表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機皇の国  作者: Gno00
第三章 オーバースケール・ワーク

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/44

狂騒曲第十八番

この話だけで2万字超えてる!

そりゃ更新遅れるわ!!

一体何処へ向かおうとしているのか!!!

「良い? よく聞いて」



 前日の夜。すっかり寝静まった医療施設の片隅で、ベルディレッセは作業机に腰掛けながら集めた彼らへと小さく声を掛ける。


 異様なまでに細い、黒に染まった装甲の全身は甲殻のように鈍い光を反射する。

 身体のあちこち、装甲の隙間から黒い粘体を少しずつ垂れ流し続けているが、これといった臭いは無く、その粘体が床に落ちたところで汚す事も無い。

 また、その液は床に付着すると直ぐに消失する為、気にする必要が無かった。


 そんな姿形をしている人形もどきのそれらは、頭部と思しき箇所に取り付けられた大小様々なカメラを動かし彼女を見る。

 待機、傾聴を命じられてはいるものの、雄々しい姿の割にその場で小刻みに震えている。

 動きに落ち着きが無い彼らだが、ベルディレッセは何時もの事だと理解している為に、特段何も言わずに話を切り出す。



「あなた達のおかげで巨大戦艦の位置はだいたい絞り込めた。場所は王都より更に北西にある空軍基地。此処に現在5隻の巨大戦艦が保管されている」



 コンソールを開き、展開した画面をフリック操作で反転させ、その空軍基地の5秒程の短い映像を延々ループで流し続ける画面を彼らに見せる。

 尤も、その映像を撮影したのは他でも無い彼らだが。

 彼らの視線はベルディレッセから映像の方に集中する。



「残りの3隻の行方は知れないけれど、あからさまな空きがあるし何処かしらに出撃している筈だわ。戻って来られてからでは面倒だから、そうなる前にけりを付ける。良い?」



 その見た目とは裏腹に、まとまりの無い首肯の数々を得られたところで、ベルディレッセは続ける。



「よし。…それで、あなた達にやってもらいたい事は巨大戦艦のデータを盗む事と、一部武装の奪取。それから戦艦自身の無力化ね。もし行けそうなら、多少強引な手を使っても構わないわ。……したいでしょう、それがあなた達の本来の役割なのだから」



 ()()()の名を賜る彼らに向け、改めて指示を下す。

 本来ならば此処で切り上げても良かったが、ベルディレッセは視線だけを逸らしつつ、部下達が見ている中で呟きを零す。



「それにしても……」



 彼女にとって気掛かりなのは、今目の前で繰り返されている映像だ。

 見張り番だけは身なりがしっかりしているようだが、倉庫内に遊んでいる様子の兵士達の姿が見えれば嫌でも目に付く。


 巨大戦艦周りで点検を行っている整備員やそれに明るい兵士達の姿とは対象的であり、また、王国が警備を疎かにしている証明でもあった。



「王国って空軍の存在価値を理解しているのかしら…?」



 困惑。最初にこの映像を見せられた時の彼女の反応がそれだ。

 これで見るのは5回目になるが、それでも困惑出来てしまう。


 まず、あり得ないのだ。


 列強である事以前に、航空戦力そのものを蔑ろにしてでも無ければ現実的では無い光景。

 フェイクを掴まされたか、とすら思える様子には頭を抱えたくなる。

 尤も、映像は本物で。その上、王国に与する立場では無いため要らぬ心配だが。



 ”グリム・カラーズ並びにベントネティが、八傑の一人と行動を共にした事で起きている状況と仮定”


「それにしたって事が上手く運び過ぎ。多分これは王国軍の怠慢が招いた状況」



 タイピングするように次々と彼女の目の前で表示される文章に、ベルディレッセが淡々と反論する。

 確かに王国軍の情報を入手しやすくする為に引き付ける事を頼んだ。

 だが、今現在彼がしている事は王国内に蔓延る違法薬物、それもごく一部の摘発であって、直接の関連性は無い。


 尤も、どちらもが正しく、また、どちらもを引っくるめて起きている状況と言われたところで彼女は納得しないだろう。



「これを機に認識を改めてもらえれば。まあ、後の祭りだけれど」



 こうした映像を入手出来る以上、事を起こすのも容易だ。

 このような愚かさを見せる者達にはそれ相応の灸を据える必要があるだろう。

 いずれ、王国側がしなければならない事で。寧ろ、善意を持ってやって見せても良い。



「ここまで出来てしまうからには、油断だけには気を付けて」


 ”御意”



