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機皇の国  作者: Gno00
第三章 オーバースケール・ワーク

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ペインターと黄金機械

「王国の有権者かぁ…」



 冒険者をしつつコネクションを獲得するという、一見不可能とも思えるベルディレッセからの命令。

 王国の都市の一つ、その(ひと)()の無い寂れた区画にて如何にも悩んでいるように振る舞う青年へと覗き込む者が一体。


 ベントネティはその巨体を動かして角張った頭をグリムへと向けた。

 グリムが嗅覚センサーで感じ取った巨人の持つ匂いは金属特有のそれであり、好みは分かれる。

 彼がその匂いを好んでいるかどうかは微妙に上がった口角が物語っている。



「……」


「ああ、心配しないでくれベントネティ。一応目星は付いているんだ」



 言葉は無くとも黄金の巨人が何を言いたいのかは理解している。

 彼は手で制すると、ベントネティはその数秒後に再び顔を上げた。


 現在、彼らは隠蔽システムの各種を発動させており、外の人々からは彼らの姿は見えず、また何も聞こえていない。

 元より気にするだけの他人の居ない空間にて、グリムは巨人を納得させるだけの説明を始めた。



「予め指定していたら、いざ味方に付けようとして失敗した場合のリスクが高まるからね。友好的であるなら誰でも構わないんだよ、ベルディレッセ様は」



 作戦指示の時点ではベルディレッセは味方に付ける人物を()()()()()()()()()()というのが彼の弁。

 そして、彼は自身の言う目星の詳細を述べる。



「貴族に関わりを持つのも良いけど、今まで出くわした連中が全員関係者じゃ無かったとは断言出来ない。僕としては王国八傑の誰かにするべきだと思う。そうだな、誠実を地で行く人ほど味方にしやすいかな」



 王国八傑とは、貴族とはまた異なる有力者の集団を指す。

 貴族、平民等社会階級を問わず、実力と実績が社会的に評価され集められた8人の男女。

 少しばかりの情報はグリムの耳にも入っているが、ラカド=アンマータに於いては手厚いサポートを行う対象である冒険者をあまり刺激しないようにする配慮なのか、この街ではあまり情報は入ってこない。


 片や清廉潔白や誠実を地で行く者、片や荒々しく振る舞う者等……同じ集団から出る評価とは思えない噂話を時折ベルディの部下が持ち帰り、彼らにも伝わっていた。

 その中でも前者の方を味方に付けるべきだと考える。



「一期一会にするのは得策とは思えない。即座に撤退する前提ならまだしも、敵が未知数な現状でなら特に、ね」



 彼は同胞はベントネティしか近くに居ないにも関わらず、長期を見越してそういった者達と協力関係を結ぶべきだと主張する。

 尤も、会話の内容は彼ら以外には聞こえていないが。



「さて、お喋りはこれくらいにしよう。頼まれたからにはきちんとやり遂げなくちゃね」



 隠蔽システムの一切を解除し、再び彼らは外界へと戻ってくる。

 少し歩いた所でグリムが足を止め、ベントネティも動きを止める。

 その直後、青年の口角が上がる。予め()()()()()を施していた敵性反応に動きがあったからだ。

 そして、それらの反応は背後にあり、彼らは振り向いた。



「やあ。また会ったね」



 ぞろぞろと姿を表す黒いスーツ姿の男達を見てグリムは気さくに声を掛けた。

 顔ぶれの中には、つい昨日にグリム達を追跡した者達も居る。

 そんな黒スーツ達が脇に退け、姿を現すのは少々彩りの下品な金色のスーツと杖が特徴的な背の低い男。

 髭を貯えたその男はさも面白くなさそうに眉間に皺を寄せた。



「白々しい。姿を隠していた癖に」


「まあ、()()()()()()()



 グリムの発言を気にも留めず、金色のスーツの男は杖の先端をグリム達へと差し向ける。



「用件は既に分かっているだろう。その巨人をこちらに引き渡せ」


「それに何のメリットがあるというんだい?」


「決まっているだろう。我々の方が巨人の生み出す黄金を適切に扱えるからだ」



 グリムはその説明を聞いて目が点になる。

 誰に、という部分が抜けていた為に齟齬が生じているのだと考え、彼は訂正した。



「いや、そうじゃなくて。僕に何のメリットがあるのか、という話だよ」


「金ならたんまりくれてやる。それこそ、一生遊んで暮らせる程のな」



 当たり前のように言ってのける男の発言を耳にしたところで、靡く気持ちなど微塵も湧いてこない。

 クエストを幾つかこなしたり、倒した魔物の素材を売るなどして得た資金のおかげで、金銭には困っていない。

 一生遊んで暮らせると言われた所で、両者の考える遊びの定義というものは恐らく、根本的に異なっている。



「うーん、却下。魅力的に感じないや。それに、お金には替えられないよ。僕のかけがえない友達を」



 グリムもベントネティも、《マギア:メタリズム》においては特殊なマップにしか出現しなかった。

 ベントネティが初期から存在する資金稼ぎ用のマップに出るならば、グリムはバージョンを追って新しく追加された、塗装バリエーションを開放する為に挑む事になるマップに出現する。


