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機皇の国  作者: Gno00
第三章 オーバースケール・ワーク

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21/44

機皇帝の視察

 孤島へと転移した《マギア:メタリズム》内の一国家、機皇国ジェネレイザ。

 その国では現在、今回の影のMVPであるマディスを迎えるべくお祭り騒ぎになっていた。


 転移から凡そ2週間が経ち、パンべナット・スレーヴの復旧が完了し、国内、海外問わず難民受け入れの為の居住地開発も大部分が完了している。

 仕事の量が減り余力のある今、ジナリアのドローンが撮影したマディスの勇姿の数々が閲覧可能ともなれば――こうなるのは必然であった。


 国内の至る場所が騒がしくなっている一方で、静けさを保つ異質な城の正門より姿を表す者が一人、いや、一体。

 夜闇を封じ込めたような色合いをした黒紫の全身鎧に身を包んだ2m近い大きな体格は、あまりにも目立って見えた。


 彼こそが機皇国の主、《カオス・マシーナリー》機皇帝ジェネルその人である。

 そんな彼が機皇城の外へ出てくる機会はあまり無い。

 国としての方針は機皇城内の『ギア・ホール』にて、彼と、彼に従う三体の女神こと三機神が話し合った上で固めている。


 では、何故彼は機皇城の外に居るのか。

 それは腹心の一体、アペード・ラジーと会う約束を取り付けた為である。

 ジェネレイザ空軍『クローバー・エアフォース』に属している彼は、同じく空軍所属のγ-ベルディレッセに次ぐエースメカであり、スキル構成、使用武装共にバランスが取れている。


 東の空軍基地、メルケカルプ・フォートレスにてアペードと落ち合う事になっている。

 約束の時間まではまだあるのだが、ジェネルは機皇城の外に出てきていた。


 …と、言うより閉め出されたと言うべきか。

 国内なら転移が出来る為、ジェネルは約束の時間ギリギリまで業務に励もうとした。

 しかし、後は自力だけでも出来るとシアペルが少々強引に引き継ぎ、必ずアペードと合流するよう、きつく言われた上で外に出されたのだ。



(これではどちらがジェネレイザの真の支配者なのやら…)



 ジェネルはそう思いつつ、約束の時間になるまで何をするべきかを思考する。

 シアペルの操作によりアペードと合流するまでは機皇城に戻れないので、これから凡そ3時間程は何処かで時間を潰す必要があった。



「国内の情勢についてデータや映像を眺めているばかりだったからな、この目で確かめてみるか」



 こうして、シームレスに機皇帝による内部視察が始まった。


 まずは首都カルヴァルズ・フルドを見て回る事にする。

 ドームを形成する様に高くそびえ立つ外壁の中に収められた首都には中央を含めて5つの区画があり、それぞれが異なる役割を持つ。


 中央――ジェネルが現在居るこの区画は広場内に機皇城とメインタワー、それからタワーの補助システムがあり、ジェネレイザに於ける政治、電力の中心となる。

 要は、ジェネレイザという国家の脳と心臓部であり、此処が消滅する事態は、機皇国の終わりを意味している。


 南西には居住区があり、転移当初では首都の外側に展開されていた居住地を失い難民となったメカ達を収容していた。

 起こり得る混乱を未然に防ぐべくジナリアがスーパーアドバイザーとして滞在していたのが懐かしい。


 北西には商業区があり、居住区とはユニリィ・ファクトリアへ向かう道が境目となり隔てられている。

 主に、居住区で暮らす面々が己の生活資金を得るべく、此処で多種多様な商いをしているという感じだ。


 北東は地続きであるにも関わらず、色彩が失われたような、真っ白な区画と化している。

 レヴァーテとウツギ、それからグレードA+にしてLLサイズの亜人形メカ《ミラクルハンズ》リーベルス・キュアの三者が管轄する癒やしと洗練の為の空間。

 ホワイト・パレスと呼ばれるその場所にはリーベルスが院長を務める医療機関、レヴァーテ達の管理する純白の宮殿、ウツギとイッテツの暮らす和風建築である『より高みへ至る為の道場』が置かれている。