 余程の慢心さえ無ければ失敗しない。

 少なくとも今の王国空軍に関しては論ずる価値は無いのかもしれない、と評価を改めつつ部下達に念を押す。


 そして、その一言を皮切りにベルディレッセの部下達は、空中に浮かぶ文字が消えるより先に一斉に散る。

 再び施設内に静寂が訪れ、彼女の虚ろな双眸は、穏やかな表情で寝返りを打つハーピーの姿を眺めた。





 時は、その翌日。ある一人の男が見張り中に強烈な寒気を感じ取った頃に戻る。

 ベルディレッセの指示に従い、それらは人影の中へと隠れ、隙を伺う。


 影から影へ、肉眼では捉えきれない程の刹那で動く故、動き出す直前を目撃さえされなければ気付かれる事は無い。

 仮にそれを見つけられたとして、次の瞬間には別の影に移っており、大抵が気の所為と解釈される。

 間違った合理的判断だとは思わずに。


 目標とは着実に距離を縮めている。

 後は、巨大戦艦の近く、駄弁りながらも作業を的確に進めるつなぎ姿の作業工達の影に移れば到着したも同然である。



「ここのパーツ、予備はありませんかね?」



 小さなナット状の部品を摘む指で、小刻みに動かす青年が金網の足場の上からそう言うと、「これで合ってるか?」と髭を生やした中年の男が下から彼へと同じ部品を手渡す。


 部品を受け取った青年が感謝を述べている間に、一体が影へ入り込んだ。



「やっぱ、『マジェスティ』の整備って楽しいっすね~」


「お前もそう思うか。こいつは数十年に一度は生まれる傑作機でな。構造の無駄が少なくそれでいて整備箇所が分かりやすい」



 しゃがみながらの青年と中年の男が話している間に、影の中からその一体がおもむろに浮上する。

 金網の上で起きているのにも関わらず、誰にも気付かれる気配が無いのは。

 物音が一切せず、それでいて作業工達が自らの作業に集中している為か。



「俺、一生こいつの専属整備士でも良いくらいっす」


「たはは、言うなぁ。でも、そんだけ愛せるならこいつも嬉しいだろうよ」



 会話をその辺りに、青年は作業に戻ろうとする。

 まだ、気づかない。向かおうとする先に、直立し、『マジェスティ』の方を向いたまま沈黙を貫く異形が居るという事に。


 前方不注意故の衝突が起こるのは、時間の問題だった。



 軽い衝突ではあったものの、反動が強く。

 仲間の置いた設置工具にぶつけたのか、と青年はぶつかった拍子につばが下りてきた帽子を被り直す。



「おぉ、悪い悪い。近くで作業してたんだ、な―――」



 見上げるとそこに見慣れた顔は無く。独特な光沢を纏う細身の異形の姿が代わりにあった。

 頭部と思しき部位からは眼球に似た何かが隆起しており、それだけが尻もちを付いた青年を見ていた。

 それに対し青年は―――



「――あれ、誰も居ない……」



 ―――自分は何にぶつかったんだ、と言うように辺りを見渡した。


 青年は今度は通路の脇をゆっくりと通る。

 その姿を異形が静止したまま、それも間近で目で追うもやはり、気付いている素振りは見せなかった。


 これは、どういう事か。


 説明するには青年の判断、認識だけでは状況証拠が足りない。

 続いて通路の下、先程パーツの受け渡しをした中年の男の方を見てみよう。


 彼の目の前に、通路に居る異形とは別の個体、頭部に5つの目を備える、蜥蜴を立たせたような姿の異形が居る。

 それがおもむろに、巨大戦艦の整備をする作業工へと近づいてみるが、男達の顔に気付いた様子は無い。



「それにしても『マジェスティ』って8機も必要あるのかぁ?」


「あるに決まってんだろ。こんな図体で空軍戦力の要だ。数ある事に越した事は無いし、それに、こいつを出す事自体が示威になるしな」


「だからってこんな重作業にする必要あったかね。年寄りの苦労ってもんを考えて欲しいよホント…」



 愚痴りながらも工具で内部構造を弄る彼らは作業に没頭している。

 気付いていないのが偶然ではない事を証明するべく、蜥蜴人型の異形は彼らの一人に、そのナイフのように細長い手で触れ、肩を揺らす。



「おいおい、自分の分が終わらねぇからってちょっかい掛けんなよ……」



 それに煩わしさを露わにしつつ返事をする男。

 彼の発言を耳にして、疑問を浮かべたもう一人が問いかけた。



「誰に向かって言ってんだ?」


「あぁ? さっき俺の肩を揺らした奴に――」



 しかし、他の作業員はいずれも工具で両手が塞がれており、距離もある程度離れている。

 肩を揺らす悪戯をして、すぐさま工具を持って持ち場に戻る、などという芸当は不可能だ。

 よって、この場に肩を揺らした人物は居ない――というのが、彼らの視点での結論だった。


 犯人である異形は、冷や汗を浮かべる男の姿を至近距離で、平べったい頭部に備え付けられた5つある目で伺っていた。



「お、おかしいな…幽霊にでも取り憑かれたか……?」


「疲れてんだろ。これ終わったらゆっくり休めな」



 やはり、男達に異形の姿に気付いている様子は無い。

 幽霊騒ぎでは埒が明かないと思ったらしく、釈然としないながらも肩を揺らされた男は作業に戻った。


 その遠くで別の異形達が見張りや警備の者達にちょっかいをかけるも、それでも王国の者達に異形の姿に気付く様子は無かった。


 異形達は作業工と警備兵達の動向を間近で伺う事が出来る。

 一方の王国兵達は異形の姿に気付かない。いや、気付けない。

 つまるところ、異形達によって認識する事自体が阻害されているのだ。


 事を起こす前の確認としてわざと起こした行動なのだが、そのヒントすら彼らは放ってしまった。


 その結果がどうなるかは、確信を持って行動を開始した異形を追えば嫌でも分かるようになってしまう。



 ”認識阻害は王国人に対し、正常に稼働しているものと推測”


 ”確証を得られた為、前提条件に適用”


 ”報告。巨大戦艦『マジェスティ』に効果は無いものと確認”


 ”未だ沈黙している為、その結果を無視。任務遂行の妨害に至らないと判断”


 ”了解。作戦の二段階目に移行”



 彼らだけに見えている文章のやり取りが、王国の人間達を気にせず行われていく。

 ただ自らの仕事をしていたり、警備を疎かにしていたりする者達など、居ないも同然だから。


 そして、異形達はある程度の頭数を揃えた5チームに分かれ、各自巨大戦艦の元へ散開した。



 ”第1より第5班の全てがそれぞれ、担当の『マジェスティ』の元へ到着”


 ”第1班は陽動を開始。第2班は解析の開始。第3~第5班までは陽動の成功を確認次第、武装の解除作業を開始”


 ”総員了解。こちら第1班、拡音フィールドの展開を開始”



 振り分けは格納庫の奥に配備されている『マジェスティ』から順となる。

 第1班となる異形達は3体が物音の音量を強化する、球体状の特殊フィールドを展開し、それを確認した他の2機がマジェスティの装甲へと手を伸ばす。


 その細長い指は溶けたバターに触れたように、いとも容易く装甲の中へ沈み込んでいく。そして―――



 べりっ。べりべりべぎっ。



 装甲の裏側から、意図的に不快な音を立てて、一機、『マジェスティ』の装甲を薄く剥がしていく。

 その音に気付いた作業工達が目にしたのは、虚しく響きを奏でる、ひしゃげて放り捨てられた装甲の残骸だった。



「ああっ! 大変だ! 奥の機体が!!」


「整備不良か!?」



 当然ながら、これが認識できない怪物の仕業だとは思わない。

 既に数人が持ち場を離れて、急いで一番奥の『マジェスティ』へと向かっているが全員が来ている訳では無い。


 もうひと押し、などと思いつつ装甲を引っ剥がした異形は次の手を打った。



 ”装甲の耐久能力を確認。推測サイズと反属性への耐性からジェネレイザ基準の場合、必要水準を大きく下回るものと仮定”


 ”航空能力に支障は無く、また、この世界に広く普及されている魔法にて補強されるものと推察。周辺国家が王国水準の技術力を有しているかは不明。ただ、この格納庫の警備態勢から『マジェスティ』は戦力より存在そのものが重要視されていると思考。よって、反属性による攻撃を想定していないものと判断”


 ”同意。続き調査は第2班に委ねる。第1班は陽動の強化を実行”


 ”総員了解”



 最適化の施された思考プログラムによって、作業工達の身動きが遅く見える程の速さでやり取りを終える。

 放り捨てられた装甲の元へ彼らがたどり着くより早く、異形はまたも『マジェスティ』に手を突っ込んだ。

 次に標的にするのは、装甲の更に奥の内部回路。



 ぶちぶちぶちぶちっ。



 音が大きくなる状態を維持したままで、青く発光する太い導線を手前の装甲ごと引き抜き、千切っていく。

 先程は皮膚を軽く剥いた程度だが、今度は血管を引きずり出して裂いたようなもの。

 となれば、一番奥の『マジェスティ』が悲鳴を上げるのも時間の問題だった。


 スリープ状態だったのか、速やかに起動した『マジェスティ』の制御システムより声とも思える騒音が鳴り響いた。

 そうなれば、惚けていた警備兵達も慌てて駆けつけてくるのは必然。



「『マジェスティ』から悲鳴が!!」


「お前達、今やってる作業を引き上げて今すぐ一番奥の奴に来い!!」



 装甲に近づきつつあった作業工達が怒鳴りつけ、他の戦艦を見ている者達を招集する。

 目撃者が居なくなったと同時に、異形の第5班から内蔵する武装の取り出しを始めていく。



 ”こちら第2班、解析の完了を報告。急ぎ第1班の援護を実行”


 ”提案。想定の戦闘能力と実際の能力とでは乖離がある可能性を想起”


 ”提案を受理。検証も兼ね『マジェスティ』の利用を実行”



