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機皇の国  作者: Gno00
第二章 機鬼怪壊

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19/44

懲罰

 「『暗夜衆』はまだか……」



 プルグレリスは岩に座り、俯きながら王国暗部の派遣部隊の帰りを待つ。

 彼の様子は苛立ち半分、不安半分だった。

 結局ブラックオーガは何処にも見当たらず、帝国に与する何者かの痕跡も掴めなかった。


 後は『暗夜衆』が仕事を終えたかどうかなのだが……。



「消息を絶ったまま、一向に連絡出来ませぬ」


「奴らにも魂魄石を授けた筈だが…」



 『暗夜衆』とは暗殺と生け捕りの為に行動を開始した頃合いより連絡がつかない。

 一応、万が一の為に所有者が死亡した場合に作用する、蘇生アイテムを隊長であるゾルバにのみ持たせていた。

 裏を返せば、リーダー、隊長格さえ健在であれば問題無いという王国の基本スタンスの現れであった。



「気付かれて、発動前に砕かれでもしたのか……?」



 だが、死体の損壊状況に関わらず、死者の蘇生を行うアイテムであっても万能では無い。

 蘇生の完了までにアイテムそのものが破壊された場合、蘇生は失敗に終わってしまうという大きな弱点を抱えている。


 ただ、魂魄石に限らず蘇生アイテムの数々は頑丈に作られている。

 今まで破壊出来たという話は聞いた事が無い。

 それ故に手段を問わず蘇生という行為は絶対に失敗しないというのが共通の認識だった。


 しかし、プルグレリスはその認識に疑問を感じている。


 もし、この世界で広く知られていない技術があったなら?

 それによる蘇生アイテムの破壊が可能だとしたら?


 この世界の根本が揺るぎかねない何かが、起ころうとしている。

 不安に駆られたプルグレリスは、大粒の汗を流しながら立ち上がる。



「急いで上層部に連絡しろ!」



 最早『暗夜衆』の派遣部隊は帰ってこないものとして、王国への連絡を命じる。

 せめて、帝国に味方する何者かが居るという事だけでも伝えねば。

 今の彼は使命感からか、冷静に行動していた。


 しかし、一抹の望みを捨て切れない部下との認識の齟齬は大きかった。



「ですが、『暗夜衆』の帰還がまだで…」


「いいから早くしろ! 王国を滅ぼしたいのか!」


「な、なあプルグレリス隊長。…何か聞こえてきませんかい?」



 第5分隊長とプルグレリスの今にも掴みかかろうとする勢いのやり取りは、部下の一人が冷や汗を浮かべつつした発言により遮られる。

 苛立ち混じりにプルグレリスもまた耳を澄ませると、微かにだが誰かの話し声のようなものが聞こえてきた。



「全員、静かにしろ」



 聞き間違いの可能性も考えられる。

 彼はノイズになる部下達の雑談の一切を遮った。


 だが、微かな話し声は止まなかった。この場に居る誰もが口を閉じたにも関わらず。



(何者だ……? 一体何処にいる!?)



