雑貨屋に行く
ひとしきりバッティングを楽しんだ俺達は、再び人ごみの多い通りを歩き、傍にあるいつか速水とも足を運んだ雑貨屋に赴いた。
雑貨屋に行きたいと言い出したのは、俺だった。
「何か買いたいものでもあるんですか?」
「ああ、そうなんだよ。着いたら話すから、一緒に考えてくれよ」
「はい、わかりました」
微笑む入江さんに微笑み返して、俺達は雑貨屋に足を踏み入れた。
雑貨屋内では、俺達は真っすぐにエスカレーターに向かった。一階に用事はなかった。
「武田君、何階に用事があるんですか?」
「まずは……確か三階だったかな」
「三階ですか」
「ああ」
エスカレーターを乗り継いで、三階にはすぐに辿り着いた。
「ここ……キッチン用品ですか?」
「おう、そうだ」
色とりどりのキッチン用品が陳列されたフロアを見回しながら、俺は面白そうな商品がないか物色して回った。
「あの……武田君、君は料理をしないんじゃありませんでしたっけ?」
入江さんの声色は、戸惑っているように聞こえた。
「おう、しないぞ」
「だったら、どうしてキッチン用品を」
「……おう、そういえば、言ってなかったな」
慌てて、俺は入江さんの方を振り返った。
「実はさ、今日速水の機嫌がすこぶる悪くてだな。何かお土産でも買っていこうと思ったんだ」
「……あ」
「物で釣るみたいで少し恰好悪いけど、背に腹は代えられない。まあ、なんで怒っているかはよくわからんがな」
「そう、ですか……」
「おう」
再び俺は、商品の物色を始めた。
そういえばこの前食器割ってたな。新しいの買ってやるか。
「ねえ、武田君?」
「なんだ?」
「武田君は……凛さんのこと、好きなんですか?」
「ああ、好きだよ」
「そ、そうですか」
「ああ」
……お、これなんていいんじゃないかな。
よし、これにしよう。
商品を手に取りながら、俺は入江さんの方を振り返った。彼女は何故か、俯いていた。
「友達だからな」
俺はそんな彼女の様子が少しだけ可笑しくて、苦笑しながら言った。
入江さんは慌てて顔を上げて、目を丸めた。
「と、友達ですか……」
「おう。あいつには世話になっているからな。たくさん。友達として、好きになるのは当然だろう」
本当、あいつはいつも美味しいご飯を作ってくれるし、ルーティーンの邪魔をしないでくれるし、良い友達だ。
「武田君?」
「なんだ?」
「あたしは、どうですか?」
「というと?」
「あたしのことは、好きですか?」
「何を言う。当たり前だろう」
「……っ」
「あんたみたいに、丁寧で気配りが出来る人と友達になれて良かったよ。本当にそう思っている」
「そ、そうですか……」
「おう、だからわざわざ、あんたに手間をかけてもらってまで雑貨屋に一緒に来たんだぞ」
「え?」
「何か欲しい物、あるか?」
「え?」
「お礼だよ、お礼」
俺は微笑んで、続けた。
「野球部のマネージャーに、今日一日に、本当、あんたにも世話になっているからな。本ほど高価な物は買えないが……何か欲しいものはないか?
お礼に買わせてくれよ」
「い、いいんですか?」
「当たり前だろ? 俺なんて本買ってもらってるんだぞ、本。雑貨屋の一商品くらい買ってやるよ。
……ただ、あんまり高いのはやめてくれ。ごめん」
謝ったにも関わらず、何故だか入江さんは顔をパーっと晴れやかにさせていた。
「だったら、上の階に行きたいです」
「そうか。なら先にこれ、お会計してくる」
「はい」
俺は一度入江さんと別れて、お皿をレジに通した。
そして、入江さんと合流すると、俺達は七階に赴いた。
そして、一区画にたくさん並んだスマホケース売り場に立った。
「スマホケースって、あんた付けてなかったか?」
「はい。でも変えようと思います」
「そうか。どれがいいんだ?」
「えぇと……あ、これ。これがいいです」
「ほう」
入江さんが指さしたスマホケースは、どこか見覚えがあった。
「これでいいのか?」
「はい。これでないと駄目なんです」
「そっか。じゃあ買ってくる」
俺は入江さんの欲しがったスマホケースを持って、レジを通した。
「ほら。今日はありがとうな」
「いいえ。……武田君、知ってました?」
「何が」
「あたしと武田君のスマホ、同じなんですよ?」
「へえ、知らなんだ」
「それで……このケース、見覚えあると思いませんでした?」
「おう、思った思った。どうしてだろうなあ……って、あ」
「えへへ」
入江さんは俺が手渡したスマホケースの入った梱包袋を抱きしめて、微笑んだ。
「これで、お揃いですね」
いや、なんで俺のスマホケース知っているんだよと思って、俺は思わず苦笑してしまった。




