電話
「おい、ちょっといいか」
その日の練習終わり、俺は前川に呼ばれた。
「なんだよ」
「ちょっと付き合え」
「何に? 俺、練習したいんだけど」
「わかってる。だから、付き合ってやる」
「え、どういう風の吹き回しだよ」
前川も日に日に練習熱心になっているが、試合終わりに練習に付き合うと言い出すのは珍しかった。何せ、今日の試合でこいつは大炎上したから。
大炎上したこいつに対して、監督は周囲よりも厳しめの罰を与えていた。だからまあ、いつにもまして疲労困憊で動けないだろうと思ってた。
「体、大丈夫かよ」
「ああ、試したいことがあったから、むしろうずうずしてた」
「へー」
なんか……。
「俺みたいなこと言っているな、お前」
「黙れ!」
めっちゃ怒られた。怖い。
仕方なく前川についていくと、前川はボールを三つ手にしていた。
「皆もう着替え始めているし、長居は出来ないぞ」
「わかってる。三球勝負だ」
トンボを架けたマウンドから、前川はさっさと初球を投じた。インコースを抉る球に、俺はのけぞった。
「わお。随分抉るな」
「判定は?」
「俺がしていいの?」
「ああ、早く」
「じゃあ、ギリギリストライク」
「二球目、行くぞ」
前川の投じた二球目は、再びインコースの球だった。
……シュート回転しているが、これはストレートなのだろうか。
バットに当てるも、打球は詰まったゴロとなった。
「シュートか? これ」
「ああ、今日ずっと不調だったろ?」
「おう」
「いつにもましてシュート回転が酷くな。矯正しようと思っていたんだけど……相手の八番に死球を与えた時、むしろこれ内角を抉る球として使えるんじゃないかって思った」
「……当てるなよ?」
「当てねえよ」
軌道を見ようと思って、俺は前川の三投目を見送った。確かに、初球からずっとコースは一貫していた。
右打者のインコースを抉るが、いくら打者がインコースに寄っても、これなら死球にはならないだろう。
「相手の八番打者に当てたおかげで、逆に掴めた」
「何に?」
「どのくらいなら死球になるのかってのが」
なるほど。
どこまで抉ったら抜けるか。
それがわかれば、逆にそれをしないようにすれば死球にはならない、と。
「とりあえず明日、疲れを抜いてシート打撃の時に他の奴にも試してみろよ」
「わかってる。お前にもお見舞いしてやるからな」
「わかったわかった」
そう言って、俺達は急いでグラウンドにトンボをかけなおして、ジャージに着替えてバスに乗り込んだ。
合宿所に帰ってからは、いつも通り夕飯を食べて、夜練習を俺は始めたのだった。
が、珍しいことが起きた。
唐突に、ポケットに入れていたスマホが震えたのだ。
「ん?」
慌てて画面を見ると、そこには『速水』の文字が表示されていた。