 作業工達が次々と、慌てて一番奥の『マジェスティ』に向かっていく中、その一つ手前の『マジェスティ』へのクラッキングが実行される。


 おもむろに機体腹部のハッチが開いていき、内部の細長い筒状の物体が一台、露わになる。

 それは、魔力回路を循環する魔力の一部を動力とする、『マジェスティ』の副砲の一つ。


 向かって右から左へ通り過ぎようとする一人に狙いを定め―――。



 ―――そして、その男の肉体は、巻き起こった閃光と爆発の中に消え去った。


 直後、轟音が鳴り響いた事で慌てていた者達も、警備の兵士達もそれに気付く。

 やがて、それが何によって生じたものなのかも理解し。



「―――うああぁぁっ!!!?」



 一人から、情けない程の悲鳴が上がる。そんな男すらも続く副砲の射撃に消し飛ばされた。

 遠方より警備兵達が救助に駆けつけようとするも、『マジェスティ』の剥き出しの主砲が牙を剥く。

 砲口より光の粒子を収束させると共にエネルギーの充填が完了した主砲が格納庫の天井を貫き、落ちてきた瓦礫に人々は押し潰されていく。


 最早、逃げ場は無いのかと絶望を浮かべる者は意図的に無視され、格納庫から離れようとする者達が優先されて次々と副砲の餌食となる。


 それを第1班と第2班の異形達はただ眺めていた。



 ”想定サイズに適した制圧能力を有している事を確認”


 ”副砲、主砲共に射撃に若干のタイムラグが発生する事を確認。改善の余地有り”


 ”把握。第3~第5班の回収した鹵獲兵器を踏まえてより精密な検証を提案”


 ”受理”



 地獄絵図を背景に行われた、機械的なやり取りに一区切りを付けると、暴走させた『マジェスティ』が引き起こした結果を異形達は目の当たりにする。


 綺麗な円形状の穴が多数開いた壁天井の格納庫の中で、瓦礫に押し潰された者や肉体の一部が欠損した死体、駆動域を越えた折れ曲がり方をした死体等が転がり、それらが点在する血溜まりを形成していた。

 異形の一体が認識阻害を解除し、そこへ降り立つ。



「ひっ!」



 その異形はそれと同時に上がった短い悲鳴を決して聞き逃さなかった。

 5m先、積み上がった瓦礫の奥へサーモグラフィーが捉えた人型の熱源へ近づき、瓦礫をその細長い腕で砕いて正体を露わにする。


 それは運良く生き残ったのであろう、つなぎ姿の青年であった。

 顔は酷く青ざめて――あの惨状を目の当たりにすれば当然だが――、呼吸も荒い。


 何が起こったのかを証明する者は必要だろう、と彼の姿を3つある眼球で捉えて異形は判断する。

 尤も、いかにも怪しい異形を目にしたところでそれの仕業であるのを証明するのは不可能だが。



「《アナライズ》!」



 青ざめていても、一矢報いるつもりであったらしい。

 青年の突発的な行動に異形は驚きを見せるも、それが主人も受けた魔法と知ると落ち着きを取り戻す。



「――何だ、何なんだよこれっ!!?」



 ステータスを開示する魔法のようだが、その結果があまりにも信じられないものだったらしく、青年は愕然とする。

 そんな彼を前にする異形に一つのメッセージが届く。”第3~第5班の作業が完了。速やかに撤収”と。


 未だ結果に釘付けになっている青年を、放っておいたところで大した脅威に成りはしない、と判断し、三つ目の異形はわざと物音を立てつつ立ち去った。

 そんな異形の近くには、不可視状態を維持したまま、また一部は剥ぎ取った『マジェスティ』の格納武装を抱える仲間の異形達が居るのだが、青年が気付ける(よし)も無い。



 此度のように敵地での工作、略奪に長けた異形にして、ベルディレッセの忠実なる(しもべ)

 《ダークスチール:プランダラー》と分類される、グレードA+、Mサイズで統一された彼らは格納庫内での任務を終え、戦利品を主人の元へ持ち帰るのだった。




 ◇◆◇




 略奪者達が任務を成功させた一方、朝を迎えた医療施設は慌ただしくなっていた。

 主にハーピー達から検出された有害成分を中和、無力化する薬品の調合の為。


 パートラーニが座っている――そもそも彼に足腰は無いが――椅子と向かい合うように、ベルディレッセが丸椅子に腰を掛けて話し合っていた。

 さながら医者と患者のようだが、実態は大きく異なっている。



「有効成分の特定は済んだので、臨床試験に移りたいところですが、可能ならばその前に、ハーピーの方々に用いられた薬品のサンプルが欲しいところです。それがあれば治療薬の効能をより確実なものに出来ます」


