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機皇の国  作者: Gno00
第二章 機鬼怪壊

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14/44

動き出すもの

 帝国の一地方が何やら盛り上がっている一方、ジェネレイザ首都、カルヴァルズ・フルド。

 その南東の一角にはとびきり目立つ黄金の都市が存在する。


 黄金と欲望の都、ビックパンドパディ。

 金色に塗装された地面の上に高層ビルやら悪趣味な見た目のスロットマシンやらルーレット盤やらをそのまま建物にしたような、建造物群の並ぶそこでは一日中、莫大な電力とジェネレイザ内の資金が動いている。

 だが、此処に来る()は全盛期の半分以下となっており、今では派手な外見の割には少し寂しい雰囲気が漂っていていた。



 ビックパンドパディの南側に存在する、内陸地であるにも関わらず夕暮れのビーチ場を忠実に再現した超巨大プールにて、傾斜を持つ砂浜に突き刺さったパラソルの影に隠れたビーチベッドに寝転がる二人の水着姿の美少女が居た。

 世界の北端に存在する筈の島で、南国のような気温を保つプール場である故に二人の豊かなS字を描く麗しい体を滴る汗が更に際立たせている。


 時折足を組み直しつつ、片やサングラスを掛けてジェラート入りの容器とスプーンを手に持っていたり、片や気持ち良さそうに夕暮れの日光を浴びていたりと、お互いにプールが形成する常夏を楽しんでいる。

 そんな彼女達の居る空間には、甘く心地よい香りが漂っていた。



「あつ〜い…」



 ジェラートを溶けないうちに口に運びながら、これで通算14回目となる暑いという呟きをする、活発な印象を与える藍のホルターネックの水着の、青いショートヘアにうさ耳を生した、蒼い瞳を持つミリー・オルネアという名の幼さがまだ残る美少女。


 彼女の甘ったるいような声は、意図して隣の少女に聞こえる音量になっていた。



「早く上がればよろしいでしょう。私に付き合う義理など貴方には無いでしょうに」



 そんな彼女の隣から目を閉じつつ勧告する、妖艶な漆黒のタンキニ姿の、赤紫のロングヘアと混沌とした黒紫の目を持つベレッタ・ノークという名の少し大人びた印象を持つ美少女。