 そして、南東。そこには黄金と欲望の渦巻く都、ビックパンドパディが存在する。

 多種多様の『娯楽』を詰め込んだ、というコンセプトのこの区画では『遊び(ゲーム)』も『賭博(ギャンブル)』も楽しめる。


 一先ずは首都内で時間を潰す事にしたジェネルはレヴァーテらの居るホワイト・パレスに向かう事にする。

 先の戦いにて捕縛した者達や、帝国から島送りにされてきた者達により医療製品の研究開発の捗っている医療機関に顔を出すのも面白いな、とも思いながら。


 入れ違いになるのは避けておきたかったジェネルは紫のコンソールを何もない目の前へと展開し、「ユニット選択」の項目をタップする。

 そこからソート機能を用いて「所属:宮殿」のメカのみを表示させる。

 ソートによって並び替えられたメカの種類と名前の一覧はホワイト・パレスの一角である宮殿の所属、即ちレヴァーテとアプレンティス15体の名前のみを画面内に収めた。


 しかし、彼の目の前に表示された項目の一部分を見て、彼は驚く。

 何故なら、現在地を示すその項目は不可解な内容を示していたからだ。



「何故、アプレンティス達がビックパンドパディに居るんだ…?」






 ◇◆◇





 カルヴァルズ・フルドの南東、ビックパンドパディ。

 異界に流れ着いても尚相も変わらず悪趣味な程に散りばめられた黄金が輝くその地へと、ジェネルは転移してきた。

 時間を潰す以前に、この地にて自分の目で確かめなければならない事態が起きているから。


 周囲を見渡してみても、巨大な立体スロットマシーンやルーレット盤、ボウリングの球と傾いたピンに裏返しのカードの数々等、『遊び』や『賭博』の象徴と聳え立つビル群に少々のメカの往来程度しか目に映らない。

 肝心の彼女達が居ない為に、コンソールの「マップ」機能を使おうとした、その矢先。



「――初めてだから大目に見るけど、もう少し胸張ってよ〜ほらぁ」



 若さの中に幼さが残る少女の声が聞こえてきて、ジェネルはその声がした方向へと向き直り、急いで走っていく。

 途中すれ違ったメカ達に大仰に驚かれつつも。



 100m程走った所で、「マップ」を展開する。

 黒の下地に青白い線で表示された地形の中、青い点で表示された味方の配置と、目の前の少女の立ち位置とが合致するのを照らし合わせて確認した。


 少女は青いスーツを着たお尻の上にある白くふわふわな丸い尻尾をぴょこんと上下に揺らす。

 彼女の目の前には、髪と目の色が統一された、15体のバニーガールが居た。



「は、恥ずかしい……」


「こんなにぴっちりしてるなんて……」


「うううううぅぅ…」



 彼女達はプラチナブロンドの様々な形に整えられた髪を揺らしつつ、銀色の輝きを持つ目を大粒の涙で濡らし、白く透き通った肌を苦悶と羞恥で赤く歪ませている。


 彼女達はレヴァーテの妹である15人の少女、グレードA-、Mサイズの人形メカ《アプレンティス》である。


 それ以外の名称を持たない為に、外套に割り振られた番号を元に1番から15番まで名付けられている。

 だが、今は外套を脱ぎ――状況を察するに強引に脱がされたのだろうが――、判別方法が髪型と顔の部位の形と外見の少しの差異しか無く、誰が何番なのかは非常に分かり辛くなっていた。