 仮に『暗夜衆』であったとして、この場には味方しか居ない以上、わざわざ姿を隠す理由が無い。

 考えられるのは、少なくとも味方では無い何者か。

 それが、この場の近くにいる。


 話し声が徐々に大きくなってくる。

 しかも、足音まで聞こえてくるようになった。



「全員、この場を動くな!」



 プルグレリスは紛らわしい音を立てるな、と部下に遠回しに命じるも、命令するよりも前より誰も動いてはいなかった。

 それでも尚、微かな足音は聞こえ。徐々に大きくなってきている。

 近づいている。

 姿の見えない何者かが。



『――そっちはどうなっているのかな?』


「オレの姿は相変わらず見えていないようですね。ここまで近づいていても、オレの正確な位置がまるで把握出来ていない」



 無機質な男女の声のやり取りが聞こえてくるが、それが何処から聞こえてくるのかが特定出来なかった。

 何処を向いても、まったく同じ大きさで聞こえてくるからだ。



『5000人居るって聞いたけど、ちゃんと居る?』


「ええ、まあ。表示に偽りが無ければ居ますよ」


『またまたぁ。私達の使うシステムが嘘を吐いた事があったかい?』


「プレイヤー達に欺かれた事は何度かありましたがね。…まあ、システムが嘘を吐いた訳では無いですが」



 王国でも用いられる言語と同じ物であるが、その内容は全く理解が出来ない。

 だが、一つだけプルグレリス達は引っ掛かりを覚えた。

 それは、女の告げた5000人という数字だ。


 その数字は『懲罰部隊』に属する人員の数と合致する。



「そこだぁ!」



 不安に駆られ、部下の一人が魔力で練り上げた炎を繰り出すも、その炎は手応えの無いまま向こう側へと飛んでいく。

 当たっていないのは明らかだった。

 続けて足音と何らかの駆動音が聞こえてくるが、やはり何処に居るのか見当がつかない。



『で、蘇生アイテムとかがあるとか聞いたけど、彼らは持っているんだってね』


「ええ。さっき魂魄石があるとかどうとか」



 発言の内容を聞き、一同は大小問わず衝撃に包まれる。

 会話が聞かれていた。恐らく最初から。



『サンプルとして幾つか持ち帰って欲しいけど、少々無茶な注文になるか』


「そう言って、オレにそうして欲しい癖に」


『ふふっ、そうだよ。現物もそうだけど、それがどういうものかも知りたいから、一部を捕まえて欲しいかな。出来れば、説明の得意そうな人物を』


「なら、隊長格が居ます。そいつを捕らえておきましょう」



 会話の内容から察するに狙いはプルグレリスだ。

 分隊長の多くが彼を守るべく身構える。

 だが、『懲罰部隊』をみすみす見逃すとも言うのだろうか。



『上手く出来た暁には私からご褒美をあげよう。じゃあ、頼んだよマディス君』



 途端に、何者かが正体を明かす。被り持ち歩いていたベールを手放すように。

 それはこの空間と同化し姿を隠していたのだ。

 王国の持つ隠蔽魔法のそれに構造は似ているが、全く異なる謎の技術。


 分かる筈も無い。

 技術面に於いて王国や魔導国のそれを遥かに凌駕しているのだから。



「別に、あんたからの褒美が欲しくてやってる訳じゃ無いんだがな……」



 現れたのは、紫の異形。

 人の形をしているが、胴体から下が異様なまでに細い。

 腕に関しては平べったい印象を持つ。

 その腕の先にある蛇のように細長い指が兜のような頭を掻いている。

 その頭に顔など無く、その代わりとばかりに黄色い5つの丸が不気味に浮かび上がっていた。



「な、何だぁ!?」


「…脅かしやがって、一人だけじゃねぇか!」



 血気盛んな部下達が威勢よく吠える。

 分隊長達も侮られないよう眉間に皺を寄せて睨む。

 だが、その分隊長に守られているプルグレリスの顔色だけが優れなかった。



(違う、違うんだこいつは……!)



 彼の体は徐々に後退り始める。

 本能が危険を告げ、鼓動が早鐘を打った。



(こいつは異質過ぎる…!!)



