バラした結果
静まり返った部室で、俺は速水を隣に置いて、入江さんに俺達の関係を一切の偽りなく全て打ち明かした。
今俺達が暮らしている賃貸アパートが老婆が個人経営していること。
老婆が当初契約ミスをしたこと。
それから色々あって、未だに一緒に同居を続けていること。
全てを包み隠さず、打ち明けた。
入江さんは驚いたり、呆れたり、微笑んだり。
顔をせわしなく変えながら、俺達の話に耳を傾けた。
そして、全てを語り終えた結果……。
「結局お二人、恋人関係ではないとはいえ、合意の上で同居生活を続けているんじゃないですか」
入江さんは再び怒った。
「ああ、俺達は互いの駄目なところを補え合えるから、今でもこうして同居を続けている」
「武田君」
「なんだ」
「あたし、武田君のためならお料理も出来ます。ルーティーンの邪魔だってしない。そうするから、あたしと同居してもらえませんか?」
「えぇっ!?」
速水が喧しく驚いた。
「駄目だ」
「なんでですか?」
「速水の料理は美味いからな」
「胃袋をガッチリ掴まれてる……!」
「エヘヘ」
照れる速水がよくわからず、俺は首を傾げていた。
「というか、あんた言っただろ。高校生の内に一人暮らしなんて普通しないだろって。そんな大変な思い、する必要ないじゃないか」
「あ、あります!」
「なんで」
「……武田君のことが、好きだからですよ」
「ああ、うん……」
好きになってしまったものはしょうがないよなあ。
文句も言えず、俺は俯いた。
「えぇと、入江ちゃん。いくら好きな人のためとはいえ、ご両親が一人暮らしなんて許してくれないんじゃない?
……というか、不純な理由だって一蹴されそう」
「うぅぅ……。それは同意です」
「そ、そうだよ。さすがにそんな理由だと、多分ご両親許してくれないよ? 最悪あたしみたいに、ほぼ絶縁状態になるかも。そんなリスク犯すの、勿体ないんじゃないかな?」
「……なんだか、あたしを言い含めて退散させようとしていませんか? 凛さん」
「えぇ!? そ、そんなことないよー!?」
「むむむ。さっきから思っていたのですが、凛さんも武田君のことむがが……」
「わーわーわー! どうしたのよ入江ちゃん。アハハハハー!」
突然、速水は入江さんの口を塞いだ。
いきなりのコミカルな光景に、俺はわけもわからず速水を傍観することしか出来なかった。
しばらくして、速水は入江さんに謝罪しながら彼女を解放した。
入江さんは少しだけ咳込んでいた。
「ま、まあ。一先ずよくわかりました。お二人の関係は」
「他言無用で頼む」
「わかってます。……野球部の主戦力の武田君が退学なんてしたら、大変ですから」
「ありがとうな」
「ただ……一ついいですか?」
「なんだ?」
入江さんは、わかりやすく一つ咳払いをした。
「再度確認するのですが、結局お二人は恋人ではないんですよね?」
「ああ、違うな」
「あぅぅ……」
速水、なんであんたが凹むんだ。
「じゃ、じゃあ……武田君、あたしと今度、デートに行ってください」
「えぇっ!?」
「えぇ……やだ」
「どうしてですか?」
「練習時間、減るだろ?」
「この期に及んでストイック野球馬鹿ね、あんた」
喧しい。
「じゃあ、来週の監督の通院日ならどうですか? 通院日は、練習自体禁止にされていたはずですよね?」
「おう、その日ならいいぞ」
「えぇ……」
だから速水、なんであんたが凹むんだよ。
「良かった。決まりですね」
入江さんはホッと胸を撫でおろして、もじもじしだした。
「そ、そのですね……。それでもし、その日のデートであたしのこと、少しでもいいなと思ったら……あたしと同居してくれませんか?」
「それは難しい」
「どうしてですか?」
「まだ敷金残っているからなあ」
「それは……わかりました。じゃあ、付き合ってください」
「えぇ……」
俺は露骨に嫌な顔をした。
いつか彼女を振った理由に使った通り、俺は今、恋人を作って野球をないがしろにしたくなかった。
「駄目です。これが最低条件です」
「わかったよ。じゃあそれで行こう」
まあそれって、結局俺が良いと言わなければそうならないわけだからな。
本当に心の底から良いと思わない以上、俺は多分簡単には靡かない。
「じゃ、じゃあ決まりです。決まりですからね」
「わかったよ。当日、よろしく頼む」
「はい。……はいっ! それじゃあ、また今日の部活で!」
入江さんは満面の笑みを残して、部室を去っていった。
「ふう。なんとか一難去ったな」
俺は額の汗を拭った。
そして、一難去った俺に、また一難がやってきた。
「ふーんだっ」
速水は、拗ねた子供のようにそっぽを向いた。
「なんだ、どうした?」
「……馬鹿」
「え?」
「この大馬鹿」
「いやいや、馬鹿なのは認めるが、大馬鹿は言いすぎだろ」
「馬鹿なのも認めるな、馬鹿っ!」
速水は先ほど渡したパンを持ったまま、部室を後にした。
残された俺は、残り僅かとなった昼休みで総菜パンを喉に流し込んで、慌てて教室に戻っていった。