 着慣れないカラフルな色合いのバニースーツを着せられて、バニーヘッドは彼女らの自信の無さの表れか、あるいは元よりそのようなデザインなのか、片耳が垂れていた。


 恥ずかしさのあまり前屈みになったり、内股になったりしているが、そもそもボディラインに沿った服装である為に返って彼女達を際立たせている。

 また、彼女達にもそれなりに胸の膨らみがある為に姿勢の折れ具合と胸回りの布面積が少ない事が合わさり危うくなってきている。



「よくミリー様は平気でいられますね…」


「ボクはこの都で一番のうさぎさんだからねぇ〜、身も心もうさぎさんである事は誇りなのだー!」



 一方の彼女達の目の前に立つ青髪の少女はその豊かな胸を張って見せている。

 彼女の服装は、彼女達の着るバニースーツを更に派手にしたものとなっていた。

 青いスーツやタイツの上には薄っすらと、星の数々が規則的に並べられて浮かんでいる。

 更にはその上に黒のショートジャケットを羽織っており、一線級のバニーであると一目見るだけでも分かる。


 彼女こそが『トワイライト』の一体にして、グレードS-、Mサイズの人形メカ《カジノバニー:スロット》ミリー・オルネアである。



「アプレンティスを全員連れて、何をしているんだ?」



 だが、幾らレヴァーテと互角のグレードである彼女でも、レヴァーテの妹達であるアプレンティスを好きに動かしていい権限は持っていない。

 これはどういう事かとミリーの背後より近付いて問うジェネルに、彼女は振り向いて笑顔を向けた。

 無論、この姿を誰にも見られたくなかったアプレンティス達は肩を跳ね上げるのだった。



「ひぃ、ジェネル陛下!」


「あっ、陛下! この子達に新しい個性を与えようかと思ってさ!」


「そうか。…そうするのはお前の自由だが、レヴァーテに許可は取っているのか?」



 ジェネルの淡々とした何気ない確認に対してミリーは「うっ…」と低く呻く。

 冷や汗を噴き出した彼女は笑顔を取り繕いつつ慌てて両手を振った。



「い、いやぁ、あの、許可は取ろうとしたんだけどね? 忙しそうだったからさぁ、後回しにしちゃってて…」


「……まあ、良い。後でレヴァーテにちゃんと説明しておけよ」



 事後報告になる以上、妹達に恥をかかせたとレヴァーテが鬼の形相を向けて叱る光景が目に浮かぶ。

 バグでは無かった事を確認出来た為、ジェネルは呆れ気味に彼女の独断を許す事にした。


 苦笑しつつも、ミリーは気持ちを切り替えて、バニースーツを着せたアプレンティス達に目を向ける。

 悪意がある訳では無いが、品定めをされるような眼差しに晒され、彼女達は警戒するように息を呑む。



「それにしても、勿体無いなぁ」



 それから、ミリーから出た何気ない高評価を聞き、彼女達は困惑を露わにする。

 確かに、彼女達の顔は微妙な差異こそあれどレヴァーテの持つそれを幼くしたような、可憐な部類に入る。

 無論、どちらが美しいかと聞かれれば、間違いなくレヴァーテに軍配が上がるだろうが。



「こんなに可愛い顔してるのに、どうして今まで隠してたの?」


「あうぅ…それは、その…」



 アプレンティス達は顔を更に赤らめつつ、返答に躊躇する。

 口を小刻みに震わせて、彼女達の内の一人がようやく口を開いた。



「み、見習いの身分で顔を出していては失礼かと思いまして…」


「誰に?」


「その、お姉様を始め、位の高い皆々様に対して…」



 自分達が素顔を隠す事は、ジナリア達三姉妹やレヴァーテといったジェネレイザが誇る美姫達に対する礼儀だというのが彼女達の弁。


 勇気を出して答えた一人に彼女達は食い気味かつ一斉に頷く。

 しかし、彼女達の返答を耳にしたミリーは首を傾げた。



「そうかなぁ? レヴァーテは君らの事、宝物のように語ってるよ? もっと自信付ければ良いのに」



 ミリーの意見も尤もである。

 レヴァーテの自慢の妹達であるならば、もっと堂々と立ち振る舞っても良いものでは無いのか。


 アプレンティス達はただ顔を見合わせて、困惑するばかりである。

 一方のミリーは、すぐにでも結論を急ぐ必要は無いと思ったのか話を変える。



「…まっ、君らの好きなようにすれば良いや。それより、マディス君を出迎える為に頑張ろっ!」


「ですが、些か派手では無いでしょうか…?」


「そんな事無いって〜、考えてもみてよ。マディス君は普段の、慎ましい君らを見慣れてるでしょ? そこで可愛いうさぎさんに姿を変えてみてみなよ。マディス君、君らのことますます好きになるかもよ?」