「別働隊と、誂え向きの仕事をしてるグリム達に探らせてはいるのだけど、手がかりは少ないわ。かといって、彼女達に無理に聞き出すわけにもいかない」



 保護した当時から何時起爆してもおかしくない()()()()を抱えているハーピー達の管理は厳重かつ慎重なものとなっていた。

 尤も、可能な限り与えてしまうストレスを減らす為、ハーピー達にはそう思わせないように取り計らってもいた。


 その処置の一つとして、連れ去られた経緯と人間達に何をされたのかの詳細に関しては、自分達から話す意思を示さない限りはなるべく聞き出さない事を徹底している。

 まず確実に、心の傷を抉る事になるからだ。



「ドクター。現状での臨床試験の成功確率は如何程?」


「90%を下回る事は無いと考えられます。故に最後の一ピースが欲しい」


「アクシデントが起こる可能性を捨てきれないのね」


「その通りです」



 そこまでの数値を叩き出せるならGOサインを今すぐ出しても良いぐらいだ。

 だが、処置の一つ取っても命に関わる場合もある世界で、数値だけで物事を判断するのは難しい。

 上司としても、迂闊な判断は下せないまま時間は刻一刻と過ぎていく。


 そんな時、純白のカーテン越しから小さく叫び声が聞こえてくる。



「…何事?」


「――大変です、患者が暴走を―――」



 パートラーニが言い終えるより速く、ベルディレッセはカーテンを掴み払って飛び出した。

 瞬間、彼女の視界が捉えたのは、羽ばたいてはその強靭な足の爪でメディック達に襲いかかるハーピー達の姿だった。


 メディック達は自分達のダメージを抑えつつ、彼女達へ静止を求める。

 が、彼女達が止まる気配は見られず、矢継ぎ早にメディック達に襲いかかった。


 白目を剥いており、肉体からは血管が酷く浮き出ているその様は誰がどう見ても異常だ。



「うあ゛ぁ゛っ!! うああ゛あ゛ぁっ!!」


「メディックは下がって! 此処はわたしが――」



 視界のセンサーが危険信号を発する。が、ベルディレッセは何も出来なかった。いや、しなかった。

 迎撃に転ずれば彼女達の命に関わると理解していたから。



「ぎいい゛ぃ゛っ!!」



 空中より突進を仕掛けてきたハーピーが、ベルディレッセの体を上から押さえつけてタイルの床を大きく滑る。

 激しく歯ぎしりをする口からは、赤く濁った体液が垂れており、それが顔にかかるも少女は気にも留めない。


 それより注視すべきは、ベルディレッセを押さえつけたハーピーの次の行動だ。

 今にもその刃物のような爪の足を振り下ろさんとしている。

 此処から抜け出す手段を、彼女の思考プログラムが幾つも提示する。

 が、その中にハーピーが無事で居られる手段など一つとして無い。


 そもそも、γ-ベルディレッセに限らず殆どのメカが戦闘用だ。

 自分さえ無事であればそれで良いし、副次効果で味方を守れ、尚且つ敵の行動を制限できる程傷付けられるのなら寧ろ好都合。

 そして、彼女の思考プログラムは無慈悲にも、今彼女を押さえつけているハーピーを敵と認識している。


 自分自身の油断が招いた事態だが、それでも彼女達を物理的に傷付けてしまう手段は限界寸前まで待っておきたい。

 この程度で彼女達が助かる手段を投げ捨ててしまうようでは、あまりにも不義理が過ぎる。



「い゛ぃ゛っ!」



 思考プログラムの提案の数々は振り下ろされる足が遅く見える程に加速するが、最終決定権を持つ彼女自身はそれを渋る。


 やむを得ないか、と思ってしまう程爪が顔に近づいた矢先、奇跡は起きた。


 突き刺さる物音が聞こえたかと思うと、ベルディレッセの顔を狙っていた足は大きく逸れて、タイルの床に刺さっていた。

 足から顔へと視線を移すと、そこには片目だけが彼女の顔に焦点を合わせている、苦悶するハーピーの姿があった。

 零す涙は表情一つ変わっていないベルディレッセの顔に滴り落ちる。



「…殺して…殺して、ください……」



 体共々震える口で、直後に絞り出した言葉が無理矢理暴走を抑えているのだと示している。

 だが、その言葉が本心からでは無い、とベルディレッセは見抜いた。



「それは駄目。それではあなた達が自由になれない」


「もう無理です……こんな事をしておいて、のうのうと、生きてる訳…には…」



 暴走していたからとは言え、実の恩人を攻撃してしまったという事実に、ハーピーは嘆いている。

 見ると、暴走していた他のハーピー達も自身がこれ以上危害を加えないように、無理に暴走を抑えて苦しみ喘ぐ姿があった。


 それが押し潰されそうな程の罪悪感から来るものだと把握すると、ベルディレッセは自分の頬を撫でて、そこに傷が無い事を強調する。



「見ての通り、わたしは傷一つ付いてない。これは、あなた達のおかげよ」



 それに戸惑いを浮かべるも、時間が経つと共に少女の真意を理解して。



「うっ…ううううぅっ……」



 少女の慈愛を前にして、滝のような涙を流すハーピー。

 ひとしきり泣いたところで、零した嘆願を、ベルディレッセは聞き逃さなかった。



「…助け、て」


「そのつもり。あの時からずっと」



 その後、大人しくなったハーピー達に、パートラーニとメディック達が持ってきた無痛針の注射器によって麻酔が打ち込まれ、ハーピー達は再整備の済んだベッドにて皆寝静まった。

