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機皇の国  作者: Gno00
第二章 機鬼怪壊

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15/44

闇夜に紛れて

 護衛役の四人が無傷で持ち帰ってきた衝撃的な一報。


 それは例の美姫の二人の内の片割れより送られてきた、皺だらけの文書に記載されていた。

 色々と前置きなどが書かれてはいるが、要約すると代表者と会って直接話がしたい、という誘いだった。

 習いたてであるのか、ベノメス達からすれば所々文法が間違っているが大凡はそんな内容で合っている。


 まず、これを一目見た直後に出たのが、話す内容なんて向こうにあるのか、という疑問だった。


 少女からのお誘いと言われればロマンチックなあれそれを想起させるが、この文書に限っては違う。

 しかし、何らかの意図があってこちらを呼び出そうとしているのは間違いなかった。



「罠の可能性もあり得ます。慎重に決めた方がよろしいかと」



 部下の一人である猫の獣人が言う通り、帝国軍の形成する警備網の縮小と弱体化を狙ってベノメスやアルコミックを呼び出そうとしている可能性もあり得る。

 だが、ベノメスはそれを否定した。



「わざわざ罠を仕掛けてくる理由が向こうには無いな。その気になれば俺やアルコミック君の寝首を掻くぐらい容易だっただろうに」



 ベノメスと行動を共にしていた者達と彼自身はよく知っている。

 彼女の恐るべき実力を。

 それに、集会所の第3控室内、それも外に会話が聞こえないように厳重な魔法結界が施されたこの場にいる面々も薄々感づいている。


 敢えて良くない可能性を提示するのは、改めて口に出す事で自分達の油断を削ぐ狙いがあるからだ。



「場所も時間帯も明確に提示されていて、それで突っぱねると言うのならこちらの良識が疑われるぞ」



 文書の中には落ち合う場所と時間が丁寧に記載されている。

 余談ながら、ベノメス達からして文書のその部分をそのまま読むと、場所名と時間の後に「場所」や「時刻」という文字が続く読み方になる為に、一同が揃って最初に読み上げた際に若干和やかなムードになってしまった。

 今はその緩くなった雰囲気を引き締めるべく全員が躍起になっている。


 これだけきっちり場所と時間が決められていて、それでどちらかがそれを無視しようものなら、無視した側の相手からの心象が下がる。

 向こうがそんな事をするとはまず考えられないし、こちら側からそうするのは何としても避けておきたい。


 リスクは重々承知の上で、会いに行く。

 帝国兵達の方針はそのように固まった。



「昼前をご所望である為、直ちに準備をする。アルコミック君にも俺に同行するよう伝えてくれ。それと、護衛として腕に自信のある奴は何人か付いてきて欲しい。が、あまり大所帯になってくれるな。では解散しろ」



