む。



「陣形はどのように?」


「そうだな…儂を中心に両翼を作るように固まれ。この陣形の内側に来る方の手を前の奴の肩に乗せるのだ」


「なるほど、魔法の行使に接触部位を足す事で威力の相乗を狙うのですね」


「術理解説なら後で幾らでもやる。だから今は早う配置に付け」


『分かりました!!』



 前線の兵士達が命懸けで時間を稼いでくれている間に、師の思惑通りの魔法が繰り出せるよう速やかに陣形を整える。

 高位の魔導師を中心に、弟子となる6人の魔導師達が矢印の先端のような配置となり、指示に沿って陣形の内側に来る手を一歩前に並んだ者の肩へ預ける。

 それが連鎖していき、息の合ったタイミングで師の両肩に若々しくも苦労の跡が残る2つの手が当たる。


 その瞬間、自身の構築した術理が功を奏する事を確信した。

 次に、出現させると同時に先端を前に掲げた杖より文字と思しき記号を、順番に発生させる。



「儂らの前におる者達は下がれ!! 保険は掛けているが巻き込まれてはいかんぞぉ!!」



 高位の魔導師の警告に、丁度前方に居た兵士達が反応する。

 待ってましたとばかりに、彼らは飛び退く勢いで道を開けた。


 それに危機感を覚えた最前線の魔族が何体か、阻止しようと動き出す。

 だが、魔導師集団の準備は既に整っている。今から動いたところで格好の餌食に他ならなかった。



 技能:混成印 《滅砲術証》



 鼓膜を消し飛ばす程の爆発音と共に、杖の先より巨大光線が真っ直ぐ放たれていく。

 古代ルーンによって生成された強大なエネルギーを無理矢理凝縮蓄積し、それを向きを決めた上で解放した為、光線の射出と同時に真逆の方向に凄まじい反動が発生する。

 高位の魔導師の後ろに並んだ魔導師一人一人に、肩に乗せた腕が千切れるかと思う程の衝撃が伝わる。師の照準が少しでもブレてしまわないよう、弟子達は死にものぐるいで防御魔法を掛けつつ耐えてみせた。

 

 一方の高位の魔導師も、全身から汗を噴き出しつつも魔法の照準がズレないよう、破壊のエネルギーが余所の方向に漏れ出ないよう必死に抑える。

 狙いは最前線の魔族では無く、その遥か後方に居る増援達。巨腕の破壊者(ナックルガイザー)漆黒の戦車兵(ダークチャリオット)など最初から眼中に無かった。

 届け。届け。届け。届け。やるべき事を現在進行系でこなしつつ、魔導師達はただただそれを祈った。


 やがて、蓄積したエネルギーの全てを出し尽くした事で凄まじい手応えが無くなり、魔導師達は力なく倒れ込む。

 全員汗だくの状態でありながらも、まだ安心はしていない。



「ど、どうだ……」


「――見えたぞ! 奥に居た魔族共もたくさん、消し炭になっちまった!!」



 視界がぶれ、ぼやけている事に苛立ちながら高位の魔導師は結果を確認しようとする。

 直後、戦線に参加していた別の老魔導師が降り立ちながら報告を述べた。

 次第に視界が回復し、その目でも遠征軍の残り戦力の凡そ2、3割を削ったのを視認した事で、ようやく高位の魔導師の口元が緩む。



「やった、やったぞ! ぶっつけ本番で上手く行った! うおおぉぉ!!!」


 

 合流した老魔導師共々、子供のようなはしゃぎようを見せる高位の魔導師。

 今も尚前線の兵士達が戦っているが、この場には喧騒から切り離された和やかなムードが漂っていた。

 少しでも魔力と体力が回復出来るよう、楽な姿勢で座る弟子達は、その姿をやつれた顔で見ていた。



「こ、殺されるかと思った…」 


「あの人に師事してからこんなのありふれた事だと思ってたけど…ここまでキツいとは……」


「俺、魔導師向いてねぇのかな……気分悪いし、めまいが…」


「いやいや、撃った直後に動けるあの人が異常なんだって」



 駆け寄ってきた衛生兵達に応対しながら、小躍りする師を尻目に戦線の離脱を始める弟子達。

 一方の師匠たる高位の魔導師は、北北東に鎮座する巨大戦艦の姿を見た。



「これでお前さんに比肩出来たかのう…?」



 対する戦艦は不気味なまでの沈黙を保っている。まるで何かの猶予にも思えるその沈黙を訝しげに見ると、それを裏付けるように巨大戦艦が動いた。

 シルエットの細長い箇所が増えたのは、間違いなく行動した証明である。



 使用武装:338cm四連装主砲×5

 スキル:《クラスターテンペスト》



 何かが勢い付いて降下してくる風切り音が天高くより聞こえ、魔導師達はおろか前線に居た兵士達すらそれらを指差す。

 それらは、巨大な砲弾の数々だった。この世界において一般的な球体のそれでは無い、円錐と円柱を合体させたような見た目のものが。

 1つ取っても大人二人分は容易く超える馬鹿げた大きさであり、形状も全く異なるが、帝国軍の誰もがそれを砲弾だと確信出来た。

 