 その表情は眠る前のそれと違い、罪悪感の拭い去られた、穏やかなものであった。


 それを見届けた後、ベルディレッセは近付いたパートラーニへと問う。



「薬漬けにされてしまった事は、彼女達の罪かしら?」


「医学に精通している者として申し上げますと、これは生命への冒涜です。ですが、その罪を清算すべきは実行者であるべきです」


「そう。…それを聞いて安心した」



 今回の暴走を、それも他でもない当人達の協力で鎮める事が出来たのは紛うこと無き奇跡である。

 二度目は無いと考えるべきで、これが最終的に招く事態は既に把握済みだ。


 彼女の中で勢いを強めていた感情が、再び強くなる。



「今日は一日中、留守にするわ。やるべき事が少し増えた」



 以前、興味深いとの事でプランダラーが持ち帰った情報が役立つ時が来た、とコンソールを開く。

 その画面に映し出された情報の数々こそが、少ない手がかりで。彼女は激情を露わにしつつもそれに賭ける事にした。




 ある一人の少女が引き起こす事件に立ち会わず、また、当時にメンバー全員の誰もが知る事は無かったのは見方によっては奇跡とすら言える。


『刻十蛮頭』アジトへの突入の第一段階は誰一人として欠ける事無く、予定通りに開始された。

 暗く蒸し暑い下水道をぞろぞろと突き進む王国の兵士達は、口元に布を巻いて、目立たない姿で微かな光を灯しつつ進んだ。


 各々が浮浪者に見えるその姿は魔法による認識改竄で、実際は戦いやすく、また動きやすい姿にしている。

 口元に布を巻いているのは、一応の防護魔法は掛けてあるが、その上で下水道の悪臭から喉と鼻と気分を守る為。

 微かな光は下水道に棲息しうる魔獣達への牽制の為であった。


 可能性は極めて低いが、『刻十蛮頭』もしくはその外部関係者が見張りに来ている事も考えられる。

 何時も通りではあるが、彼らは緊張感を露わにただただ前へ突き進んでいた。


 そして、下水道へ入る前に告げた、入り口から進んで5番目に配置された鉄梯子の元へやって来る。

 一番先頭に立つ騎士の一人――今は髭面の目元のたるんだ男の姿をしている――が確認を取ると、リーダー格の男から首肯を得られた。


 一番先頭の兵士が梯子に手を掛けようとしたその矢先――。



「待て」



 リーダーの短い言葉がそれを止めさせる。

 交代とばかりに兵士より前に彼が出ると、一同が進む道の更に奥から人が姿を現した。



「はは…見ない顔だな……」



 暗闇の中から姿を表したのは、異常なまでに痩せこけた小柄な男。

 飛び出そうな程見開かれた大きな眼が忙しなく動き、並びの悪い歯を剥き出しにする。

 ゴブリンと見紛う程醜悪な体付きに加え、包帯を巻いただけで上半身に何も着ていないその姿は明らかに外行きのそれでは無い。


 同じ認識改竄を掛けた上での姿かどうかは、兵士一人一人が身に付けているアーティファクト『見破りの真珠』が自動的に判別してくれる。

 そうではないという答えがすぐさま返ってくると共に、リーダーは一芝居を打ち始める。



「済まないな、道に迷っちまって。ここは不慣れなもんで、出口を探してたんだ。…だろ、皆?」



 あくまで他所から来た浮浪者の一行、この下水道に来たのは迷っただけというカバーストーリーを組み立てるリーダーの調子に合わせ、奥の兵士達もごく自然に頷く。

 気持ち悪さを感じる程の沈黙の後、醜悪な見た目の男もそれに納得したらしく、それでも眉一つすら動かさずに兵士達が来た道を指差す。



「それなら、引き返せ。戻って一番最初に見えた梯子を登っていきゃ地上に出られる」


「この梯子じゃ駄目なのか?」


「駄目だ。何故かは聞くな」



 リーダーも、醜悪な男の言い分に納得した様子で「ありがとう、じゃあな」と踵を返し引き返す素振りを見せる。

 すると、それを好機と見たか。静かに、密かに握っていた得物を引き抜くと、醜悪な男は跳び上がって兵士達の背後に奇襲を仕掛けた。


 兵士達は気付く素振りを見せない。これは取った、と醜悪な男は下品に笑みつつ確信する。



 ……それが自惚れに過ぎなかったとはその時まで思わずに。


 鮮血が下水道の中に飛び散る。しかし、その血は兵士達の物では無く、飛び込んだ醜悪な男の物だった。

 見ると、構えられた槍が三本、男の体を串刺しにして空中で留めている。

 男の顔には自分の意図が気付かれた事への驚愕よりも、先程までは無かった筈の長物を何故持っているのか、という疑問の方が強く浮かんだ。



「がぁ! …な、何故……」


「そういう不意打ちが大好きだろうと思ったから、な」



 力尽きたか、男は吐血し苦悶を浮かべながらだらりと体を垂らす。

 身の安全を確認した上で、槍を構えた兵士達は男の体を下ろしてから槍を引き抜き、それから槍に滴る血を払った。



「それにしても、便利ですね。この携帯槍」


「元々長い武器というのはこういう狭い場所だと不利だが、かといって距離のある敵の対処を弓兵や銃兵任せにする訳にもいかない。耐久性は改良の余地ありだが、それでもあれば便利だろ?」



 兵士達が構えたのは、従来の槍を伸縮可能にして持ち運びしやすくした携帯槍だった。

 これもまた異世界の技術を吸収した事により生まれた副産物の一つで、槍を持ち歩く負担の軽減と、替えの槍をどうやって確保するかという二つの問題に一つの正答例を示す事に成功した。