 妖しげに微笑みながらそう述べる彼女の弁に、アプレンティス達は自分達の理想である光景を思い浮かべたのだろう。

 先程まで恥じらいを露わにしていた彼女達に自信というものが少なからず身に付いた。



「確かに…!」


「マディス様がお喜びになるなら……!」


「私、いえ、私達頑張ります!」


「その意気だよ〜! さっ、皆、張り切っていこう!」



 ミリーが手を掲げるのに続いて、バニー姿のアプレンティス達もまた自信満々に手を掲げる。

 一方のジェネルは此処はもう彼女達に任せておくか、と熱中する面々を尻目に次に向かいたい場所を定めて、転移の準備を整える。



「では、私は失礼する」


「はいっ。あの、陛下、ありがとうございます」



 彼の身振りに気が付いた為か、アプレンティスの一体が深々と頭を下げて礼を述べる。

 何か貢献出来るような事をしただろうか、とジェネルは「マップ」を一瞥しつつも首を傾げた。



「陛下に先にお会い出来た事で、自信が付きました。本当にありがとうございます」


「ああ、微力ながら貢献出来た事を嬉しく思う。マディスに素敵な姿を見せてやると良い」



 機皇帝は暖かく見送る彼女達に軽く手を振りつつ、黄金の地より姿を消した。


 ジェネルが去って以降も続いたミリーとの特訓の結果、マディスの凱旋までに新たな15体のバニーは仕上がった。

 ユニリィ・ファクトリア側から首都まで帰ってきた彼を商業区と居住区のメカ達が迎える中、彼は駆け寄って来る15体のバニーに唖然とした。


 彼女達の素顔を知っている彼はすぐにアプレンティス達だと理解したが、何故バニー姿なのかは理解出来なかった。

 しかし、彼女達の厚意を無下にする訳にもいかず、意外にも大胆な彼女達の一面を知る事となった。






  役得とも言える未来に遭遇する事が部下の一体に確約されたその最中。

 ジェネルは予定を変更し首都の外壁を転移で超えて、南の円状の第一産業地パンべナット・スレーヴへとやって来る。

 彼が辿り着いたのはその一角、ガラス張りの大きな施設の中に数多の種類の花々を収めた花園(ガーデン)の近くであった。


 目的は他でもない、此処に居る二体のメカと会う為。

 ガラス製の扉を開けると、早速彼女達の後ろ姿が見えてきた。



「そこの枝をあと3cm切ってください」


「こうですかね?」


「その調子。伸びっぱなしにするのは見栄えが悪いですからね」



 花園の中では二体の、体格も容姿も大きく異なるメカ達が道具一式を持って、花達の世話をしている。

 一体は鎧のような、灰色をした重装甲に身を包んだ大柄の戦士。

 グレードA+にしてMサイズの亜人形メカ《ブレードマスター》イッテツ。


 もう一体は(つや)やかな桃色の長髪をした、桜色の着物風のワンピースに身を包んだ少女。

 グレードS-にしてMサイズの人形メカ《鋼刃閃姫》ウツギ・ムラサメ。

 何でもこの二体は気配なるものが感じ取れるらしく、センサーの類いに頼らずともジェネルの存在に気が付いた。

 青く鋭い双眸と、多重円を描く琥珀色の双眸が彼へと向けられる。



「これはこれは、機皇帝陛下。こちらにいらしていたのですね」



 表情と目の色は先程までと然程変わっていないものの、彼女なりに敬意を払っているらしく声色は少し明るく微笑んでみせている。



「本日はどのようなご用件で?」


「そうだな、久しぶりにここを見に来たんだ」



 花園を彩る花の数々は誰が見るのか?