 円錐部…つまりは弾頭を下に向け、その一つ一つが第5遠征軍の増援達の出現位置に突き刺さる。

 着弾地点に魔族が居て、容赦無く叩き潰す弾すらあった。

 その結果どうなるか。考えるよりも先に行動に移った魔導師達が、未だ有効状態の 《凪船術証》に更なる補強を掛ける。


 砲弾の赤熱が見えたと同時に、超大規模の凄まじい爆砕が巻き起こった。

 一瞬にして起きた破壊の嵐に誰もが理解の追いつかないまま砲弾の威力に呑まれていく。

 爆心地に尤も近い第5遠征軍の魔族は一溜まりもない。余波で起きた砂塵の嵐を 《凪船術証》で相殺しながら帝国軍の誰もがそれを確信した。


 幸い、《凪船術証》は砂塵の嵐の中でも有効のままだった為、これによる帝国軍の損耗は発生しなかった。

 魔族の魔力によって強化され、更に補強された防御結界 《凪船術証》ならば余波程度は耐えられるという実証になったが、勘の鋭い者は始めからこちらへの影響を可能な限り抑えた攻撃だった可能性を考慮していた。


 先程新たな混成印を発動した高位の魔導師もその一人で。砂塵の嵐が弱まると同時に大笑いを浮かべる。



「あぁっはっはっはっはっ!! こりゃあすごいなぁ! 儂も負けてられんわっ!!」



 あまりの凄まじさに出た感想は、深い感動。その態度こそがこの世界の深淵に挑まんとする者の格を示していた。

 弟子達が先んじて戦線から離脱した事に気付いたのは、その1時間後の事だった。





 一方のザリアドラムは自身に降りかかった砲弾の影響を自らの魔力を以って耐えては見せたものの、部下達の損傷は決して軽微とは言えなかった。

 地上部隊が辛うじて残っているが、それも帝国軍に狩られ尽くされるのは時間の問題となる。

 航空部隊は、最早見当たる者が見付からず、事実上の全滅と言う他無い。

 増援達も光線で死ねたなら寧ろ幸運だったと言える状況で。残り少ない命で力尽きるのを待つ者の姿が見えた。



「ザリアドラム、(さマ)……」



 聞き慣れた声に、ザリアドラムは動揺を露わにしながらも振り向く。

 そこには、煤に塗れ傷付いた側近たる配下の姿があった。



「ジカランダス、カ…」


 

 彼女の到着を以って、剛魔将軍はようやく、敗北の二文字という名の現実を受け止める。

 屈辱的ではある筈だが、不思議な事に悔しいとは思わなかった。

 寧ろ、ザリアドラムはこの状況に納得してさえも居た。



「ハ、ハハ…コレハ自ラ招イタ状況ダト言ウノカ……」



 改めて己に問うが、これを否定出来ない。

 これこそ待ち望んだ未来では無いのか? 逆に聞き返す己自身すら今の彼にはある。


 だらりと逞しい腕を垂らし空を仰ぎ見て、叩きのめされた現実の苦々しい味をじっくり堪能する。

 全盛期の帝国と戦ったなら、これよりマシな結果になっただろうか。

 もう答えの出ない問いに、彼は別れを告げる決心を固めた。


 彼の表情には無くとも、長らく側近を務めたからこそジカランダスには分かる。

 今の彼が、追い詰められている事に。



「ザリアドラム様、一体何ヲ…!?」


「ジカランダス。我ヨリ最後ノ命令ダ。コノ地ヨリ即座ニ逃ゲヨ。ソシテ、アリノママヲ魔王様ニ報告スルノダ。……出来ルナ?」


「……ッ!!」



 早くしなければ、格好の的になるだけ。納得はせずとも理解はしたジカランダスは、取り出した転移石を使って姿を消す。

 「青イナ……」と、消える寸前に見えた彼女の涙にザリアドラムは呟くのだった。


 直後、ザリアドラムは凄まじい勢いで降下し、地上に降り立つ。

 決して小さくなど無い砂煙を上げ、その中から姿を現す威圧的な登場になったが、先程のインパクトの方が勝る為帝国軍の注目は集めても恐怖へと誘うに至らなかった。



(本当ニ、ヤッテクレタナ……)



 突如として攻撃を放った何処の誰とも知らない闖入者に恨み言を唱えながら、剛き魔族の将は吼える。



「聞ケェ! 帝国ノ勇敢ナル兵士達ヨ!! 我ガ名ハザリアドラム・ルディンゴ、貴様達ニ相対シタ魔王軍ノ将デアル!! 我ノ首ヲ取リ、コノ場ニ於ケル勝利ノ証トスルガ良イ!!」



 帝国軍の勝利条件を改めて提示し、同時に降伏のつもりは無いと健在の帝国軍に宣言する。

 まさかの事態に、帝国兵士達は顔を合わせる。が、それも時間の問題で直ぐ様臨戦態勢に入った。



「ダガ、我ノ首ガ安イトハ思ウナヨ? …デハ、行クゾ」



 迫り来るエルタ帝国の軍勢に対し、ザリアドラムは経緯こそ不本意なれど生まれた、待ち望んだ光景に感極まる。

 それに返礼するように、剛魔将軍は自らの持ちうる全てを奮い出した。


 その後、帝国軍は少なくない犠牲を払いながらも、ザリアドラムの首を手にするのだった。

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