 一目見て分かった、その異形が持つ異常性。

 月光が照らす質感は金属のそれである。

 王国にも金属を用いたゴーレムを造る技術は存在するが、目の前のそれとは製造法がまるで違う。


 可能性があるとするなら、異世界の技術。

 王国に限らず列強の殆どがそれを取り込んで伸し上がって来たのだから、十分に考えられる。

 だが、ここまで高度な技術は見た事も、聞いたことも無かった。



「ま、マディス殿、と言ったか……」



 先程の会話の内容を思い出し、プルグレリスは恐る恐る異形のものと思しき名を呼ぶ。

 特段目立つ配置だったからか、もしくは正しい名前であるからか、異形の5つの丸が彼に向く。



「交渉をしないか。そちらの要求するものであれば何でも払おう。代わりに、私達を見逃してもらえないか」



 先程言葉を発したのを見て、会話が可能だと思われる。

 プルグレリスは死にたくないという一心で目の前のマディスという異形に交渉を提案する。


 異形の背後では独断で取り囲もうとする部下の姿が見えて、慌ててそれを止めるよう目配せをする。

 通じたか否かはさておき、一先ずは部下達は異形との距離をある程度詰めた上で近付くのを止めた。



「交渉。…交渉か」



 異形は熟考するような素振りを見せ、沈黙する。

 その沈黙はプルグレリスにとっては非常に居心地の悪いものであったが、上手く事が運びそうだと内心安堵する。


 ――しかし、マディスという男は。

 横暴を知った上で見逃す者では無かった。



「その割にはこちらに来て随分と好き勝手したそうだな」



 瞬間、空気が歪む。

 魔力のような何かが漏れ出ているらしく、異形の周囲の空間がどす黒いものに侵食されていく。

 先程の部下の暴走を許したのが悪かったのか、と思いプルグレリスは冷や汗を掻いた。



「い、いや、それは…」


「毛色の違う相手なら交渉を要求するのか? 部下にまで徹底させて来なかった癖に」



 それを聞き、プルグレリスは目を見開く。

 この異形には全てお見通しだったのだ。

 最初から、選択肢を間違えていた。



「『懲罰部隊』なんて名前を使うから、オレみたいなのを招き寄せるんだよ」



 マディスより放たれるどす黒いものが更に渦巻いていく。

 伸し掛かる重圧にやられ、プルグレリスは逃げるよう指示しようとしても俯いた顔からは声が出せなかった。

 そして、異形の蛇のような指が彼を差す。

 それと共に白く縁取られた正方形の数々が地面に浮かび上がった。



「一部は、捕らえる。他は、恨みは無いが死んでもらうぞ」



 それは、『懲罰部隊』に与えられる懲罰の宣告だった。


 

