バッティングセンターに行く
その後は、入江さんと共にいくつかのお店を回ったりした。
彼女、結構俺の趣味嗜好に合わせてくれて、スポーツ雑貨屋だとか、ラーメン屋だとか、そういう女子的には入りづらい空気のあるお店にも積極的に入ってくれた。
「悪いな、なんだか付き合わせてしまってて」
「いいんです。好きな人の楽しそうな姿を見れて、あたしも凄い楽しいですから」
そう言ってくれるので、俺としても何の憂いもなく楽しめていたのだった。
しばらくそうして、俺達はデートを楽しんだ。
「そうだ。武田君、あたし武田君と行きたい場所があるんです」
唐突に、入江さんは言った。
「ほう、どこだ?」
「それは……ふふふ。着いてからのお楽しみです」
「なんだ、それ。まあいいけど」
「はい。サンシャイン通りの方です。行きましょう」
「わかった」
俺達は、再び人ごみに紛れながら道を歩いた。
しばらく歩いて、一層人ごみが多い場所を抜けて、目の前に飛び込んだのは変わった形の高層ビルだった。ビルは、途中でガラス張りになっていて、そこでは映画館を連想させる巨大ビジョンで映画の予告が流れていた。
「あそこか?」
指さして尋ねると、
「そうです」
入江さんは同意した。
どうやら彼女が俺を連れていきたがった場所は、映画館だったらしい。
「映画、か。じっくり座っているのは性に合わないんだよなあ」
「なんだか、とてもしっくりきます。武田君、授業中もよく寝ているそうですね」
「ああ、座っているのは性に合わないからな。夢の世界で飛び跳ねているんだ」
「アハハ。なるほどです」
一体何がなるほどなのだろうか。
乗ってくれた彼女には悪いが、正直自分で何が言いたいのかはわからなかった。ただまあ、こうして笑い合っている時間は中々楽しかった。
そんな世間話に興じていると、件のビルに辿り着いた。
映画はやはりそこまで興味はないが……まあ入江さんが映画を見たいというのなら、見るのは別に構わないと思っていた。今日一日、彼女のおかげで結構楽しめているし、ここいらで彼女のしたいことをしてあげるのも当然だと思った。それくらいのことを、彼女にはしてもらった。
「何階だ?」
エレベーターに入ると、ボタンの前で尋ねた。
「十二階です」
「最上階だな」
「そうですね」
エレベーターの扉が閉じて、ゆっくりとエレベーターは昇って行った。
「それで、どんな映画を見るんだ?」
「武田君、今日は映画は見ませんよ」
「え、じゃあ何をしにこのビルに来たんだよ」
「ふふふ。そろそろ着きますね」
途中階で止まることなく、エレベーターは昇って行き、チンという軽快な音と共に、扉が開かれた。
目の前に広がったのは、緑色の網とバットを振る若人。
そして、耳馴染みの良いバッティング音。
「ここ、バッティングセンターじゃないか」
「そうです、バッティングセンターですね」
「……今日は練習禁止だぞ?」
「そうですね。でもですね、武田君。これは練習じゃあありませんよ?」
「というと?」
「だって、今日バットを振るのはあたしですから」
よく意味がわからず、俺は首を傾げた。
「武田君、あたしにバッティングをレクチャーしてください」
「ほう」
「あたし、実は野球部マネージャーでありながら運動が苦手で、こんなことを頼めるのは武田君だけなんです」
「ほうほう」
「それでですね。武田君には悪いと思うのですが……バッティングのレクチャーをしてもらいながら、実演もしてもらいたいんです」
「……ほう!」
「バッティングをすることになりますが、これは練習じゃないので大丈夫ですね。だってこれ、実演ですもの」
「入江さん、可愛い顔して、ずる賢いこと考えるじゃないか」
勿論、俺は褒めるつもりで言った。
「ありがとうございます」
ほら、入江さんも喜んでくれている。
と、そんなわけで、俺達はバッティングセンターでバッティングを行った。
名目は彼女の言う通り、彼女の練習で、俺は実演指導をしているだけ、ということになっていた。
彼女は、本当に気が利く人だなあ、と思いながら、俺はバッティングを楽しんだ。




