デートに行く
練習に明け暮れる内に、入江さんとデートの約束をした日はやってきた。
「じゃ、行ってくるから」
「……うん」
朝、それなりに早い時間に起きたにも関わらず、いつもこの時間には寝ているはずの速水が起きてきていた。
「あんた、目の下の隈が酷いぞ」
「誰のせいよ」
「俺のせいだって言うのか?」
わけわからん。
「もう少し寝たらどうだ?」
「寝たら、あんたデートに行くの止める?」
「止めない。約束したからな」
「なら寝ない」
「なんだそれ」
人が体の心配してやっているというのに、この女。やはり年ごろの女というのは、よくわからん。
「まあいいや。何かお土産に欲しいものとかあるか?」
「無事の帰還」
「なんだよ、そんなのでいいのか?」
五体満足で帰還出来ない状態って、俺は一体どんな目に遭うと心配されているのだろう。
「わかった。じゃあ適当に見繕ってくるから。じゃあな」
「……あ」
部屋を出る拍子に、速水の切なる声が漏れた気がした。
なんだか凄い心配だなあ。熱でもあるのだろうか。
一先ず、入江さんとの約束を果たすために、俺はアパートを後にした。
入江さんとは、最寄りのターミナル駅のふくろう像の前で落ち合うことになっていた。そういえば、最後その駅に行ったのは、速水とアームバンドを買った時だったな。
スマホの扱いが疎い俺は、かつての記憶を頼りに電車を乗り継いで、なんとか時間前に駅に辿り着いた。
ターミナル駅は、日曜日という日にちも相まって、たくさんの人で喧騒としていた。
人波に飲み込まれないように、間を掻き分けて、進むことしばし、伝聞したフクロウ像の傍に俺は着いた。
「ご、ごめんなさい」
「おう、おはよう」
フクロウ像の前で待つことしばし、入江さんは人ごみの間を掻き分けて、息を切らして現れた。
「待ちましたか?」
「全然。今来たところだ」
「そ、そうですか」
そう言いながら、入江さんは髪の毛をちょいちょいと弄んでいた。
「入江さん……」
「は、はい」
「走ってきたからか、頬が少し赤いな。アハハ」
「……アハハ」
茶化したら冷笑された。一体なぜだ。
「よし、じゃあそろそろ行くか」
「あ、あの……。武田君、一ついいですか?」
「なんだ?」
「あの……どうでしょう?」
「……何が?」
「か、恰好です。似合ってますかね? 実は直前まで、何を着ていくか迷ってしまって……」
「ああ、そういうこと」
俺は入江さんの方を向き直った。
似合っているかどうか、か。
俺、服のこととかよくわからないんだよなあ。やっぱり一番良い恰好は、ジャージだよなあ。何せ、不測の事態が起きてもすぐ走り逃げられるし。
……真っ先に不測の事態に備えるあたり、朝の速水の話、俺引き摺っているんだな。
「た、武田君?」
「おう、そうだったな。悪いが俺、服のこととかよくわからないんだ。
でも、それでも凄い似合っていると思うぞ」
「あたし、可愛いですか?」
「ああ、凄い可愛いぞ。素材が良いんだろうな」
しみじみと思いながら伝えると、入江さんはえへへと笑い出した。
「よし、じゃあそろそろ行くか」
「は、はい」
俺達はデートとやらに繰り出した。