「なっ、うっ、うわっ!」


「体が吸い寄せられる!」


「お、おい、もっと離れろ!」



 地面に浮かび上がった白いマスが点滅した瞬間、男達が別の男の元へと吸い寄せられていく。

 必死に離れようとするが、彼らには抗えない何らかの力が働きかけている。

 分隊長達も複数のマスの上へ一纏めにされていく者達をどうにか引き剥がそうとするが、巻き込ませないようにする為か何らかの力によって弾かれてしまい、出来なかった。



「助けてくれぇ隊長!」


「やだよ、こいつと一緒になりたくねぇ!」


「ぎゃあああああッ!!」



 死んでもらうぞ、とはこの事だったのか。プルグレリスを始めそれを遠目で見る事しか最早出来ない分隊長達は戦慄する。

 もがき苦しむ男達は一纏めにされていき――



 ――やがてそれぞれがマスの上に立つ、50人の男へと姿形が整った。



『―――あああああッ……あれっ、何ともねぇや!』


「お前たち、無事なのか…?」


『俺は無事だぜ、アルザル分隊長!』


『何時もより体が軽いぜ! 今なら女を100人抱けそうだな!』



 アルザルという名の第3分隊長の問いに対し、男達は体の調子が良いとそれぞれが主張する。

 現実から掛け離れた事が起きたが、見た目も身動きも男達に別状は無い。

 寧ろ、彼らの身動きは非常に軽快なものとなっていた。



「お前たちは数が多過ぎる。よって数を少し纏めさせてもらった」



 遠方のマディスは腕を組みながらそう発言する。

 一纏めにされた者達はそれぞれ顔を見合わせる中、彼の話は続いた。



「今のお前たちはおよそ100人が一つになっている。端数は繰り上げさせてもらった」


「……一纏めにされる者に基準はあるのか?」


「あるに決まっているだろ。実力の拮抗する者、所属の同じ者、リーダー等肩書を持たない者が対象となる」



 マディスはこのマスの存在するエリアの性質について語る。

 5000人居た部隊が今や59人のみになり、内49人は100人分、1人は本来は91人分だが100人分に繰り上げ、残りの9人は据え置きの力を持っていると。

 選出の基準に則るなら、所属が同じで尚且つ構成員でしか無い者達のみが一纏めにされているのだ。



『って、事は……100人分の力が俺に宿っているって事かァ!』



 その100人分の力を1つに纏められた1人が自信満々に拳をぶつけ、鼻息を荒くさせる。

 軽快な動きで、遠くに居るマディスへと近付いていった。



「おい、指示を待てお前たち!」


『丁度良い機会だ! あのヘンテコ野郎をぶっ飛ばぁす!』


『隊長達はそこで指を咥えてみてるんだな!』



 第5分隊長フェルパの命令を無視し、100人分の力を得た男衆は次々と向かっていく。

 過半数が勝手に向かっていってしまい、隊長を含め残りの29人だけが残ってしまった。



「100人分。文字通りの百人力。確かに魅力的な響きなのだがな…」



 使用武装:スペースノッカー

 スキル:《ブラックバレット︰マッドバースト》



 男衆を捉えたマディスは、左腕を天高く掲げ、手首の銃口より轟音と共に火を噴かせる。昇る黒煙を突き破り、黒い弾丸が姿を現した。



『増援を呼ぶつもりか!』


『集団で叩け! 数任せにすれば問題無い!』



 放たれた弾丸が何らかの信号だと勘違いしたらしく、すり潰すべく30人、計3000もの兵力がマディスの周囲を取り囲む。

 しかし、彼に動く気配は無い。

 何かがおかしいとプルグレリスが止めに入ろうとするが既に遅かった。


 瞬間、天高く飛び上がった黒き弾丸が弾けて漆黒の奔流が檻の様に降り落ちて、青く点滅した菱形状のマスの範囲内に入り込んだ兵士達が爛れて溶けた。


 醜く悍ましい肉塊に化けた彼らの姿に突撃を仕掛けた他の兵士が悲鳴を上げる。

 だが、走りだした体を急に立ち止まらせる事など出来る筈もなく、横から黒檻に衝突した者もまた酸っぱい臭いと白煙を立てながら姿形を肉塊に変えていった。



「な、な、な……」


「ひい……ひい……」



 突撃しなかった、隊長の命令に従った者、ぎりぎり範囲の外に居た者だけが奇跡的に生き残る。

 一気に2500もの兵力が死んだ。

 すると、どうなるのか。

 マス内に居た死体が消失すると共に、何かがぼとぼとと落ちていく音が聞こえる。

 恐る恐る、白い正方形のその外を見やると。


 2500人もの、肉のスライムと化した死体が転がっていた。



「――ひぎゃああああッ!!」


「う、嘘だろぉ……!」



 男達からは情けない程の悲鳴が上がる。隊長達は更に戦慄を露わにした。



「…まあ、こういう訳だ。一人の軽率な判断が大勢を道連れにするって訳だな」



 無造作に構えを解くマディスの淡々とした説明を聞く生き残りの『懲罰部隊』。その顔からは先程までの威勢は消え失せている。

 無理も無い、たった一度の攻撃で部隊が()()したのだから。

 それでいて、その攻撃の中に居た筈の張本人は健在なのだから。



「く、来るな、来るんじゃない……」



 マディスは細身である故かとてつもない機動力で100人分を取り込んだ兵士の一人を捉え、歩み寄る。

