バレた
昼休み、そういえば速水にお弁当をもらっていなかったことを思い出した俺は、食堂に足を運んでいた。
お小遣いはあまりないが、まあ一食分くらいならばパンを買うのも問題ないだろう。
喧騒とする食堂でパンを買い込んで、俺は静かな場所でご飯を食べようと部室に赴こうと思った。
「あ」
そこで会ったのは、速水だった。
「おっ、丁度いいところに」
「な、何よ」
「あんた、どうせお弁当作っている暇もなかったんだろう?」
「そうよ。起こしてくれてもいいじゃない」
「何を言う。俺はキチンとお前を起こしたぞ。お前が起きなかったんだろ」
「えー、嘘ばっかり」
「小五の時に出会った意地の悪い武田さん。彼女に次会った時は、嫌な顔は見せないようにしろよ。円満に交友を続けることは、ひいては将来のためになるからな」
「え……。な、なんであの子のこと知ってるの?」
「あんた、寝言で二度もその人のことで文句を言っていたぞ」
「なぁぁ……」
速水の顔が、真っ赤に染まっていった。
これくらい言っておけば、俺が本当に彼女のことを起こそうとしたとわかってくれるだろう。
「ほら、もうその件はいいだろ。それで、あんた昼は?」
「う……。パンを買おうと思ってました」
「やっぱりな。ほら、やるよ」
俺は抱えていたパンを二つ手渡した。
「え……?」
「なんだ、他のパンが良かったか? あんたの好みに合わせたつもりだったんだけど」
「ああいや……なんで?」
「いやだって、さすがに数か月一緒に同居してたらわかるだろ」
「そうじゃなくて、なんでパンを?」
「はあ? おかしなことを言う奴だな」
俺はパンを二つ手渡しつつ、続けた。
「日頃あんたにお世話になっているからに決まっているだろう」
速水は顔を真っ赤に染めていた。
何を恥じらう必要があるのか。俺は思った。彼女は日々、俺のためにご飯を提供してくれている。ルーティーンの邪魔をしないでいてくれている。テストで良い点を取れば、ご褒美だってくれる。
俺からしたら、これくらいしてやるのは当然だと思っている。
「あ、ありがとう」
「いいよ。じゃあ俺、広末さんに質問されるの嫌だから、部室に行くわ」
汗臭い部室ではあるが、それでも今の教室よりかはリラックスした休み時間を過ごせるだろう。
「ね、ねえ。哲郎?」
歩き出した俺を呼び止めたのは、速水だった。
「なんだよ」
「あたしも一緒に行っていい?」
「……なんで?」
「……あたしも詰問されるの、少し辛い」
乾いた笑みを浮かべる速水に、俺も思わず苦笑してしまった。
俺達は廊下を並んで歩いて、玄関で靴に履き替えて、外にある部室へと足を進めた。
「汗くさ」
部室に入るや否や、速水は苦悶の表情を浮かべた。
「本当だよな。俺も正直耐えられん」
そう言いながら、ファブリーズをシュッシュッした。
「あんたが所属する部なのに、変ね」
「週一で……日曜に、俺いつもよりも早く学校向かっているだろう?」
「ああ、そうね」
「あれ、部室を掃除するためなんだよ。気分転換も兼ねて」
「気分転換がなんで掃除で兼ねられるのかはわからないけど、そうだったんだ」
「おう。でもな、どういうわけかすぐに汚くなるんだよな、この部室。一人で週一だと駄目なんだろうな」
「マネージャーさんとか、掃除はしてくれないの?」
「マネージャー業務はいつだってマンパワー不足だからな。……ああ、ただ今日から、一人マネージャーが増えたから、それも多少は改善されるかもな」
「そうなんだ。突然だね。……まさか、この前の試合を見て決めた軽はずみな動機?」
「いや、違うぞ」
「即答だね。どうして?」
「だってその人、入江さんだからな」
「えぇっ!?」
「なんでそんなに驚くんだよ。彼女、初日にも関わらず凄いテキパキと仕事していたんだぞ? 侮るなかれ」
「な、なんで哲郎が得意げなの?」
速水は目を丸めていた。
そしてしばらくそうして、何かに気付いたように続けた。
「ねえ、それってつまり、哲郎とお近づきになりたいから入部したってこと?」
「あー、いや。まあとりあえず色々誤解があってさ。……あれ、でも俺をサポートしたいと言っていたし、それで合ってるのか」
「それってまずくない?」
「何が?」
「いやだって……入江ちゃん、つまり哲郎と一緒にいる時間を増やしたいから入部したんでしょ?」
「まあ、そうなるのかな」
「じゃあさ。お昼も一緒に食べたいと思ったりしないのかな」
「……つまり?」
「いやだから、もしそんなことを入江ちゃんが思っていたとしたら、二人きりでこんな密室にいたらまずいんじゃないのかなって」
はて、どうしてだろう。
ガラガラ
考えに耽ろうとした丁度その時、部室の扉が開かれた。
「哲郎君、います……か…………」
入江さんだった。
「ああなるほど。今みたいに鉢合わせしたら、巡り巡って俺達が同居していることが明るみになるからか」
「ど、同居!?」
……ん?
「し、しまった!」
「いやあんた、絶対わざとでしょ」
電光石火のバラし劇に、速水は落ち着いた口調で俺を咎めた。