 それを聞かれた時に正しい解答とされるのは、管理責任者であるウツギと、所有者たるジェネルの二体である。


 一応三姉妹も当て嵌まるのだが、彼女達には今現在のように現場での仕事が割り振られる事が多く、此処に来る機会はジェネルのそれを上回る程には無い。

 イッテツは魔力汚染の影響で割りを食ったこの場所を復旧させる為の手伝いに過ぎない。



「それでは好きなだけご覧ください。貴方様の為の花園であります故」



 ウツギは機皇帝たるジェネルの忙しさを慮っている。

 その上で、彼がこうして赴いた事でようやく自分達の苦労が報われると考えていた。


 彩り鮮やかに咲く花の数々。

 季節感というものに統一性は無いが、この花達が生み出す美しさをジェネルは高く評価している。


 古来より自然が形成する光景に、ジェネルは魅入られていた。

 極めつけはなんと言っても奥に佇み咲き誇る桜の木。

 日の光を受け陰と陽のコントラストを描くそれはジェネルの一番のお気に入りだった。


 夜になった時に見るこの景色は、どれほど美しいものか。

 彼は多忙故に想像でしか見た事の無いその光景に思いを馳せた。


 花園の主役たる花々を一通り見終えた所で、ジェネルは出入り口前へと戻る。

 そこではウツギ達が機皇帝の到着を待っており、ある程度距離が詰まったところで彼女が意を決して彼へと問う。



「もし、よろしければこれより鍛錬を行いたいと思いますが…そちらもご覧になりますか?」


「おお、それは是非とも見てみたいものだ」



 ウツギとイッテツ、師弟関係を築くこの二体のメカは特殊な部類であり、装備可能な武装が制限される代わりにその武装の性能を大幅に強化するという能力を持つ。

 《ブレードマスター》たるイッテツは剣・刀系統の武装しか装備出来ず、《鋼刃閃姫》たるウツギは()()()()()()()()()()()()()()


 銃火器や光学、魔法兵器を幅広く扱うメカの国家たるジェネレイザに於いて、このような近接武器しか持てない、使えない種類のメカは珍しかった。


 その為、彼女らの鍛錬という名の実演は見応えのあるものとしてジェネルは高く評価していた。

 快諾を受け、ウツギはイッテツへと無表情にも似た顔を向ける。



「では、イッテツ。先に道場に行って準備をしてきなさい」


「あ、あの師匠? 今日はそのような予定は無いと…」


「陛下のお時間を無駄にするつもりですか? 早く」



 急かされた弟子はその体格とは裏腹にあっさりとコンソールを開いて転移する。



「では、参りましょうか陛下」


「あ、ああ、そうだな」



 弟子が向こうに行ってからまだ5秒程しか経っていない気がするが…。


 ジェネルはウツギの理不尽にも似た態度を恐ろしく感じつつも、彼女と共に首都の北東へと転移するのだった。




 ホワイト・パレスの一部、『より高みへ至る為の道場』。

 白があらゆる色彩を支配するこの地に於いて、灰色と黒という色を持ち込む地帯に建てられたこの施設もまた、三色で彩られている。


「その方が絵になる」と、木床の端で正座をするジェネル。

 彼を待たせる事が無いように、イッテツとウツギはそれぞれ得物を握る。

 イッテツが扱うは150cmの刀身を持つ大太刀『(さん)()(ろう)』。

 彼の持つ刀系統の一種であり、深緑色の刀身の上に赤い半円を三つ描く異質な刀。

「月玉鋼」という特殊な刀工用素材を用いて作られた為に、高く、大きな施設を容易く破壊してしまう程に切れ味が鋭い。

 精査した上で自身の持つ得物の中から、師匠の刀を()()()()()武装の一つであると選んだ代物。


 対するウツギが握るのは腰に下げた黒鞘の中に収まっていた、純粋な黒の刀。

(こく)(こう)(じん)(おう)()』という名のその刀は現在のウツギが握る事を()()()()名刀。

 鍛造に優れた「闇夜之玉鋼」というこれまた特殊な素材をふんだんに用いて作られており、使い手を()()()が選ぶと言われる程に扱いの難しい刀の一種として知られている。