 先程の凄惨な光景からか怯えて後ずさるも、正方形を描く線の一つに引っ掛かり、それでも尚異形が近づいて来る為に彼の恐怖心は更に増した。



「来るんじゃねぇぇ!!」



 何とか自分を奮い立たせて、引き抜いた剣を振り下ろす。

 だが、マディスからすればそれは想定の範囲内だったのだろう。



 使用武装:ジェネレートアーム

 スキル:《カウンター:自由選択》

 スキル:《スパーキーブロー》



「あべばばっ!!」



 剣の刃は容易く左手で止められ、空いた右手で殴りつける。

 その手と腕からは雷が迸り、剣を受け止められた兵士を感電させた。

 凄まじい威力の青白い光が消えた時、人だった焦げた物体が崩れ落ちた。

 また100人。転送された焦げた死体が外の空間へと乱雑に降り落ちていく。



「プルグレリス様はお逃げ下さい! 此処は我々が引き受けます故!」



 王国では栄えある剣士の一人として名を馳せている第7分隊長、バラサ。

 そんな彼が勇気から剣を引き抜き、人に仇なす異形へ斬りかかる。

 不意打ちだったのか、彼の剣は異形の体へと届いた…筈だった。



 スキル:《カウンター:エッジアーマー》



「あ、れれれれれれっ」



 斬りかかった側である筈の青年兵の胴と下半身とが分離する。

 ごとりと断面より血を流す上半身が落ちた時、彼は物言わぬ死体へと変貌していた。

 一方のマディスは斬りかかられた側である筈なのに、その体に傷一つ付いていない。



「カウンターで死ぬとは何ともだらしの無い…」



 一体いつの間に。カウンターを差し込む隙など無く、マディスは身動き一つ取れていなかった。

 ……実際はそう見えただけで、何かをやったのでは無いのか。

 しかし、それを確かめる術など無い。


 次元が違う。

 意味の分からない光景を前に唖然とする中、第6分隊長だけが我に返った。



「テイマー軍団! 早く魔物をけしかけろ!!」



 9人になってしまったテイマー軍団は慌てて準備に取り掛かり、魔物を召喚すべくそれぞれが懐から規則的に削られた石を取り出す。

 それらは魔石であり、その一つ一つに強大な魔物が封じ込められている。

 その魔石が光り輝くと共に、多種多様な魔物達が姿を現した。


 獅子の胴体と鷲の頭と翼を持つグリフォン。

 醜いながらも巨大な図体を持つヒルジャイアント。

 女の肢体を一輪の花より咲かせるアルラウネ。

 短い手足ながらも歯の不揃いな大きな口を持つダークイーター。

 それらを筆頭に、人間に制御された80体もの魔物の軍団がたった一体の異形を捉えている。

 しかし、同じ種族の魔物は兵士と同じ要領で一体化し、数は23体になってしまった。



「これだけの頭数を揃えれば、貴様とて無事では済むまい! 行けぇ!」



 そして、合図を待っていた魔物達が一斉に動き出した。

 だが、白い正方形がその動きを制限し、中々思うように立ち回る事が出来ない。

 それでも、マディスへと確実に近付いている。

 後2、3マスを歩けばヒルジャイアントがマディスの居るマスに隣接できる、筈だった。


 ヒルジャイアントが特定のマスに移動した瞬間、大爆発が巻き起こった。



「なっ、何だ!」



 爆発は十字のマスの上で発生し、巻き込まれた植物型の魔物もゴブリン達、『懲罰部隊』の兵士すらも体が千切れて吹き飛んでいく。

 当然ながら、踏んでしまったヒルジャイアントも無事では済まず、その身が爆破解体されていく。

 この爆発を皮切りとばかりに、次々とマス目の上で爆発が巻き起こる。


 全ての爆発が収まった時、23体居た筈の魔物の軍団は15体に数を減らしていた。

 外の世界に肉体の抉れた魔物の爆死体が散乱しているのは言うまでもなく。



「多勢に無勢はこちらも御免被る。徹底的に反抗させてもらうぞ」



 マディスが腕を組みながらそう言うと、今度は太く黒い筒を持つドームの数々が地中より姿を表す。

 そして、彼の体からもまた、黒い小型の物体が二つ射出された。

 それらは浮遊し独立した軌道を描きながら彼の動きに付随する。

 すると、マディスからは遠く離れている筈の兵士達とグリフォンのマス目が急に青く点滅した。



「何だこれは……」


「いかん、離れるのだ!」



 第6分隊長が鍛えられた勘から叫ぶも、もう遅かった。



 使用武装:ブラストビット

 スキル:《ヒートレイン》



 瞬間、黒い小型の物体より不規則に放たれた赤き閃光の雨が彼らへと降り注ぐ。

 それらはいとも容易く肉体に穴を開け、地面を融解させながら潜り込み消える。

 雨に撃たれて、蜂の巣にされた者達は一斉に崩れ落ちた。


 それと同時に狙いを定めたドームの太い筒が一斉に火を吹き始める。

 それらもまた部隊や残存する魔物達を蜂の巣にし、次々と『懲罰部隊』の戦力を減らしていく。



「おのれぃ!」



 激昂した第6分隊長と彼の指揮する部隊がマディスへと迫る。

 異形の方から近づいてきた為に彼我の距離は少なく、もう一度動けば包囲しうる陣形を整えていた。