 ベノメスの命令に対し力強い返事が部屋中に響く。

 鬼が出るか蛇が出るか、ベノメス達の奇妙な会合が始まろうとしていた。




 マカハルドの東エリア。

 その一部が彼女達の指定の場所である。

『懲罰部隊』と鉢合わせる可能性を考慮し、ベノメスとアルコミックだけでなく護衛の兵士達も正体を隠すように外套を身に付ける。


 思えば、美姫二人が着ていた外套と色合いが似ており、彼女達もまた姿を隠さねばならない事情があったのだな、とベノメスは思った。

 その美貌を隠す為か、あるいはその正体を隠す為か。

 その真相は彼女達のみぞ知る。

 ある程度隊列を乱さず歩いていると、物陰から飛び出してくる人影を目撃し、一同は足を止め警戒する。


 現れたのは一つの外套姿の人物。

 正体を明かしてはいないが、目的の人物の一人だとベノメスには分かった。



「安心しろ、送り主の妹様だ」



 若干肌を刺す、纏う雰囲気に余裕があまり無い為に一発で分かったのかもしれない。

 こちらの警戒がそうさせているのだと経験則から判断し、部下に警戒を解くよう命じる。

 すると、警戒を解いた途端に彼の判断の正しさを裏付けるように彼女もまた警戒を解いた。



「…こちらです」



 外套を纏う灰髪の美姫に案内され、一同は日陰の空間へと向かう。

 そこでは案の定、もう一人の外套姿が待っていた。こちらが白髪の美姫と見て間違いない。



「やあやあ。此処まで来てくれたという事はあの手紙を読んでくれたんだね。いやぁ、気合入れて書いた甲斐があったよ」



 その割には文法が所々間違っているが、などと言う無粋なツッコミをする者はこの場に居ない。

 ベノメス達は沈黙を貫き、美姫に話を続けるよう促す。



「さて、少し失礼するよ」



 すると、白髪の美姫は赤く彩られた画面を空中に展開し、それが消えた途端に何かしらの結界が周囲に形成された。

 それはベノメス達を包み込み、まるで外界から遮断しているように結界の外の者達からの認識を受け付けない。


 使えるからこそ分かる、隠蔽術式の数々。

 自分達のそれを遥かに凌駕するものを、さも当たり前かのように容易く展開するのを見て、誰もが、目の前の二人が敵う筈の無い相手だと理解する。


 此処から先は慎重に応対しなければ、誰にも知られずに排除される。

 一同に緊張が走るのは時間の問題だった。



「そう畏まらなくて良いからさ。軽く自己紹介しようか」



 彼女達は外套を取り払い、改めて自分達の姿を明かす。


 麺料理店で見た姿と然程変わらないが、人間から生まれたとは思えないその完成された美貌と、鼻孔をくすぐる、混ざり合ってよりお互いを心地良い程に引き立たせている上品な花の香りに誰もが息を呑んだ。