「イッテツ、早く構えなさい。貴方を切り裂いてしまいますよ?」


「それだけはご勘弁願いたいですね…」



 両者が向き合うと、ウツギに言われるがまま『散駄楼』を正眼で構える。

 今回の鍛錬でイッテツ側が仕掛ける事は無いので、彼は師匠の攻撃を受け切るか、受け流す必要がある。

 低姿勢ではあるものの、及び腰であれば返って傷つく事になると身を以て知っている彼の構えに迷いは無い。



「では、参ります」



 使用武装:(こく)(こう)(じん)(おう)()

 スキル:《抜刀術:(らつ)()(せん)



 ウツギが黒刀を鞘に収めると、その数秒後に彼女は姿を消す。

 否、そう見える程の速さで彼を間合いに収めるべく踏み込んだのだ。

 間合いに捉えた途端、彼女の腰鞘より黒い刀身が抜かれていき―――


 ―――金属のぶつかり合う音が聞こえた直後、ウツギの姿はイッテツの背後にあった。



 スキル:《ガード:不動術》



 彼は『散駄楼』の刀身で受けた衝撃に耐えていく。

 その間彼の体は小刻みに揺れた。

 その一部始終は、ジェネルの目に備わるカメラが捉えていた。

 イッテツの揺れが収まるのを見計らってから、ジェネルは一言を述べる。



「今のは…全力より二回り程遅いようだな」



 ジェネルの一言を聞いて、ウツギとイッテツがそれぞれ彼へ顔を向ける。

 スキルを繰り出した側の彼女は嬉しそうに微笑む。



「流石です、陛下。たった一度ご覧になっただけで見抜きましたか」



 そして、彼女は機皇帝が見たままで推理した剣閃の速さについて肯定を示した。

 一方のイッテツは、頭を指で掻くような素振りを見せる。



「俺には師匠が消えて、そして斬られたぐらいの事しか分かりませんでしたがね…」


「何を言うんです、イッテツ。全力で無いとは言え私の本気を受けきれる者はそうはいませんよ」


「本気で斬るつもりだったんですね……」


「当たり前です。陛下の御前、手を抜く訳にはいきませんよ」



 こうして、奇妙な師弟の鍛錬は終わりを迎え、双方刀を収める。

 ジェネルも正座を止めて立ち上がり、彼らに拍手を送った。



「相変わらず素晴らしい手腕だ。出来ればもっと見ていたかったがな……私にも予定というものがある」



 気付けば、機皇城より閉め出されてからもうすぐ3時間が経過する。

 約束である以上、それを違う訳にはいかない。コンソールに映る時刻の表示を見て、ウツギは察した。



「……そうでしたか。次回はまたいずれ」


「次はその予定を組んだ上でやって欲しいですがね」


「あら、イッテツ。陛下の御身の前なら尚更そのような事は言うべきではありませんよ」


「……そのような事を言わざるをえない立場というものを考えて欲しいですがね………」



 二人の漫談を聞きながら、ジェネルは軽く会釈をすると、コンソールを開き道場から転移する。

 姿が消えゆく中、晴れ晴れとした様子で見送る師弟を最後に目にした。





 約束の時間になった事で、ジェネルは指定場所であるメルケカルプ・フォートレスを訪れる。

 空軍所属のメカが巡回し、機関砲やミサイルハッチ等対地、対空用の重火器等が忙しなくその向きを変えている。

 厳しい監視体制の築かれている空軍基地であるが、機皇帝のみが例外であり、許可が無くとも安全に進入出来るようになっている。


 転移して来た彼が早々、そんな灰色の地面の上で見渡すと、高く昇った陽の光を遮る影が被さる。

 その影を辿って見上げてみると、そこに居たのは騎士を連想させる純白の天使。

 ジェネルの数倍も巨大な存在が、彼を見下ろしている。



「よくぞ、参られました……父上」



 ジェネルを懐かしみ、歓喜する青年の声がその天使から聞こえてくる。

 彼こそが会う約束を交わしていたアペード・ラジーであった。

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