 尤も、魔法に優れた魔導国は別の正答例に既にたどり着いて居るのだが。



「さて、お喋りは此処までにしよう。見張りはもう居ないな?」


「はい、反応もありません」


「では行こう。レミネス様達が待っている」





「そろそろ、彼らも上手く行った次第かな?」



 一方、地上ではグリムとベントネティ、それからブルームーンのメンバー達が物陰に隠れてそれぞれアジトの正門を見張っていた。


 先んじて突入したレミネスの部下達の安否を知るには、これが手っ取り早い為である。

 長時間張り込んで尚扉が開かないようならば、作戦を中止して他のメンバーは撤退する。

 先行部隊が進入に成功したならば扉を開け、残りのメンバーも突入しやすくする、そうした手筈となっている。


 まだ扉は開いていないものの、予想を立てるグリムに対し、近くに潜んでいたマットが小さく声を掛けた。



「分かるのか?」


「ま、勘というものかな。これが中々馬鹿に出来ないんだよ」



 その勘に散々煮え湯を飲まされて来たのもあって、グリムの表情は至って真剣だった。

 それがストーリー上の都合とは考えすらせず、彼はただただ扉を見やる。

 今は静寂を貫いていても、すぐにそれは破られるという確信を抱いて。


 そして、数秒が経ち、彼の予想通り扉は開け放たれた。



「良し、じゃあ手筈通り行こうか」



 作戦の次段階はグリム達とブルームーンの突入である。

『刻十蛮頭』に気付かれる前にと、彼らは入り口に急いで入り込んだ。



「状況は?」


「まだこちらに侵入されたとは周知されてないみたいだ。ま、気付いた連中全員のめして来たからな」


「ははっ、やるね」



 入り口の少し手前で待っていたリーダー格の、フルプレートの大男がグリムの問いに答える。

 それに笑顔で返すも、フードの裏には現在地の俯瞰マップが表示されており、こちらに近づこうとする反応が無い事を彼は把握した。


 ブルームーンのフルメンバーが通り抜けた後、2m程まで縮んだベントネティが少し窮屈そうに入り口を潜り抜け、第2突入組の全員がアジト内部へと到着した。


 それから兵士の一人が入り口の上に奇妙な装置を投げ込む。

 壁に接着したその小型装置より、開け放たれた入り口に網目状の光体が張り巡らされ、それから光体共々姿を消す。



「ステルスネットって奴だ。許可された奴以外を通さない。こういう時に便利なのさ」


「へぇ、王国軍ってこういうの持ってるんだ」


「ま、この後マッドブラザーズが来る以上、無用の長物かも知れんがな。あいつらは豪快だぜ。見惚れるなよ?」


「うん、気を付けるね」


「さて、次はこの部屋の数々だが」



 グリムと王国の兵士達の会話が終わり、次に一同はアジト内部に向き直る。

 地図の通り小部屋が全てのフロアに大量に配置されているので、連絡路以外が見えない殺風景が広がっており、すぐに見つかる心配は無い。

 ただ、事前情報通り罠が張り巡らされて居る為、それを感知する道具、解除する道具を持ちつつどうしても慎重に動かざるを得なかった。


 ――地図に従い動くならばの話だが。


 幸い、侵入者を知らせる警報をまだ踏んでおらず、気付いた人間も既に先発隊が黙らせた事もあり、グリムのマップが示す反応に動きは見られない。


 兵士の一人がかけた、罠を全体の形状もろとも看破する眼鏡のおかげで、小部屋越しにどんな罠が置かれているのか、ある程度の目星は付いた。


 意外にも、真っ直ぐ進めばどの罠にも引っかかることなく階段に辿り着く事が分かり。

 それと共にリーダー格の男はスクロールと呼ばれる、魔法を封じ込めた書物を取り出し、広げた。



「連中も窮屈してそうだしな、使ってやるか。こいつは滅多に使用許可が降りないが、今回は別だ」


「それってそんなに凄いんだね」


「まあよく見とけ。何故かは分かる」



 書物の文章の一部が発光すると、小部屋を形成していた一階の壁が、瞬く間に崩れ去った。

 それで崩れなかった、遠方に見える壁は一階そのものを構成するものだと考えられる。


 突然の出来事に、小部屋内で待機していたのであろう『刻十蛮頭』の構成員と思しき面々が愕然を浮かべた。



「…わぁお」


「よし、このまま一気に進むぞ」



 リーダー格の男の号令の後、集団がぞろぞろと、姿も隠さず階段へと真っ直ぐ進むが、『刻十蛮頭』の面々は動こうとしない。

 まだ、脳の処理が追いついていないのだろう。グリムはにやけ面を露わに、先んじて2階に向かう者達に続いた。


 その様子からようやく状況を理解したらしく。



「〜〜待ちやがれぇッ!!!」



 突入組の視界の外より男衆の怒号が飛んでくる。

 それを聞いた王国の兵士達は駆け足となり、グリムもそれに合わせる。



「ははっ、こんだけ広くなったんだ。迂闊に動いて追い付けるかよ!」



 リーダー格の男は確信めいた事を呟く。

 その後、彼の言う通りと言うべきか。迂闊に動いたそのツケを追っ手の面々は支払うことになったらしく。


 あちこちから、爆発音や風切り音などが聞こえると共に小さく悲鳴が上がった。



「なるほど、罠はそのままなんだねぇ」


「普通は罠も取っ払われると思うだろ。そうじゃねぇんだな〜」



 こんなに広くなっては、小部屋を頼りに配置を覚えていたとしても無意味になる。

 そして、『刻十蛮頭』がそのような者達ばかりだと言うのを未だ追い付いて来ない現状が物語っていた。


 階段を登り終えた者達は、地図にて既に把握はしていたが、またしても壁だらけの空間を前にしてマンネリ感を覚える。

 しかし、そんな殺風景は再び、フロア丸ごとを大部屋にするスクロールで消え去った。


 階段へは再び一本道になるだろうと予想した一同だが、分厚い金属が叩きつけられた音が聞こえ、壁が取り払われた事で見えた光景に驚きを露わにする。

 地図を事前に見ていたにも関わらず、そんな反応となるのは、あまりにも常識の埒外にある光景だったから。


 アジト2階は、まるで双六のような構造になっていた。

 巨大なマス目の数々が描く、途中で幾つも分岐をする道の上には巨大な振り子刃や左右を忙しなく動く大砲、如何にも何かが飛び出してきそうな穴等がある。

 マス目より下には、幾つもの鉄扉が転がっている。その下に剣山が張り巡らされており、高低差を含めマス目を通る他無いと暗に示されている。


 これが本来、小部屋から小部屋を進む構成であったと考えると、製作者の趣味が悪いという感想が浮かぶ。



「これって、マス目を無視して進めないかな?」


「止めた方が良いと思うぞ。小部屋を取っ払ったとは言えこんな大掛かりな仕掛けを用意するんだ、横着者への制裁なんてものもあるだろうよ」



『刻十蛮頭』の構成員達は此処を通る度に毎回、この罠の数々を潜り抜けているのだろうか、等と思いつつ。

 一同は腹を括ってこの危険極まりないマス目を通り抜ける事を選ぶ。

 しかし、この道の難易度は想像よりも遥かに低かった。


 他でもないグリムのおかげである。わざと起動させた大砲の砲弾を水色の塗料で好きな方向に反射し、次に用意された罠を事前に破壊する事で無力化に成功、してしまった。


 更に、そうする事へのペナルティが何一つとして用意されていないと分かると、マス目を進むという基本的ルールに従いながら進行先の罠を次々破壊していったのである。

 そもそも、それだけの実力と手段があるのだから、わざわざ罠を逐一掻い潜るなどというローカルルールに従う必要は無い。


 思い込みというものが直に出る2階フロアを、一同は無傷で突破した。



「次の階層もこんな楽なものであれば良いがな…」


「ですね…」



 疲労こそは無いものの、王国の兵士達はそうした願望を零す。

 マット達ブルームーンもまた、剥き出しの罠の数々への対処をある程度引き受けたからか、このフロアだけで何度も命の危機に晒された心労を露わにしていた。

 唯一、一行の中でグリムだけが楽しそうに振る舞って見せている。



「お前は楽しそうだな、グリム…」


「ま、こういった光景自体が新鮮だったから、ね。僕としても二度も三度もこんな場所を訪れたくは無いけど」



 マットの問いに、素直な返答を述べる。

 そもそもメカである以上肉体的な疲労という概念は存在しないが、今は人間を装っている為に黙っておく。