 見るのが初めてではないべノメスでさえ、気を抜くと彼女達の美しさに見惚れてしまいそうだった。



「私の名はジナリア。こっちはコルナフェル。覚えておいて」



 ジナリアと名乗る白髪の美姫が流れるようにコルナフェルという名の灰髪の美姫を紹介する。

 姉からの紹介に合わせ彼女は会釈した。


 今度はこちらの番だな、とベノメスは一層気を引き締める。



「私はラジール・ベノメス。エルタ帝国第56小隊の隊長だ。こちらは同じく帝国所属、第6中隊分隊長を務めるアルコミックと言う」


「へえ、同じ兵隊なのに所属が違うんだね。中隊規模を分割してるんだ」


「今は訳あって数少ない兵力をこちらに割いてもらっている。その訳と言うのが――」


「魔王軍の西方からの襲撃。でしょ?」



 それを聞いてベノメス達がざわつく。

 予想はしていたがまさかそこまで把握済みだったとは。



「…ご存知だったのですね」


「そりゃ勿論。()()を舐めないで欲しいかな」



 只者では無い雰囲気ではあったが諜報員であったとは。

 だが、こうして対話の機会を得られたからとその所属を迂闊に尋ねようものなら始末されかねない。

 詮索は危険だ、と判断した矢先。

 彼女の口から更なる衝撃的な一言が。



「さて、君達に所属を明かさせておいてこちらは明かさないというのは不公平だね」



 力量差ははっきりしているのに不公平などというのはあり得るのか。

 しかし、そうは思っても誰も口を挟めはしなかった。



「私達は、北の果ての島にある機皇国ジェネレイザから来た」



 唖然。帝国の男達にとてつもない衝撃が走った。

 嘘を言っていないように聞こえるが、それでも信じられない為に問う。



「北の果ての島…『呪われた島』ですか?」



 彼らの常識からすれば、北の果ての島、そこに存在する国家から来るなどという話は与太話に近かった。

 あそこは魔力による土壌汚染が酷い島。

 島全域はおろか近海ですら生物が住めなくなってしまって久しい。


 今の今までそれが回復し人が住めるようになったとは誰も聞いたことが無い。

 それに加えて、国家が、それも聞き覚えの無い勢力がそこにあるなどと言っているが、彼らには質の悪い冗談にしか聞こえてこなかった。



「ああ、君達はそう呼ぶんだったね」


「達?」


「彼らについて知ってそうだったから助かったよ」



 彼らとは誰の事だろう。

 ジナリア達に顔の向きを固定する隊長と分隊長を気にせず顔を見合わせる一同。

 ベノメスにも、誰の事かは分からなかった。

 この時までは。



「本題に移る前に、まずはこれを」



 先程の赤い画面を再度展開し、それの前で指を横に振ると、画面が反転する。

 すると、そこには見覚えのある顔の数々が映し出されており、一同は目を見開いて口々に声を上げる。



「こ、これ…!」


「島送りにされた平民達だ…それも一週間前に…!」


「全員居る、間違いありません!」


「ああ、やっぱりそうだったんだね。この国の仕業だったのか」



 その一言を聞いて、全員が急に黙る。

 やっぱりとはどういう事だろうか。

 それ以前に、帝国のせいではあるが、帝国だけのせいでは無いと教えたところで、それを信じられるのだろうか。

 ベノメスは冷や汗を掻きながら問う。



「弱みを握るつもりか…!?」


「別に? 君達が知ってそうだったから教えてあげただけだよ」



 あくまで前置きの一つに過ぎないと、こんなものは脅迫の材料ですら無いと、彼女はあっさりと告げる。

 それを聞いて、最悪の可能性を頭に浮かべつつベノメスは更に問うた。



「…無事なのか?」


「元気にしてるよ皆。私達の国でね。それだけは絶っ対、保証するよ」



 島送りにされた彼らはジェネレイザが無事に保護している事もあっさり告げられ、ベノメスは胸を撫で下ろしていいのかどうか分からなくなり、改めて規格外な存在を前に辟易していた。