 彼女の両腕両足は目と同じ混沌とした黒紫に染まっており、その境目である前腕と太ももにはそれらの正体と思しき正方形の数々があった。


 彼女達の機械部品を集約させたクリアな瞳と様々な穴の接続スロットを持つ背中、時折状態を白文字で表示するその肌が、彼女達もまたメカである事を示していた。


 今は彼女達の貸し切りと言う訳ではなく、砂浜の向こうにある海を模したプールを見てみると、海洋生物型のメカ達が水中を泳いでいる。



「そんな連れない事言わないでさぁ。ボクの話し相手になってくれても良いじゃんさぁ…」



 寝そべりながらうさ耳を感情を表現するように揺らしつつ、静かに日光浴をしようとするべレッタに甘えた声を出すミリー。

 彼女のお尻の上からはウサギのものと思しきふわふわした丸い尻尾が生えていた。



「油を売ってる場合ではないでしょう。此処の看板バニーガールなのですから貴方は」



 しかし、許そうものなら途端に姦しくなるのを知っているべレッタは淡々と述べる真っ当な理由で跳ね除けようとしていた。

 ミリーは《カジノバニー:スロット》という、ビックパンドパディが立ち上げられて以来、黄金都市の中で一線級の活躍を続けるバニー達の中の大物。

 そんな彼女が仕事をほっぽり出して休んでいるというのだからベレッタで無くとも不安に感じるだろう。



「此処の売り上げが落ちてるの知ってるよねぇ。そりゃ勿論ボクだって暇してる訳にはいかないと思ってるけど……」



 それでも食い下がり、ベッドの上で上半身を起こし、表情をころころ変えていじけながらもべレッタを説得しようとするミリー。



「でしたら今すぐ仕事に戻ればよろしいでしょう。さ、お行きなさい」



 が、やっぱり姿勢の変わらないべレッタに塩対応であしらわれてミリーは涙目になるのだった。



「む〜、ケチんぼ! レヴァーテにいっつも負けてる癖に!」


「なっ、それとこれとは関係無いわよ!」



 レヴァーテの名を上げた途端、べレッタは顔を赤くして慌てて飛び起きる。それを見て、ミリーはしたり顔を浮かべた。

 べレッタ…《ナイトメアレディー》という種類の彼女は《メタルヴァルキリー》たるレヴァーテと対となる存在である。


 その為、べレッタはライバル意識を燃やしており、彼女達は事あるごとに勝負をしていた。

 ……べレッタ側から持ちかける形で。

 今の今までレヴァーテ側から持ちかけられた事は無い。


 早撃ち対決、棒高跳び対決、早押しクイズ、将棋対決、などなど。

 両者のコンセプト上不要不毛に思えてくる程平和的勝負の数々は全てべレッタの黒星という形で幕を閉じた。


 レヴァーテは勝負の内容については然程気にも留めておらず、一度も勝てないのにモチベーションは何処から来るのやら、精力的に挑んでいくべレッタの印象は彼女の自称ライバルという残念な形に落ち着く事になった。


 ようやくべレッタを振り向かせる事に成功したミリーだが、その代償は高く付いた。



「やっと話し相手をする気になった?」


「…ふん!」



 べレッタは悔しさを露わにしつつも再び横になって、ミリーの居るその逆を向いた。

 明らかな無視を決め込まれて、ミリーは冷や汗を浮かべつつも、更に声を掛ける。



「ねーねー、べレっち。お話しようよ〜。レヴァーテの事を言ったのは悪かったってー、…あれ、無視? 無視してるの?」



 べレッタに声を掛けるも、返事が返ってこない。

 彼女はある作戦を思い付いて実行する。



「も〜、泣いちゃうよ? えーん、えーん」



 作戦である嘘泣きを試みるも、わざとらしさが仇となったかべレッタが更に不機嫌になるのが背中側からでも分かり、ミリーは友情にヒビが入った気がして本当に泣きたくなってきた。


