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機皇の国  作者: Gno00
第二章 機鬼怪壊

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リアクション:マカハルドの後始末

「やっぱり朝のキャラメルミルクは格別だねぇ」



 惨劇が起きた次の朝。

 第3控室。

 夜の喧騒が嘘だったかのように太陽が温かく照らすその部屋の中で、能天気な少女の声が聞こえてくる。

 彼女は心地の良い朝日を浴びながら、自前の純白のマグカップを握り、その中身を堪能している。



「私のおすすめはキャラメル4に対しミルク6の比率だよ。キャラメルの甘さとミルクのまろやかさが良い具合に絡み合うんだ。ささ、君達も試してごらんよ」



 微笑み混じりに彼女が指を弾くと、もう一人の少女、彼女の妹が集められたメンバーに彼女と同じものをそそくさと人数分配置していく。

 一方の集められたメンバーは、全員浮かない顔をしていた。


 それもその筈。

 なにせ彼らは帝国所属の軍人。

 彼女達二人より告げられた衝撃的な一報を聞き、勧められた飲み物を堪能するとか、そんな場合では無いからだ。



「なあ……」


「おいしく飲むコツはよく混ぜ合わせて飲む事だ。どうしてもキャラメル部分が底に溜まってしまうからね、一工夫が要るんだよ」



 この場にいる軍人の一人、第56小隊隊長を務めるベノメスは置かれた飲み物に対して熱弁する少女、ジナリアへと恐る恐る声を掛ける。


 だが、彼女の熱弁は続き、なら妹であるコルナフェルへ、と助けを求めるも、彼女は目を閉じて待機しており――おそらく見えてはいるが――それを視認していないので、取り付く島も無い。