 そんな彼の一方で、人情派である為に彼らの身を人一倍に案じていたアルコミックは安堵のため息を吐く。



「良かった…」


「訳ありなんだねぇ、君達も」



 まるでお互い様であるかのような言い様ではあるが、最早ベノメスにはそれを詮索する気力すら失せていた。


 まだ本題に移ってない以上、何を要求されるか分かったものでは無いからだ。

 島送りは既に把握されており、恐らくは難民達からの信頼を勝ち得た上で根掘り葉掘り帝国の現状を知っている事だろう。


 助ける代わりに隷属を要求されても、それを拒否しようものなら王国等の列強国との全面戦争になるより酷い目に合うに違いない。

 それを要求されたなら、素直に従う他道は残されていなかった。


 ベノメスは恐る恐る、美しくも恐ろしいジナリアへ問う。



「それで、本題と言うのは…」


「ああ、そうだね。頃合いだし本題に移ろう。私達が君達に要求するのは取引だ。実は、君達の手助けをしてあげようかと思ってね」



 ジナリアは現在地の遥か向こう、外壁を指差した。

 指し示しているのは、外壁ではなくそこに屯する『懲罰部隊』である。



「あの懲罰部隊とやらを、私の仲間が排除してあげる」



 それから、その指が差す先はベノメス達に切り替わる。



「そして、君達を帝都まで無事に送り届けてあげよう」



 その直後に何を喋るのか。何故だかベノメスには予想がついた。

 その予想は予言のように彼に答え合わせをする。



「君達はあの魔王軍が陽動も担っていると踏んでいる」



 何時、何処で、誰から知った。

 暴走が許されるならベノメスはきっとそう言っていただろう。

 隠せない程の動揺が、ベノメスに伸し掛かる。



「いつ帝都が奇襲を受けるか気が気で無い。そうだろう?」



 それらの情報は機密の筈。

 誰かが口を割った訳では無いだろうが、ジナリアは知っていた。


 ベノメスは息を呑む。

 最早機密など意味を成さない。

 彼女の前では全てお見通しなのだ。

 これはもう、どんなに不利な条件を吹っ掛けられようと、彼女達を味方に引き込む他無い事を示していた。



「懲罰部隊が居なくなれば、君達も帝都に安心して帰れるだろう?」



 彼らにとっては確かにそうなのだが、ベノメスは失礼を承知で彼女に割り込むように問い掛けた。



「何をするつもりだっ、ですか…?」


「いや何、ちょっとばかり良い事を思い付いてね。君達には協力者になってもらいたいんだ」



 それは即ち悪事であっても許容しろと言うのか。

 だが、協力以外の選択肢は無い。

 ベノメスは渋々了承する。



「何をするかは知らないが、よろこんで引き受けさせてもらう」


「ありがとう。君達が加勢してくれると心強いんだ」



 それは本心からそう言っているのか。

 彼我の差を既に見知っている彼は困惑する。



「それで、私達は何をすれば良いか」


「君達には人払いと、懲罰部隊の監視をお願いしたいんだ」



 そんな事か、と拍子抜けに感じつつ請け負おうとする彼に、またしても衝撃的な発言が飛び込んでくる。



「君達と友好でありたくてね。最終的には此処の国と同盟を結ぼうかと思っているんだ」





 

『お疲れ様です、マディス様』



 宴のような飲食をする懲罰部隊が目視で認識できる距離で異形のメカ、マディスは手頃な岩の上に大雑把に座ったまま、顔の横に手を当てて待機している。

 現在、彼は聞くに耐えないのと、聞く価値すら無い下らない話ばかりしか聞こえてこない為に通信以外の音声の一切を遮断している。


 認識阻害システム、防諜フィールドをマディスの周囲に展開している為、触れられる程の近くでは無い懲罰部隊に気付けるだけの材料は無い。

 そんな彼に、上ずった調子の乙女の声が、コール音の後に通信で聞こえてくる。



「アプレンティスか。えっと、何番だ?」


『わ、私は8番です』



 アプレンティス――レヴァーテの自慢の妹達は全部で15体居る。

 全員がアプレンティスであり、それ以外のこれと言った正式な名前は無い。


 だから、番号分けで呼ぶ事になっている。

 名付けは彼女達の愛用する外套に刻まれた数字に由来する。

 レヴァーテはともかくアプレンティス自身、ジェネルまで…要はジェネレイザの全員がそうしていた。

 その内の8番が今日の通信担当らしく、彼女()上機嫌を隠しておらずマディスは内心辟易していた。



『現状報告をお願いしてもよろしいですか?』


「ああ、今オレは懲罰部隊の近くに居るが、まだ動きを見せていない。連中、状況を全く把握出来ていないんだろうな」



 既に彼らにとっての本命たる大物の一角が落ちているが、彼らは気にせず宴会を続けている。

 それをマディスが目視で捉えているが、気付かれないのは彼が夜闇に溶け込んでいるからではない。



「おかげでオレは気付かれてすらいない」



 向こうがどのように策を張り巡らせようと、ジェネレイザ製の各種隠蔽システムが彼を認識する事を許さなかった。


 しかし、それを過信していないマディスは、自ら音声を切っている為に外のやり取りを聞けず。

 また、偶然なのか男衆がマディスのいる方向を向く頻度が増えている事から「演技の可能性もあるがな」と警戒しつつ苦笑する。


 直後、彼のラーニングしている読唇術で下らない話しかしてない、向く頻度が増えたのは単なる偶然だと分かると、見つけた可能性を否定した。



「やっぱり今の無しだ。オレに気付いていないのがはっきり分かった」


『この短時間で…流石です。お姉様やアペード様がお褒めになる理由が分かりますね』


「あー……」



 レヴァーテの事は、彼女達が妹である以上避けられないし、特段気にしている訳でも無いのでスルーしたが、アペード――アペード・ラジーの名を聞いた途端、彼は頭を抱えた。



「オレはアペード(あいつ)の事苦手なんだがな……」



 すると、8番は慌て気味に尋ねてくる。



『理由をお尋ねしても?』


「ほら、あいつとオレは対極同士、みたいだろ。あいつは正々堂々とした戦いをするが、オレは闇討ち惨殺何でもござれだ。あいつみたく胸張れる要素なんざオレには無いんだよ…」