 それから一同は目の前の階段に視線を移し、気持ちを切り替えた。



「次だ。この先に何が待っていようと、最上階まで突っ走るぞ」





 アジト3階はスクロールによる大部屋化を使って尚、薄暗かった。

 罠を看破する眼鏡を掛けた兵士によってこの部屋自体に設置された罠は少なく、また、構成員らしき人影も見当たらなかった。


 単純に視界の悪さから見えていない事も考慮し、兵士の一人が魔力感知を試みる。


 …それが組織の狙いだとは思わずに。



「どうだ、何か見つかったか?」


「…すみませんリーダー、しくじりました……」



 僅かに、一同の戦闘態勢への移行の方が早かった。



「―――――ッッ!!」



 遠方より、階段付近にすら軽い振動として伝わる程の咆哮が轟く。

 迫って来るのは、全身の筋肉が異常に膨張した人型の怪物の群れ。


 その姿に残る、()()()()()の特徴を目にした、兵士の一人が叫ぶ。



「薬漬けの奴隷達か!」



 王国は人間至上主義を掲げる国家である。しかして、亜人奴隷にここまでして良い謂れは無い。

 グリムの視界には、冒険者となる前に戦った怪物の姿がフラッシュバックしていた。


 轟音響かせ異形の奴隷達が迫り来る中。

 当時は不明だったが故に手放した、その可能性を彼は尋ねる。



「彼らを助ける手段はある?」


「…あるにはある。が、今すぐ用意は出来ない」


「落ち着くまで時間を稼げれば良いんだね?」


「…ああ」



 亜人奴隷の救出は目的に含まれてはいない。

 しかし、かといってむざむざ見殺しにするのは忍びない。

 それ故に、一同は異形に変えられた亜人奴隷をなるべく傷付けずに拘束する方向で固めた。


 ベントネティが居て、マットが居て、拘束の魔法に長けた兵士が居る。

 が、40体は有に超える巨体の群れに対抗するには頭数が足りない。


 そんな時、一同が背を向けていた階段の下からも轟音が響き渡る。

 誰が来たのかを把握した者達は階段の側から離れるよう、他の者達に促した。



「うおおおおああぁッ!!」



 直後轟き渡るは、異形に負けず放たれた雄叫び。

 それに恥じぬ巨漢がとうとう姿を現した。



「待たせたな、お前達!」


「「「「マッドブラザーズ!!」」」」


「私も居る」


「「「レミネス様っ!」」」



 最後に突入してくる者達が追い付いてきたのだ。

 マッドブラザーズの人数が3人と少ないのを見るに、残りは下の階の構成員の処理や脱出口の封鎖に回っているのだろう。


 豪快な着地を決める、肉体美を際立たせる格好のマッドブラザーズと、軽やかに降り立つ鎧姿のレミネスは、より対照的に映った。



「…状況は」


「あれら全てが亜人奴隷です。グリムの進言で捕縛を試みるところでした」


「理解した。お前達は下がって休んでいろ」



 感じていないだけで、ここまで突き進むまでに疲労が溜まっているのも確かだ。

 一番前に、レミネスのきらびやかな細身が立ち、静かに剣を引き抜く。


 そんな彼女へとガララダが一応とばかりに声を掛ける。



「八傑様、援護は必要か?」


「無用だ。お前達の出番はこの後に譲る」


「へへっ、お気遣い感謝するぜ」


「――では行くぞ」



 大きく踏み込むと、彼女の姿は雷のような光を放ち、一瞬にして姿を消した。

 次に彼女の姿が見えたのは、追随した雷が消失した直後、押し迫る異形の群れの後方。



 技能:剣・《スタナードライブ》



 その姿が見えると共に、奴隷達は全員強く痙攣し出した。

 数秒後、倒れたその場に力無く倒れた奴隷達はまだ痙攣し続けている。



「この剣は救う力も宿している。お前達をこれ以上苦しめる事は無い。安心して眠っていろ」



 強制的に暴れる事を止めさせられた異形達から涙が零れ落ちたのは、きっと気のせいではない筈だ。


 剣を収め、部下達に無力化した奴隷の拘束を命じる。

 グリムの理想を汲み取った形に、彼は深い感謝を露わにした。



「ありがとう。ベントネティ達だけじゃ少しでも傷付けてしまっていたかも」


「これくらい、協力してもらった分に比べれば大した事は無い。…彼らへの、罪滅ぼしにしては軽過ぎるかも知れないが」



 微かに、レミネスの作った握り拳が震える。

 見方によっては八傑が不甲斐無い故に、彼らをあんな目に合わせてしまったかも知れない。


 しかし、それでは積もりに積もる重責に彼女のような、誠実な人間が潰されてしまうだけでは無いか。


 グリムは声を掛けようとする。が、それよりも彼女の切り替えのが早かった。



「先を急ぐぞ。此処で時間を使い過ぎる訳にはいかない」



 この判断能力と彼女自身の信念が、彼女を八傑たらしめているのだろう。

 彼女には不要と思い、グリムは何も言わず微笑んで彼女の指示に従った。



 4階。いよいよアジトの最上階だが、まだ地下の3つの階層が残っている。

 転移魔法の類いが阻害されている訳では無いものの、それならば最初から二手に分かれて進んだ方が効率が良いと思える。


 レミネス達が合流し、状況が落ち着いたのもあってグリムもそのような考えを浮かべていた。

 突入前、上から進むよう指示された当時は、時間を理由に後回しにされたのもあり。



「何か聞きたそうにしているな」



 それを背後から感じ取ったレミネスの言葉を聞き、一瞬グリムはたじろぐ。

 どんな芸当なのかと気になったが、一先ずは質問の方を優先した。



「そういえば、下は押さえなくて良いの?」


「上に行くにしろ下に行くにしろ1階が重要になる。ならば、1階だけを押さえて上から攻略した方が早いと考えてな。それに――」



 レミネスが階段を登りきった先をずかずかと進んでいった後、足を止める。

 一同も登り終え、目の当たりにしたのは如何にも手強そうな、重武装の集団。


 前の階と違い隠すつもりがまるで無いが故に、光を反射するその金属製と思しき武装防具はより際立って見えた。



「こいつらが最上階で待機しているからな」


「なるほど…」



 レミネスは一呼吸置いてから、目の前の武装集団の正体を言い当てる。



「『刻十蛮頭』の幹部連中だな。一応聞くが、投降する気は無いか?」


「あると思ってンなら、ゲロ甘だぜ。()()()()()?」



 規模が大きくない組織の所属且つ、臨戦態勢ならば思わず軽口の一つや二つを飛ばしてきそうなものだが。武装集団は思いの外冷静で、レミネスの正面に立つ、手斧を両手に握る男だけが彼女へと答えた。


 しかし、表社会で名声と地位を得る実力者たる八傑の一角をお嬢ちゃん呼ばわりして、それを誰も咎めない辺りは裏社会の住人と言ったところか。

「ああいう言い回しが流行ってるの?」と能天気にも場違いな質問をするグリムだったが、マットから返ってきたのは「知らないよ…」という呆れ気味の答えだった。


 斧の男の発言の後、その後ろで控えていたフルアーマーの大男が一歩前に出る。



「下では好き放題してくれたそうだな?」


「ああ。お前達が此処に控えて()()()()()()()()でな」



 眉一つ動かさない表情を見るに、こんなものは序の口でしか無いのだろう。

 挑発と受け取られかねない――受け取られれば寧ろ好都合な――皮肉で返すレミネスの姿に、グリムだけが苦笑を浮かべる。



「まあ、お前達がどうしようがお前達の勝手だ。それに、お前達の相手は私では無い」



 彼女の言葉と共に、ガララダ率いるマッドブラザーズが進み出る。

 目の前の集団と比べるまでもなく、防具面が心許ないが、彼らの余裕に満ちた表情に揺らぎは無い。



「おお、そういう約束だったな。こいつら全員引き受けて良いんだな?」


「良い暴れぶりを期待している」



 ガララダの不敵な問いに、レミネスも確信めいた表情で答える。

 それを聞いて、ガララダは自らの拳を合わせながら大股で歩んでいく。



「おぅし、任せとけぇ!」



 ガララダもそれに付いていくパンク姿の男女達も、筋肉の付き方は申し分ない。

 だが、相手は甲冑姿を基本とする重武装の集団。任務内容が内容な為にレミネスの要請に応じた他の冒険者達の戦いを見る機会に恵まれなかったグリムは、ここからどう立ち回るのかに興味を示した。