 取り付く島がない、ありそうだったのを台無しにしてしまったと反省気味にため息をつき再び横になるミリーは、青のコンソールを展開し、鑑賞の項目をタップする。

 するとそこには細かく分けられたサムネイルとなる画像の数々が並べられており、その最上段左に見覚えのある紫の異形の姿があった。



「はあぁ……。マディス君のリプレイでも見よ〜…」



 その画像をタップし、データをダウンロードする。

 つい昨日に魔物なる様々な動植物の中でも強くて大きい個体となる大物の一体をマディスが討伐したというリプレイが上がった。


 潜入捜査をするついでにジナリアが娯楽の提供という形でドローンを飛ばし撮影していたのである。

 魔物や、現在マカハルドを騒がせる『懲罰部隊』等に飛ばしたドローンに気付かれる様子が無かった為に、こうした余裕を生み出していた。


 その音声と映像が流れた矢先、覗き見するようにいつの間にか体の向きを変え片目で見ているべレッタの姿を見たミリーはタップし映像を止める。


 なんだかんだで構ってくれるべレッタの事がミリーは好きである。

 塩対応をされ、友情に傷を付けてしまったと後悔していた反動からか、悪戯好きの彼女の心がくすぐられていく。


 そして、覗き見がバレた為にべレッタは白状する事になった。



「何故止めますの?」


「なになに? ベレっちも見たいんだ〜? ひひっ」



 ようやく絡める機会が得られたと悪戯っぽく笑うミリー。

 一方のベレッタは天を仰ぎつつ自分の判断を若干後悔しつつも、仕方無く会話に加わる。



「これと言った娯楽が無いから仕方無く見るだけよ」


「じゃあさじゃあさ。どっちが勝つか賭けてみない?」



 するとミリーはビックパンドパディでも用いられるコインを横に差し出す。

 ビックパンドパディを示すサングラスを掛けながら葉巻を吸う鰐と盾のマークの描かれた表と、ドルマークに似た一文字が大きく描かれている裏を順にべレッタへ見せる。

 要はコインを賭けたギャンブルをしようと言うのだ。



「倍率はどうなっていまして?」


「マディス君が等倍。大物君は3倍だよ」



 事前に勝者を予想し、見事当てた者が、このコインを提示した倍数分獲得出来る。

 尤も、ジナリアが撮影したリプレイである以上どちらが勝つかは明らかなのだが。



「ボクは断然マディス君かな〜」


「ふん。マディスが勝つに決まっていますわ」


「…賭けになんないじゃんそれ」


「賭けに乗るとは一言も言ってないわ」


「む〜…」



 いまいち釈然としない応対になってしまったが、それでもガン無視されるよりはマシだと、結局コインを戻して賭けはせず、仲良く観戦することにした。

 マディスと大物達の四番勝負の第一戦。相手は未知のテクノロジーの結晶体たる飛行円盤。

 異世界のメカという事で、彼女達は目を輝かせてその勝負を眺める。


 漆黒の円盤が繰り出す弾幕の雨を合間を縫って避けていき、間合いを詰める紫の異形。

 真夜中の月の下で二者が鮮烈な空中戦を繰り広げる中、夕暮れのビーチプールの二人も盛り上がっていた。



「いけー!させー!!」


「何をやっていますの! マディスがそんな大きい隙を許すと思っていまして!?」


「ベレっち、どっちの味方なの?」



 熱中しすぎたあまりつい敵を応援してしまったべレッタが指摘を受けて動揺し、誤魔化すように咳払いする。

 リプレイ観戦はその直後シームレスに再開した。


 飛行円盤の怪光線を回避し、スキル:《スパーキーブロー》を使用したマディスが魔法による電撃を纏う腕で触れ、飛行円盤を感電させる。飛行円盤は表面から黒煙を上げて、ショート寸前にまで追い込まれていた。

 若干有利といった状況を、マディスが有利側に一気に押し込んだのだ。



「そのスキル運用は見事ですわ、マディス! そのまま押し切りなさい!」


「む〜、このままじゃ負けちゃう。頑張れ、負けるな! 異世界メカ!!」


「貴方、どちらの味方でして?」



 今度はミリーが動揺を露わにし、べレッタの真似のように咳払いする。

 三度目の再開の直後、勝負は終盤へと突入した。

 先程の怪光線とはまた違う円盤の底から放たれるレーザー砲の威力と、それに貫かれた地面から巻き起こる噴火のような爆破を、掻い潜るマディスの腕の砲口より放たれた黒弾が一直線へと伸びる漆黒の奔流を生み出した。

 それに貫かれ風穴の空いた飛行円盤が大事な回路が破壊されたらしく、機能を停止し墜落していく。


 そして、黒煙を上げて草生す地面に深々と突き刺さった円盤の場所にマディスが到着する。

 墜落に巻き込まれた魔物の死骸の数々をマディスがその掌から痕跡ごと吸収していき、回収に飛んで来たジナリアの分身が円盤の解体を始める所でリプレイは終わる。


 終わってみれば拍子抜けなまでに一方的な戦い。

 そもそも置かれた状況が状況である為にそうでなくては困るのだが、とてもじゃなく、ジェネレイザに於ける希少な存在かつ強者たるグレードS-である二人の退屈を癒せるものでは無かった。


