優勝候補
初戦に勝利した翌日、何とか帰京を免れた俺達は、再び練習に励み始めていた。
「おーっし、来い!」
初戦、二四球こそもらえたものの、結局俺はノーヒットに終わった。打点も全部新井に付いたし、少々消化不良の結果だ。
だから、一段と練習に精を出していた。難敵からヒットを打つのは、やはり楽しいからしょうがない。
……それにしても。
「すいませーん!」
「くそー!」
練習風景を見ながら、俺は次戦への不安を感じざるを得なかった。いくら練習とはいえ、少しミスが多すぎやしないか?
浮足立っているようにも見えるのだが。
「お前はいつも通りだな」
そんな疑問を抱えていると、吉村先輩が呆れたように俺に苦笑してきた。かく言うあなたも普段どおりに見えるのだが、それはどういうわけなのか。
「次の相手、知ってるか?」
「勿論」
何を今更。
わざわざ相手校が決まる試合の観戦にまで行ったのに、知らないはずがないではないか。
次の相手は、大阪代表の大阪同光学院。
「はー、俺の甲子園、次の試合で終わりかー」
吉村先輩は言った。
「なんで? 勝てばいいだけですよ、何を憂うことがあるんですか?」
「そう思ってるのは、お前くらいだろうぜ。なにせ相手が相手だ。皆、だから浮足立っているんだよ」
「というと?」
「相手は春の選抜大会で優勝していて、今夏のこの大会も圧倒的実力で優勝候補って言われてる。所謂、優勝候補ってやつだ。だから緊張するのさ」
「へぇ」
よくわからん感覚だ。
「でも、優勝するにはどっちにせよ勝たなきゃならないことには変わりない。早いか遅いかの差でしょ?」
「お前と話していると、途端にくだらない悩みのような気がしてくるから、またな」
「あ」
呆れたように目を細めた吉村先輩は、練習へと戻っていった。
まあ確かに、相手が優勝候補であるということは認めざるを得ない。
最近の甲子園で、件の高校の活躍は必ず耳にするし、甲子園出場を逃せばそれだけでニュースになるし、代わりに出場した府内の高校が結局優勝するし。
多分、高校野球を少しでも知っている人ならば、優勝候補は? と尋ねられればまずはかの高校を選ぶくらいだろう。
でも、だからこそ面白いのではないか。
難敵と早々に当たれて良かった。
だってその難敵に勝てば、俺達はさらなる難敵と戦ってしのぎを削り合えるのだから。
明日に控えた試合へ向けて、俺は武者震いを止められなかった。