 心なしか彼女がすっきりした様子であるのを指摘する勇気を彼は持ち合わせていなかった。



「おい……」


「あっ、この中にアレルギー体質だと言う人は居るのかな? もし、そうだったら遠慮無く言ってほしい。別の飲み物に取り替えるよ。代わりに私が頂くからさ」



 あんたが飲みたいだけじゃないのか、という反射的に思い浮かんだ突っ込みはさておき。

 ベノメスの吐いたため息に、アルコミックを含め帝国軍人の面々が合わせる。



「……あんたが気を利かせて、俺達のケアをしようとしてるのは分かってるし、実際ありがたいと感じている」



 ベノメスは無礼の無いように、それでも滝のように流れる汗を誤魔化せないまま辿々しく言葉を紡ぐ。

 不可解な現状を前にして、頭を抱えたくなったのをぐっと堪えつつ。



「だがな、何をどうしたら5000もの軍勢が一夜にして姿を消すんだよ……」


「何を、って先に言ったじゃないか。私の仲間が排除するって」



 ジナリアの口から語られたのは、『懲罰部隊』の排除の完了。

 コルナフェルの口から語られたのは『暗夜衆』を名乗る暗殺部隊のリーダー格の排除。

 暗殺部隊からの襲撃があったその日に、彼女らの宣言通り『暗夜衆』と『懲罰部隊』はきっちり始末された。


 それでも。だとしても。

 ベノメス達帝国軍人が関わった面々以外の、彼らが居たという痕跡一つすら残っていないのは、誰がどう見ても不可解であった。

 昨日の晩にとてつもなく眩しい閃光を見た、という情報は多数寄せられたものの、それ以上の情報は無い。



「ひょっとしなくても」



 ベノメスは今や帝国全域に知られている、ある事件を思い出す。

 と、言ってもそうするだけの材料は既に彼女らにより見せられていたので、思い出すのは容易であった。



「ジャバナ海賊船団が消えたのも、あんたらの仕業なのか…?」



 北の海を根城にする、厄介なアーティファクトを所持していたとされる中規模の船団。

 丁度、島送りにされた者達が『呪われた島』改め機皇国ジェネレイザへ辿り着いたと思われる日付と、船団が姿を消した日付とが合致する。


 その為、行方不明となる事件に大きく関わりを持っていると、彼は推察した。

 対するジナリアはくすっ、と笑う。この場合は肯定を示しており、ベノメスは余計に顔を青くした。



「ああ、居たねそんなの。ジェネレイザに対しとんでもない無礼を働いたものだから、締めちゃったんだよ」



 あんたの言う「締める」は、我々の認識を逸脱している気がするが。


 恐ろしさのあまり、そう言い出すことが出来なかった彼は口をつぐむ。

「とんでもない無礼」がどの程度のものか想像できた、というのもあり。



「さて、この地でやる事は粗方片付いたね」



 くるりと一回転し、ジナリアはようやく本題に入る。

『懲罰部隊』と魔物の大物、その二つの懸念事項が消失したからには、これ以上マカハルドの地へ留まる理由がベノメス達にもジナリア達にも無い。


 最低限度の防衛戦力にだけこの地へ留まってもらい、それ以外は次の目的を果たしに向かわなくては。

彼らにとっても、異国より訪れた彼女達にとっても、本番はここから始まる。



「残るはこの帝国に同盟を申し出る事だ。頑なにNOを突き付けられても私達は諦めるつもりは無いよ」



 一度救うと決めた為に、彼女達に折れるつもりは無かった。

 彼女達の発言に対し、ベノメスは一つ提案を申し出た。



「それなんだが、帝都に向かう前に先にバンティゴへ行こうと思っている」


「ふむ、理由を聞こうか」


「どの道上層部には話を通さないとならない。話を円滑に進める為に味方を増やしておこうかと思ってな」



 ベノメスの狙いが分かったジナリアは、彼が明言するより先に口を開いた。



「なるほど、今度は私達に英雄になって欲しいんだね」



 流石のコルナフェルも無視できなくなったか、片目だけを開けてベノメスの方を見る。

 言い当てられたと思ったのか、顔の色合いの戻ってきたベノメスの口角が不敵に上がった。



「…ああ、そうだ。凱旋の大変さをあんたらにも味わわせたくてな」


「言う様になったね。だいぶ面構えが良くなったじゃないか、()()ベノメス君」



 ジナリアもまた、彼に釣られるように不敵な笑みを浮かべた。



「君の望み通り帝国の希望になってあげようじゃないか。元よりそのつもりだったけれど」



 彼女がそう宣言して暫く経った後。

 落ち着いたとみて、すっかり顔色の良くなったベノメスが質問を切り出す。



「なあ、ずっと気になっていた事があったんだが、良いか?」


「どうぞ」


「なんで王国より俺らを選んだんだ?」



 それは、彼ら帝国の立場としては至極当たり前のような質問だった。

 既に彼女ら自身で答えを出してはいるが、今が彼らに教える絶好の機会とみて、まだ言いたそうな彼に発言の続きを促す。



「あんたらなら強い国に味方した方が良かったんじゃないか? なんでわざわざこんな面倒事に首を突っ込んだんだ…」



 元列強国と、現列強国。

 発言力などを考えてみれば間違いなく王国に軍配が上がる。


 それなのに、帝国に味方する事を選んだのは何故か。

 確かに対魔族の技術や、鉄鋼生産という観点に於いて帝国は優秀である。

 しかし、それらだけが帝国に味方する見返りとして相応しいかと言われると首を傾げるのが今のベノメス達である。


 ジナリアはそれを聞いて再びくすっ、と笑う。

 何かおかしな事でも言ったか、と顔を見合わせるベノメス達だったが、特に変な事は言っていないと確信し、困惑しながらも彼女の回答を待った。



「なんでって、親切心に決まっているじゃないか。…幾ら全盛期より落ちぶれたからってあまり自分達を卑下しないで欲しいかな。列強の座を引きずり降ろされたのは君達のせいじゃないんだから」



 落ちぶれたという言葉の広義上、それに該当するのはジェネレイザとて同じである。

 国家としての知名度。失われた領土。一部設備の元々の形状や機能の少々と失ったものがジェネレイザにとってもあまりにも多い。



「それに、『懲罰部隊』のあの態度。女を食いものとしか見てない目にムカついたからでもある。それが例えどんなに強い大国であったとしても、許せなかったんだよ」



 加えて、幾ら社会的地位が高かろうと、平気な面をして理不尽めいた横暴を働く国家に与するつもりは毛頭なかった。

 寧ろ、そんな事をしようものなら国として侮られてしまう、と考えたのが今のジェネレイザである。


 ベノメス達は改めて価値観のまるで違う存在を相手に打ち震えた。

 一方のジナリアはそんな彼らを気にする素振りすら見せずに淡々と話を続ける。



「で、君達がバンティゴで会わせてくれる上層部とは誰なのかな?」


「将軍。…魔王直轄5遠征軍を食い止める帝国軍を指揮する大将軍閣下だ」


「へえ、それは」



 にやり、と彼女はまたしても不敵に笑む。

 狂気と色気を醸しだすそれには、正しく妖艶という言葉が相応しい。



「面白いじゃないか」



 