 それとは別に、彼女達はある後悔を抱えていた。

 彼女達もまた、マディスと同じ『トワイライト』の一員である為に。



「ジナリア様によると後三体大物が居るらしいけど、その勝敗も予想してみる?」


「一角でこれなのですから、全部マディスの圧勝に決まっていますわ」



 二人は顔を見合わせて、それから空を仰ぐ。

 穏やかな雲が漂っているが、それを見て彼女達が満たされるなら、今のこの状況にはなっていない。



「結局……」


「ボクらの出番は無しか〜…」



 こんな事なら上司であるジナリア様にもっと恩を売っておけば良かったな、と彼女達は深い溜息を吐くのだった。

 二人のコンセプト上、深い信頼関係を築けた所で入り込める余地は無かったとは考えもせず。






 「強え、強えなマディスの野郎!」



 一方のジェネレイザ北端に存在する上下に入り組んだ雪原、ハーミット・クリフ。

 その地下の巨大研究施設に存在する広々とした休憩室にて時を同じくしてジナリアから提供されたリプレイを大画面モニターで数多のメカが観戦していた。


 ゴリラを参考にした骨格のLサイズに該当する8mもの巨大な体格を持つ迷彩色の人型メカが、体を揺らして興奮する。

 足踏みの度に床が揺れ、そもそも足だけですら1mもある彼の体には、大量の火器系統が備わっているので危険な事この上無いのだが。


 そうした危険も承知の上である頭のネジが外れた面子ばかりがこの研究施設に(たむろ)している。

 今や、ユニリィ・ファクトリアにある火薬庫やメルケカルプ・フォートレスよりも危険な場所となっていた。


 小刻みに跳ねる机や椅子を気にせず、背中が異常に折れ曲がっているガスマスクの亜人形メカであるジャモラクと白衣を纏った橙のスーツの金髪の青年、完全な球体を人型になるよう複雑な形に変形させたような姿の3m程の灰色の亜人形メカは各々の飲み物に口をつける。

 ガスマスクを外せないジャモラクと3つの、それも回転する緑の円しか持たない顔の3mのメカはどうやって飲むのかはさておき。



「あ〜、しくったな。マディスはんに無理言って連れて行ってもらえば良かったかな〜」



 飛行円盤型のメカはこのジェネレイザにも存在する。

 だが、映像に映った飛行円盤はこれまで確認されていない新種である為ジャモラクは貴重な機会を逃したと頭を抱える。



「貴方では悪目立ちしてしまいますよ。貴方の範囲攻撃は微調整が難しいのですから」


「せ、せやったな。マディスはんの足引っ張る訳にもいかんからな…」



 金髪の、眼鏡をかけた二枚目の青年がジャモラクの持つスキルを理由に微笑みながら答える。

 それに対しジャモラクは付いて行かなくて正解だったか、とコミカルな身動きで返した。


 金髪の青年の名はベレストル・アルマーディカと言い、《マッドドール:サイエンス》たる彼はジナリア直轄の『トワイライト』の一員にして、ジャモラクの親友であった。

 彼は研究の方が得意である為に、当然ながら潜入等少人数かつ確実な結果を残さないといけない作戦の候補からは除外されるものの、代わりとばかりに特例でハーミット・クリフでの勤務が許可されている。


 一応、隠蔽システムの一種である認識阻害システムには見た目を偽るものもあるのだが、一部のメカは適用外となる。

 ジャモラクもまた、適用外となるメカの一つであった。



「マディスだけが適任なのは初めから分かりきった事だ。あいつは小柄で目立ちにくいし、何よりジナリア様がお気に召している」



 同じく『トワイライト』の一員である灰色の亜人形メカ、《ダークスチール:バンディット》のハーヴェルは小さく駆動音を立てつつ蛇腹状の腕を組み、関節部のカバーの黒色を前から隠す。

 そんな彼の話にジャモラクとべレストルは興味深そうに耳を傾けていた。


 マディスの兄弟機であり、設計思想が似ていてグレードも互角の彼だが、マディスの方がより信頼されている事と、Mサイズの割に大柄な3mもの体格が仇となり今回は抜擢されなかった。



「ハーヴェルはんはマディスはんの事信頼してはるんやな…」


「当然だ。自慢の弟だからな」



 ジェネレイザに貢献出来る、上司から揺るぎない信頼を得られる事はメカにとっても名誉であり、貢献の為の活動を単身で順調にこなそうとしている者が身内に居る事に、ハーヴェルは大きく胸を張った。

