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小さな強打者

 合宿四日目。

 部員達に数日の合宿によっての疲労が蓄積され始めた今日この頃、俺はいつも通り早朝に目を覚まして、一人早出の練習へと繰り出していた。


 合宿所の外で数分入念にストレッチを行って、ランニングへ向けての準備を行っていた。


「おはようございます、哲郎君」


「ん?」


 突然背後から、聞き馴染みのある少女の声がして、俺はそちらに振り返った。


「おう、おはよう。早いな、入江さん」


「はい」


 そこにいたのは、入江さんだった。寝間着姿のまま、いつものように快活な笑顔を見せていた。


「哲郎君こそ、朝早いんですね。練習ですか?」


「ああ、日課のランニングに行ってくるよ」


「大丈夫ですか? 知らない土地でのランニングで、道に迷ったりしないですか?」


「大丈夫だ。かれこれ前の二日では何もなかったし、ちゃんとスマホも持っていく」


 いつか速水にもらったアームバンドを腕に巻き、俺は言った。


「ああ、それが例の……というか、前の二日もランニングに行っていたんですね」


「日課だからな」


「本当、哲郎君は練習の虫ですね」


「まあな。これでも物足りないくらいだ。ご飯を食べている時間すら惜しく感じる。人は、どうして腹が減るんだろうな」


「突然哲学染みたことを言い出しますね」


 くすくすと入江さんは微笑んでいた。


 ……そういえば、合宿が始まってこうして入江さんと落ち着いて話す時間は初めての気がする。


「そっちはどうだ? マネージャー、大変か?」


「まあ、少しだけ。でも、やりがいはとてもあります」


「そうか。それなら良かった」


「はい。哲郎君の楽しそうな顔を見ているだけで、とても癒されるんですよね」


「あはは。ならもっと頑張らないとなあ」


 笑い飛ばしてから思ったが、なんだか今入江さん、変なことを口走らなかったか?


「とにかく、熱中症とかには気を付けろよ。水分補給はちゃんとするんだ」


「はい。哲郎君もですよ?」


「勿論だ。そんなことで大会前に体調不良になっても何も面白くないからな」


「ふふふ。本当に哲郎君は、ブレないですね」


 そろそろストレッチも十分かな。


「今日も、午後からは練習試合でしたよね。頑張ってください」


 入江さんは言った。


「おう。勿論だ」


「相手は確か……海浜本郷高校」


「今年の甲子園千葉県代表の高校だな。レギュラー格の総合力が高いチームで、巷では今年の大会の優勝候補と言われているくらいだ」


「哲郎君、詳しいんですね」


「入念な下調べは、成果を出すには必須だろ? 俺はそういうの、絶対に怠らないからな」


 入江さんはほへーと少し間抜けな声を出していた。


「そうしたら、哲郎君。今日の練習試合、注目した方がいい選手はいるんですか?」


「おう。たくさんいるぞ」


「例えば?」


「まずは先発の田中。左の軟投派で、いつかの及川とはまた違った強みのある投手だ。持ち球はチェンジアップにスライダーにカーブに、スクリューもたまに投げるそうだ」


「たくさん変化球を持っているんですね」


「それもいずれも結構精度が高い。まあ、全国トップクラスの投手だな」


「他には?」


「他には、いつかの首都第一のように、相手は右バッターが多い。実に七人。振りも鋭いし、引っ張り傾向の打球は多くなると思う」


「はい」


「で、これが一番驚きなんだけど……」


 ストレッチを終わらせた俺は、入江さんの方を振り返った。


「相手の四番、セカンドなんだけど。身長が百六十五センチしかないらしいんだよ」


「え、小さいですね」


「ああ、でもスイングは誰よりも鋭いし、守備も範囲が広いし、ハンドリングも凄い上手い。正直、早く会いたい。

 会ってご教示賜りたい」


「て、哲郎君がそこまで言いますか……」


 入江さんは少し驚いた顔をして、続けた。


「哲郎君、その人のお名前は?」


「ああ、名前は……」


 ……。


 午前の練習を終わらせて、昼休憩で少し体をリラックスさせていると、まもなく今日の練習試合の相手が現れた。


 海浜本郷高校は、各選手が高校生にしては筋肉質な体格をした屈強な選手が多かった。その中に一人、異彩を放つ選手がいた。


「おおう」


 屈強な選手の中に一人、ひと際背の低い選手がいた。

 彼の名は、赤羽根俊哉。


 高校二年生にして、今大会最低身長最強打者と名高いスーパーセカンドだ。

イメージはヒューストンのあれ

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