 だからこそ、出番の限られているメカ同士、シンパシーを感じたのかもしれない。

 そんな彼には仲間を売るつもりなど最初から無かった。


 要求が通らなかったのを聞いてか、金色のスーツの男が手を挙げると、黒服の男達が各々の得物を何処からともなく出現させる。



「だからと言って、無事でいられるとでも?」


「ああ、そういう事するんだね」



 黒服達がじりじりと距離を詰めてくるが、グリム達に驚いた様子は無い。

 予想通りと言わんばかりに、ベントネティが構え、グリムは横に伸ばした腕の先に大きなドラムを持つ銃、カラーガンを呼び出ししっかり握る。



「まあ、こっちとしては分かりやすくて助かるよ」



 グリムが口角を上げると共に、無数の正方形を描く白い線の数々が地面の上に出現する。

 すると、50人居た黒服達は近くに居た一人に引き寄せられていく。



「な、何だ…!?」



 金色のスーツの男が驚くも、その頃には5人で一纏めにされた、10人の黒服達に変貌を遂げた。

 2×2のマス目の上に立つ相棒を尻目に1マス分の上に立つ青年は、ドラム部分を肩に軽く当てつつ答える。



「容姿の似通った、実力の拮抗する者同士は一纏めにされる。このマス目の上でのルールの一つさ」


「何の魔法だ……!?」



 黒服達は自分達の身に起きた出来事が信じられないといった様子で辺りを見回している。

 こんな事が可能なのは、この世界()()魔法しかあり得ないらしく、魔法と断定した上で問う金色のスーツの男に対し、グリムは再び目が点になる。



「魔法じゃないよ。…って言われてもピンと来ないか。実践してみれば分かるんじゃない?」


「随分と余裕だな。お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」



 黒服の一人がようやく自身が置かれた状況が飲み込めたらしく、グリムへと指差す。

 最初は戸惑いを浮かべたグリムだったが、その問いの意味を理解し、返答する。



「まあ、それも実践すれば分かるよ」


「言ってろ、吠え面かかせてやる!」



 剣を握り締めて突進を仕掛ける黒服の一人。一方でグリムは目を閉じて微動だにしない。

 黒服の男は自身の攻撃が当たると確信し、その剣を振り下ろす。

 だが、身を捩ったグリムの体は剣の軌道より外れていた。



「そう言えば、世の中には性能評価というものがあるらしいね」



 剣先を石畳へと叩きつけた後、今度は低い姿勢で横一閃に振るう。

 だが、奥へと避けたグリムには掠りすらしない。黒服の男は冷や汗をかきつつも剣を次々と振るうがやはりグリムには当たらなかった。

 異常なのは、グリムが自身の立つ1マスの上から出てすらいないという事か。



「ユニットのステータス、装備の質、使用スキルの補正。それら全てを引っくるめて性能評価というんだ」


「何が言いたい!?」


「このマス目の上では君の今しているそれは格闘という名称でスキル扱いになる。でも、これだけやって僕に届かないんじゃ何処かに、それも致命的な問題があるね。…例えばその剣とかさ」


「言わせておけば!」


「やみくもに振ったって結果は同じだよ。それは僕の側の性能評価が物語ってる」



 隣接したマス同士での攻撃と回避の応酬は、彼が淡々と述べる言葉と共に続いていく。

 どんなに1マスの上から追い出そうとしても、グリムは器用に回避するばかりで1マスの上に立ち続けている。

 どうあがいても、黒服の男の技量ではマスの外に追いやる事すら不可能であった。



「両者の性能評価で算出される結果は不変なもので、当てられる攻撃は確率で当たるし、避けられる攻撃もまた確率で避けられる。だけど、彼我の差が大きいようなら絶対命中もしくは絶対回避になる。そう決められているんだ。…こんな風にね」