 …未だ収まらない地震の影響で上下に跳ねつつ。



「……って、何時まで騒いでんだオロッコ!」



 ハーヴェルは何時まで経っても収まらない地震に業を煮やし、騒ぐのを止めない8m巨人に怒鳴りつける。



「あう?」



 気抜けした様子で立ち止まり、地震を止ませるオロッコ・バシュレイという名の茶色を基本色とした迷彩の体に、外装甲で覆われた顔を持つ巨人。

 《ワイルドギア:ボアーズ》である彼も『トワイライト』の一員であるが、信頼とか設計思想とかの以前にそもそも選択肢に入っていなかったのは言うまでもない。




 カルヴァルズ・フルドの中心メインタワーの北に位置する機皇城。

 その真ん中の道を進んだ先にある『ギア・ホール』では玉座に座るジェネレイザの統率者、黒紫の豪奢な鎧に身を包んだ機皇帝ジェネルが忙しなく業務をこなしていた。


 そんな中、彼の元にある一報が飛び込んでくる。

 それはジェネレイザの至宝たる三姉妹の次女、β-コルナフェルより齎されたものだった。



「ほう、信頼に置ける国を見つけたと言うのか」



 西大陸に存在する中規模国家、エルタ帝国に加勢し、同盟を結びたいという上申であった。

 ジェネルには顔が無い。

 が、静かな空間によく通るその声色は明るいものだった。

 何より、彼は嬉しかったのである。自分達の意思で、信頼を置く存在を見つけたのだから。


 設定上、彼女達とは親子の関係にあるが設計思想が似ているとか同じパーツ、素材を使っているからとかそのような話は一切無い。

 だが、決められた役割である以上それを忠実にこなさなければならない。

 そうしていく内に、実の親子のような親密な関係になっていった。

 こうなると、身も心も傷付いて、されながらも成長していく彼女達の身を案ずるというのが親心というものだろう。



「お前達には長らく苦労をかけさせたからな。せめてこれぐらいはさせてやらなければな、とは思っていた」



 それが異世界に来て果たされる事になるとは。


 ジェネルは運命というものの奇抜さを感じずにはいられなかった。

 終わりかけた世界から一転、右も左も知らない世界の中で、自分達の存在を強烈かつ確実に刻み込もうとしている。


 それが吉と出るか凶と出るか。

 それはこの国の団結力に委ねられた。

 音声を現在切っている為にシステムメッセージで受理の有無を問い掛けるシアペルに、受理するよう命じる。



「お前達の信じた道だ。好きなようにやりなさい」



 こうして理不尽に揉まれつつある帝国を救う作戦が正式に決行される事になった。





「――そう言えば今日、定時連絡の日だよね?」



 翌日。

 国の方針が更新された重要なファクターの最中、白く純粋な空間の中で大きな丸いテーブルの置かれた、壁も天井も無い、陰陽だけが色を付ける白い部屋。

 それは確かに、ジェネレイザの一部として存在していた。


 そのテーブルを囲むべく置かれた16個の椅子の内、主の座る豪華な椅子以外に、白く、神聖な外套を纏う15人の少女達が座る。


 大きく豪華に作られた椅子は、『見習い』たる彼女達を時に厳しく、時に優しく導く偉大なる姉の為のもの。

 故に座る事も、汚す事も彼女達には許されていなかった。


 彼女達は花と甘い香りの仄かに香る中、ティーセットやお菓子の数々を机の上に規則的に並べて、お茶の湯気を燻らせて優雅にお茶会を開いていた。


 出来ればお姉様にも参加して欲しかったな、と誰もが思いつつ。



「うん。今日も定時連絡。夜から」


「今日の当番はだあれ?」



 お茶を飲みながら一人が答え、もう一人が細かく噛み砕いたお菓子を飲み込んで一同を見渡すと、彼女の向かい側に居る一人が恐る恐る手を上げた。



「わ、私です……」



 お茶もお菓子もちびちびとしか進めない彼女の自信の無さそうな様子を見て、他の全員が顔を見渡して彼女を元気付け、自信を持たせる事にする。



「大丈夫よ8番。この権利は皆平等にあるの」


「貴方から奪わせはしない。それは絶対に守り通すよ」


「時間を間違えたり、通話中に暴走したり気絶したりしなければ問題無いよ」


「――ちょ、ちょっと。掘り返すのは止めて……」


「あの粗相は思い出したく無かったのに……」


「ううううぅ……」



 自信付けの筈が、流れ弾を受けてしまい集団の内の三人がそれぞれ個性的に悶絶する。

 そんな彼女達を見て一同がころころと笑った。

 和気藹々とした光景に、8番という名の少女の顔は段々明るくなった。



「あ、ありがとう。みんな……」



 勇気と元気を貰い、彼女は意を決して定時連絡に望むのだった。

 その相手は、もう一つの憧れで、愛しい人。

 黒液晶のよく似合うお方であった。

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