「あー、お父様、聞こえる?」



 密談を終えた第3控室にて。

 帝国軍人である彼らは諸々の手続きの為一旦席を離れている。

 そんな中、じっと待機しているコルナフェルを尻目にジナリアはソファに寝そべってジェネレイザに居るお父様――ジェネルへと通信越しに話し掛ける。

 設定上は家族であるが、一国の主と、それに仕える従者の一体という明確な上下関係がある事も忘れてはならない。


 しかし、彼女の口調は血の繋がった親子である事を思わせる程に馴れ馴れしいものだった。



「同盟の件、上手くいきそうだよ。仲良くなった英雄君が向こうの大将軍にアポを取ってきてくれるってさ」



 ソファの上で体勢を変えて、うつ伏せの姿で足をぱたぱたと振る。

 彼女のワイシャツはボタンが3つ外れており、そこからは二つの微かな膨らみが少しだけ見えている。

 キャラメルミルクを先程堪能した為か――第3控室の中に漂う甘い匂いが彼女を包み込む。

 誰も見ていないから、とガードを薄くした状態で会話に集中する彼女は、今はコルナフェルに守りを委ねていた。


 例えそう定められた役目であろうとも、一国の主である事を貫き通そうとしているのが機皇帝ジェネルである。

 故に多忙であり、このような時間を取る事は中々難しい。


 彼女達にも忙しくしていた時期があった為に、彼の苦労というものは心の底から理解出来る。


 それでも、それを踏まえた上で娘として甘えたいのが今の彼女達であった。

 ジナリアの目には、三姉妹が三人揃って彼に抱擁される姿が想像の光景として映っている。

 それを現実にする為にも、彼女達は奮闘していた。



「やり通してみせるよ、ジェネレイザの未来の為にもね」



 その赤い目には狂気染みた愛への渇望が色濃く浮かぶ。

 やり取りを聞いていたコルナフェルの青い目にも。





 ジェネレイザの一角である白い部屋の空間。

 レヴァーテの席のみが空いているそこでは、15体のアプレンティスが一同に集まり、幸せそうにお茶と菓子の数々を味わっていた。



「もうすぐだね……」


「ねー」


「あの人がもうすぐ…もうすぐあの人に……」


「会えたら何してもらう?」


「サイン……欲しいです」


「肩車してほしい……」


「私はブラックバレットの補充を手伝いたい…」


「抱っこされたい…」



 彼女達は手に持っているティーカップやお菓子を落とさないよう最低限の配慮をしつつも、浮かれていた。


 それもその筈。

 もうすぐ帰還すると、マディス自身から連絡があったからだ。

 救援作戦は無事成功を収め、これ以上ジナリア達と同行するのは無用だと彼女達からそう判断され、消耗品の補充がてら次の指令に向けジェネレイザ内にて待機する。


 暫くジェネレイザに留まってくれるかもしれないし、あるいは、すぐ出撃になるかもしれない。

 彼女達はそんな間の時間の内に、マディスにして欲しい事を次々並べていた。


 誰も聞いていないと完全に油断しきっている『見習い』達の口から出てきたのは、身分を弁えてか慎ましい欲求の数々だった。


 あるいは、あくまで間の時間に過ぎないと踏まえた上で、彼の負担が少ないものを敢えて考えているのかもしれない。

 ……考えるあまり、目の前の違和感に誰も気付くことが出来ず。



「そうだよねー、マディス君って人気者だもんね」


「あの黒液晶をぴかぴかに磨きたい……」


「メンテナンスって何時していらっしゃるのかな? 出来れば手伝おうかな……」


「……うん? ちょっと待って」



 マディス()呼びはおかしくない?



