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 練習試合に敗北したため、俺達は試合後に罰走が課せられた。その罰走を早々に終わらせて、俺はバスに乗ってさっさと帰ろうとしている赤羽根さんを探して球場を駆け回った。


「あっ!」


 赤羽根さんは駐車場にいた。今にも発進しそうなバスに乗り込む直前だった。


 全力疾走し、俺はバスに向かった。


「赤羽根さん!」


「ん? ……あ」


 赤羽根さんは、一瞬露骨に嫌な顔を見せていた。どうやら顔を覚えてもらえていたらしい。


「す、少しいいですか?」


「……な、なんだよ」


 赤羽根さんは明らかに警戒していた。一体、何故?


「そんな警戒されるようなプレー、俺今日しましたっけ?」


「いやだって、お前、こっちなんだろ?」


「どっちですか?」


「……まあいいや」


 赤羽根さんは続けた。


「で、何?」


「はい。赤羽根さんは日頃、どんな練習をしていますか?」


「なんだよその小学生がテレビの企画でプロにする質問みたいなやつ。悪いがそんなに答えている時間はないぞ。もうそろそろバス出るし」


「えぇ、そんな殺生な!」


「なんだよ、そんなに知りたいの?」


「はい。教えてください」


「……まあ、普通だよ」


 赤羽根さんは淡々と日頃の練習内容を教えてくれた。意外にも、筋トレはそこまで時間をかけてやっていないらしい。あそこまで強靭な筋肉を持っているのだから、もっとしていると思ったのに。

 その代わり、瞬発力を鍛える練習を多めにしているそうだ。これはどちらかといえば、学校の練習メニューなんだろうな。


「夜練習は何時くらいまでやっていますか?」


「練習長いから夜はしない。体を休ませるのも大事な練習だ」


「むむむ」


 確かに。

 入江さんに借りた本にも休息の重要性は長々と書かれていたな。


「……お前、練習熱心なんだな」


「え?」


 少し休息を取る時間も増やそうかと悩んでいると、赤羽根さんが呆れ顔で言った。


「今日お前、四打数の二安打だったよな。田中さん相手にやるじゃん」


「そうでもないです。赤羽根さんは四出塁だった」


「まあ、たまたまだよ」


 赤羽根さんは肩を竦めた。


「また甲子園で戦おう。俺は何より、俺より背が高い連中を負かして跪かせて、見下ろす瞬間が大好きなんだよ」


「歪んでますね」


「でかい奴ってのはそれだけで得意げな顔を見せてくるからな。背以外では負けないんだと示さなければならない」


「はあ」


「お前も背が高い方じゃないし、気持ちわかると思ったんだけどな」


「俺は……背が高かろうが低かろうが、難敵を倒した時がとにかく楽しいので」


「へえ」




「だから、次はあなたを倒して見せますよ」




「……望むところだ」


 小さな強打者達を乗せたバスは、それからすぐに発進した。それを見送って、俺は練習場に戻った。

 午前練習、試合、罰走。


 部員連中は、疲労困憊そうに芝の上で倒れこんでいた。


「た、武田君」


「ん?」


 そんな部員を他所に、俺に声をかけてきた人がいた。


 入江さんだった。


「どうした」


「……ひ、一つ質問してもいいですか?」


「なんだ?」


「武田君は……その、男の人が好きなんですか?」


「は?」


 何を言っているのだろう。


「そんなことあるはずがないだろう。何を突然」




「じゃあ赤羽根さんとあたしの裸、どっちが見たいんですか!?」




「そりゃあ、赤羽根さんだな」


 触っただけでわかる強靭な筋肉。

 一体どんな練習をしたらああなるのだ。


 非常に気になる。


 即答すると、


「うわああーーん」


 入江さんは泣きながらどこかへ走り去っていった。

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