 黒い物体の射程は広いが、青く点滅した箇所を見るにそれだけで近接には滅法弱い。


 第6分隊長はそう分析し、わざと距離を詰める事でマディスに手数で勝とうとした。

 電撃を放つ腕と生ある者を溶かし滅ぼす黒い弾丸が恐ろしいが、それでもそうそう出せるものでは無く、数で押せば問題は無い。

 正確無比な射撃をしてくるドームも、囲って叩けば無力と化す。

 しかし、マディスはこちらの世界に馴染みの無い技術の持ち主。


 故に、自分の分析に落とし穴があるとは、気付きもしなかった。



 使用武装:ブラストビット

 スキル:《カオスフラッシュ》



 小型の物体より次に放たれる虹を集束したかのような七色光。

 遠方には誰も居ない筈、と思いつつ第6分隊長は足元を見ると、青く点滅していた。


 これは近距離用の攻撃だ。

 存在を隠していたのか。

 そう思うと共に第6分隊の過半数は何も出来ないまま光に包まれて蒸発した。



「あ、あ、あ……」


「クリジアル分隊長……」



 生き残った者達にとって上官を目の前で失うという事はとてつもなく辛い事であった。

 その場に崩れ、戦意を喪失した者であったとしても、淡々と自らに課せられた任務をこなすドームの前では関係無い。

 彼らはただの動かぬ的でしか無かった。



「おい、誰か《デビルズ・ミスチーフ》を……」



 第6分隊が崩れ、生存している者の一人がそれを口にする。

 それは、魂魄石と並ぶ切り札の一つ。敵に絶対の状態異常を与える奇跡に近しい魔法である。

 だが、生き残った誰もがそれに期待しようとは思わなかった。



「効くのか、あんな奴に……」



 そもそも、ゴーレム等無機物の魔物は状態異常にならないという特性を持つ。

 ゴーレムで無くとも、それらと同様に無機物の塊であるマディス達に通用するのか。



「ぐぶっ……!」



 誰もが失意に暮れる中、一人が素っ頓狂な声を上げる。

 見ると、その彼は白い正方形の表示されるマス目の数々の、その端のマスに立っており、外へ出ていこうとしていた。

 しかし、彼の体は弾かれる。

 それは、内から外へ出ていく事が出来ない事を示していた。



「どういう事だ……」

「魔物達は呼び込めたのに……」



 疑問が疑問を呼び込む中、マディスは淡々と接近してくる。

 気付いた時には既に、彼の腕が凄まじい電撃を放っていた。





 遭遇戦が始まり、早15分が経過。


 『懲罰部隊』は大勢が死亡し、残りは1200人――隊長達を含めて15人程。

 召喚した魔物も、アルラウネもグリフォンもダークイーターも陥落し、既に6体程度にまで数を減らされている。


 対する異形はドーム状の物体と彼に付随する黒い飛行物体が全て、現存している。

 誰がどう見ても、一方的な戦い。


 物量など。

 勇気など。

 戦術など。

 この異形を前にしては、何も意味を成さない。


 しかし、彼らにはまだ希望の目が残っている。



「そうだ、魂魄石を使えば!」



 プルグレリスが取り出したのは、純白の石。

 それは命を失いし者の魂に働きかけ、今一度彼らに生命を授ける神の奇跡の結晶。

 これを使えば、外の空間に放り出された魔物はおろか、既に落命した分隊長を始め『懲罰部隊』を蘇らせられる。


 彼はこの希望による、再起を図ろうとした。

 しかし――



『ならぬ』



 その冷徹な一言が、それを拒み阻んだ。

 紛れもない、彼の上司である男の声だった。

 何故、とプルグレリスは問う。



『貴様は『暗夜衆』を無駄にした。よって、これを使う資格足り得ない』



 最後の希望は絶たれた。

 絶たれてしまった。

 よりにもよって、味方である筈の祖国に。


 一方的に通信を切られ、プルグレリスは最早二人しか居ない分隊長を前にして、へたり込む。

 そして、自分だけは助からなければならないと、自分に言い聞かせていた。



「…お、俺は悪くない、悪くないぞ」



 分隊長二人が驚きつつ彼の呟きを耳にする。

 そして、彼の感情は堰を切ったように爆発した。



「あいつらが勝手にやった事だ! 俺は関係ない! おい、お前ら、俺を逃がせ!」



 分隊長も、『懲罰部隊』もすぐには動かない。

 いや、動けなかった。

 異形より放たれる、闇夜を侵食する悍ましき何かがより一層強まったからだ。



「何を言っている」



 呆れと怒りを滲ませるその声に、プルグレリスは冷水を掛けられたように唖然とする。

 黄色い5つの目が、断罪者の目が彼を冷酷に、冷淡に睨みつけている。



「まさか貴様だけが無実だと言い張るつもりか?」



 彼は、その一言を聞き、マディスの真の狙いを理解した。

 最初から、『懲罰部隊』の全てを裁くつもりだったのだと。逃れる術など、何処にも無いのだと。



「その身で償うんだな、貴様が犯した過ちを」



 この事態そのものが愚か者の隊長に対する懲罰だったのだ。

 そう思った彼を、闇夜は静かに包み込んだ。

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