 性能評価の説明を端的に終えたが、黒服の男達と金色のスーツの男は唖然とし、立ち尽くすばかり。

 聞き逃したようにも見えるが、彼は特に気にもせず続ける。

 剣を振り上げた男の胸へ、その銃口を向けた。


「さて、次は僕の番だ。覚悟してもらうよ」



 使用武装:カラーガン

 スキル:《カラーズ:シュートペイント・レッド》



 発光。炸裂。

 赤い線の描かれた金色の薬莢が排出され、黒服が赤色へと染まっていく。

 胸を中心に赤く汚された男は勢いのあまり後ろへと倒れる。が、黒服の男に外傷はおろか服装に傷も一切無く、すぐさま起き上がった。



「ふ、ふん、痛くも痒くもねぇな!」



 倒れた拍子に落とした剣を拾い上げ、黒服は再度グリムを攻撃しようとするも、その動きは止まる。

 数秒の硬直が終わると、その場に力無く倒れ込む。同時に武器の虚しい金属音が鳴った。



「―――ァッ……ッ」



 声にならない悲鳴を上げつつ、急遽胸を押さえ苦しみ出した黒服。

 一体、何が起きたのか。金色のスーツの男を始め、黒服達は変わり果てた同胞の姿を目にして愕然とした。



「色は効果を表す。僕の能力を知らずに来たというならお気の毒」



 外套の裾を踊らせつつグリムは軽快に語る。

 その間にマス目の外をちらりと見やるが、そこに倒れている者の姿は無く、彼は再び集団へと向き直った。



「赤は『痛み』を与える色。死にはしないけどとても苦しい思いはしてもらうよ」


「…ええい! 一斉にかかれっ!」


「……君たちそれで大丈夫?」



 性能評価は何よりも重んじるべきだと言うのに。

 彼はそう思いつつもカラーガンを構えずに、金色のスーツの男の号令で迫る黒服達を前にして相棒が動き出すのを待った。

 マス目を規則的に進んだ重装甲を身に纏う巨体は、俊敏に動き目前に立ちはだかるだけでも重圧が増す。


 実際、グリムへと突進した者達が阻まれ、気圧された。

 装甲の隙間より出てきた粘液状の黄金が振り上げられた右腕に集まっていくのを見るも、それだけしか出来ない。



 スキル:《チューンゴールド:メガナックル》



 二回り程大きくなった巨人の腕が前方2マスに居た黒服達を押し潰す。

 彼らは黄金の拳が破壊した石畳から漏れ出てくる血溜まりとなって、すぐさまマス目上から姿を消した。

 何かが落ちる音が乾いて聞こえ、振り向いた黒服だけが外に出来た、10人分の血で出来た赤い池を見る事になった。



「く、くそっ!」


「相手はたかだか冒険者一人と使い魔だけだろ!?」


「何でこんな事に!!」



 巻き込まれなかった者達は斧や槍、矛に銃を使うも黄金の巨体には傷一つ付けられない。

 《ガード:物理系無効》のスキルが、無情にも彼らの攻撃を阻んでいた。



「そっか。君たちも()()()()()()