 技能:体・《ハイパーボディ》



「うおおぉらああぁぁ!!」



 ガララダの雄叫びと共に、彼の肉体は一回り大きく膨張し、水の弾けるような音を放ちつつ赤熱を帯びる。

 膨張の勢いで服が弾けなかったのは伸縮性の高い素材を使っているからだろう。しかし、今重要なのはそこでは無い。

 肉体の周囲が歪んで見えてくる程の熱量を人体が発するという事実に、グリムはただ驚きを浮かべていた。


 一同が目の前に据える武装集団も同じだったようで。一瞬のたじろぎをガララダは見逃さなかった。



「…この程度で怯むなよ? ここからが本番なんだ、楽しめよな」


「冒険者風情が!!」



 それこそがマッドブラザーズと『刻十蛮頭』幹部の真っ向からの勝負の合図だった。



「兄貴、先に行かせてもらうぜ!」


「遠くの連中は私達に任せて!」


「おう! 野郎共、暴れてやれ!!」



 突撃しながらやり取りを終えて、マッドブラザーズ所属の者達はガララダより前に出る。

 その直後、彼の二倍程の速度で、一気に担当の幹部の懐へとそれぞれが詰め寄った。



「足が速えぐらいで良い気に――」


「――遅えよ!」



 技能:足・《ダブルアクション:シャークバイト》



 武装である長矛を振り回されるより速く。モヒカン頭の青年が鉄兜に横薙ぎの足を叩き込む。

 左右方向ながら時間差のあまり無い二連撃はその技名に違わぬ見栄えと威力を持ち、行動を許す前に幹部の一人を倒した。



「おのれぇ!」



 サムズアップをする青年に巨大な戦鎚を構える男が突撃する。

 そこに割って入ったのは、ビビッドカラーに染め上げた髪の少女。

 洗練された気迫を浮かべ、その眼は不敵に歪む。



「小娘が! 砕いてくれる!」


「出来るものならね!」



 技能:短剣・《ツインドライブ:ジェミニビート》



 両手に持つ片刃のナイフが灰色の輝きを纏うと、彼女の指の隙間の中それぞれが二本に分裂した。

 間髪入れず、右手に持っていた分の一本を彼女は投擲する。まっすぐ頭部を狙ってきたそれを目にし、男は急遽対応を余儀無くされる。


 故に、見落とした。灰色を纏ったのは、わざわざ分裂させて見せたのはどちらが本物であるかを見抜かせない為。

 幼い頃から手癖の悪さを鍛えていた彼女の方が、一枚上手だった。


 柄で弾こうとしたナイフが、男の目の前で消失する。彼女の狙い通り、胴の守りが手薄になった男の懐へ灰色の軌道が突撃した。



「なっ、早――」



 男の反応より速く、ナイフが描く斬撃の弧が男の鎧を斬り裂く。

 少女からすればどれだけ重かろうと、鎧など果肉を切るも同然だったのだろう。

 膝から崩れた男の胴には、綺麗に描かれた平行な二つの切り傷が、深く刻み込まれていた。



「やるな兄妹! 俺もふんばらねぇと!」


「余所見してんじゃ、ねぇ!」



 片目を隠しきる程に伸びたイエローとマゼンタのロングヘアの優男に、双剣使いが斬りかかる。

 視線を逸らした隙を突いた攻撃に、優男は呆気なく斬り裂かれた……筈だった。

 確信の笑みは、目の前の煙のように揺らぐ人体だったものに愕然とする。



「馬鹿な、何時の間に…!」


「お前こそ、何処見てんだよ?」



 双剣使いは辺りを見渡し、それから見上げる。

 そこに居たのは、煙と一体化した優男だった。



「お前が斬ったのは確かに俺だよ。だが、俺は煙になれんのよ」


「ならば、その煙ごと斬り裂いてくれる!」


「出来るもんならな〜」



 技能:体・《スモークボディ》



 優男は煙と一体化したまま、急降下して双剣使いに飛び込む。

 それをすかさず迎え撃つも、やはりと言うべきか。

 双剣使いの攻撃は煙を払うのみで、優男には届いていない。


 一方で、優男の持つモーニングスターが迫って来ていた。



「ぬうぅ、やらせはせんぞぉ!」


「おっさん良い気迫だね〜」



 そこで双剣使いは考えたのだろう。モーニングスターを当てに来る以上、必ずその腕を実体化させる筈、と。

 優男が一撃を狙うように、双剣使いもまたカウンターを狙っていた。

 そして、優男が構えたモーニングスターを素早く振り下ろす。それを待ち構えていた双剣使いが先に動く。

 狙うは得物を握る右腕。左右より振るう2つの刃は確実に捉えた。


 ――が、手応えは無い。腕だった煙が生じた風に吹き飛ばされるのみ。



「なっ…!?」


「おっさん、良い判断してるね。それが俺でなければ」



 双剣使いが守りに入るよりも先に、男の意識は後頭部に直撃した一撃で飛んだ。


 部下の三人が着実に幹部格を倒していく中、ガララダは多勢を相手にしていた。

 しかし、その体には傷一つ無い。一方の幹部格数人は既に5人が鎧を粉々に砕かれ、戦闘不能に陥っており、残る6人も息を荒げていた。


 ガララダは不敵な笑みを浮かべながら前進していく。

 重量を感じる足音を立てつつ、水蒸気を噴き出し続ける彼の雄姿は、対峙する相手にとっては脅威となる。



「どうしたァ…『刻十蛮頭』っつうのはこの程度かよ…!?」


「く、くそっ! 怯むなぁ!」



 一人、また一人と突撃を仕掛ける。

 しかし、得物を構えるその手は震えており、顔にも覇気が足りていない。



「この期に及んで、そいつは愚策だぜ…!」



 故に、横に振り薙ぐその巨腕の直撃を食らうのは必然となる。

 冗談のように人体が宙を舞う。赤い飛沫を上げながら回転するそれらが不時着するのは時間の問題だった。

 二人が倒れ、残りは四人。



「そろそろ終わらせっぞォ!!」



 突撃の瞬殺ぶりに臆したか、四人は動こうとしない。

 それに痺れを切らし、ガララダは自ら突進を仕掛ける。

 巨漢が叫びながら迫るのを前に、四人は怯みながらも応戦する姿勢を見せる。

 逃げ出そうとしなかったのは、幹部としてのせめてもの矜持と言うべきか。


 それでも、現実というものは残酷で。ラッキーパンチ狙いの剣は容易くガララダの筋肉に砕かれる。

 刃と柄とが完全に分離した剣は、勢いに呑まれた者の末路を物語った。



「つぅかまあぇ、たぁ!」


「う、うわああぁぁぁ!!?」



 大男である筈の幹部の一人が、ガララダに脚を取られた事で易易と持ち上がる。

 そして、ガララダの体は大男を振り回し、その勢いで回転を始めた。

 一回の回転の度、彼の動きは加速する。やがて、一つの竜巻を形成した。



「へぇ、ジャイアントスイング…」



 それを遠目で見る、すっかり観客の一員になっていたグリムが一言呟く。


 同時に、生み出された竜巻は残りの三人を巻き込むべく前進を開始した。

 逃げる暇も与えられなかったか、あるいはガララダの強さに心が折れたか、容易く三人は竜巻に巻き込まれ、衝撃と共に吹き飛んだ。


 薙ぎ倒した後、ガララダは回転の勢いを少し弱め、脚を掴んだままの大男を放り捨てる。

 放物線を描いた男もまた、何の抵抗も許されずに不時着、その場に倒れ込んだ。



「一丁上がりィ!!」


「「「よっ、兄貴~!!」」」



 回転を完全に停止したガララダがマッスルポーズを取ると、そこにマッドブラザーズのメンバー全員が飛び込み、抱き着く。

 それを苦ともせず、兄貴と呼ばれた巨漢は体重を預ける彼らを優しく抱擁した。



「なっ? 豪快だったろ?」



 レミネスの部下の一人がグリムへと問うと、「そうだね…」と彼は冷や汗混じりに答えた。

 言いたい事は色々あるものの、これが彼らのやり方と相槌を打ちつつグリムは割り切る事にした。


 マッドブラザーズがまだ勝利の余韻に浸っている傍らで、レミネスは腰鞘に手を掛けつつ周囲を見渡す。

 が、特に怪しい気配も無く、彼女はすぐに警戒を解いた。



「…これでこの階も制圧出来たな」


「これから下に降りるんだね」


「ああ、あれを使ってな」



 レミネスは倒れた幹部達のその奥に見える、扉を指差す。

 左右に開くものだと分かりやすい外見のそれを見て、グリムは確信を持って呟く。



「あのエレベーターで、か。それは良いね」



 来た道を引き返すと思っていたグリムは、良い意味で裏切られたね、と微笑みを浮かべた。

 遠目から見ても今のサイズのベントネティを収めることは出来ないと分かり、黄金の巨体に小さくなるよう彼は命じる。


 そして、縮んだベントネティを外套の中に収めた、その矢先。



「きゃああぁぁ!!」



 彼の背後より悲鳴が上がる。振り向くとブルームーンのメンバーの一人が床の中に体が沈み出していた。

 彼女を中心に、蟻地獄のそれに似た、すり鉢状の穴が何時の間にか形成されていたのだ。



「伏兵か!」


「僕が行く!」



 チームリーダーのマットは、他のメンバーを巻き込まれないよう避難させる。

 レミネス率いる騎士もマッドブラザーズも被害を被ってはいないが、反応が遅れた。

 そんな中、グリムだけが動く事が出来、穴へと飛び込む。

 穴の中心にどんどん沈む少女を引っ張り上げようとするが、最早間に合わない。


 それどころか、穴はグリムをも呑み込もうとしていた。



「先に行って! こっちはこっちでどうにかする!」


「分かった! 総員、早くエレベーターに乗り込め!」



 グリムの言葉に、レミネスが応じた。

 彼からは見えないが数々の足音が遠ざかり、そして、設備の微かな駆動音を聞き取れた事で彼は安堵を浮かべる。


 それから、グリムは彼を引きずり込む穴に目を向けた。

 彼が気にかけるのは、先に呑み込まれた少女の生体反応が、穴の遥か真下、この建造物の地下に一瞬で移動した事実。

 つまり、この穴の先は地下階層の何処か、という事となる。


 この先に何が待ち構えているのか――。彼は友を巻き込んでしまった事を申し訳無く思いつつ、身構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