品評会
「あんた馬鹿?」
『あうぅ……』
呆れ声で言うと、電話口から速水の情けない声が漏れていた。
「あんた、さすがにそれは駄目だろう」
『……はい』
「それに返答したら、俺あんた達のことで優劣をつけることになるんだぞ。下衆な目線で見た上でのそんな発言、あんたは俺を鬼畜にさせたいのか?」
『でも……ちょっとくらいオオカミになってよ』
なんだ、そりゃあ?
この女の目的はさっぱりわからないが、どこまで行っても俺がやけどするだけのこの質問をこれ以上野放しにはしたくなかった。
「どうだよ、そっちは。平穏無事にやっているか?」
『え?』
「無事に暮らせているのかって聞いているんだ。ちゃんと部屋の掃除しているか?」
『や、やってるよ、失礼な』
否定して、速水は言い辛そうに唸った。
『掃除はした。……三日前』
「毎日やれよ。そういうのは日々続けることが一番大事なんだぞ」
『う、うっさいな。日頃誰かがマメに掃除してくれるから、少しサボったくらいじゃ汚れないの』
いや、そんなことないと思うけどな。
そう言ってやるのは、速水の機嫌をより損ねそうだったので、俺は苦笑だけ送った。
『そっちこそ、三日後には合宿所から移動するけど……調整は万全なの?』
「俺はいつだって百パーセントの力を出せるよう準備を怠ったことはない」
『はいはい。聞いたあたしが馬鹿でしたよーだ』
「何、不機嫌になってんだよ」
今度こそ、俺は笑った。
『別にぃ? あたしは一人寂しくこの部屋にいるのに、同居人は口うるさいし一人楽しんでいることに対して、嫉妬しているわけじゃないけどぉ?』
「ほぼ答えてくれてありがとうな。……まあ、確かにあんたを放って楽しんでいることに関しては、悪いとは思ってるよ」
『……本当、あんたは時々素直になるから困る』
「俺はいつも素直だ」
『嘘。だったら答えてよ』
「何を」
『あたしと入江ちゃんの体……どっちが好み?』
この女、掘り返してきやがった。
「だから、その質問に答えるほど、俺はデリカシーがない男じゃないんだってば」
『デリカシーがどうの言うってことは、頭の中で優劣はついているんじゃない』
「そういうんじゃない」
『嘘』
「嘘じゃねえよ」
頭が少しだけ痛い。
この同居人、いつかは随分とお人好しだなと思ったが、最近はなんだか我儘が過ぎないか?
「そもそも……見たこともない物に優劣は付けられないだろう」
『……けっ、面白くない』
「……お前なあ」
お人好しだった速水は、何処へ?
まあそんなことはともかく、結局俺、速水の機嫌を損ねてしまった。なんだか俺が悪いとは到底思えないのだが、こうして彼女の機嫌を損ねておくのも可哀そうだ。
何せ俺、さっき言った通り、同居人である速水を放って、一人寂しい思いをさせて、この合宿、ひいては大会に向かうわけだしな。
「まあ、とにかく……俺は嘘はつけない。見たこともない物を比べて、優劣をつけることも出来ない」
『……ふんっ』
「だけどさ……その、なんだ。……時々見るあんたの腹とかはさ……なんというか、可愛らしいとは思うぞ」
『へえ……へえっ!?』
何言っているんだろう、俺。
「あ、あんたは日頃冷え性だなんだという癖に、眠ると暴れまわって布団を蹴飛ばすからな。俺が時々直してやるんだよ。で……その…………時々、Tシャツもはだけていて、腹も見えるんだ。
も、勿論それ以上は見えないし、俺もなるべく見ないようにしている!
だ、だけども……まあ、言った通りだ。可愛らしいと思うぞ、うん」
筋肉が運動により燃え上がるようになったわけでもないのに、顔が熱い。熱くて熱くてたまらない。
「わかったか?」
『えぇと、その……』
「こうなるんだよ。人の体を品評するなんて、本来するべきことじゃないんだよ」
『……う、うん』
「なんか、練習よりどっと疲れた。もういいか?」
『あ、あのさ。哲郎……?』
「なんだよ、まだあるのか?」
『……た、大会頑張ってね?』
今更?
『あと……ありがとう』
「おう」
何に対するお礼かは、聞かなかった。聞いたら余計疲れると思ったから。
なんだか練習する気も失せた俺は、その日はそのまま風呂を浴びて、さっさと眠りについたのだった。
合宿編で書きたいことは終わったので、次から次章。
またやきう編。
頭の中でスコア考えながら書かないといけないから大変なんだよな、試合書くの。