 淡々と呟くグリムに、男達は背筋が凍る感覚を覚えた。

 彼らが零れ落ちそうな程に見開く目の先には、カラフルな外套を着た青年と、外見の綺麗な巨人が居る。

 だが、第一印象で抱いた色物冒険者の姿では無い。抗いようの無い実力を宿す二体の強者の姿である。


 殺気の類いは感じない。しかし、それ故に恐ろしい。



「痕跡を残さず始末したから誰がやったのかも分からない。それ故に僕達を色物としか見ていなくて、こうして接触してくる。実態を知っている訳でも無いのにね」



 マスの上を優雅に見える程軽快に歩いていくグリム。

 一歩、また一歩と近づく度に黒服達は声も出せない恐怖に震え、心臓が早鐘を打つ。

 そんな彼らをただ見据えるフードの下の虹色の相貌が一層恐怖を煽っていた。



「おかしいとは思わなかったのかな? それとも、自分達なら上手くやれる自信があったのかな? …まあ、君達の事なんてどうだって良いけど」



 冷酷に述べる彼の背後より、濃い影に染まる黄金の巨人の腕が伸びてくる。

 最早黒服達にマス目の外は頭から抜け落ちており、ただ、自分達を消さんと迫る強者から目を離すことが出来なかった。


 太陽は高く登り、正午が少しずつ近づいてきている頃合い。

 先程まで騒がしかった筈の、(ひと)()の無い寂れた区画には変わらずグリム達が居る。

 そこに交戦があったと示す痕跡など一切無く。



「これくらいなら魔物達を仕留めた方がマシだね。魔物の強さによっては人に褒められるし、それにお金が稼げる」



 痕跡を消すという事は、当然ながら相手の所持品だけせしめる…などという横着は出来ない。

 所持していたままなら関与を疑われてしまうし、売り捌いたところで暗部の人間に探られてしまう恐れもある。

 ならばいっその事存在ごと消し去ってしまった方が事後処理が面倒にならなくて済む、というのがグリムの見解であった。


 彼の目線は周囲に撒き散らした、地面と近しい色合いの塗料を見ている。

 それが徐々に馴染んでいくのを目視で確認すると、再び彼の目は相棒の雄々しい姿に向いた。

 顔と思しき部位の無い巨人からは、心配の情が抱かれている。少なくともグリムにはそう思えた。



「……」


「こんな事で誠実な有力者と組めるのか、って? 大丈夫だよベントネティ。彼らが僕らを探ろうとして、実際に掴ませるのは冒険者としての僕らであって、こんな事する僕らは掴ませない。彼らには必要無い情報だからね」



 隠蔽システムと戦闘システムを駆使した裏社会の人間の抹殺が上手く行っている事は他でもない、今回遭遇した者達の反応が示している。


 抹殺の多くは欲に目が眩んだ者達の自業自得だが、中には不幸な事故も少なからずある。

 だが、その不幸な事故も全て身勝手な主義主張が招いた結果であり、グリム達に特にこれといった負い目は無い。


 そして、裏社会の人間が次々姿を消しているという事件は大きな混乱の種となり、芽吹きつつある。

 今回は(もたら)される不安に当てられた――そんな推測をグリムは立てている。



「生き残らなければと躍起になる者達が今回みたく表立って行動を移し始める。そうすれば八傑の誰かは動くと見て間違いないだろう。それはそれとして、裏社会の勘の良い連中は僕らが関与している事に辿り着いている筈だ。…まあ、相互不干渉の為に交渉の席を用意されたところで着くつもりなんて無いけど」



 表向きは善良な冒険者という看板を背負っている以上、マイナスイメージに成りうる行動は出来る限り控えておきたい。

 しかし、今回は付き纏われており、そのまま放置していては不味い事になる為始末した。


 それでも、反省点は幾ばくかあるとすら彼には思えた。



「殺害しない前提でも、何もしなかったのは不味かったね。威嚇行為の一つや二つはしておくべきだったか」



 前日の時点で、壁越しに攻撃を加えたり、空を飛んでくる者達をグリムの武装が放つ、比較的無害な色に染め上げたりする事も可能だった。

 だが、そうはしなかった。

 何故かというと単純に、集合の時間に遅れそうになったからである。



「……」


「時間を確保出来なかったのは僕の落ち度だよ。あの日の内に出来たとは言え欲張り過ぎた」



 パムラタァナの平原の掃討は本来は受けるつもりの無いクエストだったが、それを受ける前までは時間的余裕が生じ、集合時刻の20分前には拠点まで戻って来れると考えた為に受ける事にした。

 その結果が前日の、更に今日の出来事を招く事になったが。



「…さて、反省終わり。流石に半日も姿を現さないのは不味いからそろそろ行こうか」





 ◇◆◇





 人気の無い区画を離れ、グリム達が次に訪れたのはラカド=アンマータ。そこにある冒険者ギルド。

 今は昼時というのもあり、殆どの冒険者がクエストや食事に出ており、中は少しの人員がうろついている程度。



「さて、今回は良さそうなクエストはあるのかな」



 何時もの如くベントネティを外に待機させたグリムはギルド内にある掲示板に貼られているクエストの中から所要推定時間がなるべく短く、それでいて報酬の高いクエストが無いかを探す。

 だが、更新したばかりの依頼が閲覧出来る時間帯を過ぎている為に、儲かりやすいクエストは他の冒険者が既に受けていた。



「まあ、毎回おいしい思いが出来る訳無いか」



 こればかりは早くに来れなかった為に仕方が無いと割り切り、受けられる依頼をこなそうと受注書を取ろうとした矢先、昨日も会った受付嬢が彼へと駆け寄ってくる。

 走ってきたばかりの為呼吸が乱れており、額からは汗も噴き出ている。



「ぐ、グリム様。緊急の依頼が入っております…」


「うん? 誰から?」


「そ、それが……」



 噴き出た汗の上から更に冷や汗を流しつつ、受付嬢は持っている紙に記載されていた差出人の名を読み上げる。



「王国八傑の一人、レミネス・ホイリィ様から……」



 協力者に据えるべき有権者として挙げた王国八傑、その一角からの指名。

 願ってもない好機が向こうから来たという事に、グリムは気付かれない程度に口角を上げた。

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