 《ライトスチール:オフェンサー》であり、数少ないグレードS-の純白の騎士たる彼とは考え方も性質も真逆である。

 その為相性という面で最悪に近しく、ジェネレイザ本土に関する非常事態――ゲームだった頃のストーリー終盤マップのような状況にでも追い込まれない限りは彼らが組む事は無い。



『そうでしょうか? アペード様は以前マディス様の仕事ぶりをお褒めになっていましたよ?』


「社交辞令って奴だろ。所詮建前に過ぎないさ」



 しかし、社交辞令と決め付け淡々と返してはいるが8番曰く彼からの評価が高い事に内心驚いていた。

 何処に褒められる要素があったのか、と疑問に感じつつ。



「まあ、何やかんやで大物狩りはのんびり出来そうだ。オレは陽動も請け負っているからな」



 陽動といっても、魔物の数が急激に減ってくれば誰だって気付くだろう、とその程度の事だ。

 必要以上に姿を晒したり、痕跡を残したりするのはその陽動の内には組み込まれていない。


 現在ジナリア達は別行動を取り、本命である魔王軍の情報収集に励もうとしている。

 弱体化が著しいとはいえ帝国の手の煩わせる大軍の存在に、ジナリアは興味津々であった。

 帝国がどのようにして猛攻を食い止めているのか、それを調べられるのもあって。



『マディス様が…! 頑張って下さい、応援しています!』


「あー、うん。そうだな、頑張る」



 お前たちの応援は過剰なくらいに伝わっているよ。


 しかし、そんな事を切り出せば彼女達が傷付くのでは、と思った彼は底抜けに明るくなった声に対し、そこまで言い出せず内心に留めた。


 「定時報告の割りには世間話が多いな」とマディスは苦笑気味に切り上げようとする。

 あまり長話をしていると8番の仲間達が嫉妬で怒りかねない、という配慮も兼ねて。



「…これぐらいでいいか?」


『はい、もう頃合いですね。では、また明日お願いします。良い夜を~』



 ご機嫌な発言で締めた通信が切れて、再びマディスは頭を抱える。



「オレに好かれる要素なんてあったかねぇ…」



 実を言うと、アプレンティス全員がマディスのファンなのだ。

 ジェネルやレヴァーテへの高い忠誠もあるが、それ以上にマディスへの好意が高い。


 だから、通信担当を誰にするか向こうでは何時もの如く揉める事が多い。

 それでも、交代交代で全員が出番を確保出来るように彼女ら自身が率先して取り仕切っているのが奇跡だ。


 ただ、マディスへの好意が高すぎるせいか今回の作戦中だけでも、予定時間を数分過ぎてしまう事もあったり、通信中にマディスの生声を聞けた事への興奮のあまり暴走したり気絶してしまったりと、アプレンティス達を中心としたハプニングが少なからず発生している。

 状態異常の類いは一切効かない筈だが、アプレンティスの反応の数々はその常識を疑う程に異常であった。



「さて、向こうは上手く行ってるのかね…」



 壁の向こう側のジナリア達を案じつつ、先程まで下らない話しかしていなかった男衆が動きを見せるのに気付く。


 見ると、大袈裟気味に身振り手振りをする隊長格らしき男達を中心に彼らは耳を傾けていた。

 音声は聞こえていなくとも、読唇術によりマディスには筒抜けなのだが。



「『次は北のマッドフラワーへの道を切り開く』、か。あのデカい花の事か。あの辺りはそいつ自身から出ている独特の匂いにそういう作用があるのか、魔物の密度が高い。暫くは魔物の群れが足止めしてくれそうだな。…これで南側の顔裂け狼を落ち着いて狩れる」



 マディスは動きを見せた事に感謝しつつ、立ち上がった。


 そのまま闇夜に溶け込むように歩き去り、彼の姿は忽然と消える。

 気付かないままでいる正規軍の面々を嘲笑うかのように。

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