 アプレンティス達はざわつき、辺りを見渡す。

 敬称を付けない不届き者、あるいは侵入者は誰なのか、慌てて目視で探し始める。

 「あちゃー、見つかっちゃったか」と、入り口の近くに居たその人影はわざとらしく目立つ素振りをした。


 本来、この場に居ない筈の者。

 ジェネレイザが誇る強者の一角。

 銀の模様を浮かべる純白のフード越しに、誰もが目を見開いた。



「み、ミリー様。…何時いらしたので……?」



 服の上から出ている特徴的なうさ耳とうさぎの尻尾を揺らす、豪華な特製バニースーツを身に着けた、青髪の少女。

 ビックパンドパディを牛耳る、ミリー・オルネアだった。



「ついさっきだよー。前来た時に、セキュリティが甘いってレヴァーテに伝えた筈なんだけどな…」


「きょ、許可が必要な筈です。お姉様にミリー様とお会いする予定は無かった筈ですが……」


「許可も何も、グレードS-以上なら入れるんだよね、ここ」



 アプレンティスはそれを聞いてあっ、と間抜けな声を出す。

 ミリーもまたレヴァーテ同様グレードS-であり、進入は容易であった。


 「全員いるね」、とミリーはアプレンティスの全員を見渡すとある提案を持ちかける。

 それこそが、彼女がこの空間に来た理由であった。



「それよりさ、暇してるならちょっと手伝って欲しい事があるんだけどさ」


「せ、せめてお姉様にお話を……」


「そんなまどろっこしいのは抜きにしようよ」



 レヴァーテが留守である以上、今この場に於ける支配者はミリーである。

 不用意な事を口走って、彼女の機嫌を損ねる訳にはいかなかった。

 特に、いたずら好きである彼女を。



「ビックパンドパディのVIP会員にしてあげるし、マディス君にも会わせてあげる。……悪い話じゃ無いでしょ?」



 小悪魔のように笑む彼女の魅力的な提案。

 アプレンティス達を見る青い双眸は、吸い込まれそうになる程妖艶に輝いている。

 後ろめたさを感じつつも、彼女達はそれに乗ろうとしつつあった。





 白い部屋の空間で何かが起ころうとしている一方、機皇城の中央に存在する『ギア・ホール』。

 ジナリアからの通信を終え、ジェネルは普段通りの実務へと戻る、その前に座る玉座へともたれかかった。



「……彼女達には寂しい思いをさせてしまっているな」



 伝わるのは声だけであろうとも、その声から機皇帝は察する。

 α-ジナリア、β-コルナフェル、γ-ベルディレッセを未知の大陸へと送り込んだのは、他でもない彼女達を深く信頼し、その実力を高く評価しているからだ。


 それでも、油断ならない大地である。

 こちらの知らない未知のテクノロジーが存在する可能性だってあり得るし、彼女達が容易く破壊される事だってあり得る。

 表には出さずとも、彼女達が不安と寂しさを募らせるのも無理からぬ事であった。



『今のこの状況が落ち着き次第、長い休暇を設けるのも悪くありませんね』


『そうね、まだ一月も経っていないけど働き詰めになるのは心に毒だわ。メリハリは大事よね』


『うーん、そうなると遠征軍の編成を見直した方が良いっすかね。アペードの真面目バカも寂しがるでしょうし……』



 『ギア・ホール』と通信を繋いでいるシアペル、ユニリィ、メルケカルプが口々に発言する。


 彼女達は――ジェネルもそうだが――メカの備える『心』というものを重要視していた。

 戦いにおいても普段の業務においても、心の有り様が成果を大きく分けるのだと。



「いや、アペードは遠征軍にとって要の戦力になる。外す訳にはいかない」


『だったら、一度くらい会ってあげて下さいっすよ。こちらに来てから陛下は一度もお会いしていないじゃ無いですか』


「……いずれは暇を作ると伝えておいてくれ。お前の都合の良いタイミングで良いとも、な」



 それでも遠征軍の出発前には作っておかなくてはな、とジェネルは苦心しつつ思う。

 アペードを放置気味だった事を自責している気持ちを切り替えるべく、彼は今度はユニリィに話を振った。



「そう言えば、ムル・サプタスとエレ・ジルコランテの整備はどのようになっている?」



 ユニリィに問うは、これまたジェネレイザが誇る強者の一角の現状。

 彼女の管轄である為、彼女に問うのが一番手っ取り早かった。



『居住地並びにプラントの建設と並行して進めていた為に問題ありません。何時でも出撃出来るよう準備を整えていますが…その……』


「何かあったのか?」


『ムルが遊びたいと、ウォーターガンをまた無断で持ち出していまして……ファクトリアの一部の従業員が水浸しに……』



 ユニリィに「苦労を掛けさせたな」と労いの言葉をかけ、ムルの我儘具合に少し辟易する。

 だが、彼女のそういった一面とも正しく向き合うのも機皇帝の役目である。



「彼女の退屈凌ぎになるかは分からないが……いずれ遊びに行くと伝えておけ」


『陛下自らが…!? 良いのでしょうか…ううむ……』


「あの子に釣り合う相手となれば、それこそ私ぐらいしか居ないさ」



 未だこの世界と馴染めていない異界の国家。

 その国では、日常と言う名の異質な日々が毎日の如く送られていた。

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