4 男たちの対策会議
『わたくしたちの繋がりが国と国との繋がりになりますのよ』『王女であるわたくしが王妃になるべきですわ』『マーシャ様とお別れしろとは申しません。側妃になさればよろしいのよ』『王様でしたら側室を持つこともゆるされますでしょう』『ブランドン様よりあなたの方が王に相応しいわ』
ガバッ!僕は跳ね起きた。そして、頭を抱える。はぁ、また嫌な夢をみたものだ。
『ブランドン様』とは、我が国の第1王子。どうやら、第2王子コンラッドを誘惑して、王座を狙っているようだ。
一人で悩んでいるわけにもいかないので、朝食をとっていたアレクシス兄上に相談した。僕の話を聞いた兄上は、早々に職場である王城の第1王子執務室へと向かわれた。
父上は昨日から王城から帰ってきていないようだ。国王陛下の側近なるものは、なんとも忙しそうで、可哀想だと思ってしまう。
今は、父上の心配をしている場合ではない。僕は、ティナに先に出ると告げ、学園へ向かった。
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今日は学園の3年生になって初日だ。
僕は昨夜、留学してくる侯爵令嬢のフリをした王女がコンラッドを誘惑して王妃になりたがっている夢を見たわけだが、朝食時、兄上に相談したところ、コンラッド、ウォルバック、セオドアには相談していいと言われた。
学園のクラスに到着して早々、僕はクラスメイトに、警備上の問題だとして、席替えをしてもらうことにした。コンラッドが王子であることは、誰もが知っていることなので、今更と思われるかと思ったが、去年度に起こったシンシア嬢事件があるので、みんな、すぐに納得してくれた。
窓際1番前にコンラッド、右にマーシャ、さらに右にクラリッサ。コンラッドの後ろにセオドア、セオドアの右にウォル、さらに右に僕。そして、留学してくるというお二人の席は対称的に廊下側の1番後ろにした。
基本的には自由席なので、僕たちの席が決まればあとは自由にしてもらった。ただし、彼女たちの隣は、女子生徒にした。『留学生は女子生徒なので』と説明したら、納得してくれた。
コンラッド、ウォル、セオドアを玄関で捕まえて生徒会室へ向かう。マーシャとクララには、防衛の確認をするように兄上に言われたので、1時限目は休むと伝えた。二人もシンシア嬢を思い出したのだろう。すぐに納得してくれた。
シンシア嬢とは、2年の始業日に転入してきた女子生徒である。彼女は、僕たちを寵略するため、初日から絡んできたという経緯がある。
生徒会室へ入り、ソファーへと進む。座るより早く、ウォルが聞いてきた。
「バージル、どうした?何かあったのか?」
ウォルは危険察知したようだ。もちろん、シンシア嬢という前事件があるからだ。
「また夢を見たんだ」
3人にだけ聞こえる声で伝えた。3人は真剣な顔になった。生徒会室のソファーに座り、メイドにも席を外してもらった。
「今度は誰が狙われているんだ?」
コンラッドの質問に僕はちょっとだけ躊躇した。だって、『王族って大変だなぁ』って、思ってしまったから……。
「残念だけど、コンラッド、君だよ」
僕は隣に座るコンラッドに、申し訳無さ気に伝えた。セオドアとウォルも、可哀想な者をみるように、コンラッドを見つめた。
「ヒューッ」
コンラッドは一息吸い込み背筋を伸ばした。
『ゴトン』
そして、テーブルにまっすぐ突っ伏し、額をテーブルに打ち付けた。
「うわっ!コンラッド!大丈夫か?まだ何も起きてない。気をしっかり持ってくれっ!」
コンラッドの向かいに座るセオドアが、コンラッドの肩を一生懸命に揺らした。ウォルは急いでタオルを濡らしに行き、僕はコンラッドの背を擦っていた。
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コンラッドの復活を待って、僕は昨夜の夢を説明した。
「王位狙いですか。随分と浅はかな」
ウォルはすでに怒りはじめている。シンシア嬢も王位を狙っていたフシがあったので、その余韻もあるのだろう。
「なぁ、コンラッド。コンラッドって、マーシャのことどう思っているんだ?」
セオドアのいきなりな質問に僕たち3人は慄いた。それを見たセオドアが慌てて説明を付け足した。
「だってさ、いくら政略結婚だっていっても、今どきは数年たっても気持ちがつながらなかったら、婚約解消するところもあるだろう。だからこそ、去年みたいに婚約者を大切にできない男なら婚約解消して、次を紹介するって話だったじゃないか」
セオドアが珍しく論破してることにびっくりだった。シンシア嬢の事件のときに、シンシア嬢に夢中になり、婚約者を蔑ろにする男子生徒がたくさんいたのだ。そんな相手なら、婚約解消すべきだと言う話は、確かに出た。
その時の僕は、ウォルがシンシア嬢に夢中になりかけた際には、ウォルにははっきりと『ティナと婚約解消しろ』とも伝えてあった。ウォルは、僕の妹ティナヴェイラと婚約している。
ウォルが気まずそうに僕を見たが、僕が微笑を返すとホッとしたような顔をした。ウォルにとって、去年のシンシア嬢に関することは、トラウマになるまいかと思うほど、心の傷になっている。
「コンラッドとマーシャは、14歳からの比較的遅い婚約だろう。それも、コンラッドが婿に行けるところなんていくつもないわけだし。コンラッドが仕方なく選んだってこともありえるだろう」
セオドアの正論に、僕とウォルはなるほどと頷いた。
コンラッドは、第2王子として王位を目指すか、または、臣下に下るか、この判断を迫られ、なんの迷いもなく臣下に下ることを決めた。そして、まずは高位貴族への婿入りが検討されたわけだ。
婿入り先がなければ、王家領地を賜って、公爵になっただろう。僕の父上が、それで公爵になっている。
コンラッドのお相手マーシャ・ホーキンスは、公爵家の一人娘だ。コンラッドが王家領地を削ることなく公爵になる道を選んだために、マーシャにしたということも考えられるのだ。
セオドアに、そう言われたコンラッドは、青くなって……赤くなった。ん??
「………れ……だ」
赤い顔で下を向いたまま呟くコンラッドの声が全く聞き取れない。
「え?何?コンラッド、聞こえないよ」
ウォルがコンラッドを急かした。
「だ、だからっ!ひとめぼれなんだっ!」
僕たち3人は目を見開いてコンラッドを見ていて、かなりの間が出来てしまった。
「「「えっーーー!!!」」」
「つまり、お見合いの話が来て、すぐに見惚れたということですか?」
ウォルの質問に、コンラッドが俯いたままフルフルと首を振る。
「あ、兄上の妃候補で、マーシャが王宮に勉強に来ていたときに……み、見かけて…さ……」
僕たちは口をあんぐりと開けた。
マーシャは8歳頃から数年間、第1王子の婚約者、つまりは未来の王妃候補として他の候補者とともに、王宮で学んでいた。しかし、その後もホーキンス公爵家でマーシャ以外の跡継ぎができなかったこともあり、ブランドン第一王子の婚約者候補から降りたと聞いている。マーシャが、公爵家の跡取りなのに、14歳まで婚約者がいなかったのは、そういう理由だ。
そして、コンラッドが婚約者を求めた時、真っ先に名前が上がったというわけだ。
「僕が兄上の臣下になるって宣言して、お見合い名簿を見せられたとき、マーシャの名前があって…。即決したんだ」
コンラッドが顔を両手で隠してテーブルにおでこを当ててさらに顔を隠した。でも、見えてる耳はまっかっか。なんと可愛らしい王子殿下であろう。
「つまり、コンラッドはマーシャに6年間も片思いだったのですか?」
ウォルの容赦ないツッコミ確認。コンラッドは顔を伏せたまま、コクリと頷いた。王子殿下でも、片思いってあるんだなぁと、単純に感心してしまった。
「マーシャはそれを………」
言いかけた僕の肩を起き上がったコンラッドが掴む。
「い、言えるわけないだろう!マーシャが王宮に来る度に図書室で本の隙間から見ていたとか、中庭で垣根の隙間から見ていたとか。なんか気持ち悪いだろう?」
す、隙間から…なんだ。コンラッドは泣きそうな顔だった。
「そ、そうかな?マーシャなら喜んでくれそうだけど…」
僕の自信のない言葉にもコンラッドは縋りたい心境のようだ。
「え?そうか?怖いとか、気持ち悪いとかって思われないかな?」
僕たちは、即答できなかった。それを答えだと思ったコンラッドは、僕に背中を向け、膝を抱えてソファーに沈んだ。
「とにかく、セオドアの心配するような形はないということですね。私はコンラッドが恋愛結婚なのはいいことだと思いますよ」
ウォルの言葉にコンラッドは肩を揺らして反応していた。
「コンラッドの気持ちがはっきりしているなら、僕たちの目標もはっきりするね」
僕は、隣で沈むコンラッドを見ないようにして、セオドアとウォルに頷きながら、大きな声で確認した。
「そうだな。俺たちはコンラッドとマーシャを応援するってことで、一致だな」
言い出しっぺのセオドアも、コンラッドの気持ちを歓迎すると宣言した。
それからは、お互いにどれだけ婚約者を好きかを話した。僕たちも惚気のような好き好き話をしたので、コンラッドは、やっと復活してくれた。よく考えれば、男4人で婚約者の好き好き話って気持ち悪くないかな?
まあ、僕はクララの自慢エピソードなら、一人で一日中でも喋る自信があるけどね。
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